79日目 砦の攻防 後編
●79日目(グリウス歴863年7月21日)
暗闇の中、飛行しながら砦の方へと向かう。
数十分ほど飛んでいると、左前方にボヤっと薄明かりが
広がっているのが見えた。
予想よりずっと左方向で、どうやら方向を間違えているようだった。
すぐにそちらの方へと向かう。
かなり近づいてきた辺りで喧騒が聞こえ始めた。
この辺りで再度、防御魔法をかけ直していく。
ようやく砦の姿が朧気に見え始めたのだが、
既に戦闘が始まっていた。
索敵で状況を見てみると、今襲撃しているのは、ワイバーンやガーゴイル、
インプを始めとした飛行している魔物の群れだった。
そして今にも砦の門の前にオークなどの魔物が押し寄せようとしている。
さらにその後方にはゾンビの群れも迫ってきているようだ。
足の速い魔物で先制攻撃を始めたようだった。
もう間もなく太陽が昇り始める頃合いで陽が昇ってしまえば、
ゾンビなどのアンデッドや夜行性の魔物は動きが鈍くなり
戦力が落ちる事を見越しての攻撃と思われる。
先に飛行している魔物を倒したい所だが、砦の中で乱戦状態になっている。
この状況で俺の範囲魔法を使えば味方を巻き込んでしまうだろう。
ここは味方の士気だけでも高める為にも派手な魔法で
先に外のオーク達の数を減らした方が良いかもしれない。
門の周辺が射程内に入った所で、魔法を発動させる。
「ダブルスペル・ワイデンスペル・ファイアーストーム!」
敵が殺到している門の周辺とその後ろに続いて集まっている
魔物のいる地点で、巨大な炎の竜巻が発生させる。
殺到していた事が仇となり、多くの魔物がファイアーストームの
餌食になっている。
直接、炎の竜巻に巻き込まれていなくても、その周囲にいる魔物も
熱により体を焼き焦がし、倒れていく。
突然巻き起こった炎の竜巻を見た砦内の兵士達から歓声の声が湧きたつが、
それでも劣勢な状況には変わらないようで、すぐに怒声に変わっていった。
闇の中、2体の魔物が砦からこちらに向かってくるのが索敵で分かった。
かなりの早さである。
索敵で確認すると、ワイバーンの2体がこちらに向かっていた。
「能力強化-全」
「ヘイスト!」
「レジストポイズン!」
追加の防御魔法を発動して近づいてくるワイバーンに先制攻撃を仕掛ける。
「ライトニング!」
打ち出した稲妻の魔法はワイバーンが身を翻したことにより
直撃させることが出来なかった。
しかし、胴体と足の付け根の辺りに掠りながらも
ダメージを与える事が出来ていた。
その間にももう一体のワイバーンが急接近してくる。
「躱されたか。」
雷神剣を取り出し身構える。
ワイバーンはこちらに噛みつこうと長い首を擡げて
襲い掛かってきた。
寸での所で噛みつき攻撃を避けたが、すれ違いざまに尻尾の先端を
こちらに突き刺そうとしてきた。
しかしその攻撃は雷神剣で切り付けたのと
プロテクションシールドによって弾くことができた。
切りつけた傷はそれ程のダメージを与えられなかった。
1体がそのまま通り過ぎた直後、
先程ライトニングで傷を負わせたもう一体が襲い掛かってきた。
「ライトニングバインド!」
予想通りの行動だったので、予め考えていた魔法を発動する。
突撃してきたワイバーンは雷属性の網に絡めとられる。
その雷の網はワイバーンが大きく羽ばたこうとしたり、
藻掻けば藻掻くほど、自身を傷つけていく。
ワイバーンは滑空状態でこちらに突っ込んできたが、
これは難なく避けることができた。
ワイバーンは体中の皮膚を焼き焦がし、羽も傷つき、
ついには飛んでいる事も儘ならず、墜落していった。
墜落した先には、ようやく到着しつつあるゾンビの群れがあった。
上空から滑空しつつ落ちていくワイバーンは軌道修正できずに
その群れに突っ込んでいった。
それを横目にしながら、先程すれ違ったワイバーンの方へ向く。
先程のワイバーンは丁度、旋回して再度こちらに攻撃しようと
体勢を整えている所であった。
体の大きいワイバーンは小回りが利かない。
その為ワイバーンの巨体が横を向いた無防備な状態を晒していた。
このチャンスに光弾を発動させる。
「ダブルスペル・ライトビュレット!」
2つの光弾はその巨体を逃さず、胴の部分に直撃し、貫通する。
ワイバーンは大きな咆哮を上げて旋回を急ごうとしている。
こちらも正面にならないように、ワイバーンの旋回に合わせて
回り込めないようにワイバーンと同じ方向に旋回していく。
お互い円周を描きながら飛行している状態になった時、攻撃を仕掛ける。
「ダブルスペル・ファイアーボール!」
2つの火の玉がワイバーンに向かって行く。
ワイバーンは高度を上下させ、直撃を避けるように飛行する。
爆発自体も高速で飛行しているワイバーンには当たらなかった。
「速いな。ならば、ライトビュレット!」
超高速の光弾がワイバーンの胴体に突き刺さる。
ワイバーンは怒りにも似た咆哮を上げて、高度を更に上下に移動しながら
こちらに接近しようと旋回を続ける。
こちらもそれに合わせて旋回しつつ、魔法を放つ。
6発の光弾が命中したあたりで、ワイバーンの速度が急激に落ちていった。
今や、飛んでいること自体で精一杯のようだった。
ワイバーンの体からは大量の血が流れていて、
今にも墜落しそうなそうに見えた。
「とどめだ。」
「ウインドスラッシュ!」
風の刃はワイバーンの首めがけて飛んで行き、その首を切り裂いた。
ワイバーンは首から大量の血飛沫を上げて、
そのまま直滑降しながら落ちていった。
既に絶命しているのは確認したので、もう1体のワイバーンへ向かう。
もう一体のワイバーンは地面の上で苦悶の咆哮を上げていた。
周囲にはゾンビが犇めいているので、上空から止めを刺す事にした。
自分が巻き込まれないよに注意しながら、魔法を発動させる。
「ファイアーストーム!」
ゾンビの群れと共にワイバーンは炎の中に消え去った。
索敵でワイバーンの死を確認してから急いで砦に戻る。
砦の中の戦闘は被害甚大ながらも飛行部隊の殲滅に成功したようだった。
今は門が破られないように門を守っている。
しかし、門もかなり壊されかけており、
所々、斧で叩き割られている箇所が見受けられた。
ここにきてようやく太陽が昇り始めていた。
門の前ではオーガーが門を斧で叩きつけ、破壊しようとしている。
「これ以上は不味いな。」
オーガーを何とかすれば門も少しは耐えられるだろう。
「アイスジャベリン!」
氷の槍がオーガーの頭部に突き刺さる。
オーガーが何が起こったか理解する前に振りかぶった斧を落として
後ろに倒れこんだ。
「ストーンウォール!」
門の前に石の壁がそびえ立つ。
その時、ヒュンヒュンと俺の脇を矢が飛んで行く。
ミサイルプロテクションを掛けているとはいえ、少し下降しすぎたようだ。
どのみち、これで多少は時間を稼げるはずだ。
一旦、砦の中に着地する。フライの効果もほぼ切れる寸前だったからだ。
「今のうちに扉を固めて下さい。」
「急げ―。門の前に土嚢を積むんだ。」
その掛け声に後ろに準備してあった土嚢が運ばれる。
「アルス殿ー。」
ルフィン枢機卿が駆け寄ってくる。
「ご無事で何よりです。」
「皆さんは無事ですか。」
「はい、アルス殿が来てくれて何とかなりました。ユミコ様を始め、一応無事です。しかし、こちらの兵士達も半数以上やられてしまいました。神官兵も魔力が尽きてしまい、最後のMP回復ポーションで魔力を回復した者達は怪我人の回復に回っています。矢も全て使い切ってしまいましたので、もう無理かもしれません。」
ルフィンは覚悟を決めた様に言葉を放った。
「外の魔物はあとはオークとゾンビが数百だけです。指揮官は見つけられていませんが、指揮官さえ見つければ何とかなると思います。」
「数百って、こちらで戦えるのはもう百人もいないんですよ。そんな大群どうにもなりませんよ。」
「取り敢えず、諦めずに門を固めて防戦していて下さい。」
そういって、フライの魔法を再度かけ直して、砦の櫓に飛んで行く。
櫓の上には兵士の死体が横たわっていた。
今は放っておいて敵の状況を確認する。
魔物たちは門の前のストーンウォールを破壊する事に必死の様だ。
ストーンウォールも固いとはいえ、それほど持ち応えられないだろう。
身を屈めながら、周囲を観察する。
敵の指揮官は前線には立たないだろう。
となると、今、ゾンビの集団が犇めいている辺りになるのか?
キラッ!一瞬ゾンビの集団の中に太陽光の反射する光が見えた。
再度、防御魔法を発動させて防御を固める。
その後でもう一つ魔法を発動させる。
「ウィザードアイ!」
視覚が空中を飛んで行き、光った方へと向かわせる。
「居たっ。」
ゾンビの集団の中に人間の一団を発見した。
戦士風の男が2人。魔法使い風の男が3人。軽装の皮鎧を着た男が2人だ。
光ったのは戦士風の男の鎧だったようだ。
魔法使い風の男の一人が杖を両手で持ち前に掲げている。
もう2人の魔法使い風の男たちは軽装の男から魔石を渡されながら
何やら呪文を唱えているようだ。
そしてその度に魔石が崩れ去っていっている。
「あれで、ゾンビを操作しているのか?」
あまり近づきすぎると反撃を受けて危険になるので、
ある程度の情報を確保した時点でウイザードアイの効果を消失させる。
場所さえ分かればこちらのものだ。
「ワイデンスペル・ハイデンスペル・サンダーエクスプロージョン!」
上空からリーダーと思しき魔法使いに向けて雷が落ちた。
そして落雷したその瞬間に爆発が発生し、
その周囲10m四方を吹き飛ばした。
一瞬、全体の時間が静止した様に静かになった。
オーク達は今まで自分たちが何をしていたのか分からないといった感じで
戦闘そっちのけで騒ぎ出した。
そうしてゾンビは一旦動かなくなるも、オークを見るや否や
オークに襲い掛かり始めた。
少数ながらゴブリンやリザードマン等もいたが、
そこでも種族ごとに同士討ちの様相を呈し始めた。
最初に逃げ始めたのはゴブリン達であった。
先の戦闘で数もかなり減っていたので、
そこら中から襲い掛かってくる者に対抗できず、
たまらず逃げ出したのだった。
すると、それが発端となり、オークやリザードマンも逃げ始めた。
それから暫くすると最後に残ったのはゾンビだけとなった。
しかし、外にいるゾンビはまだ200体近く残っている。
これを何とかしないと安心できない状態には変わらない。
神官兵たちは魔力が尽きており、兵士達も疲労と負傷で戦闘どころではない。
それなので、俺がターンアンデッドの魔法で片付けていくしかない状況だ。
念の為、空中からターンアンデッドを行っていく。
それでも十数回の魔法を使う事によってゾンビは全て崩れ去っていった。
なお、オークなどのモンスターを追っていったゾンビも
少なからずいたのだが、そちらは後で誰かが何とかするだろう。
さて、指揮官らしき者達がもっていた杖はマジックアイテムと思われるが、
急いで確認しに行く。
残念ながら、杖は折れて壊れてしまっているようだ。
鑑定しても壊れたアイテムとしか分からない状態だった。
「ちょっと、攻撃力過剰だったかな。」
あとは、皮鎧を着た男たちが持っていた袋には大量の魔石が入っていた。
たぶん大量の魔力供給が必要なアイテムで
それを魔石で賄っていたのだと思われる。
それから戦場に落ちている魔石も回収しておく。
特にワイバーンの魔石は最優先で確保した。
途中から、砦にいたまだ体力が残っている兵士の数人が
魔石拾いに協力してくれた。
「終わりましたね。」
疲れ切った表情のユミコは帰ってきた俺にそう投げかけた。
「ああ、何とかなったな。」
ユミコの魔力も普通の人よりも多いはずだが、
戦闘で負傷した者達を片っ端から癒していき、
癒された者はすぐに戦場へ戻る。
そしてまた負傷する、そして癒すという目も当てられないサイクルを
繰り返していたらしい。まあ、そのおかげで戦線が維持できたのだろうが。
「お疲れ様。」
ユミコに一応労いの言葉を伝える。
まだ、襲って来ないと言えない状態なので、砦の中で、休息と手当、
食事の準備、防壁や門の補修などやる事は山積みだった。
ルフィンやポーリンもやってきた。
「このあとはどういたしましょうか。」
ポーリンが訊ねてきた。
「この後、考えられることは3つ。一つ目は帝国正規軍が橋から撤退して、ここに攻め込んでくる事。二つ目は帝国が橋で駐屯したまま動かず帝国本国へ増援を要請する事。この場合は増援した部隊がここに攻めてくる可能性がある事。三つ目は帝国がそのまま首都まで撤退する事、そんな感じじゃないだろうか。ただ、二つ目の増援については、橋に留まらず、首都まで後退して増援と合流なんてのも考えられるね。」
「この状態で再度こちらに侵攻されたら捻り潰されてしまいますよ。」
「そうならないように、帝国が撤退した場合、ジュノー王国側にこちらの方へ進出してもらう必要はあるかもね。後方から挟み撃ちにされるような馬鹿な事はしないと思うんだよね。だから、急ぎ、迂回ルートからジュノー王国側に連絡して連携できるようにしたいと思うんだけど。」
「そうですね。斥候部隊を出して連絡をつけましょう。」
「今後の事を考えると依頼は俺からじゃなくって聖女であるユミコから出してもらった方がいいと思うよ。」
「わかりました。書状をすぐに認めましょう。」
そういって、ユミコとポーリンは離れていった。
「それでは、私は斥候部隊への伝達と防衛の準備を急がせることにします。」
ルフィンも立ち去った。
「あっ、そうだ。忘れてた。」
俺はユミコの方へ歩いて行った。
ユミコは書状をポーリンと一緒に準備していた。
「アルス様、どうされました?」
「ユミコも収納スキルは使えたっけ?」
「ええ、アルス様ほどではないですが、多少なら大丈夫ですけど。」
「ならば、これを預けておくよ。というか使ってくれて構わないんだけど。」
そう言って、ゾンビやゴブリンで得られた魔石の内、半分の250個程渡す。
「これって、魔石ですよね。」
「ああ、ゾンビやゴブリンが落とした魔石だよ。これから色々と物入りだろ。役に立ててくれ。」
「いいんですか。ありがとうございます。」
「気にしないでいいよ。そっちも俺の為に動いているみたいだし。持ちつ持たれつってやつだ。」
「ふふ、そうですね。アルス様も何かあれば言って下さいね。」
「ああ、頼りにしてるよ。」
手を振って外へ出る。
食事を作っている場所からはいい匂いがしてきている。
「そう言えば、おなか減ったな。リリーもお腹空いた?」
「うん。ごはんたべるー。」
リリーはそれまで服の中にいたが、やっと外へ出てきた。
食事の後は、軽く睡眠をとる事にした。
徹夜だったこともあり、眠気が襲ってきていた。
有志で来ていて今は洗濯をしている女性の人に銀貨を握らせて、
3時間後に起こしてくれるよう頼んだ。
3時間後、女性が起こしに来てくれて目が覚める。
昼が過ぎて、皆、休憩を終わらせて動き出そうとした時間だった。
ユミコの下へ行き、状況を確認する。
「なにか動きはあったかい?」
「いいえ、まだ何も。今帝国の動向を偵察を出して探らせています。ジュノー王国側への書状はもう着いている頃ではないでしょうか。」
「そうか。思ったより、帝国の動きが鈍いな。」
モンスター側の動向には監視が付いていてもおかしくはないと
思っていたんだけど、そうじゃなかったのかな?
「じゃあ、ここで情報が入ってくるのを待たせてもらうね。」
「ええ、どうぞ。あとで飲み物でも持ってこさせますね。」
「うん。ありがとう。」
じゃあ、ステータスの確認でもしておこうかな。
うん。レベルが上がってるね。これでLv22か。
これで全属性魔法のLvは10となり、
全ての魔法が使えるようになったと思ったら、
召喚魔法という項目が出てきた。
だけど、この項目は半透明で表示されていて説明も何も出て来ない。
何か取得条件でもあるのかもしれない。
それと、投擲術がLv5で状態異常回復がLv6、
HP自動回復がLv9を取得した。
でも、よくよく考えるとHP自動回復って、
怪我しても勝手に治るってことだよね。
ある意味魔物より魔物になってないか、これ?
でも死ぬのは嫌なので、安全マージンはあげておく事は大事だ。
そんなことをしていると、偵察に出ていた斥候兵が戻ってきた。
「報告します。帝国兵が動き出しました。帝国兵は首都方面に撤退をする模様、引き続き監視をしております。」
「わかりました。では引き続き監視を怠らずにお願いします。でも無理はしないように。問題があればすぐに撤退をして下さい。」
「はっ。かしこまりました。」
そう言って斥候兵は退出していった。
「どうやら、こちらには来ないようですね。」
ユミコは安心した様に言った。
「しかし、ここにきて随分と消極的だなぁ。まあ、補給路が分断されたら大変だろうから、撤退するのは理解できるんだけど・・・うーん。」
「どうかなさいましたか、アルス様。」
「いや、何でもないよ。問題ないようだから、ちょっとプラプラしてくる。」
そういってから外へ出る。
「さて、ルフィンはどこかな?」
いたいた。俺はルフィンの方へ向かった。
「ルフィン枢機卿。ちょっと話があるんだけどいいか?」
「ええ、構いませんよ。よければ、あそこの木陰にでも行きませんか。」
そういって2人で木陰まで移動する。
ルフィンは木陰に座ってくつろぎ始めた。
「それで、お話とは?」
「一応念の為なんだけど、この後、ユミコとポーリンと貴方に護衛を張り付かせておいてくれ。」
「護衛ですか?」
「そう。念の為、暗殺されないようにだ。」
「そのような情報は入ってきてませんよ。」
「そんな情報が入る方がおかしい。情報が洩れてる時点で暗殺は失敗したも同然だろ。」
「ではなぜ今になって暗殺があると?」
「帝国の動きが消極的過ぎる。何か他に策があると考えれば、暗殺の可能性も否定できないでしょ。今まで強硬に進めてきてたのに、ここにきて消極的過ぎる動きは何か裏があるはずだ。その最も可能性が高いのは、抵抗側の首謀者を暗殺してしまう事。そうすれば別に戦闘の必要性もなくなるからな。」
「なるほど。わかりました。早速護衛の人選を致します。」
「ああ、そうしてくれ。何もなければそれでいい。それじゃあ、頼んだよ。」
ルフィンは立ち上がり、兵士たちの方へと向かって行った。
ルフィンの後ろ姿を見ながら、ふと思いはじめた。
今朝の戦闘で人を簡単に殺してしまった。
死んだ瞬間を直接見たわけではないが、
明らかに俺の魔法で7人の人間が一瞬で死んでしまった。
だけど、今は罪悪感もないし、嫌悪感もない。
逆に高揚感もある訳でもなく、実際には何も感じる事が無い。
「俺って、人間辞めちゃったのかな?ハハ。」
自分でも気づかずに一筋の涙が零れていた。
ポスッ。リリーが頭の上に乗っかってきた。
「リリー、どうしたの?」
リリーは頭の上で足をバタつかせている。
「こら、リリー。足で人の頭を蹴るんじゃない。そんな悪い子はお仕置きだ。」
バッと手でリリーを捕まえようとしたらリリーが飛んで逃げた。
「こらっ、リリー大人しくお仕置きさせなさい。今日はくすぐりの刑だ。」
ひょいひょい逃げるリリーを捕まえようと手を伸ばす。
そんなことをしていると、いつの間にか2人とも笑っていた。
今思えばリリーなりの慰めだったのかもしれない。
夕食になり、ユミコ達と食事をとりながらの報告会だ。
ルフィンは言われた通り護衛を付けたようだ。
ユミコ達には女性神官兵から2人が、
ルフィン自身には兵士から1人付けていた。
「なんで、いきなり護衛を付けたんですか?」
「今後、必要だろ。」
ユミコの質問にそう答えた。
「まあ、そうでしょうけど。」
「それよりも、今後の事の方が重要だろ。兵士の数が減ったんだから、何か考えているのか?」
その言葉にユミコは俯くしかなかった。
「それについては、吉報があります。」
「どんなだ。」
「帝国が首都の警備を甘くしたおかげで、首都に潜伏していた近衛兵がこちらに接触してきました。下町に潜伏していたようですが、昨日、脱出して今は首都から少し離れた場所で潜伏しているようです。その内の一人がこちらに接触してきたという流れです。」
「それで?」
「ええ、その潜伏している兵をまとめているのが第3近衛隊の隊長であり私の親友でもあるブレンです。ブレンは信用に足る人物です。きっと我々の力になってくれるでしょう。」
「本当に大丈夫なのか。」
「私の親友が信じられないとでも。」
少し、ムキになってルフィンは答える。
「ルフィンの親友がどうのではなく、その中にスパイが紛れている可能性を言っているんだが。勿論、そのブレンという者も含めてだけど。」
「・・・では、どうしろと。」
「戦力は欲しい。だから、このまま合流してもらう。だけど、同時に了承してもらいたい事がある。それは魔法で敵でない事を調べることだ。」
「・・・・」
「こんな状況だ。スパイではない事を証明するのはお互いの為でもある。この先、わだかまりを無くすためにも、そう説得してほしい。」
「わかりました。確かに連れて来る者の中に良からぬ者が紛れている可能性は捨てきれません。魔法で証明できるのであればお互いに良い事でしょう。」
「理解してくれて助かる。それで、何人合流予定なんだ?」
「27人と聞いています。明日の午前中には合流できるようです。」
「では、こちらも受け入れ準備しておきましょう。特に兵舎が足りなくなりそうですので。」
ポーリンが申し出てくれた。
「物資の備蓄状況は、どうですか?」
ついでと言っては何だがそのままポーリンにも確認を取る。
「問題ありません。」
ポーリンが端的に答えた。
「それでは、この先の予定は近衛隊が合流してから検討しましょう。首都の状況も分かるでしょうしね。」
他にもいくつか報告と検討内容が出て話し合った。
そして最後の締めの挨拶はユミコが行う事になっている。
「そうですね。それでは、これで今日は解散としましょう。」
念の為、警戒しておくに越したことはないという事で、夕食前の段階で
俺は砦の周囲、特に物陰に隠れられそうな場所に
アラームの魔法をセットしておく事にした。
これで、侵入者があれば発見できるはずである。




