82日目 法国首都奪還戦
●82日目(グリウス歴863年7月24日)
テントから出てきたところで、呼び出された。
バッシュやルフィン達が既に居並んでいる。
「ようやく来たな。」
バッシュが声を掛けてくる。
「作戦会議ですか?」
メンツを見てそう答える。
「そうだ。全員が揃った所で昨日の報告だ。昨夜、各所でこちらの偵察部隊が敵の偵察部隊を接触、大した戦闘にこそならなかったが小競り合いがあったと報告が来ている。」
「それで何か掴めましたか?」
ルフィンが訊ねた。
「いいや、大した情報は入っていないな。ただ、昨夜のうちに向こうの動きがない以上、今日の戦闘の準備は十分整っていると見た方が良いだろうな。そして、防衛という面では向こうの方が地の利がある。そこで、部隊を再編成したいのだが。聖女軍のメンバーをうちの部隊に水先案内人として最低1人ずつ組み込んでもらいたいのだ。しかも、首都の地理に詳しいものがいい。いかがだろう。」
「・・・なるほど。そうですね。それで部隊は何部隊位に分けるのでしょう。」
「その前に、地図を見てくれ。昨日偵察部隊とルフィン殿に協力して頂いて作った簡易な地図だ。これを見ると主戦場は、このメイン通りになるはずだ。」
そう言って、地図の一か所を指さして、中心地にある庁舎までをなぞる。
「ただ、この通りの両脇に並行してサブストリートが伸びている。この2本の通りには索敵を主体とした部隊を配置し、包囲されないよう警戒する必要がある。その部隊は10人の小隊を20部隊、約2個中隊を配置するつもりだ。その中隊に10人程派遣して頂きたい。それ以外にも後方におく増援部隊にも5人程置いて欲しい。本体には我々にルフィン殿の部隊も加わってもらいたいので特に選別は必要ないだろう。つまり、最低25人程お願いしたいのだが、どうだろう。」
「そのくらいの人数でしたら問題ないです。」
「あとは、アルス殿の部隊だが、アルス殿、意見を聞きたい。」
バッシュはこちらに向くと訊ねてきた。
「あまり人数が多いと目立ってしまいますからね。アンジェやピエール達の冒険者チーム2チームで十分ですよ。それよりもルフィン枢機卿に訊いておきたい事があったんです。首都内に庁舎を見渡せるような大きな建物とか無いですか?」
「・・・たしか街の北側に教会があったはずだ。・・・ああ、あれを見てくれ。」
そう言って、ルフィンは街の北側を指さした。
「あの尖塔のようなものが見えるか。あれが北の教会だ。あの最上階、鐘が設置されている場所まで上がれば、庁舎の全貌がある程度見渡せるはずだ。」
全員が北の教会のあると思しき場所を見る。確かに白い建物で尖塔のように街中から突き出ている建物が見えた。
「あれですね。庁舎までの距離はどのくらいでしょう?」
「1km位じゃないかな。」
「それなら、大丈夫そうですね。私達はあの教会に向かいます。でも大きく迂回する必要がありそうなので、少し時間がかかりそうですね。」
地図を見て、教会の位置や庁舎の位置、街の大きさ等を見ながら言った。
「どの程度で行けると考えてるか?」
「余裕を見て正午には到着できると思います。」
「わかった。では、こちらは10時に進軍開始。敵を引き付けておく。アルス殿達はすぐに出発、正午に教会にて敵本拠地を攻撃。その後、敵の混乱に乗じて総攻撃を開始する。以上でよろしいか。」
バッシュの言葉に全員が頷く。
「では、各自健闘を祈る。」
解散になってから、アンジェ、マリア、大地の牙のピエール、ザナッシュ、
クロム、バリントン、マーク、テトリアが集まってきた。
「さて俺達はアルスが無事に教会に到着するよう護衛をすればいいんだな。」
ピエールが確認する。
「アルスに救ってもらった恩を返す時が来た。気張っていくぞ。」
ザナッシュは気合を入れて宣言した。
「おう。」
クロムとテトリアも気合を入れて応えた。
「それでどういった作戦でいくんだい?」
アンジェが訊いてくる。
「俺の索敵で調べながら大きく迂回して北側から侵入します。だけど相手に見張りがいた場合は見つかる可能性も高いです。透明化の魔法でいくのがいいのですが、流石にこの人数を一度にかけるのはなんとかなるとは思いますが、慣れてないと途中で効果が解けてしまう事があります。そこで、もう一つの方法で行く事にしようと思ってます。転移で行くのですが、この人数だと1回使ったら、次に使えるまでMPの回復を待つ必要があります。凡そ5分程度その場で身を潜めなければなりませんし、俺もMP回復の為、他の魔法を使う余裕はなくなります。だけど一番見つからない方法だと考えてます。」
「では、俺達はその間に敵に見つからないように索敵と見つかった場合の早急な制圧を心がければいいんだな。」
ピエールは分かったと言わんばかりに答えた。
「ええ、そうです。本当は教会の上に直接テレポートしたいのですが、その場所がどうなっているか分かりません。」
ウイザードアイの魔法でも流石に距離が遠くて
見ることは出来ないと考えている。
「とにかく、時間もありませんから、後は道中話していきましょう。皆さん準備してすぐに再度集まって下さい。」
そう言うと、全員がそれぞれの場所に戻って行き、
荷物や装備を取りに戻った。
俺は基本的に異空間収納に入っているので、特に置いてある荷物はない。
陣地の北側で皆が来るのを待っている事にした。
最初に戻ってきたのはアンジェとマリアだった。
「アルスくん。大地の牙の皆さんは?」
マリアが戻って早々、声を掛けてきた。
「まだだよ。」
「そう。・・・アルス、話があるんだ。」
「ん?なんですか、改まっちゃって。」
アンジェは真剣な目でこちらを見ている。
「・・・・」
「・・・・」
えっ?何?この沈黙。何かマズい事でも起きたのか?
「もう、アンジェったら、アルスくんが困ってるじゃない。アルスくんは今後パーティを組もうとは思わないのかしら。良かったら私達とパーティ組まない?」
「え?」
突然の話に理解が追い付いていない。
「嫌かしら?」
「嫌じゃないですけど・・・。」
「けど?」
「その、何でいきなりパーティを組もうと?何か理由でもあるのかな?なんて・・・。」
「理由はいくつかあるけど聞きたい?」
「突然こんな話されたら、そりゃあ、聞きたいですよ。」
「一つ目は、私達があなたを気に入ったから。」
マリアはウインクして見せる。
「はい?」
予想外の返答に思わず訊き返してしまった。
「あは、2つ目はパーティって同じ力量の者同士で組むのが普通でしょ。私達にとって同じ力量の人って大地の牙かアルスくん以外いないと思うの。アルス君にとっては、もしかしたら私達じゃ物足りないかもしれないけど、それでも一番アルスくんの力量に近いのは私達だと自負しているわ。そして、3つ目はこの間の探索で運よく成功させることができたけど、実はかなり危なかったの。下手したら2人共死んでいたかもしれないのよ。それで、2人で冒険するにはそろそろ限界なのかもってアンジェと話していたの。でも大地の牙は既に6人のチームで基本的に大所帯でしょ。それに男ばっかりだし。まあ、それは置いておいて、大所帯だと取り分も減るし、向こうも連携重視のチームだから私達と上手くいくかも分からないでしょ。それに比べてアルスくんは一人だし、可愛いしで、いう事なしでしょ。」
「・・・かわいいって、せめてカッコいいにして下さいよ。」
「うんうん、アルスくんはカッコいい。あは」
少し、照れながら、マリアさんの交渉力は流石だと感じなくもない。
「アルスくんもチームを組むメリットはあると思うのよね。」
確かにソロとチームではやれることが変わってくると感じている。
それはヒュリアやギームと一緒に行動していて感じていた事かもしれない。
「それに1人より寂しくないでしょ。」
この世界に一人で来て、生き残るために試行錯誤しながら
何とか生き抜いてこられたけど、これから先もこのまま一人だと
寂しいかもしれない。
何人か知り合いもできたけど、
一緒に冒険できるような人たちではなかったし、
できる状況でない人達ばかりだ。
ヒュリアやギームにしたって、自国でそれなりの地位にいるのだから、
もう一緒に冒険なんてのは、もう期待できないかもしれない。
そう考えると、アンジェとマリアは仲間として
かなり有望株なのではないだろうか。
というかチームを組むとしたら
この2人か大地の牙以外にあり得るのだろうか?
しかし一緒に組んでいいのだろうか?
不意に、ユミコが不穏な事を言っていた事を思い出す。
異世界から来た神(邪神)に力を与えないように魔力供給を絶つんだったか。
ベルガド帝国の皇帝がその邪神から力を授かり、
魔力供給を行うために多くの生贄を求めているらしいんだったかな。
直接邪神を倒すことは出来ないから、
その下僕の皇帝を倒すことで邪神の力を削ぐだったはず。
つまり、アンジェ、マリアとチームを組むという事は
これらの争いに巻き込むという事になるんじゃないのか?
「・・・ごめん。少し考えさせてくれないか?」
「あっ、やっぱり迷惑だったかしら?」
マリアとアンジェが少し悲しそうな顔をする。
「いや、チームを組まないかというのは凄く嬉しい。嬉しいんだけど、2人を危険に巻き込むことになるんじゃないかと。だから、少し考える時間が欲しい。」
「そう。嫌でないならいいわ。アルスくんにも事情はあるわよね。私達は待ってるからいい返事期待しているわね。」
「ありがとう。」
「おーーい」
遠くから大地の牙の人達がこちらに向かってきたのが見えた。
「じゃあ、この話はまた後でね。」
マリアも話を切り上げる事にしたらしい。
街を迂回していくと言っても、
周囲は低い丘陵地帯であるため、見つからないように
移動するとなると予想以上に大きく迂回する事となった。
点々と低木が茂っている程度で丘の斜面以外で身を隠す場所は無い。
ただ、草は初夏である為、膝上まで高さがあり、
身を屈めば少しは隠れられそうな状況ではあった。
北側に到着したのはそろそろ作戦時間に迫ろうという頃合いだ。
丘の斜面伝いに街へ近づく。だが、この先は丘もなくなり、
平地になった場所が広がっていてこれ以上近づくのは難しい所まで来た。
「これ以上近づくのは危険ですね。ここで一旦偵察しましょう。」
「ウイザードアイ!」
魔法の目が飛んで行き、街の方へ視界が近づいていく。
街の外周には人の姿は確認できない。
視界を上空へと上げていく。
上からも観察したが、街の外周に潜伏ないし、
偵察に出ている者は見当たらなかった。
ただし、教会の上に人影を確認することができた。
どうやら、監視塔の代わりにしているようだった。
視界を飛ばすのも限界に来たので魔法を解除する。
「街の外周には誰もいないようですね。ただし、教会の最上階に帝国の兵士がいたのが見えました。」
「監視塔にしているのかもな。」
ピエールは俺と同じことを考えたらしい。
「では、どうするか?」
アンジェが俺に確認してくる。
「勿論、予定通り街の外周部分までテレポートで移動します。全員、俺に掴まって下さい。」
俺は両手を広げて、皆に掴まりやすいようにした。
全員が俺の腕に掴まるのを確認して「行きますよ。」と声を掛ける。
全員が頷くのを確認して魔法を発動させる。
「テレポート!」
一瞬にして、街の一番外れの建物の外壁付近に瞬間移動をした。
全員が一瞬の間をおいて、我に返ったように外壁に身を隠すように動いた。
俺はテレポートが完了した瞬間に、索敵を発動させる。
周囲500mの範囲には誰もいないようだ。
俺は皆に頷いて見せると、クロムが周囲の探索に動き出した。
クロムが周囲の地形の確認をしている間にピエールから提案が出された。
「アルス、まず、クロムが戻ったらクロムを先頭に俺とザナッシュとマークで先行する。続いて距離を開けてバリントンとマークとアルスが付いて来てくれ。殿はアンジェとマリアに任せたいがいいか?」
アンジェとマリアは一応頷いたが、
「なぜ、隠密の能力の低い貴方達が先行するのですか?」
疑問に思ったマリアが訊ねた。
「それは、俺達にサイレンスの魔法をかけて進むからだ。だから、俺達の周囲にはサイレンスの効果が消えるまで近づくなよ。特に魔法使いはな。」
不敵な笑みを浮かべて、そう説明した。
「それでは、貴方達は何も聞こえないじゃないですか。」
「そうだ、聞こえないし、聞かれない。俺たちの目と耳はクロムに任せている。元々俺達、戦士組は隠密行動ができない。逆に魔法を使わない以上、音を消しても問題ない。こういう時の為に訓練はしてきている。任せろ。」
「わかりました。何かあったらすぐに合図を。」
アンジェがピエールの言葉に納得して答えた。
暫くするとクロムが戻ってきた。
その時間でテレポートで使用したMPもほぼ回復することができた。
「こっちだ。」
クロムが案内するように身を屈めながら進んでいった。
「テトリア、頼む。」
ピエールがテトリアに言うとテトリアは頷いた。
ピエール達が少し離れるとピエールは指輪で魔法を発動させる。
「サイレンス!」
それまで鎧や金属の擦れ合う音がしていたが
一瞬にして音が消え去った。
「この指輪は、街で売っている魔法指輪ですが、どうです。なかなか役に立つでしょう。」
テトリアは笑みを浮かべて説明した。
そういえば、大地の牙は戦力ダウンをアイテムで補強したとか言っていたな。こういう事だったのか。
「私達も進みましょう。」
そう言って残ったメンバーは後に続くように進んでいった。
この辺りの民家は誰もいないようだ。
避難したのか殺されたか捕まったか今は分からないが、不幸中の幸いである。
もう少しで教会のある大通りへ出るという所で、
とある1軒の民家に忍び込んだ。
大通りとは1軒、間を挟んだ場所だが、場所によっては
教会の様子が見える良いロケーションに立っている建物だった。
「よくこんな建物を見つけましたわね。」
マリアが感心しながらいった。
教会を観察しながら索敵を行うと、教会の入り口に2人の門番が立っており、その中には6人の反応があった。
そして教会の最上階、鐘のある所には2人いるのも判明した。
「全部で10人か。上の人間にバレるのは不味いな。鐘を鳴らされて周囲に知られると面倒になる。」
すると突然鐘がカンカン、カンカンと2回ずつ連続でなるのが聞こえてきた。
「バレたのか?」
アンジェが剣を抜こうとした。
「いや待て。様子が違う。」
門の中から一人が出てきて、門番に何か言うと、
そのまま庁舎の方に向かって走り出した。
門番はそのまま何もなかったようにその場に立っている。
「そうか。ジュノー軍の進軍が始まったんだ。」
時間的にもそんな時間だった。
「さて、こちらはどうしたもんかな。」
ピエールは考え込むように顎を手で擦っている。
この建物と教会には間に大通りがあり、隠れて近づくのは基本的には難しい。
「門番は俺と今のテトリアで中の人間にバレることなく十分無力化できます。ただ、教会の門には多分鍵がかかっていると思いますし、バレないように無力化するためにサイレンスの魔法をかけるため、開錠の魔法をかける事は出来無くなります。しかし、問題は上にいる人間です。こいつらを先に殲滅しないとマズいでしょう。なので、作戦なのですが・・・」
全員が配置についた。いざ、始めようとした段階で索敵にかかった者がいた。
先程、庁舎へ向かった伝令だと思われた。
それが戻ってきたので、一度皆に待機するよう合図を出す。
伝令は、門番に何か言った後に門を叩き、
暫くすると門が開き中に入っていった。
それ以上、動きが見られないようなので合図を出す。
テトリアが門番に向かってサイレンスの魔法を発動させた。
「サイレンス!」
テトリアの魔法に続き俺も魔法を発動させる。
「スタンクラウド!」
門番達は一瞬自分達の耳が何も聞こえなくなるという状況に驚いた様だが、
立て続けに放たれた魔法スタンクラウドにより
麻痺状態になり、そのまま突っ伏して倒れた。
本来ならば倒れた音が響くのだが、サイレンスの効果のせいで
倒れた音が全く出なかったのである。
「フライ!」
続けて俺は飛行の魔法で上空に上がる。
ただし、監視しているであろう方向とは逆の方向から慎重に上がっていく。
ジュノー軍の進軍の状況を監視しているであろう事は予想の範囲である。
音もなく空中に現れた者など特に自分の後背に現れるなど
誰も予想だにしないだろう。
索敵の通り、2人の兵士がジュノー軍の動向を見ている。
「デスクラウド!」
放たれた魔法は2人の兵士を一瞬にして死に追いやってしまった。
「無風状態で良かった。」
だが、次の瞬間、その内の一人が前のめりに倒れたことによって
落下していってしまった。
ドスン!
鈍いが重い響きを周囲に反響する。
だが、ここでも幸運に恵まれた。
クロムが兵士の落下と同時に門の開錠に成功したのだ。
ピエール達が扉を蹴破って中に侵入する。
中にいた兵士達は外で大きな物音がしたと感じて驚き、
今度は扉が蹴破られた事に再び驚いたのだった。
中には6人の兵士がいたが、ピエール、ザナッシュ、マーク、
アンジェの4人が一気に距離を詰める。
敵の兵士で武器を構えられたのは2人だけだった。
他の4人に関しては休憩中だったのか手元に武器すら持っていなかった。
結果は、瞬殺の一言である。
一度、教会の中に集まる。
「では、皆さんはここで警戒に当たって下さい。俺はタイミングを見計らって攻撃します。攻撃後は一旦ここから離脱しましょう。前線が崩壊した場合、敵が殺到する恐れがあります。それではあとはよろしく。」
そう言って、最上階に上がっていく。
戦線を見ると既にジュノー軍は街中に入り込んでいるようだ。
後続の部隊はまだ、街の外で待機している。
遠くで剣戟の音や怒声のような音が微かに聞こえてくる。
耳を澄まさないと聞こえないレベルであったが。
「さて、本拠地はどうかな?」
庁舎の方を見ると庁舎の前に部隊が集結しているのが見えた。
見た所モンスターの類は見当たらない。
「少し早いが、やってしまおう。」
これから使う魔法は儀式魔法に近いせいか、すぐに発動できるものではない。
精神を集中させ、呪文を頭の中で詠唱していく。
呪文を憶えたつもりはないが、頭の中で詠唱すべき呪文が浮かび
それを一語一語、詠んでいく。
そして詠唱を終えて、発動の言葉を声に出して唱える。
「メテオ・スウォーム!」
遥か上空に突然湧いた六芒星、
その中心から一つ、そして六芒星の頂点からも一つずつ
計七つの隕石が召喚され高速で落下していく。
その大きさは5mはあろうかという巨大な物で
最初に放たれた隕石は狙い違わず、轟音を発しながら、
庁舎のど真ん中へ落ちていった。
隕石は庁舎の壁を突き抜け、中に飲み込まれていった。
次の瞬間その隕石は大爆発を起こし、庁舎が崩れ始めた。
だが、更に次の隕石が飛来し、先程とは違う場所に激突、
そこでも大爆発を起こした。
庁舎の前に集まっていた兵士達はその光景に絶望し、
パニックに陥っていた。
4つ目の隕石が飛来するとそこは丁度兵士達が集まっていた
その場所であった。
右往左往する人々の中に轟音を
響かせ落下していった。
隕石に直撃された者は押しつぶされ、直撃を免れた者も
その隕石の爆発に巻き込まれ、一瞬で燃え尽きる者、
爆風で吹き飛ばされる者、多くの者が息絶える事になった。
そして、無情にも更に周囲に3つの隕石が落ちていった。
全ての隕石が落ちた後は、火による煙と土煙とで
周囲の視界が全くなくなるような有様だった。
その煙もゆっくりと収まっていったが、
庁舎のあった場所には瓦礫の山が出来ていて、
後から見た者はそこに庁舎があった事すら
分からないといった事になってしまっていた。
自分のした事とは言え、ここまで威力の高い物だとは思わなかった。
まるで前世で言うミサイル攻撃のようだ。
イメージとしてはもう少し小さい隕石がいくつも降ってくると見ていたが、
実際は巨大な隕石が7つも降ってきた。
被害も想定の範囲を超えている。
「少し・・・いや、かなりやり過ぎた。ちょっとマズいかも。」
その後、生き残って逃げなかった帝国軍の兵士達は投降した。
後から聞いた話では、隕石が落下し始めた後は両軍ともに
戦闘している状況ではなくなったらしい。
帝国軍は一旦庁舎まで撤退しようとしたが、
爆風がその近辺にも巻き起こり、その段階で戦闘は一時中断されたらしい。
それでも一部の帝国兵は庁舎まで戻ったが、
その光景を目の当たりにして、降伏したそうだ。
庁舎の周りにいた帝国兵で逃げ延びた者もいるらしいが、
それ程多くの者ではなかったらしい。
帝国兵1万のうち、投降したのは500名、100名が重軽傷、
逃げ延びたと推測されたのは300名前後、
この逃げた者達の大半は街の南東部の区画に市民達を閉じ込めていて、
取り調べをしていた者達がほとんどで、残りは生死不明。
また、味方にも爆風に煽られ負傷した者十数名。
彼らには後でマリアとバリントンが治癒したと聞かされた。
市民達は南東の区画に集められて反抗の意思がないかや
信仰を捨てさせ新たにシャックス神に
恭順を誓わせる等の事が行われていたらしい。
だが、市民を集めるのにも時間がかかり、結局、信仰を捨てた者もおらず、
何もできずに、この騒動で逃げ出したらしい。
戦闘も終わり、市民には一旦自宅に戻らせ、自宅を失ったものは、
簡易の宿泊所や宿屋を解放させて、落ち着きを取り戻した。
「しかしまあ、派手にやったものだよ。」
ルフィンは崩壊した庁舎を眺めながら
大きな溜息を吐いて愚痴をこぼした。
「だから、ごめんって言ったろ。」
「アルス様は悪くはありません。自国民の被害が少なかった事に喜びを見出しましょう。」
ユミコは俺を庇って言ってくれた。
「そうですね。申し訳ないアルス殿。あなたのおかげで自国民の被害は最小に抑えられました。ここに感謝を申し上げます。」
「そう言ってくれると俺も気が紛れるよ。」
「でもこれからが大変ですよ。帝国兵の残党が残っている可能性もありますから、投降を呼びかけて、帝国兵がまた侵攻して来ないよう、国境の警備もしなくてはならない。ジュノー王国とも今後交渉をしていかなければなりません。軍費の一部は支払うべきでしょうし、国家として同盟の強化の話し合いも必要でしょう。」
「取り敢えず、バッシュ司令官と橋の砦を修繕している間、ジュノー軍が駐留してくれる約束は取りつけたんだし、捕まっていた人たちの中に兵士の方々も何人かいて復職してくれるんだろ。基本方針は内諾されているんだから、明日の会議で今後の方針を皆と話し合えばいいんじゃないの。それより新しい庁舎の候補は見つかったのかい。」
「それなら、近衛師団の建物を使う事になりました。明日の会議もそこで行いますので、というか今日はそこに泊まってもらいますから。宿屋は市民に開放したんですから使えませんよ。」
「あれ?そういえばそうだったね。他の皆は知ってるのかい?」
「ええ、伝えてあります。あとはアルス殿だけです。アルス殿が勝手に偵察と称して勝手に魔法で飛んで行ってしまうから伝えそこなったんですよ。もう、皆さん揃って食事していると思います。我々も行きましょう。」
「ああ。」
俺は短く返事をした。
実はあの後、偵察と称して一人になる時間を作ったのだ。
勿論、偵察を兼ねてだが。
今後の事で考えをまとめることは出来なかったが、
整理する事は出来たので、それで良しと思おう。




