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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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81日目 合流

●81日目(グリウス歴863年7月23日)


翌朝、陽も昇り始めた頃、

先行してきたバッシュ率いるジュノー軍の1隊が到着した。

随分(ずいぶん)早い到着ですね。」

ルフィンが出迎えで来た俺にそう言ってきた。

「そうだね。でも来たのはほんの一部みたいだけだけどね。」

バッシュが連れてきたのは騎馬隊100名程だった。

「ようこそおいで下さいました。バッシュ司令。お疲れでしょう。お休みいただける場所を確保致しました。こちらへどうぞ。」

「すまないな。ルフィン枢機卿殿。早速軍議(ぐんぎ)を始めたいから先にそれを済ませてからにしよう。」

「分かりました。では、部下の方々には先に宿舎へ向かっていただきましょう。」

そういって、ルフィンは他の者にバッシュの騎兵隊を連れていかせた。

バッシュは馬を降り、俺とルフィン、バッシュの3人で

会議ができる建物へ向かう。

「随分早かったですね。」

俺はバッシュ司令官に訊ねた。

「いつでも出立できるように、準備だけはさせていたからな。ただ足の遅い者達も多いから、先に来てしまった。ハハハ。」


会議にはいつものメンバーが(そろ)っている。

「それでは、会議をはじめましょう。」

ユミコの号令で会議が始まる。

まずは、現状の把握から始まった。

帝国の部隊は法国の首都に戻って現在まで動きがないようだ。

これはこちらの斥候(せっこう)部隊の報告と

ジュノー軍の偵察部隊の報告と同じだった。

「帝国は現状、首都に(こも)って様子見をしているようだ。頻繁(ひんぱん)に帝国方面に伝令が走っている事を考えると援軍の要請(ようせい)か今後の行動方針の確認を急いでいるのだろう。であれば、相手に時間を与えずに潰走(かいそう)させる必要があると思うがいかがだろう。」

バッシュの言葉に全員が(うなず)いた。

「我々も同様に考えております。魔物の部隊を撃退した今が好機と考えております。今ならば五分以上の戦いができるでしょう。ただ、市街戦ともなれば色々と制約がでてきます。」

「そうだな。市街地では大部隊を動かすのは難しいだろう。中隊規模もしくは小隊規模で攻めるしかないか。」

「それだけではありません。街中で火を放たれた場合、市民が混乱し、それを盾にされる可能性もございます。向こうは市民共々攻撃をしかける事ができますが、こちらはそうは参りません。市民を守りながらの戦闘では苦戦を(まぬが)れないでしょう。ただ、この時期、首都は西南方向からの風が多いのです。攻めるならば西南方向から攻め入るのが良いと考えます。」

「そうなのか。火あぶりにさせるような事にはなりたくないからな。攻めるならば西南もしくは西側からにするとしよう。」

「それが良いでしょう。」

ルフィンとバッシュが意見を交わした。

「それで、出戦(でいくさ)になれば、正面決戦となるので問題ないだろうが、相手が立て籠もって防戦に専念されると中々厄介だと思うが、その場合、何か策はないのかね。」

バッシュの質問にルフィンは俺とユミコの顔をチラリと見て溜息(ためいき)を吐く。

「その場合は、アルス殿に策があるようです。」

仕方ないと言った声音で質問に答える。

「ほう、アルス殿に考えがあると。どんな作戦なんだ?」

バッシュも俺を見て()いてくる。

「作戦って程ではないんだけど、相手が建物に(こも)ったら、建物ごと壊してしまえば一気に片が付くと言っただけですよ。」

「建物を壊す?相手が立て籠もる可能性の高い建物はたしか法王庁の建物だよな?」

バッシュは今度はルフィンの方へ向いて訊ねる。

「ええ、その通りです。法王庁は最後の抵抗拠点になるよう頑健(がんけん)に造られており、そう簡単に崩壊(ほうかい)するような建物ではないのです。」

「その割には、あっさりと陥落してしまったように思えるのだが、おっと、失礼した。」

「いいえ、しっかりと運営できる者がいて初めて役に立つ建物です。当時の防衛体制は無いに等しい状況だったのです。何せ、指揮官不在、責任者不在でしたから。あっ、責任者は私でしたね。まあ、私を前線に追いやった者達の自業自得でしょう。」

ルフィンはやれやれといった表情で答えた。

「そうだったのか。それでアルス殿はそんな頑健な建物を破壊できるというのかね。」

「どの程度の建物かは見てもいないですので、分かりませんが、完全に破壊するのは難しいとは思いますが、半壊位なら何とかなるんじゃないかと考えています。」

「そこに指令所を設けていたら、帝国は大混乱の(きわ)みだな。では、まずは首都の郊外1kmの地点に陣を張る。そこで、帝国が出てくれば正面決戦だ。仮に出て来ないようであれば、部隊を分けて侵攻し、圧力をかけていく。

その隙にアルス殿にやってもらうという流れでどうだろうか。」

その場にいた全員が反対意見もなく賛同した。


会議が終了し、各々が準備の為、部屋から出て行った。

「アルス殿。少しいいか。」

引き()めたのはバッシュ司令官だった。

「アルス殿。貴殿と一緒に戦いたいと申し出のあった者達が何人かいるんだが、君に預けておこうと思う。あとで、そちらに行かせるから宜しく頼む。」

「兵隊さんに知り合いなんていたっけか?まあいっか。わかりました。」

そう言って別れようとしたが、ふと思い出したことがあったので、

バッシュ司令官を呼び止める。

「どうした?」

「一つ聞きたい事があったのですが、帝国の魔物の件です。」

俺は魔物がダンジョンのモンスターのように

勝手に魔石になってしまう現象について(たず)ねた。

「俺も魔物についてそれ程(くわ)しいわけではないが、常識としてはアルス殿の言う通り、通常の魔物ではあり得ないな。モンスターホードで出てきた魔物ですら勝手に魔石になったという話は聞いた事が無い。あれはダンジョン特有の現象だと聞いている。正確にはモンスターをダンジョンの魔核(まかく)なる物が管理している為、死んだ魔物の体は魔核に吸収されるだったか。魔物だけでなく人間も死んでしまうと魔物程の時間ではないらしいが、時間が経つとダンジョンに吸収されるという話だったかな。人の場合、持っていた物もなくなり

ある程度時間が経つとチェストボックスで遺品が見つかるなんて話もあったな。」

「そうすると、帝国の誰かが魔核を持ち歩いているという事ですか?」

「いや、ダンジョンから持ち出した魔核にそんな能力が備わっているという話も聞いた事が無いな。」

「そうですか。」

「今の話でなんとなく近い現象を知っているぞ。」

「それは何です?」

「アルス殿は魔道具を知っているか。あれの中に、パペットゴーレムの枝という物があるんだが、1回だけミニチュアのゴーレムが作れるらしい。そしてそれは時間が経つか破壊されるとただの枝に戻るという物らしい。話を聞いていてそれに近いんじゃないかと思ったが、俺は専門家ではないし、何かのヒントにでもなればいいんだがな。」

「いえ、助かりました。ありがとうございます。引き留めてしまってすみませんでした。」

「いやいや、最初に引き留めたのはこちらの方だ。それではな。」

そういって、立ち去っていった。


別れた後、歩きながら先程の話を反芻(はんすう)していた。

パペットゴーレムは、クリエイトゴーレムの魔法の劣化(れっか)

もしくは簡易版といったところだ。

クリエイトゴーレムはそのゴーレムを作るのに素材が必要だ。

例えばウッドゴーレムならば、それに見合った木材が

アイアンゴーレムならば、それに見合った鉄が必要だ。

それに加えて行動を制御するための魔石も必要だ。

この魔石の質によりゴーレムの性能が大きく左右されるのだ。

あくまでも作れるのはゴーレムであり、

生物を作るのはいくら魔法でも不可能だと思う。

全属性の魔法を憶えた今となっては、

クリエイトクリーチャーなんて魔法は存在しないのがわかる。

あるのはサモンクリーチャーという魔法で他の場所の生物や

異界から生物を召喚する魔法なのだが、

召喚する生物の特徴をしっかりと知っていないと召喚できないし、

召喚に当たっては、生物によって決められた触媒(しょくばい)や素材が必要で

それは秘術(ひじゅつ)的な要素となり、代々受け継がれていくものだ。

魔法を唱えられるだけでは召喚できないのがこの魔法の面倒な所なのだ。

どのみち、召喚生物を倒しても魔石にはならない。

これ以上は、分からない事が多すぎるので一旦、保留(ほりゅう)することにした。

考えても分からない事は分からない。


そんなことを考えながら食堂に着いた。

昼には出発の段取りなので食事を先に済ましてしまう。

リリーと食事をしていると、外が随分と騒がしくなってきた。

どうやら、ジュノー軍の残りが到着したようだ。

1万の人間が(とりで)内に入れるわけではないので、

砦の周囲で休息に入ったようだった。


しばらくお茶をすすっていると、バッシュ司令官が

護衛(ごえい)の騎士たちに囲まれながらやってきた。

「アルス殿。ここにいたか。さっき話をした奴らを連れてきたぞ。おい、お前達、前に出てこい。」

そう言って、後ろから出てきたのは、懐かしい顔だった。

懐かしいとは言っても俺がこの世界に来てまだ3ヶ月も経っていない。

しかし、あまりにも色々な事がありすぎて、

随分と顔を合わせていない感覚に(おちい)った。

「お久しぶり。アルス君。」

そこにいたのは、アンジェ、マリア、そして大地の牙の面々だ。

最初に声を掛けてきたのはマリアだった。

「アルス、久しぶりだな。この間は本当に世話になった。」

そう言ったのは大地の牙のリーダー、ピエールだった。

そして、ザナッシュとクロムとテトリアが前に出てきた。

「アルスくん、本当にありがとう。ちゃんとお礼も言えずに、申し訳なかった。いくら自分達が死んでしまったショックだったとしても、ましてや蘇生までしてくれたのにな。」

「本当にありがとう。こうしていられるのもアルスくんのおかげだよ。」

3人はそれぞれに感謝の言葉を言ってくる。

「生き返れたのも皆さんの鍛錬(たんれん)賜物(たまもの)ですし、そんなに気にしないでくださいよ。」

「いや、それでは俺達の気が済まない。俺達にアルスの手伝いをさせてくれ。」

そう言って、大地の牙の面々に()みくちゃにされるのだった。


「まあ、そういう訳だから、お前に戦力を預ける。うまく使ってくれ。」

ようやく落ち着いた頃にバッシュは多少(あき)れた顔で言った後、

去っていった。


お互いの近況を話したかったが、出陣の時間となってしまったので

道中話す事にした。

我々の部隊は、前後をジュノー軍に守られる形で進んでいく。

後続には補給部隊もあり、そちらは1000人の歩兵部隊に

守られながらついて来ることになっている。

哨戒任務はこちらの斥候部隊とジュノー軍の偵察部隊総出で行われている。

その指揮はバッシュ司令官が指揮する事になっている。

夕方には、第一陣が目的地に到着して陣を張る事になっている。

そして戦闘開始は明朝になる予定だ。


「大地の牙の皆はあの後どうしていたの?」

あの後というのは、ダンジョン砦でのまさしく死闘を行った後だ。

「あの後、俺達は数日間、街でブラブラして静養に(はげ)んでいたさ。その後、力を取り戻すべくリハビリを兼ねて簡単な魔物退治を行って、それで徐々に高ランクの依頼をこなしていった。最近では以前ほどではないが、何とか本来のBランクの依頼も受けられるようになったところだ。」

「それは良かった。それにしても装備が前と違うみたいですけど。」

「ああ、前の装備のままとも考えたが、弱くなった分、装備で補強して連携(れんけい)に幅を持たせることにしたんだ。俺は、小型の盾を持つようにして前線を維持できるようにしたし、何よりもテトリアには魔道具を持たせて支援魔法で援護できるようにした。それとポーション保管用のバッグも手に入れてポーション類も常備できるようになった。お陰で、今俺達はスッカラカンの状態だけどな。アハハ。」

「命には代えられないですもんね。それで、アンジェとマリアはどうしていたんですか?」

ピエールから近況を教えてもらって、アンジェ達にも話を振った。

「私達はエルフ国の支援物資護衛の仕事の後は王都のギルドからの依頼で王都近郊のダンジョンで新しく見つかった未踏破のエリアの調査に行ってましたのよ。」

マリアが答えた。

「未踏破ですか?そんな所があったんですね。」

「ええ、そうなの。最初は長年誰も立ち入っていなかったから、モンスターもいないと思われていたんだけど、そこはアンデッドの巣窟になっていて、最初に調査に向かったCランクの冒険者では歯が立たなかったらしいわ。それで、私達に依頼が来たの。上位のアンデッドがいると聞いていたから、アンデッド対策を十分してから挑んだわ。お陰で、何とか調査依頼は完了させたのよ。」

「流石ですね。もしかして、その鎧とかはそこで見つけたんですか。」

「そうね。アンジェが付けているキュイラス(ブレストプレート)、ガントレット(籠手)、グリーブ(脛あて)は、そこで見つけた物ね。全て魔法の防具ですわ。それぞれ1日3回発動できる優れものよ。」

「マリアさんは何を見つけたんですか。」

「フフ、私はこれ。」

そういって手を見せてくれた。そこには指輪が2つ填められていた。

「大成果じゃないですか。」

「そうなのよ。でも本当に大変だったんだから。途中のアンデッドも大変だったけど、この財宝を守っていたガーディアンはデュラハンだったのよ。もしこのデュラハンがチャリオットに乗っていたら勝てなかったと思うわ。単体だったおかげでどうにか勝てたようなものだわ。アンデッド対策に持って行ったアイテムは全てそこで使い切ってしまったもの。」

「へー、アンデッド対策のアイテムって何を持って行ったの?」

「まず、HP回復ポーションとMP回復ポーションをそれぞれ10本、聖水を30本、状態異常回復のキュア系ポーションを各2本といったところかしら。」

「それ、全部使い切ったんですか。」

「ええ、そうよ。でも、キュア系のポーションは、ダンジョンを出た後に念の為に飲んだんだけどね。」

マリアは可笑しそうに言った。

「実はね。アンジェったら、ダンジョンから出た時にポーションをね・・・」

「マリアっ!」

アンジェが顔を赤らめてマリアを制する。

「何よ、いいじゃない別に。」

「いや、良くない。そ、それより、アルスは何してたんだ?」

アンジェは話を()らそうと話題をこちらに振った。

その横でマリアはくすくす笑っている。

「おお、それは俺達も聞きたいな。」

ピエールも話に乗ってきた。

「俺がエルフの国に行っていたのはみんな知ってると思うけど、ギルドからの依頼で調査していたんだけど、その後ドワーフの国に行ったりして、でも特に成果もなくって、そしたら戦争になったって聞いたから、調査も打ち切って

戻ってきたんだ。で、またギルドの依頼で聖女とのパイプ役としてこっちに来たってところかな。だから特に変わった事は・・・、あっ、そうだ。俺、エルフ国に家?隠れ家?を買ったんだよ。」

「家を買った?なんでまたエルフ国で?」

全員がキョトンとしていた。

「いやあ、偶々面白い所があって、誰も使っていなかったから、エルフの王様の許可を(もら)って俺のものになったんだ。」

「へー、それで、どんな家なんだ?」

「家、ではないかな。正確には塔?だよ。」

「なぜ、疑問形?」

「だって、形は塔だけど、その塔は海の中だもん。」

周りは全員ポカンとした表情をしている。

「海の中って、そんな場所で暮らせるのか?」

「大丈夫だよ。中には水が入ってこないし。出入りは魔法で何とかなるしね。」

「ま、まあ、人ぞれぞれだしな。いいんじゃないか。」

ピエールは呆れながらもそう言った。

「今度、招待してよ。」

マリアがキラキラした目で訴えた。

「いいけど、まだ、家具とか何も(そろ)ってないよ。」

「じゃあ、揃ったら呼んで。絶対よ。」

「わかったよ。必ず招待するよ。」

その横ではアンジェが額に手を当てて首を振っている。

どうやら、マリアはこういう変わったものに興味津々のようだ。


そうこうしている内に、夕方となり、予定の陣地に到着した。

早速、野営の準備が始まった。各所に歩哨(ほしょう)が立ち、

陣地内は(あわ)ただしくなっていった。


「さて、ここまで来て、相手が出て来ないという事は、完全に立て籠もる気満々といったところか。偵察部隊からの報告では一向に動く気配はないとの事だ。まあ、用心に越したことはないが、十分気をつけるように。」

夕食時に集まったバッシュ司令他数人とこちら側からは

ルフィン、ブレン、そして俺、アンジェ、マリア、大地の牙の面々だ。

ちなみに、ユミコ達は後方でロダン達に守られながら

補給部隊と一緒に動いている。

「すると、2つ目の作戦で行くという事ですかな。」

ルフィンがバッシュに確認する。

「そうなる可能性は大きいな。アルス殿に護衛も付けたし、準備(おこた)りなく頼む。」

「ええ、分かっています。」

「明日に控え、アルス殿達は十分休息するようにしてくれ。」

全員が頷いた。


見張りは、他の人達に任せて早々に休むことにした。


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