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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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83日目 新法国の誕生

●83日目(グリウス歴863年7月25日)


何やら騒々(そうぞう)しい音で目が覚める。

リリーもどうやら、同様に目を覚ましたようだ。

「なんか、そとがにぎやかだね。ふあー。」

大きな欠伸(あくび)をしながらふわふわと飛び始めた。

「なんだろうな。様子を見に行こうか。」

ベッドの上で色々と考えていたらそのまま寝落ちしてしまったみたいだ。

窓を開けると日差しが(まぶ)しく入ってくる。

それと同時に外の喧騒(けんそう)も大きく聞こえてくる。

ここは近衛師団が使用していた建物の2階部分である。

外の喧騒は、何かトラブルのようなものではなく、

どちらかと言うと祭りのような喧騒に近い。

その証拠に所々で笑い声がきこえてくるのだから。

リリーを肩に乗せ、というより勝手に乗ってくるのだが、2人で部屋を出る。

階下に降り、一際(ひときわ)騒がしい食堂の方へ向かう。

そこには数十人の兵士達が食事をしている。

その一番奥からこちらに向かって大きく手を振っている者がいた。

マリアである。その周りにはアンジェや大地の牙達も一緒だ。

とりあえず、そちらに向かう。

「おはよう、アルス。」

初めに声を掛けてきたのはピエールだった。

「おはよう。皆さん早いですね。」

「アルス殿も食べますよね。俺達が食事を持ってくるから、座ってて。」

そう言ったのは、テトリアだ。

テトリアとクロムが一緒に食事を取ってきてくれるらしい。

「ありがとう。」

「リリーもいくぅ。」

リリーはそう言ってテトリアに付いて行った。

最近のリリーは果物以外も色々と食事を取るようになった。

それでも肉はあまり食べないのだが、選好(えりごの)みをするようになった。

「外が騒がしかったのですが、何かあったの?」

「ああ、それな。今まで家に閉じ込められていてほとんど自由に外へ出られなかったから、その鬱憤(うっぷん)晴らしじゃないか。」

「市場や店なども開き始めてますよ。今まで物流も止まっていたみたいだし、

食い物などは腐る前に売るきろうと商人たちが張り切っているようですね。」

「それよりもこの後、ジュノー軍と法国の暫定(ざんてい)政権とで会議があるぞ。俺達もアドバイザーとして参加をするように言われている。もちろん、アルスもだ。というかアルスがメインで俺達はアルス付きの立場でだがね。」

(うわさ)をすればなんとやら。向こうから来ましたよ。」

入り口を見るとルフィンがこちらに向かってくるのが見えた。

「皆さん、おはようございます。皆さん一緒で助かりました。」

「おはようございます。ルフィン(きょう)。」

ピエールが代表して答える。

「アルス殿と皆さんにはこの後、会議に参加して頂きます。1時間後に会議室までいらして下さい。」

言うだけ言って忙しそうに立ち去ってしまった。

「ホント、(せわ)しない。」

マリアがお茶を飲みながら、ぼそりと言った。

「アルス殿、どうぞ。」

クロムが食事を持ってきてくれたので、お礼を言い、食事を始めた。

隣ではテトリアがリリーの食事を持ってきたのだが、

お盆に小さい小皿がたくさん乗っており、

いろんな種類の物を取ってきたようだ。

それを見て、リリーはどれから食べようかと

ふわふわ宙に浮きながら吟味(ぎんみ)している。

「それで、この後はどういう流れになりそうなの?」

「この後の交渉次第だとは思うが、ジュノー軍は帝国との国境線である、砦に駐屯(ちゅうとん)すると思う。法国には今兵力らしい兵力がないからな。砦の修復には、街の人達から有志を募って行われると思う。それと、十三連合国からも一部難民が流入してきている。それの取り締まりもしなければならないし、王国へ一時的に避難していた自国民も今日から戻り始めるだろう。あちこちで復興作業がはじまるから色々と大変になりそうだ。」

「それで、冒険者の俺達がわざわざアドバイザーとして参加させる意味は?」

「それについては何も聞かされていないが、なにかあるのだろう。」

「そっか。」

ちらりとアンジェとマリアの方を見る。

アンジェはそれに気づいて、慌てて視線を逸らす。

マリアは気づいているのかいないのか分からないが

特に何もなかったように平然としている。

最初はアンジェの方が豪胆(ごうたん)で、

マリアの方が大人しい性格かと思っていたが、

最近では全くの逆であることが分かり始めてきた。

アンジェはあまり人付き合いが得意ではなく、

マリアの方が人懐(ひとなつ)っこい性格のようだ。

見た目のせいかもしれない。

アンジェは部分鎧を付けていて、それ以外の部分は肌の露出(ろしゅつ)も多い。

戦闘スタイルが機動(きどう)重視の為か比較的重装甲(じゅうそうこう)であるにも関わらず、

動きが制限される様な箇所(かしょ)は鎧を付けていないのだ。

元々、南の方の出身という事もあって暑さ対策でもあるのかもしれない。

それに比べマリアは軽装の鎧を中心に付けているせいか肌の露出が少なく、

かといって武骨(ぶこつ)ではなく女性らしい見た目は

後衛職のような武装をしている事が多い。

そしてアンジェは金髪のロングヘア―を後ろで結んでいる。

所謂(いわゆる)、ポニーテールのような髪型をしている事が多い。

マリアは黒髪が肩までの長さで、セミロングといった髪型だ。

そしてアンジェはキリッとした顔つきで

どちらかと言えばカッコいい部類になるだろうか。

マリアはどちらかと言うと幼さを感じる可愛い系の顔をしている。

どちらも美人ではあるが対照的だ。

そう言った事もあり、第一印象とのギャップを凄く感じる。

俺だけかもしれないが。

ただ、この様子だとまだ例の話の結論はまだ先延(さきの)ばしでも大丈夫だろう。

この後、街の様子等の情報を教えてもらい、時間が来るまでここで過ごした。


会議室ではすでに人が(そろ)い始めていた。

会議の進行役をシスター・ポーリンが(つと)めるみたいだ。

その両サイドにジュノー王国側と法国側に分かれて座り、

俺達は進行役の対面に座る形になった。

「それでは時間となりましたので、始めます。あらかた話し合いは済んでおりますので、その内容の確認と調印(ちょういん)式を行います。」

全員が、神妙(しんみょう)な顔つきで座っている。

「まず今後の予定ですが、ジュノー王国軍により帝国側との国境封鎖(ふうさ)を法国側から依頼させていただきます。そしてその間に法国側で早急に砦の復旧と強化の工事を行います。ジュノー王国軍の駐留費(ちゅうりゅうひ)ですが、基本的に法国側が持ちます。駐留費の詳細はお配りした羊皮紙(ようひし)に書いてある通りです。大丈夫だとは思いますが、庁舎の瓦礫(がれき)撤去を行い、地下にあった宝物庫並びに蓄財庫が出た段階で支払うものとします。帝国側へこの財貨を運ばれた形跡はありませんので、多分問題ないと思われます。また、仮に失ってしまっている場合には別の支払いを行うための話し合いを設けるという事でよろしいでしょうか。」

ジュノー王国側も法国側もどちらも了承している事なのでお互い(うなづ)いた。

「次にバルシー神聖法国は国名を新たにし、フォーテルムーン法国と改名いたします。それに伴い、国の体制も変更いたします。法王を中心とした体制には変わりはありませんが、以前と比較して民衆の意見を汲みやすい体制づくりを目指します。」

ここまでも両サイドとも特に異論も無さそうだった。

「続きまして、ジュノー王国とフォーテルムーン法国との間に軍事同盟並びに平和協定の締結を行います。これらは基本的に過去の協定の継続となっておりますので、ご確認ください。そして新たに両国にそれぞれの外交官を配置し、相互理解の活動と両国の連絡体制の構築(こうちく)を行います。最後になりましたが、フォーテルムーン法国の初代法王はユミコ・フォーテルムーンが

就任いたします。以上が、調印内容となります。」

パチパチパチ・・・。その場に居合わせた者達が拍手を行って、

調印を行い、調印式は終了した。

「続きまして、今後の予定については話し合いたいと思います。バッシュ司令官殿。」

バッシュは咳払(せきばら)いを一つした後に話し始めた。

「偵察部隊の話では、十三連合国側から難民が流入し始めているのが確認された。見つけた難民は近くにある村落に集めているが、日増しに増える事が予想されている。今後について、法国の考えをお聞かせください。」

バッシュ司令官の言葉にルフィン枢機卿(すうききょう)が答える。

「今回の戦乱で当国の人口は半減しております。その為、経済、農業、工業あらゆる場所で人手不足が深刻な状況です。しかしながら、無原則に受け入れては、現住民との軋轢(あつれき)が生まれ、不満を抱える者達が多くなりましょう。そこで、難民については、まず、農業、漁業を行っていた者達については、家族単位でこちらの指定する村落に移動してもらおうと考えております。

各地の村長には収穫の目標値を出し、それに見合った人数の受け入れをさせるつもりです。そこで最低3年間は村に従事してもらいます。続いて兵役(へいえき)経験者達は面接後、各地の警備隊に派遣します。その家族も一緒に警備隊の駐屯エリアで住まわせます。また、十三連合国には王国ほどではないが、冒険者が存在します。希望すればこの冒険者は王国の冒険者ギルドに登録させたいと考えております。これについてはいかがでしょう。」

「それについては問題ない。先般のモンスターホード以来、冒険者の数が足りていないと報告を受けている。しかも現在この戦争に駆り出してしまっているせいもあり、本国の冒険者ギルドから帰還の要請が入っているとも聞いている。犯罪者は連れていくわけにはいかないが、それ以外はこちらで面倒を見よう。」

バッシュは即座(そくざ)に請け負った。

「ありがとうございます。当国においても今まで兵士達で対応してきた部分を新設の冒険者ギルドで冒険者の活躍させる場を作る予定です。できれば、王国の冒険者ギルドからアドバイザーを派遣して頂けると助かるのですが。」

ルフィンはこれまでユミコと話してきた改革案について披露(ひろう)した。

「了解した。それについては早急に連絡をしておこう。派遣する規模については後ほど連絡をして頂きたい。」

「わかりました。詳細(しょうさい)をまとめて後ほど連絡させます。難民の続きですが、建築や土木作業経験者については砦修復に参加させます。また、女子供については、犯罪歴を調査の上、問題ないようであれば、首都フォーテルムーンに移動させます。そこで何らかの仕事に従事させる事になるでしょう。また、孤児に関しては、こちらにいるポーリン殿に見て頂く事になっております。そこで、職業訓練や勉学をさせ、養子縁組(ようしえんぐみ)奉公人(ほうこうにん)等、様々な形で独り立ちさせていきます。商人に関しては商業ギルドに任せようと考えております。それ以外の者達については、それぞれの内容に照らして検討していく予定です。」

「なるほど。それで犯罪者については?」

「一番の問題はそこです。こちらで分かるのは殺人や詐欺、強盗など重犯罪を侵した者だけです。通常であれば、国外追放もしくは死刑で事足りますが、当面は入国拒否として追い返すしかないでしょう。」

「さもありなん。」

バッシュは妥当(だとう)な所だろうと同意した。


そう言った内容がしばらく続き、大方(おおかた)話が終わった所で、

こちらに話が振られることになった。

バッシュとルフィンが目配せをして頷き合う。

どうやら、この先の話はお互い同意済みの話らしい。

「アルス殿並びにアンジェ、マリアそして大地の牙に要請する。」

バッシュ司令官は口調(くちょう)を改めて発言する。

「これはジュノー王国とフォーテルムーン法国からのクエストである。貴殿(きでん)らに要請するのは十三連合国の内情調査任務である。十三連合国に(おもむ)き、情報収集して持ち帰って頂きたい。報酬は一人白金貨30枚。ぜひ、受けて頂きたい。」

そこにいる全ての者がこちらを見る。

随分(ずいぶん)と破格な金額ですね。情報収集にしては多いように思えるのですが、それだけ危険という事なのか?」

最初に口を開いたのはピエールだ。流石(さすが)に冒険者歴が長いだけはある。

「・・・難民の話が本当なら、かなり危険だと感じている。」

「どんな情報を持っている?」

基本的に冒険者に依頼を出す際は、(あらかじ)め分かっている情報から

計算されて報酬(ほうしゅう)が決まる。

だから、金額の設定を見ればどれくらいの危険度があるかは

長年冒険者をやっていれば、見当がつく。

冒険者への依頼で情報を隠して低い金額で受けさせようとした場合、

ギルドの規則によって報酬は上乗せされる決まりになっている。

その上乗せ金額は、悪質であれば法外な値段を課せられることになるのだ。

例えばゴブリン1匹で通常銀貨5枚の計算になる。

ゴブリンが10匹だと銀貨50枚、もしくは金貨5枚となる。

多少の数の変動はある程度仕方ないものとされるが、

これがゴブリンではなくオーガーであった場合、

明らかに依頼側のミスである為、報酬は50倍の金貨500枚となる。

本来オーガーの退治で出していれば1匹につき金貨1~2枚、

10匹で金貨10枚~20枚とその()ぎ取り品、

住処(すみか)を襲えば、そこにある物は全て冒険者の物となる。

被害者の持ち物があったとしても、優先的に買い戻せる権利があるだけで、

所有権は冒険者の物なのだ。だから、冒険者に討伐依頼を出す場合は、

必ずその前段階で調査依頼が出される。

調査依頼は、戦闘などする必要もなく、

何が何匹いたという最低条件さえ満たせばよいので、

戦闘に自信の無い者は調査専門としてやっている冒険者もいるくらいなのだ。

調査の方は通常かかった日数に応じて支払われる。

相場としては、1日一人当たり銀貨5枚がいい所だ。

その調査を一人当たり金貨300枚と言ってきたのだ。

調査だけ考えれば600日分という事になる。

「実は確保した難民からあり得ない情報が入ってきた。」

答えたのはルフィンの方からだった。

「今、十三連合国内全てかどうかは分からないが、人の住む地ではなくなったという話だ。」

「それは、どういう事なんだ?」

思わず、俺も()き返した。

「今、十三連合国内は魔物の巣窟(そうくつ)に変わり果てているらしい。今や人間の数より魔物の数の方が多いと噂されている。そもそもの話からすると、帝国が攻めてきた後、最初は帝国の正規軍がいたそうだが、その正規軍がこちらに派兵されるのと同時に魔物の軍隊が来たそうだ。最初は飼いならされた魔物といった具合で、大人しかったようだが、(しばら)くすると、魔物の本性を現したかのように暴れ始めたそうだ。先の内紛で戦力のほとんどを失っていた十三連合国内は暴れる魔物に対処できるような戦力もなく、帝国正規軍すら魔物を放置してどこかへ行ってしまうという有様だ。これは別の者から聞いた話だが、帝国正規軍も魔物を制御できなくなり、逃げ出したという事を言っていた者もいたようだ。難民のほとんどは村に魔物が襲い掛かってきたのを()()うの(てい)で逃げ出した者達がほとんどだ。中には、戦争を嫌って初めから法国へ逃れようと移動してきた者達もいるようだが、それは少数派でしかない。」

ここで、ルフィンは一旦咳払いをして、声を改める。

「つまり、今回の調査任務には戦闘がほぼ確定的であり、どのような魔物がいるのか予測もつかない危険なものであると我々は考えている。」

「なるほど、それでこの金額か。」

「そうだ。魔物との戦闘、もしかしたら帝国軍との戦闘、そして調査。調査にはこちらで得た情報を基に村落と一番近い街へ向かってもらいたい。村の数は3か所、街は法国と隣接している十三連合国の内の一つタイス市だ。そこで生き残りや抵抗勢力がいたならば接触して欲しい。」


会議が終了し、アンジェ、マリア、大地の牙と残って

今後の計画を立てる事になった。

「さて、指名クエストだから断れず、受けたはいいが、どうするか。」

ピエールは腕を組み、皆に意見を求めていく。

「村3か所とタイス市でしたよね。全て回るのにかなりの日数が掛かりますわ。」

マリアが答える。

「そこでだ。俺からの提案はチームを2つに分けて調査するというのはどうだろうか。一つ目のチームは村3か所を回る。もうひとチームは、タイス市を調査するというのは、どうだろうか。」

「確かに効率は良さそうね。戦力的には心許(こころもと)無いけど。」

ピエールの提案にアンジェも半ば同意する。

「調査任務だからな。戦闘は極力避けるようにしたいものだ。」

マークもどちらかと言えば賛同しているようだ。

「村だけならば馬を走らせれば、3日もあれば回って帰ってこられるだろう。だがタイス市は馬を走らせても片道1日半は掛かってしまう。これらを全員で一緒に回れば1週間は最低でも必要になる。1週間敵地に滞在するのはリスクが高すぎる。いつ帝国の増援がやってくるかもわからないからな。そしてアルスなら、少人数で行けばタイス市までそれ程時間を掛けずに行けるだろう?」

「まあ、テレポートを使えば1日もかからないと思うけど。」

「だろ。だから、俺達大地の牙で村の調査はやっておく。アルスとアンジェとマリアでタイス市の調査をやってくれないか?」

「私達はそれでも問題ない。」

アンジェは答える。そして一同、俺の答えを待つ。

「分かったよ。了解だ。3人でタイス市の調査はやるよ。だけど大地の牙は大丈夫なのか。3か所は結構離れているけど。」

「なに、問題ない。こちらは移動のリスクは大きくなるが調査自体のリスクは小さい。そっちはアルスのおかげで移動のリスクは小さいが調査はそれなりの大きさの街だ。そのリスクは大きい。どっちもどっちだよ。ただ、街の潜入を考えれば少人数の方が有利だ。俺達よりアルス達の方が向いていると思う。」

「それならいいんだけど。」

「決まりだな。では、それぞれ準備にかかろう。俺達は帝国の進軍ルートになりそうな一番遠い北側の村から調査に行く。その後、南下しつつ2つ目の村、さらに南下して3つ目の村を回る予定だ。今から出発すれば、日の暮れる数時間前には橋に陣取っている砦に到着できる。そっちはどうする。」

「こちらもすぐに出発しよう。」

「では砦で、またな。」

ピエールが手を差し出し、再会の握手(あくしゅ)を交わす。


「アンジェとマリアは準備は大丈夫?」

ピエール達と別れて近衛隊の建物を出る為、廊下(ろうか)を歩きながら(たず)ねる。

「問題ない(わ)。」

2人はハモって答える。

「アルス殿。」

廊下の向こうからルフィンがやってきた。

「ルフィン、そんなに(あわ)ててどうしたの?」

ルフィンは息を切らせながら走ってきた。

「よかった。間に合って。ゼイゼイ・・・」

ルフィンが息を整えるのを待つ。

「申し訳ない。アルス殿にお願いがあって急いできたんです。実は先程、橋の砦から早馬がやってきて至急物資を届けてほしいと連絡が入りました。何でも橋向こうに魔物の影があり、橋を封鎖するバリケードを至急送ってほしいと。明日には補修物資や補給品を届けるために部隊を派遣する予定でしたが、その前にどうしても送ってほしいとあったので、アルス殿に馬車で砦に向かって頂けないかとお願いに来ました。大地の牙の方々は既に出発してしまわれたので、お願いできますか?」

「それは、構いませんよ。歩くより早そうだし。」

「それは良かった。馬車は既に用意させて、今、バリケードの部材を積み込んでいる最中ですので、宜しくお願いします。ああ、それと食料も多少積み込んでいるので、それも一緒に届けて下さい。では、お願いしましたからね。」

それだけを言うと、また、(きびす)を返して走っていった。

(いそが)しそうだな。」

「ですわね。」

「じゃあ、馬車で砦まで向かいますか。」


用意されていたのは、4頭立ての馬車で大型の馬車だ。

これの荷台に食料の入った木箱やバリケードに使われるであろう

木材などが積まれている。

しかも2台だ。

「おいおい。御者はいないのか?」

軽く請け負ってしまったが、馬車の操作などした事が無い。

見様見真似(みようみまね)で出来ればいいが、4頭立ての馬車など見るのも初めてだ。

「アンジェとマリアは馬車の操作ってできる?」

最悪、馬車操作のスキルを取る必要がありそうだ。

乗馬でさえ最低限の1レベルしか取っていない。

今後を見据(みす)え、こういったスキルも取るべきだろう。

「大丈夫だ。私達は2人共、馬車を操作した事はある。」

アンジェが答える。

「ですけど、護衛も無しに無事辿(たど)り着けるかしら?」

マリアの杞憂(きゆう)(もっと)もだ。

「俺は馬車の操作はした事が無いから、俺が護衛するよ。」

「任せて。アンジェ、いきましょ。」

「いくか。」

そう言って、アンジェが先頭の馬車に、

後続の馬車はマリアが操作するようだ。

俺はとりあえず、アンジェの馬車の荷台に乗る。

ここで、索敵を常に行って、魔物が出たら、先行して対処する事になった。

馬車はゆっくりと動き出す。4頭立てと言ってもこれだけの荷物がある。

ある程度速度が出るまでは時間がかかるようだ。


初夏だというのに今日は比較的涼し気な日だ。

この気温なら、馬も早々ばてる事も無いだろう。

風が気持ちいい。ゴトゴトと馬車の音が眠気を誘ってくる。

いかんいかん。索敵に注意しなければ。

眠気を吹き飛ばそうとアンジェに話しかける。

「アンジェのその装備って新しく見つかったダンジョン内の新しいエリアで見つけたんでしょ。どんな感じだったの?たしかアンデッドの巣窟だったって言ってたよね。」

「そうなんだ。初めはゾンビやスケルトンと言った魔物で大したことはないと思っていたら、数が異常に多くてね。マリアの結界の魔法がなければ、疲労で倒れていたかもしれない。そして奥に行けば行くほどモンスターランクが上がってきてグールやワイトまでも出てきて、ここで魔力の大半を使ってしまったのよ。」

「たしかワイトって生命エネルギーを吸い取るんでしたよね。」

「そうよ。接近戦はかなり危険よ。」

ワイトの特殊攻撃はエナジードレインと呼ばれていて、

下手をするとレベルダウンを引き起こす厄介(やっかい)な攻撃だ。

アンデッドの中にはこの恐ろしい攻撃をしてくる者が結構いる。

一番の対処は近づかれる前に倒す。これ以外にはない。

仮に近づかれてしまった場合は、前衛は防御に徹して絶対に

攻撃を受けないようにしなければならない。

そして後衛に攻撃を任せて(ほふ)るのが最上(さいじょう)だ。

そしてもう一つ厄介なのは通常の武器では傷すら与えられない事もある。

その為、攻撃は魔法かエンチャントされた武器に限られるという

本当に厄介な魔物なのだ。

「このワイトとの戦闘で聖水は全て使い切ってしまったの。しかもMP回復ポーションも残りわずかになってようやく最深部の部屋に到着したんだけど、そこにいたガーディアンは、前にも言ったと思うけどデュラハンだったのよ。」

「デュラハンって死を宣告(せんこく)するアンデッドでしたよね。死の宣告は受けたんですか?」

「いえ、受けなかったのよ。ただ奇妙な事だけど、普通のデュラハンはチャリオットに乗って現れるのが一般的でしょ。だけどそこにいたデュラハンはチャリオットもなければ馬もいなかったのよ。だから、(かろ)うじて勝てたんだけど、マリアと話してあそこにいたデュラハンは依然どこかで戦闘の末チャリオットを失ったか、本当はデュラハンではなかったか、どちらかじゃないかって思ってるのよ。倒してしまった後では真相は分からないけどね。」

「運が良かったんですね。」

「そうね。フフ」


夕方近くなり、ようやく(とりで)に到着した。

先行していたジュノー軍50名が急いでバリケードの設置を急いでいた。

「よう、アルス。やっと来たな。」

「ええ、こっちはいきなり荷物を持って行ってくれって言われて遅くなりました。」

「そんな事だろうとは思っていたさ。こっちも到着早々、モンスターとの戦闘を手伝わされる羽目(はめ)になって、さっきようやく落ち着いた所だ。」

「モンスターが攻めてきたんですか?」

散発的(さんぱつてき)に橋を渡ってくるモンスターがいるみたいだな。しかし、バリケードが設置できれば多少は楽ができるというものだ。

ここの防衛は兵士達に任せて俺達は明日は早い。飯を食って早々に休むことにするよ。休む場所は確保してある。アルス達もこっち来いよ。」

半壊(はんかい)している砦の中の片隅(かたすみ)で休めるよう

片付けられた場所で、皆と他愛もない話をして休むことにした。


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