80日目 束の間の休息
●80日目(グリウス歴863年7月22日)
予想に反して、その日の夜は何事もなく朝を迎えることができた。
「アルス様、おはようございます。」
食堂に入ると、ユミコやポーリン達が食事をしている所だった。
「みんな、おはよう。」
ユミコ達の所に同席すると食事が運ばれてきた。
いただきますと言って食事を始める。
「アルス様。この後、ジュノー王国の方がこちらにいらっしゃるようです。そこで今後の話し合いになるのですが、できればアルス様にも同席して頂きたいのですが、よろしいでしょうか。」
ユミコは食後のお茶を飲みながら、話しかけてきた。
「まあ、同席するぐらいは構わないですよ。」
「良かった。ありがとうございます。」
「やあ、アルス殿、こちらにいらっしゃったんですか。」
ルフィン枢機卿が近づいてきた。
「どうしました。」
「今、ブレン達が到着したので、早速、調べて頂きたいのですが、よろしいか?」
「ああ、分かった。行くよ。」
食事も半分程だけ食べていたので、残りを一気に食べきってしまう。
「それじゃあ、皆さんまた、後ほど。」
ユミコ達にそう言って、ルフィン枢機卿と一緒に食堂を出て行く。
歩きながら、ルフィンが報告を始めた。
「実は、当初予定していた27名以外にも合流した者達がいるようで、今50名近くの兵たちが集まっております。その中には、ブレンの配下でない者も多いようなので、アルス殿のおっしゃったように間者が紛れているかもしれません。十分注意して下さい。」
「何故、増えたか訊きましたか?」
「ええ、合流したのは海岸線の警備任務に就いていた者達との事です。首都が攻められたという情報を受けて、事実確認の為、伝令を首都に行かせたのだが、その伝令が途中、魔物に襲われて逃げ帰ってきたらしいです。そしてそこの隊長であるロダンという者の判断で、これ以上の警備は無意味と判断し、首都に向かって行ったそうです。そして、ブレン達が出発するという時に偶々合流したとの事です。その時は海岸警備隊と合わせて70名程いたそうなのですがオークの部隊とゾンビの軍勢に立て続けに遭遇して20名程がやられてしまったそうです。」
あちゃー、こんな所で逃がしてしまったツケが回ったか。
「その魔物たちは?」
「犠牲を出しながらもなんとか殲滅できたようです。」
「そうか。」
そんな報告を聞くうちに、兵士たちの集まっている場所に到着した。
兵士の中から一人、装備が一番整った者が前に出てきた。
「お初にお目にかかります。私は法国第3近衛隊隊長のブレンと申します。この度は受け入れて下さり感謝申し上げます。」
「はじめまして。アルスです。今後ともよろしくお願いします。それでは時間も惜しいので早速、調べさせて頂きます。」
そう言って、兵士達が整列しているのを確認して魔法を発動させる。
「ディテクト・エビル!」
「ディテクト・マジック!」
「ディテクト・エネミー!」
「ディテクト・インビジブル!」
「センス・ライ!」
この中には、悪意や敵意を持った者は見当たらなかった。
姿隠しをしている者も近くには反応がない。
ただ、5人程魔力を感じる者がいたので、その5人を前に来させる。
「あなた達は何か魔力を帯びたものを持っていますか?もし、持っているならこの場で手に持って出してください。」
すると、その5人は各々腰に吊るした革袋や、
服の隠しから物を取り出す。
それを見て物品鑑定を行ってみる。
5人の内4人は所謂一般的な魔法の道具で指輪や短剣と言った物で
簡単な付与魔法が込められていただけだった。
そして、1人の持っている指輪は鑑定を失敗したのだろうか、
鑑定不明となってしまった。
「ロアー!」
鑑定の魔法を発動させる。
その指輪はレアものらしく今まで聞いた事もないようなものだった。
簡単に言えば、1日1回だけ自身が死に追いやられるような攻撃が
加えられると、その攻撃を無効化してしまうという物だった。
「君、その指輪はどうしたんですか?」
あまりにも珍しい物なので訊いてみた。
「これは昔、親父が冒険者として手に入れた物で親父の形見です。」
見た目はまだ、十代だろうか、印象としては兵士としては
半人前といった感じの若者だった。
「大事な物なんですね。大事な物ですから何があっても手放してはいけないですよ。」
「はい、もちろんです。」
「他の方も仕舞って頂いて結構です。」
そう言って、皆の方を見回してから続けた。
「それでは、この後はルフィン枢機卿の指示に従って下さい。皆さんが無事に合流できたこと、非常に嬉しく思います。それではルフィン枢機卿、後はよろしく。」
ルフィンも頷き、指示を出し始める。
俺は一度、食堂の方へ戻る事にした。食堂には、まだユミコ達が残っていた。
「いかがでしたか?」
ユミコが問いかけてくる。
「スパイの類はいないようでした。たぶん大丈夫だと思う。今ルフィンの方で指示を出してもらってる。」
そう言っている間に飲み物が出された。それを飲んで一息つく。
「この後は、ジュノー王国との接見だったよな。いつ来るんだ?」
「この後1時間もしない内に来る予定です。」
ユミコもお茶を飲みながら答える。
午後になり、ジュノー王国の一団がやってきた。
「アルス君、元気だったかね。」
やってきたのは、バッシュ司令官だった。
「バッシュ司令官もお元気そうで。」
「お互い生き残れて何よりだ。それで、アルス君は法国側の人間かな?」
「俺はただの付添人ですよ。ここの聖女とはちょっとした知り合いなもんで。」
「ほほう、知り合いね。」
「紹介します。こちらは、今現在、法国を取り戻すべく奮闘している聖女のユミコです。」
ユミコが軽くお辞儀をする。
「そして、こちらがルフィン枢機卿で、こちらは、ブレン近衛隊隊長です。そして、こちらはシスター・ポーリンです。」
同様にジュノー王国側のバッシュ司令官の紹介もする。
ここで皆がそれぞれ挨拶をした。
「なるほど、失礼ですが最初は聖女様といった訳の分からない者かと思っていましたが、とりあえずアルス君の話もあったので協力しましたが、ちゃんとした前政権のメンバーもいらっしゃるとは思いませんでした。つまり、こちらの方々が、法国の後継政権と見なして問題ないといったところでしょうか。」
バッシュ司令官は顎に手を当てて感想を述べた。
「以前の政権の主だった者は捕まったか処刑されたかです。それなので私より高位の者は現存していないはずです。しかしながら、現在、我々は帝国に対して法国の力を集結させつつ抵抗を試みております。ひいては、ジュノー王国には以前取り決めた同盟国としての協力を仰ぎたいと考えております。」
ルフィン枢機卿が答える。
「つまり、法国は今までの権勢下のままだとおっしゃるわけですね。失礼ですが、法国を治めるのは法王と認知しておりますが、その辺りはいかがでしょう。」
「確かに法国を治めるのは法王であることが決められております。しかしながら、法王がいない場合は枢機卿を拝命している者達が法王が確定するまで法王の代わりを務める事となっております。そして現在枢機卿を名乗る者は私一人であり、こちらにおわす方は、私の推薦を受けた法王候補という訳です。ああ、ちなみに枢機卿はその役目から法王には、なれませんので予めお伝えしておきます。」
「なるほど。それでは他に法王候補となる方が現れた場合はどうなるのでしょう。」
バッシュ司令官は慎重に質問を重ねる。
「先程も申しました通り、現在枢機卿を名乗る者は私のみでございます。法王候補は枢機卿の推薦なしには擁立できません。」
「首都に枢機卿の生き残りがいた時はどうなりますか?」
「7人の枢機卿の内、4人の枢機卿は法王と一緒に処刑されたのを確認しております。残りの2人ですがお一人は首都に攻め込まれる直前に発作を起こして亡くなられたと聞いております。そしてあとの1人はご高齢の為、ほぼ寝たきりでした。生死については不明ですが、実質、枢機卿としての活動は出来ない状態ですので考慮する必要もございません。」
「ということは、枢機卿は現在あなたお一人という事ですか。」
「そう言う事になりますね。」
「しかし、法王を決めるのには枢機卿の賛成が4人以上と記憶しておりますが、いかがでしょうか。」
「4人以上というのは今までの場合は、ということです。本来は過半数の賛成で法王は決まります。数十年以上7人体制で来たので4人という誤解が生じたのでしょう。それにしても司令官殿は我が国について随分と詳しいのですね。」
「いやいや、同盟国の事を知っているのは当たり前じゃないですか。」
それらの遣り取りを聞いていたユミコが突然話し出した。
「帝国は、あろうことか魔物を従属させて軍隊を作りました。
この事は人類にとって多大な脅威となるでしょう。このような暴挙を許してしまっては、いずれジュノー王国とて法国の二の舞になってしまうでしょう。帝国の目的は分かりません。十三連合国も事実上消滅しました。この国にとっても、ジュノー王国にとっても、今が正念場と捉えるべきです。今こそ一致団結して共に脅威を打ち砕きましょう。」
「・・・確かに魔物の脅威については我が国が一番感じている事ですからね。分かりました。現地司令官としてあなた達を法国の正当な後継者として認めましょう。そして共に対処していきたいと考えます。ただし、この事は本国に報告させていただき、正式な同盟関係についてはその後ということになりますが、今は現場の判断で協力は惜しみません。」
「ありがとうございます。」
その後、打ち合わせを行い、明日の昼までに最低限の防衛部隊を
橋の砦に残し、ジュノー王国の正規軍と傭兵部隊が
この砦まで進駐してくる事となった。
最低限の事を取り決めた後、バッシュ司令官は帰っていった。
「とりあえず、どうにかなったな。」
ルフィンが溜息交じりに言った。
「流石は枢機卿ですね。」
ユミコはニコリと微笑んだ。
「いや、向こうは最初からこうなる事は予想してましたから、交渉でもなんでもありませんよ。」
ルフィンは自嘲気味に答えた。
「そうなのですか?」
「そうなの?」
ユミコとポーリンは俺に向かってハモリながら訊いてきた。
「さあね。どうなんだろうね。」
「さあね。じゃないですよ、まったく。向こうの司令官が敵か味方か分からずに少数で来るわけないじゃないですか。アルス殿が初めからこうなる様に最初の手紙で依頼してあったに決まってます。」
「・・・あれっ?じゃあ、なんで私に交渉依頼の書状を書かせたのですか?意味ないですよね。」
「ああ、あれは保険だよ。何かあって俺の名前で依頼が来たら、偽の依頼だから気をつける様にと。そして聖女からの依頼は正式な依頼なので受ける様にと伝えていたんだ。」
「ごめんなさい。全く意味がわかりません。」
ユミコは首を傾げながら言った。
「えーと、簡単に言うと俺はAランクの冒険者でその俺がギルドから特命で依頼を受けたのは周知の事実だ。実際、俺が橋の砦に到着する前に司令官は俺が来ることは既に知っていた。そしてその内容もたぶん多くの者が知っていると推測できる。だから、橋の砦にいる軍隊を罠に嵌めようとして動かす場合、俺の名前を騙っておびき出す事が考えられる。聖女と交渉したら書状を2通送る事も取り決めてあった。そして最初の2通の書状には両方の書状を見ないと内容が分からないように書いておいた。その書状に同盟としての依頼の際には聖女の名前で依頼すると書いておいた。だから、バッシュ司令官は依頼が嘘や罠ではないと判断して最速でこちらに来たということだけだよ。交渉については俺は何もしてないよ。」
「えっと、えっと、ごめんなさい。分かりません。」
ユミコは小首を傾げながら真顔で答えた。
「聖女様。アルス殿はAランクの冒険者というのはご存じですか?」
「はい。凄い冒険者なのですよね。」
「凄いって・・・、今この周辺国にはAランクの冒険者といえばアルス殿以外にはいないんですよ。注目度で言えばアルス殿は断トツなのです。」
「おおー。」
ユミコとリリーが手をパチパチさせている。
というかリリー、お前いつの間にそこにいるんだ。
「つまり、アルス殿の信頼度は一国の大臣以上、下手したら王様と同等なのですよ。ここまでは分かりますね。」
コクコクと頷くユミコとそれを真似するリリーがいる。
「だから、相手を騙そうとしたらアルス殿の名前を騙った方が騙しやすいという事なのです。」
ユミコとリリーはまたコクコクと頷いている。
リリーもう止めてあげて、横でポーリンさんが身悶えしてますよ。
「だから予め騙されないようにアルス殿とバッシュ司令官は書状のやり取りについて決めごとをされていたんです。分かりましたか?」
「ええ、勿論?」
分かってないな、こいつは。
「それよりも今後の方策を練った方がいいんじゃないか?首都の状況はどうなっているか分かりますか?」
ユミコに説明しているのも無駄なようなので、ルフィンに話しかける。
「それについては俺から説明させてくれ。」
ブレンが話し始めた。
「ある程度知っているとは思うが、法国の主だった者は全て処刑されてしまっている。捕まった者達もどうなったか不明なのだが、恐らくは魔物の餌にでもされたか処刑された可能性が高い。俺達のように潜伏できたものがいるかもと色々と手を尽くしたが、見つける事は出来なかった。つまり、首都の中にこちらに味方するような存在はもういないと考えた方がいいだろう。残るは首都以外に警備などに出ていた者達がそれなりにいるはずだが、情報が入らない以上身を潜めたまま出て来ないだろう。市民の生活はある程度自由だが、理不尽に殺されたり襲われたりで外出する者はほとんどいない状況だ。それで市民の生活は破綻寸前といった感じになっている。帝国は首都の中心にある法王庁中心に陣取っていた。帝国正規軍が首都まで撤退したのなら多分そこを中心に居座っている可能性が高い。」
「首都はどのような街並みなのですか?」
「法国内で魔物はほとんど出没しないから、法王庁を中心に街が広がっている感じだ。城壁のようなものは存在しない。」
「そうですか。守りに適した街という訳ではないんですね。」
「必要性が無いからな。」
「城壁がないという事は街中で戦闘という事になるよね。ちなみに法王庁の建物の中に法国の人間はいるのだろうか?」
俺の質問にブレンとルフィンは一度顔を見合わせて答える。
「いや、いるとは思えないな。自分達の足元に敵国の人間を置く必要はないし、捕縛されたものを置いておく場所もないはずだしな。」
「そうか、だったら法王庁を一気に壊すのはどうだろう?」
「・・・はい?」
「はあ?」
一同、口をあんぐりと開けて俺を見る。
「だって、敵しかいない建物があればそれを壊してしまえば一気に片が付きそうなものだけど。」
「アルス殿?法王庁の大きさをご存じか?この砦と同じくらいの大きさの建物で高さも街を一望できるくらい高い建物なんだぞ。
いくらアルス殿でもそんなことは不可能だろ。」
「・・・・」
俺は目を瞑って大きさと破壊方法を考える。
「おいおい、そんなこと考えなくても分かるだろ?てか出来るなんて言わないよな。ハハハ。」
ブレンは笑い出した。つられてルフィンも笑い出す。
「跡形もなく全壊とはいかないけど、ある程度崩壊させることは可能だよ。」
「ハハハ・・・はあ?」
「いくらアルス殿が非常識に強いと言っても、それは言いすぎなのでは?」
ブレンは目を丸くし、ルフィンは否定する。
「流石です。アルス様。」
ユミコは両手を前で組み祈るような仕草でこちらを見ている。
そしてリリーはいつまで真似しているんだ。
「まあ、それは置いておいて。ジュノー王国との合流が済んだら、決める事だけど。方策は2つほど。1つはこちらが首都に向かったのと合わせて帝国が出てくる場合。これは正面対決になりそうだから、この場合、俺の魔法も自由に使えるから多分同数ならば勝てるだろう。2つ目は帝国が首都に籠り市民を盾にした場合。この場合は、街中での小競り合いがあちこちで発生して魔物を擁している向こう側が多少有利だ。俺の魔法も市民を巻き込む様なものは使えないし、勝てるとは思うけど、時間も戦力も浪費する可能性がある。しかも時間を掛ければかけるほど相手の増援を気にしないといけなくなるから、心理的にもしんどい。その場合はさっき言った、法王庁を破壊して相手の戦意を挫くのと籠っていた戦力を一網打尽にするというのがいいと思うんだけど・・・。」
「だけど?」
ルフィンは訝し気な顔でこちらを見ている。
「いや、単純に壊してしまって後から文句言われても困るなあっと思っただけ。」
「アルス様、そうなったらそうなったで大丈夫です。」
ユミコは何が大丈夫なのだろうか?
一応賛同はしてくれているようだが。
「確かに勝つ方が先決と言えば、建物の1つや2つで済むのならとも考えますが、あまり気乗りしないですね。」
ルフィンは少し渋っているようだ。
「しかし、アルス殿の言う通り増援の危険性は高い。時間を掛けすぎては後々後悔する事にもなりかねない。」
ブレンはルフィンに向かって言った。
「わかりましたよ。ここは全会一致でそうなった場合、破壊しても良いという事にしましょう。」
ルフィンは渋々同意したが、明らかに頭を抱えた顔をしている。
「それでは明日の昼にはジュノー王国と合流、その後、首都に向けて出発ということでよろしいですね。」
ユミコが締めの言葉を皆に伝えて会議を終了させる。
「ルフィンさんとブレンさんは出陣の準備をお願いします。それでは解散です。」
そう言った矢先。
「敵襲ー。」
櫓の上で見張りをしていた兵士が声を上げた。
このタイミングで仕掛けるのか?
一瞬頭の中で帝国軍が奇襲をかけてきたと思ったが、
次の瞬間、違う事が判明した。
「ソンビだー。急げ―。敵は約20体。」
「アルス殿。ここは我々に任せて下さい。ゾンビ程度に遅れはとりません。」
そう言ってルフィンは駆け出して行った。
ルフィンの指示のもと、神官兵数人と兵士十数人が門の外へ出て行く。
俺は念の為、伏兵がないか索敵を始める。
周囲には特に反応もなく、門の所で外の状況を見てみると
どうやら、先だってどこかへ行ったゾンビが戻ってきただけのように感じた。
戦闘自体は神官兵もいる事で特に負傷者も出さずに撃退したようだ。
ここで忘れていたことを思い出した。
「ルフィン枢機卿、少し訊ねたいのだがいいですか?」
「どうしました。アルス殿。」
「先程のゾンビを始め、ここで遭遇した魔物たちは、倒した後、魔石を残して消えましたよね。」
「それが何か?」
「いや、普通魔物は倒しても死体がそのまま残って、魔石は解体しないと得られない物と思っていたのですけど。」
「そうなのですか。私も魔物を見たのはごく最近になってからですけど、そういう物と思っておりました。違うのですか?」
「ええ、先程言った通り、魔石は魔物を解体しないと取り出せない物なのですよ。」
「それでは、どういうことなのでしょうかね?」
どうやらルフィンに訊いても分からないようなので、
こちらで調べると適当に言って別れた。
これは、ジュノー王国と合流した時に冒険者に訊いてみる必要がありそうだ。
夕食までに時間があったので、魔法の実験をしようと思う。
今後役に立つ事、請け合いの魔法だ。その名は「ゲート」。
門という言葉だが、その言葉通り他の場所とつなげる門を作り出す魔法だ。
ただし、行き先については、自分がしっかりと認知できる場所である事が
必要であるらしい。
そこで、俺自身の隠れ家である海中の塔に行ってみる事にした。
念の為、ユミコに言って俺が今使っている寝室には
誰も近づかないよう伝えてもらった。
初めての魔法だ。しっかりと集中して行き先を頭の中に想像する。
「ゲート!」
すると、目の前に魔法の門が現れた。
門の中は見通せないが、成功していればこの門の向こうは
念願の塔の中のはずである。
門の大きさは、ある程度自在に出来るようだが、
部屋の大きさや物があったりで、ここでは一人分の小さい門にしか
ならないようである。
「ふーーー。」
大きく深呼吸して、門の中に入っていく。
門をくぐる時に大きな抵抗を感じたが、
それも一瞬ですぐに反対側に出ることができた。
そこは、あの時見た塔の中そのものだった。
周りを見回すと来た時と変わらない状況のようだった。
取り敢えず、成功したものの、帰れなくなる危険もあったので、
一旦そのまま戻る。
戻るとそこは先程いた寝室だった。
そして今度は、部屋から出てそのままフライの魔法で砦の外へ向かった。
5分ほど飛行して、砦からかなり離れた場所まで来たところで、
再度ゲートの魔法を使う。
今度の行き先は砦の寝室だ。
最初はパッと思い浮かべてゲートの魔法を発動させたのだが、
行き先をしっかりと認識していなかったのか門は現れなかった。
今度はしっかりと集中して行き先を頭の中に思い浮かべる。
部屋の場所、家具の位置・・・。
「ゲート!」
すると今度はしっかりと門が現れた。
門の大きさを大きくしてみようとしたが、
先程の部屋に入る大きさにしかならなかった。
移動先の広さにも影響されるようだ。
そして門を潜ってみる。その先は寝室で間違いないようだ。
「よし、成功だ。」
また、一旦門を潜り外に出る。
門を閉じてから、今度はここから海の中の塔に行く門を出す。
この時に大きさを部屋の大きさ一杯に想像する。
「ゲート!」
すると先程の5倍くらいの大きさの門が現れた。
今度はリリーにも協力してもらう事にした。
まず、俺が入った後に、続いてリリーにも潜ってもらう。
これも無事に出来るようだ。
折角なので、買っておいた家具などを
寝室の予定にしている部屋に設置しておく。
そして念の為、各部屋に通じる扉には全てハードロックの魔法を施し、
侵入者対策にする。
最上階の魔結晶の部屋に来た。鑑定してみたが魔結晶は問題ないようだった。
この部屋にチェストボックスを置いて、
たくさんある魔石の半分程を置いておく事にした。
持っていても問題ないのだが、最近、異空間収納の中に物が増えすぎて
取り出すのに時間がかかってしまっている為、
少し整理しておきたかったのだ。
他にも使い道のない物で花瓶やパペットゴーレムの枝、
魔法の発動体である指輪4つなども仕舞っておく事にした。
寝室に戻ってみるとやはりまだ殺風景である。
部屋が広いのもあるが、円形のテーブルと椅子4つのセットとベッド1つ、
タンスが1つと、これしか置いていないのでは当たり前である。
今度カーペットとか、色々と揃えたいと思いながら、
時間もいい時間になっているので帰る事にした。
帰ると既に日も暮れており、
半分以上の人達は食事を済ませている状況だった。
「アルス様、遅かったですね。」
ユミコとポーリンは食後のお茶を飲んでいる所だった。
「ちょっと魔法の実験でね。今日のご飯は何かな?」
「今日は串焼きと野菜スープでしたよ。」
そう言っていると食事担当の人が食事を運んでくれた。
「いただきます。」
最近リリーの認知も増えて、リリーには何も言わずに
果物が出てくるようになっている。
今日は加えて野菜スープも出されたので、
リリーはスープもしっかりと飲んでいた。
「明日は忙しくなりそうです。アルス様も早めに休んでくださいね。それではお先におやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
ユミコは一礼して自室の方へ歩いて行った。




