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9日目 異種族共闘

●9日目(グリウス歴863年5月11日)

お金にも少し余裕ができた。金貨45枚分以上ある。

宿を変える事にしようと思う。最近偏った食事ばかりなのに気づいた。

ちゃんと2食付の宿屋にする予定だ。

それなのでリズさんとお婆さんにお世話になりましたと伝えた。


今日は予定を変更して薬草採取は受けない事にした。

コンパスを手に入れたので、積極的に経験値を稼ごうと決めた。

朝食と昼飯を購入。水筒も1つ追加して買い足した。

ギルドに一応顔を出して掲示板等見たが、これといった情報は特にない。

相変わらず今日も人は少ない。


早速森の方へ向かう。しばらく歩いていると、前方に人影が見えた。

結構離れているが、目を凝らしてみるとフードを被ったローブ姿が2人。

日差しもそんなに強くなく、人目もほとんどない中でフードを被っている事に

少し違和感を感じた。そしてその2人はそのまま森に入っていく。

街を出たのに顔を隠しているなんて盗賊なのか?

森の探索中に襲われたら目も当てられない。少し尾行して様子を見るか。

索敵の範囲は現状200mくらいはある。

こちらの尾行をみられる恐れは非常に少ない。

索敵しつつ、こちらも森に入っていった。

フードの2人は迷うことなくまっすぐ進んでいる。

森に入って直視できないが、こちらに気づいた様子は見られない。

その時、「静かに!あなたは何者です?」と突然耳元で(ささや)かれた。

あまりの突然さに声のする方に向きかけたが、

思わず尻もちをついてしまった。

「あなたは何者です?」とさっきより口調が強くなった感じで囁いた。

すると目の前の空気が揺らいだ感じがして、

目の前に耳の長い女性が姿を現した。

「エ、エルフ?」と思わず口走る。

スラっとした姿と整った顔立ち、腰に細身の剣と胸当てという、

昔よく見たエルフそのものだった。

「こども?」(いぶか)しむようにこちらを見る。

「答えなさい。あなたは何者?」と声を抑えながら威圧しながら聞いてくる。

「えっと、僕はランゴバルドの冒険者です。」と答えたものの、

何故こんな所にエルフがいるんだと頭の片隅で問いかける。

「こんな所で何している?」とジッと目を逸らさずに聞いてくる。

「冒険者ですから、魔物の討伐を・・・」と答えながらも、

あまりの綺麗さに息をのむ。

エルフってみんなこうなのか?と愚にもつかない事を考えてしまっていた。

「嘘は言ってないようですね。」といって、

小声で何か呪文のようなものを発した。特に異変はない。

「あなたのような子供がこんな所で一人でいるのは危険です。すぐ帰りなさい。」と言ってきた。

「あ、あなたこそ、こんな所で何しているんですか。エルフの国から随分遠いですよ。」と緊張しながらも聞いてみた。

「探しているものがある。」と少し悩んでから答えた。

「何を探しているんですか。もし、良ければお手伝いしますよ。」

思わず、馬鹿な事を口走ってしまった。

「あなたの助けなんて要りません。分かったのならさっさと森を出ることです。」少し間を開けて、そう答えた。

取り付く島もないと思い、ゆっくりと腰を上げる。

そして土を払い向き合ったその時、後ろから、

何かがドタドタと小走りした感じで近づく者がいた。

とっさに振り向き索敵を発動させたその時、茂みから、(ひげ)もじゃの

がっしりとした体形だが身長の低い男が現れた。ドワーフ?

「どうじゃったんだ」とその男はエルフに尋ねる。

「ただの人間の子供です。関係なさそうです。」とつっけんどんに言い放つ。

「なら、こんな所でモタモタしとられんじゃろ。早く見つけださないと、二人は危険じゃ。」とドワーフが口を滑らせた。

「これだからドワーフは。」とエルフは手で顔を(おお)う仕草をした。

「別に関係ないなら問題ないじゃろ」とドワーフは素知らぬ顔で言う。

どうやら、この2人は誰かを探しているようだ。しかも(さら)われた可能性が高い。

エルフはさあ行きますよと歩きだそうとしていた。

2人はもうこちらには興味なしという感じで立ち去ろうとしていた。

「あのっ」そう言って2人を引き留める。

「僕、怪しい人、見ました。もしかして、お二人が探している人と関係があるかも。」というや否や二人はこちらを睨みつける。

「今の話、本当ですか?」とエルフは怒気に満ちた声音で聞いてきた。

「いや、もしかしたらって話です」と言って、ここまでの経緯を話し、

2人の怪しい者を尾行していた事を話した。

「その二人組みはどこいったんじゃ」とドワーフが聞いてきた。

すでにその二人組は索敵範囲外に行っている。

ドワーフが現れた時に確認済みだ。

「探すなら、急ぎましょう」と言って、相手の返事を待たずに、

2人組の行った方へ走り出した。

「待ちなさい」とエルフは言ってきたが、無視して走る。

早くしないと見失ってしまうからだ。


5分ほど走っただろうか。索敵にかかる集団を発見した。

方角は間違いないけど、人数が多すぎる。30前後はいる。

一旦止まり、身を屈める。エルフはすぐ後ろで同様に身を(かが)めた。

ドワーフは少し後ろを走って追いかけてきている。

こちらが屈んだのをみて、少しスピードを落として、近づいてくる。

「いましたか?」とエルフは後ろから声を掛けてきた。

30程の集団は動く気配を見せないので、エルフの方に向き返り、

ドワーフが来るのを待った。

「この先、200m弱の所に30人前後の集団がいます。先ほど尾行していた二人組が向かっていた方角と一致しているので間違いないでしょう。ただ、僕の索敵スキルでは、その集団が何なのか判別できません。」と説明した。

エルフとドワーフは互いを見て、何か納得するように(うなづ)き、

エルフは話し出した。

「私の名はヒュリア。こちらのドワーフはギーム。私達は攫われた子供2人を探していた。これから私が一人で確認してくる。それまでここで待っていて欲しい。」

と言って、音もなく姿を消した。

どうやら、光魔法のインビジビリティの魔法のようだ。

インビジビリティは姿を消す魔法だが、音まで消せない。

風魔法にサイレントという魔法があるが、

それは周囲の音も消してしまう範囲魔法だ。

スキルか違う魔法の可能性もある。

ドワーフは、ポーションを出してベルトポーチに差し替えたり、

変な玉をポーチの中に入れたりしている。なにか装備を変えているのだろう。

そろそろ昼頃になるので、今のうちに干し果物を1つだけ食べておく。

30分くらいたっただろうか。索敵で向こうに変わった動きはない。

「お待たせしました。」とエルフが突然現れた。

この人索敵にかからないからビビるんだよなぁと、ため息をついた。

「あの集団で間違いないと思います。たぶん、お二人は中央のテントの中だと思われます。相手はゴブリン15、オーク8、人間6でうち一人はテントの中です。交代するときに確認しました。ただ、人間の中のリーダーらしき者がいて、そいつは魔法使いだと思われる。」一呼吸おいてから

「次に作戦だが、ぜひ、君に協力をしてもらいたい。えーと・・・」

「アルスです。」

「アルスくんだね。勿論、報酬は出す。それで君はどれくらい戦えるの?」

「僕は風魔法と光魔法が少々使えます。ウインドストームが使えるので、ゴブリン程度は捌けますよ。」と控えめに言った。

「それは、上々ね。でもあなた、杖を持っていないようだけど。」

「気にしないでください。威力は普通に出せますから。」というと、

小首を傾げてまあいいわという感じで話を戻した。ちょっと可愛いかも。

「それじゃあ、敵の配置を説明します。敵は開けた場所に陣取っています。ここに川、ここがテント、テントと川の間にリーダーらしき者と他の人間がここ。そして、オークはこちらから見てテントの裏ね。このあたり。そしてゴブリンは、テントの正面に陣取っているわ。ばらけているので、ウインドストームで巻き込んでも4、5体がせいぜいね。」

ドワーフと俺は頷いた。

「まず、私がさっきと同じ方法でテントまで忍び込むわ。中の人間は私が処理します。そしてお二人にインビジビリティをかけて、脱出します。ただし消えたまま走ったり、相手を攻撃したりは出来ないので、ゆっくり進むことになります。川の反対側へ逃げる予定ですから、間違ってもそちらに魔法を撃ち込まないで下さい。攻撃タイミングは合図を送るからその後、30秒後にお願い。ギームはアルスくんを守ってあげて。」

そういうと、ギームは勿論と言わんばかりに強く頷く。

「アルスくんは、倒せそうな奴から仕留めていって。私はお二人を隠した後、側面から援護するわ。それでいいかしら。」とギームと俺を見る。

「一つ聞いていいですか。合図ってどんな合図ですか?」

「遠話よ。それで合図するから。」とウインクした。

「分かりました。」エルフ可愛すぎ。


「始めるわよ。」そう言うとまた、姿が消えた。

こちらも、相手に攻撃できる場所まで移動する必要がある。

ゴブリンがバラけていて、オークは後ろ。

ここは、リーダーの周りを一気に潰した方が良さそうだ。

指揮命令系統が崩れれば、ゴブリンなど烏合(うごう)の衆に変わるだろう。

その隙に叩けるだけ叩く。ただ、相手のリーダーは魔法使いらしい。

魔法に対する抵抗が強いかもしれない。ここは、出し惜しみすることなく、

強い魔法でやるしかない。と言ってもウインドストームしかないが。

運が良い事に、こちらは風下のようだ。ヒュリアからの合図をジッと待つ。

ドワーフのギームは少し後ろで警戒している。

ギームは少し重装備だから、音で気づかれるのはマズイという事で、

少し後ろにいてもらっている。俺が魔法を放った後は、俺の前にでる予定だ。

「脱出する」ヒュリアの声が聞こえた。

敏捷強化、魔力強化と続けざまにスキルを発動させる。そして目標を見定める。

「よし、今じゃ」とギームが小声で合図した。

「ウインドストーム!」

すると、人間がまとまっていたエリアの真ん中に突然つむじ風が起きた瞬間、

それは一気に大きくなり、そこにあった全てのものを巻き上げようとしていた。

突然起こった竜巻に飛ばされぬよう必死に耐えようとしているが、

それが結果的に自分たちを大きく傷つけているのに気づけない。

竜巻の中では風の刃が縦横無尽にそこにあるもの全てを切り刻んでいく。

途中で力尽き倒れる者、切り刻まれながら上空へと吹き飛ばされた者、

次々に倒れていった。

突然巻き起こった竜巻にゴブリン達は、パニックになり、

その場で騒ぎ立てる者、逃げ出そうとする者、地面に伏せる者、様々である。

一方、ギームは魔法が発動した瞬間に走り出していた。

そして逃げ出したゴブリンの中にこちらへ向かってくるのを1匹確認すると

そちらへ向かって手斧を投げて絶命させていた。

そして、俺はウインドストーム発動後、木の陰を利用し、人間達との距離を

少し縮めた。それは魔法抵抗の強い人間がいた場合、

とどめを差さなければならないと感じたからだ。

しかし、誰も起き上がってくる者はいなかった。

索敵をし、生き残った者がいないのを確認した頃、

遅ればせにオークがこちら側へ向かってくる。

だがまだこちらには気づいていない。

すかさず、ウインドストームを放つ。

オークは何事か理解できずに竜巻に巻き込まれていった。

先頭にいたオークは運よくウインドストームの範囲外に逃れていた。

オークは仲間がどうなったか気になり後ろを振り向く。

仲間のオーク達が風に切り刻まれていく姿を呆然(ぼうぜん)と見ていた。

ハッと気づいた時には、自分が後ろから何者かに切られた。

何者に切られたのかも分からずに死んでいった。

倒れた背中には大きなウインドスラッシュよる傷が残されていた。

ゴブリン達は自分達の主人が全てやられ、

しかもオークもやられたことで更にパニックになっている。

そこにゴブリンの宿敵であるエルフとドワーフが現れ、

怒りに身を任せたゴブリン達は抵抗するも次々に倒されていった。

しばらくすると、そこにはエルフとドワーフ、

そして一人の人間の子供が立っているだけであった。


「あなた、人間にしてはやるじゃない。」とエルフのヒュリアは言った。

「まあまあ、じゃな」とドワーフのギーム。

「捕まっていた方は大丈夫だったんですか?」とヒュリアに尋ねた。

「ええ、魔法で眠らされているけど、大丈夫よ。」と受け答えた。

「ギーム、こいつらの正体調べて。私はあの子たちをこっちに連れてくるわ」とヒュリアは木陰に向かって行った。

ギームは人間のリーダーらしき所へ向かった。

とりあえず、俺はギームについていった。

「駄目じゃな」ギームは言う。

「特に身を明かせるような証拠は何も持っておらん。お主から見て何か気づかんか?」

と訊かれたが頭を振るしかなかった。

顔立ちはこの辺の人間とは違うような気もするが、

この辺の人間しか見たことのない俺には判別はつかなかった。

ヒュリアが、どう?とこちらに近づいてくる。

その後ろには、見た目3歳前後と思われるエルフとドワーフの子供がいた。

ドワーフの子供と言ってもギームみたいにがっしりしているわけでない。

普通の子供より少し横幅が広く見える程度だ。

だが、顔つきはドワーフを思わせる顔つきだ。

エルフの方と言えば、人間の子供に比べ、かなり華奢(きゃしゃ)に見える。

しかし、二人とも耳はどちらも長いのでわかりやすい。

「何も持っとらんかった。ホレっ金じゃ。わしらは、いらんからお前が貰っとけ」

そう言って、袋をこちらに投げてきた。

人間達は剣を持っていたが、メンテナンスが悪いのか、

所々錆びついていて、価値は無さそうだった。

それよりもこんな錆びた剣で戦おうとしてたのかと疑問も残る。

ヒュリアはテントの中の人間を調べたが、こちらも何も分からなかった。

テントの中には、いくつか木箱が置かれているのでそちらを調べようとなった。

中には干し肉が入っているだけで、めぼしいものはなかった。

結局、攫った者たちの目的も何も分からなかった。

このままここに留まる危険を避けるために、一旦移動する事になった。

道中、ヒュリアに魔法の威力がおかしいと突っ込まれながらも

適当にはぐらかすのは、大変だった。

安全の為、一旦森を出て森沿いに歩き、

エルフとドワーフの王国の境界へ目指す事になった。

森を出た時に、ここまでで大丈夫だと言われたが、

エルフやドワーフの情報も知りたかったので、

そちらの領に入るまでは付き添うと申し出た。

安全を考慮すれば護衛は多い方が良いという事になり、

改めて「よろしく」とヒュリアとギームの二人と握手を交わした。

エルフ領と人間領との間にはここからもっと南側に橋が架かっている。

今目指しているのは、ドワーフ領と人間の交易に使われている橋だ。

その橋を越えればエルフ領にもドワーフ領にも道は続いている。

今はどちらの橋にも両方の軍隊の1部隊が駐留しているとのことだ。

「今日はここで野営をしよう」という事で野営をすることになった。

「くれぐれも今回の件は、内密にお願いしたい。」そう、ヒュリアは言った。

「アルスは当面ランゴバルドに滞在する予定なのか」と訊かれ、

「特に用もないので、しばらく滞在していますよ。」と答えておく。

今回の件で謝礼をしたいから、それまで待っていて欲しいと

ヒュリアとギーム二人にお願いされた。

ちなみに、袋の中の金額は金貨5枚銀貨20枚だった。

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