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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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78日目 砦の攻防 前編

●78日目(グリウス歴863年7月20日)


ズーン。大きな地響きに目を覚ます。

外からは、工事の音や木を切り倒している音が喧騒(けんそう)のように聞こえてくる。

リリーは(すで)に起きていて、テーブルにある果物をアムアムと食べていた。

「おはよー、あるす。」

「おはよう、リリス。」

大きく伸びをしてベッドから起きだす。

そのままテーブルに乗せてあったパンとスープを食べ始める。

「ゆみこがもってきてくれたんだよー。おいしーね。」

スープを食べながら、そうだねと返事をする。

「食べたら、様子を見に回るよ。」

「うん。わかったー。」


外へ出ると防壁の周りでは、迎撃準備に(いそ)しんでいる者、

防壁の内側を補強している者、食事の準備をしている者、

忙しそうに皆、動いている。

「やっとお目覚めですか。」

シスター・ポーリンが声を掛けてきた。

「アルス様のおかげで、防壁の補強も予定より早く進んでいます。今日の昼前には一段落するでしょう。」

「そうですか。でも俺は外回りにストーンウォールで(かこ)っただけですよ。」

「外の魔物を気にしないで作業ができるのは有難(ありがた)いですし、なにより防壁の強度が上がっているのは皆に安心感を与えます。」

「昨日頑張った甲斐(かい)があってよかったですよ。怒られましたけど。」

「フフ、最初に皆さんに伝えなかったアルス様がいけないのでしょ。」

「アルス様、おはようございます。」

ポーリンと話していると今度はユミコがやってきた。

「おはよう。今朝は食事持ってきてくれてありがとう。」

「どういたしまして。リリーさんがお腹を空かせていたようですので、一緒にお持ちしたまでですわ。」

「準備は順調に進んでいるようですね。」

「なんとか、間に合いそうですわ。先程、偵察(ていさつ)の者が帰ってきましたが、魔物と帝国がとうとう動き出したと報告がきました。このままであれば、今日の深夜にも押し寄せてくる可能性が高いらしいです。」

「そうですか。では、準備はある程度、目星をつけて兵士達に睡眠と休息を与える必要がありますね。」

「そうですね。一応そのように手配はしております。」

ユミコは真剣な表情で答えた。

「ただ準備時間がやはり足りないので、防壁の周りの木々を伐採(ばっさい)しきれていないのが残念です。」

「仕方ないだろう。俺の方でもこの後、伐採の手伝いをしてくるよ。」

「助かります。私はポーリンと食事の準備を手伝ってきますので、ここで失礼しますね。」

そう言ってポーリンとユミコは食事の準備をしている場所へ向かって行った。


門の外へ出ると、何人かの大柄(おおがら)な男たちが斧で木を切っていた。

攻めてくると予想される側を中心に木を切っているようで、

その反対側は遠目でも伐採が進んでいないのが見てとれた。

「じゃあ、俺達は裏側だな。リリー行くよ。」

裏に回ると、防壁の10m先から木が立っていて、

ほとんど手が付けられていなかった。木を切っていたのは2人だけである。

その2人も二人係で1本の木を切っている状況なので

遅々(ちち)として進んでいない。

「ご苦労様です。」

「おお、って坊主ひとりかい。誰でもいいから手伝いに来てくれないと間に合わんぞ。まったく。」

木を切っていた一人がぼやいた。

「私が木を切っておくので、木を運ぶ人工(にんく)を連れてきてもらえますか?」

「はあ?何言ってるんだ坊主が一人でできるわけもないだろう。冗談もほどほどにしてくれ。」

まあ、普通はそう言うよね。

「ウインドスラッシュ!」

風の刃が飛んで行き、何本かの木を切って飛んで行く。

ガサガサガサ、ドーン。

木がゆっくりと倒れる。

「うーん。3本か。」

「・・・・・」

2人の男は口をあんぐり開けて目を白黒させていたが、

「ほら、早く人を呼んで来て下さい。どんどん切るので、()まると大変ですよ。」

2人の男はハッとして、(あわ)てた様に門に向かって走り去っていった。

実の所、ウインドストームの方が楽なのだが、

木がボロボロになって片付けるのが面倒になってしまうので

ウインドスラッシュでチマチマ切っていくしかないのである。

当然、火の魔法も延焼(えんしょう)の危険があるので使うことは出来ない。

「さてと。やりますか。」

太い木を中心に砦の壁から50m位の範囲で切って行った。

木を切り倒すスピードと、枝を切り払い運び出すスピードでは

明らかに気を切り倒す方が早かったので、

次第に後処理する人が増えて行き、

最終的には表で切っていた者達まで動員する事になった。

結果的に木を切っているのは俺だけで、

四方の50m範囲には細くて小さい木以外は無くなった。

それでも運び出すのに手が足りないようなので、

枝を切り払ってもらう処理をした木を異空間収納にどんどん仕舞っていった。

昼頃にはようやく片付いたのだが、

外に出ていた作業していた人は、全員疲れ切っていた。

なので、彼らには食事を済ませた後、最初に休んでもらう事になった。

食事を終えた頃、2回目の偵察部隊が帰ってきた。

その報告では、魔物の軍団を先頭にして帝国の正規兵が共に

街道を使って西へ向かっているという報告だった。

このままであれば、深夜の到着は予想どおりであるという事だった。

そして魔物の軍団はゴブリン、オークを始め、様々な魔物がいるようで

魔物だけでも1000を超えているという話だった。

「数が予想より多いですね。」

俺はユミコとルフィン、ポーリンの3人に言った。

「増えたのはゾンビのようですが、法国の人間をゾンビにしたのではないかと思われます。進軍が遅いのはそのせいですね。首都から1日もかからないこの距離を1日以上かかっていますからね。しかし、当初予想では、こちらに500~600の軍勢だと予想していましたが、ジュノー王国側にもこちらにも1000ずつ来る可能性が出てきましたね。もしくは、ジュノー王国側に1200、こちらに800でしょうか。」

ルフィン枢機卿(すうききょう)苦々(にがにが)しく言った。

「数も重要だけど、俺が気にしているのはどっちが来るのかという事だね。人間の部隊中心なのか、魔物の部隊が中心なのか、それとも半々の混成なのか。それによって、対応の仕方が大きく変わってくると思う。」

「私が指揮官なら半々が一番対応しやすいと思うので、向こうもそうしてくるのではないですか?」

自信は無さそうだったが、ルフィンは自分の考えを答えた。

「それはどうだろうね。どうやって魔物を支配しているのか分からないけど、魔法の道具にしろ、スキルや魔法にしろ魔物の部隊を分けるという事はそれだけ使い手の数も必要なんじゃないかな。これだけの数だ、効果は範囲系と考えるのが一番しっくりくる。道具の場合、それだけの数の道具があるとは思えないし、魔法であってもそれなりの使い手が複数必要だ。それを分けるのは効率が悪すぎる。」

「そうですよね。でも疑問なのですが、相手は数日で大量のゾンビを作れるほどネクロマンサーを大量に抱えているんでしょうか。」

この世界では闇魔法を専門にする者達をネクロマンサーと呼んでいる。

たしかに、闇属性の魔法にクリエイトアンデッドという魔法はある。

実際に俺も使うことは出来る。使おうとは思わないけど。

クリエイトアンデッドはLv6だ。この世界の人間にとって

最強スキルレベルに相当する。

ジュノー王国の宮廷魔術師でもLv3が最高だった。

ただ、全属性が使えていたから一概(いちがい)には比較の対象とはならないが、

それでも最高レベルの闇魔法使いがゴロゴロいようはずもない。

そうすると、何かしらのアイテムを使っている可能性が高いか。

「俺の予想では、ジュノー王国側に最初から魔物を向かわせないと思っている。理由はいくつかあるが、一つは冒険者の存在だ。冒険者は対人戦より魔物の戦闘に一日(いちじつ)(ちょう)がある。2つ目は魔物の軍団を見た場合、ジュノー王国に攻め入る口実(こうじつ)を与えてしまう。モンスター討伐(とうばつ)の為なら国境を越えても基本、問題視されないからな。ジュノー王国が侵略したことにはならないからだ。それ以外にも理由はあるが大きくこの2点を考えるなら、最初からジュノー王国に魔物を差し向ける事はしないだろう。帝国にとっても戦線が崩壊(ほうかい)するリスクが出てくる。」

全員が納得した様に(うなず)いたので話を続ける。

「帝国の全部隊がこっちに来る可能性もなくはないが、そうすると、帝国側は2正面作戦を強いられることになる。こちらがジュノー王国と話が着いている事は承知しているはずだし、法国の残党がジュノー王国に援軍要請したとなれば、これもれっきとした侵入の口実になる。仮に後で和解したとしても、帝国側がかなり不利な状況になるのは明らかだ。だから、一方でジュノー王国を牽制(けんせい)し、こちらとジュノー王国との連絡を絶ち、速やかにこちらを制圧するとなると、ジュノー王国側に正規兵の部隊1000を向かわせて、(にら)み合いの状態を作り、時間を稼いでいる間にこちらを攻略、再度合流した後に戦力差に物を言わせて侵攻するというのが、一番可能性として高いと思う。それに、ゾンビが主体であればもしかするとこちらに心理的な負担を負わせることも考慮(こうりょ)しているのかもしれない。」

「そうですね。知り合いがゾンビとして目の前に現れたら、躊躇(ちゅうちょ)する者も出てくるかもしれませんね。」

「つまり、どういう事ですの?」

ユミコがまだよく理解できていないようで、訊いてきた。

「つまり、こちらには、1000体近い魔物が押し寄せてくるという事です。」

ルフィンはユミコに簡単に説明した。

「ええー、むこうより数が多いじゃないですか。こっちは昨日合流して増えた兵士達を含めて戦える者は250人しかいないんですよ。」

ユミコの顔が引きつった。

「大丈夫だよ。昔から攻城戦では攻め手は最低でも3倍の兵力が必要って言うじゃないか。」

「3倍してもこっちは1000までいかないですよね。」

ジト―ッと見つめるユミコから目を()らして、ルフィンに話しかける。

「光魔法の使い手はどのくらいいますか。特にホリーライトかターンアンデッドの使い手ですが。」

「神官兵30人は全員使えます。しかし、30人で500近いゾンビを倒すのは無理です。」

「兵士の中で魔法を使えるものは?」

「たぶん、いないでしょう。魔法を使えれば、一般兵ではなく、教会近衛兵として優遇されていましたので。」

「なるほど。」

「では、弓兵は50人から増えそうですか?」

「いいえ、昨日までに合流した兵士は全て地方の巡回の兵士ばかりでしたから、いないようです。」

「では、基本戦略としては、兵士には槍を装備させて、飛行してくるであろう、インプやガーゴイルなどを弓兵と共に迎撃して下さい。神官兵は、基本回復役に回ってもらいましょう。最初の戦端は私が仕掛けます。門が破られるのは最悪なので、裏門は完全に潰してしまいましょう。どのみち、この人数では2つの門を守れるほどの戦力にはならないですからね。魔物が攻城兵器を使ってくるとは思えないので門さえ守れば、こちらにも勝機が見えてきますよ。守りは任せますので、よろしく。」

そうして、午後の会議は終了した。

裏門には、ハードロックの呪文をかける。これで、強度が各段に上がるし、

魔法さえ解除しなければ開けることは出来なくなる。

(もっと)も、物理的に(こわ)されれば別だが、カモフラージュに門の前にも

ストーンウォールで(ふさ)いでしまう。

逃げ道は無くなったが、もとより逃げるべき人間は

先に逃がしているので問題ないだろう。

あとは、俺が最初にどれだけの魔物を減らせるかだ。


数時間、仮眠を取り、少し早い夕食を取った。夜食用に携帯食も配られた。

それを受け取り、ユミコの下へ向かう。

「俺は先に行って、相手の戦力を削りながら戻ってくるつもりだ。俺が戻るまでこの砦の防御は任せた。くれぐれも注意してくれ。何が起こるか予想できないからな。それじゃ、行ってくる。」

「お気をつけて。」

ユミコとポーリンに見送られて、砦を出る。

俺が出た後は、砦の門は完全に閉鎖されて開かないようになっている。


「フライ!」

「ミサイルプロテクション!」

いつも通りの魔法で、敵が進行していると思われる方へ飛んで行く。

1時間後、空はうっすらと暗くなり、

あっという間に辺り一面真っ暗になっていった。

月は見え隠れしているので、月明かりを頼りにする事も出来ない。

そろそろ接敵(せってき)してもおかしくない所まで来ているので、

一度地上に降り立つ。

偵察の話では街道を目安に移動しているという事なので、

今立っている街道が侵攻ルートと言って間違いないはずである。

索敵を常時発動して、注意を(おこた)らないようにする。

「敵の中にあの男がいない事を祈るしかないか。」

空を見上げて、そう(つぶや)いたのは、自身の恐怖を隠す為だったのかもしれない。

本来ならば、明かりを灯したいところだが、

それでは見つけてくれと言わんばかりになる。

「ダークビジョン!」

これで多少は視界が確保できた。

リリーは服の中なら顔を覗かせている。

暗闇の中をゆっくりと敵のいる方へ歩き出した。

数分もしない内に索敵で敵の先頭集団を捕捉(ほそく)する事が出来た。

先頭はどうやらゴブリンの集団らしい。

索敵のマップ化を使用して状況を把握(はあく)する。

ゴブリンにしては珍しく整然と移動しているようだ。

どんどん索敵の有効範囲に入ってくる数が増えて行く。

そうしている間に先頭は400m先まで迫ってきている。

「もう少し引き付けるか。」

敵は200m先まで(せま)ってきた。

流石(さすが)にここまで近づくと敵の行軍の足音が響いているのが感じられる。

「ディテクトエビル!」

「ディテクトインビジブル!」 

「プロテクションフロムエビル!」

「マジックプロテクション!」

「マジックシールド!」

「アースシールド!」

「プロテクションシールド!」

「ミサイルプロテクション!」

「能力強化-全」

「リリー、始めるよ。隠れてて。」

「ダブルスペル・ハイデンスペル・ウインドストーム!」

2つの竜巻を、ゴブリンの先頭集団と

その後ろの効果が(かぶ)らない辺りで発生させた。

魔法の効果範囲と威力の最大化を行った竜巻は一気にゴブリン達を巻き上げ、

更に風の刃で切り付けて蹂躙(じゅうりん)していく。

あっという間に索敵の中から消えて行った。

そして遠くからギャーギャーと騒ぐゴブリンの声が辺りに響き渡る。

(おおよ)そ80~100体のゴブリンは仕留(しと)められたと思う。

竜巻はまだ残っていたが、その中に突っ込んでくる者はいないので、

それ以上の効果は認められなかった。

残ったゴブリンとその後ろを進軍していたオークが

竜巻を迂回しながら周囲に拡がっていった。

まだこちらを認識していないので広がりながら

攻撃者を探しているのかもしれない。

一旦、敵との距離を取るために、後方へ下がる事にした。

このままここに留まれば囲まれる恐れも出てくる。

「テレポート!」

後方へ約200mほど下がった。

その段階で竜巻も収まったが、

相変わらずギャーギャーと五月蠅(うるさ)い声が響いている。

すると、先程より速いスピードでこちらに向かってくる集団がある。

こちら以外にもいくつかの集団が放射状(ほうしゃじょう)に飛んでいるのが分かった。

索敵の為に出てきた部隊だろう。種族を確認するとインプと出ている。

インプは小悪魔と呼ばれる存在で、体長は50cmほどで赤褐色(せきかっしょく)の肌に

蝙蝠(こうもり)のような羽を持っている。狡賢(ずるがしこ)く、物理的な攻撃は大したことは無いが

精神に作用する魔法を得意としている。

他にも低レベルの魔法使い程度の魔法も行使(こうし)してくる。

さらに常に飛んでいるので遠距離攻撃の手段がないと厄介(やっかい)な相手である。

どの小集団も6体で行動しているのが分かった。

「もう少し、隠密に攻撃を加えたかったけど、仕方ないか。」

木陰に隠れてインプが近づくのを待つ。100m程の距離まで飛んで来た。

「少し範囲が広いな。」

「ワイデンスペル・ファイアーボール!」

上空にいるインプに向かって火の玉が高速で飛んで行く。

こちらの想定の位置まで飛んで行くとそこを中心に

ドーンという音と共に爆発が起きる。

通常のファイアーボールより効果範囲を拡げたので、

6体のインプを全て巻き込むことが出来た。

インプは錐揉(きりも)みしながら落ちて行くのが(かす)かに見えた。

周囲に広がっていた索敵のインプたちが流石にこの音に気付き、

この辺りに殺到してきている。

ここでも、一旦距離を取って200mほど後退する。

インプたちはやられたインプたちの辺りを上空で旋回(せんかい)しながら

周囲を警戒しているようだ。

すると真っ直ぐ街道をくる大集団が索敵にかかった。

ダイアウルフに騎乗したゴブリンの集団だ。

数はゴブリン50体にダイアウルフ50体ほどはいるだろう。

それが、インプが警戒している場所に向かって走ってきているのだ。

「うまく巻き込めるか?」

索敵のマップ化でタイミングを(はか)り待つ。

インプの一団とダイアウルフの一団が交差した瞬間、

「ワイデンスペル・ファイアーストーム!」

狙った場所に炎の竜巻、前世で言うところの火災旋風が巻き起こり

2つの集団を飲み込んでいく。

ストーム系の魔法の中でも(きわ)めて高威力である。

旋風の中では1000度を超え、酸素も無く、

一度巻き込まれれば助かるのは至難(しなん)(わざ)である。

突然発生した炎の竜巻に、後続のダイアウルフは勢いが付きすぎていて

止まれずにそのまま突っ込んでしまう者や

方向転換をしようとして乗っていたゴブリンだけが飛ばされて

ファイアーストームの中に投げ出される者など被害は甚大(じんだい)であった。

もう一つのインプの集団も半数が巻き込まれて散って行った。

その為、そこに残っているのはインプが3体と

ダイアウルフに騎乗したゴブリンが10体、

乗り手を失ったダイアウルフが2体という状態になった。

残ったゴブリンやインプはそこから少し離れて

呆然(ぼうぜん)と炎の竜巻を(なが)めているようだった。

「ファイアーボール!」

炎の火球が生き残ったインプに向かって飛んで行った。

インプも突然の事に1匹も動くことなく爆発に飲まれて墜落していった。

その状況を見て、生き残ったゴブリンは(きびす)を返して散って行った。

「これは上手くいったな。」

ファイアーストームも収まり、辺りはしんと静けさが戻ってきた。

索敵にはまだ、何も現れていない。

「これで進軍を諦める訳でもないだろうな。」

再度、魔法の効果が切れてしまった防御魔法をかけ直す。

ここで一旦、木の陰に腰を掛け、水分補給をする。

(しばら)く経っても敵はまだ索敵内に現れていない。

「まさか、引き返したってことは無いよね。」

立ち上がり、敵のいる方を眺める。

ダークビジョンが掛かっているとはいえ、昼間の視界の半分もない。

到底見える訳もない。

「ん?」

マップ化された索敵にポツン、ポツンを反応が現れる。

その反応は次第に広がっていき、

広範囲に広がって進んでいるのが推測できた。

「包囲するつもりか?・・・これは・・・ヤバいかも・・・」

このままだと、ここに留まっていると囲まれる可能性も出てくる。

とりあえず広がって進んでいるのがゾンビなので

すぐに囲まれる事も無いだろうが、たぶん、どこかが攻撃されれば

後方に(ひか)えている別の部隊が急襲(きゅうしゅう)してくるのだろう。

敵の陣形(じんけい)はV字型、両端が突出していて真ん中は遅れて進んでいる形だ。

たしか、前世では鶴翼(かくよく)(じん)って言ったっけ。

たしかに包囲して殲滅(せんめつ)するのには適しているようにも見えるけど、

この状況あまり意味がないんじゃないかな。

端から攻撃すれば、反対側は遊兵(ゆうへい)になって

数の有利がなくなると思うんだけどな。

風の流れを確認してから、取り敢えず囲まれるリスクを避けるためにも、

風下である左側面に回ってみる。

相手の左側面に回り込むとゾンビの集団の後ろ側に

インプとフォレストウルフの群れが控えていた。正解だった。

今はこちらが風下になっているので

こちらの位置は匂いでバレる可能性は低い。

距離を取って相手が完全に側面に来るまでジッと息を(ひそ)めて待つ。

ゾンビは放っておいて後ろに控えているインプとフォレストウルフに

ターゲットを定める。

それでも30分ほど待って、ようやく攻撃できるチャンスになった。

この辺りは、先程と違って木々が多くなっている。

ファイヤー系は不味いかもしれない。

「能力強化-全」

「ダブルスペル・ハイデンスペル・ウインドストーム!」

大型の竜巻が2つ、インプの群れとフォレストウルフの群れを

巻き込んで襲い掛かる。

この2つの竜巻によって合わせて80体程の魔物を倒せたようだが、

運よく巻き込まれなかったフォレストウルフの10体と

インプ4体がこちらに向かって来た。魔力感知系でバレた可能性が高い。

急ぎ、防御魔法をかけ直す。

「マジックプロテクション!」

「マジックシールド!」

「アースシールド!」

「プロテクションシールド!」

「ミサイルプロテクション!」

流石にフォレストウルフは森の中の移動が速い。

完全に視認できる距離まで近づかれた。

ショートソードを抜刀しつつ、魔法を発動させる。

近づいてくるフォレストウルフを無視して、

まずは後方から迫ってくるインプに(ねら)いを定める。

「ワイデンスペル・ハイデンスペル・ストーンブラスト!」

無数の石弾が低空で飛んでいるインプに向かって襲い掛かる。

ストーンブラストは石弾一つ当たった程度では

大したダメージを与えられないが、複数の石弾が命中する事で

ダメージを大きくする。

インプの物理的な防御力は大した事は無い。

その為、低レベルの魔法とは言え効果は十分すぎるほどだ。

(あん)(じょう)、インプを全て撃墜する事が出来た。

そうしている間にもフォレストウルフは距離を詰めてくる。

「ダブルスペル・ライトビュレット!」

魔法の中でも最速の光の弾丸が先頭を走っていた

フォレストウルフに命中する。

命中した光の弾丸はフォレストウルフを完全に貫通(かんつう)して

後ろの木まで到達する。

一瞬で2匹は絶命したが、それでも他のフォレストウルフは

無視して突っ込んでくる。

距離を詰め切った1体のフォレストウルフが飛びかかってきた。

この攻撃はある程度予想出来ていたので、横にステップを踏んで(かわ)す。

そして躱しざまにショートソードで()ぎ払う。

襲い掛かったフォレストウルフは体の側面を斬られて地面に突っ伏(つっぷ)した。

だが、そのすぐ後ろにいたもう1体のフォレストウルフが

(かみ)みつこうと襲い掛かる。

1体目の攻撃で剣の切り返しが間に合わない。

しかし、咬みつこうとした瞬間、不可視の壁に当たって弾き飛ばされた。

プロテクションシールドの効果の様だ。

弾かれたフォレストウルフは死んではいないようだが、

脳震盪(のうしんとう)でも起こしたのか動かずに倒れている。

遅れてやってきたフォレストウルフの6体がすぐ近くまで来ていた。

「ストーンブラスト!」

咄嗟(とっさ)に魔法を発動させて牽制(けんせい)する。牽制の為だけだったのだが、

運の悪い1体が頭に直撃してその場で倒れこんだ。

そして倒れこんだ先に木が立っていた事で木に頭から激突(げきとつ)し、

再度頭部を強打することになった。

他のフォレストウルフは軽い手傷を負い、

走りこんできた勢いを()がれて立ち止まった。

今度は、一定の距離を(たも)って囲む様な動きを見せる。

半包囲状態になった時、フォレストウルフは一斉に飛びかかってきた。

しかし、フォレストウルフが襲い掛かろうとした者は一瞬で姿が消えた。

アルスは襲い掛かられる瞬間に、テレポートで近くの木の上に

瞬間移動したのだった。

木の上で振り返ざま、フォレストウルフのいる地点に手を突き出した。

「フォース・イクスプロ―ジョン!」

手から出た光がフォレストウルフめがけて迸り、

着弾と同時に大きな発光と共に爆発した。

そこにいたフォレストウルフは吹き飛ばされて全て絶命してしまった。

アルスは木から飛び降り、気絶しているウルフに(とど)めを刺していく。

索敵で確認すると、これ以上追手(おって)が来ていない。

「おかしいな。」

体を低くして周囲を警戒する。

もしかしたら索敵にかからない魔物がいるかもしれない。

音に注意しながら、じっと息をひそめる。

しかし、辺りはシンと静まり返っている。

取り敢えず大丈夫と判断して、フォレストウルフとインプの

死体回収をしようと動き出した瞬間、フォレストウルフの死体が

魔石に変わった。

「は?」

何が起こったのか分からず、魔石を見つめる。

この世界では魔物を倒しても体内にある魔石は

自分で解体して取り出す必要がある。

このように勝手に魔石になって遺体が消える現象は

ダンジョンの中だけである。

ダンジョンで生まれた魔物がダンジョンの中で死ぬと魔石に変わる。

ダンジョンで生まれた魔物がダンジョンの外で死んだ場合、

モンスターホードの例を見ても魔石にはならないはず。

すると、この場所はダンジョン?

状況を確認するために、一応魔石を回収して、インプを倒した辺りに行く。

インプの死体は見当たらない。周囲を魔石限定で鑑定してみると、

4つの魔石が落ちていた。

やはり、これはインプの魔石だろう。

「フライ!」

「ミサイルプロテクション!」

どうしても気になったので、先程、部隊を壊滅させた場所に向かった。

そこには、魔石がそこら中に散らばっていた。

鑑定で探しながら回収していくと、やはり倒した数に相当する

魔石が集まった。

索敵にはこの辺りのは何もいない状態だった。

念の為、最初に攻撃した場所に向かって慎重に進んでみた。

「おかしいなぁ。この辺りだと思ったんだけどな。」

ダークビジョンで暗闇の中でも見えるとはいえ、昼間のようにはいかない。

すると、魔法で攻撃した跡がある場所に到着した。

索敵には敵の反応はないようだが、敵の遺体は一切ない。

鑑定スキルで魔石を探索してみると

数は少ない物の魔石が点在して落ちていた。

一応取れるだけ取ってみたものの、

数としては20個程度しか集められなかった。

もしかしたら敵に回収されているのかもしれない。

しかし、戦闘を放置して敵はどうしてしまったんだろうか。

「まさか、この戦闘を無視して先に進んだのか?」

敵の位置を見失ってしまった事と敵の状態が分からないという事で

一旦砦に戻った方がいいかもしれないと考えた。

「フライ!」

「ミサイルプロテクション!」

「ディテクトエビル!」

「ディテクトインビジブル!」

いつもの飛び道具対策と今回は探知系の魔法を念の為使ってから、

上空に上がった。

そのまま砦の方へと飛んで行く。


・・・・次回続く・・・・

日付は話の都合上、夜明け前に切らせて頂きました。


次回、砦に向かう所から再開します。

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