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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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73日目 追跡、その後で

●73日目(グリウス歴863年7月15日)


「アルス。」

体を()すられ目を覚ます。

「交代じゃ。そろそろ起きてくれ。」

大きな伸びをして、起き上がる。

「今の所、何も問題なしじゃ。(わし)は少し寝かせてもらうでな。よろしく頼んだぞ。」

まだ、外は星が(またた)いている。

日の出まであと2、3時間という所だろう。

()き木はチラチラと燃えている。

この時期は寒くはないが、この空気の冷たさは心地良いくらいだ。

火のそばに座って、目覚ましに白湯(さゆ)を飲む。

この世界は相変わらず満天の星空だ。

火が消えないように小枝を一つ火にくべる。

早く寝たからか、リリーも起きてきた。

リリーにも少し冷ました白湯を小さいコップに入れて出す。

小さいと言ってもリリーには大ジョッキ並みに大きい。

風もほとんど吹いていないので、辺りはシンと静まり返っていて、

焚き木のパチパチと爆ぜる音と

川を流れる水の音のみが聞こえている。

「さて、ちゃんと警戒しないとな。」

そう言って索敵を展開する。

「なっ!?」

10m先にある茂みの奥に索敵反応があった。

鑑定で索敵したものを確認するとゴーストとなっていた。

「ゆ、幽霊?」

あまりにも近かったので、少しパニックになった。

えーと、ゴーストってどんな魔物だったっけ?

冒険者ギルドで勉強した事を必死で思い出そうとする。

たしか、アンデッドで物理は一切効かない。

魔法も物理的な要素は一切効果なしだったよな。

それより、防御の魔法をかけないと。

相手は精神攻撃が主だから、えーと、姿も消せるんだっけか。

「ディテクトインビジブル!」

「プロテクションフロムエビル!」

「ディテクトエネミー!」

「マジックシールド!」

「マジックプロテクション!」

「マインドバリア!」

「能力強化-魔力」

その間にもゴーストは近づいてくる。

ヒュリアとギームを起こすべきか?と思った瞬間、

そのゴーストが姿を現した。

半透明をした女性の姿で30才くらいの生きていれば

結構美しい人だったと想像させる風貌(ふうぼう)だ。

足の半分から下は透明で見えていない。

そのゴーストが近づいてくるが、ディテクトエネミーに反応はない。

敵意が無いだと。

気が付くとリリーはいつの間にか服の中に隠れている。マジか。

まあ、この場合リリーがいても何も役に立つわけではないので放っておく。

そのゴーストは焚き木の対面に腰を下ろして座ったのだと思う。

たぶん、高さ的に。

そしてそのゴーストは特に何も言わずにただただ座っている。

「あのー、どうされました?」

あまりの恐怖に思わず語り掛けてしまった。

恐怖耐性をMAXまで上げているのにオカシイ。

するとそのゴーストの女性はこちらを見てから、おもむろに北を指さした。

その表情はあまりにも悲しそうな表情で、

何かを訴えかけているようにも感じた。

そして、こちらに向き直り、祈るような仕草をしながら消えていった。

・・・混乱の極致(きょくち)である。全く意味が分からない。

ふと、ゴーストが座っていた場所の地面を見ると

そこには魔石の()まったペンダントが落ちていた。

装飾的に女性用と思われる。

ヒュリアのかなとも思ったが、どう考えてもあのゴーストのものだろう。

俺に一体何をさせたいのだろう。

鑑定をしてみると、特段何か特別な魔法が込められているようではなく、

単に鍵的な役割だと分かった。

「リリー。もう大丈夫だよ。出てきな。」

「・・・」

服の中を(のぞ)き込むと、リリーは寝ているのか気絶しているのか

はっきりしないが、寝息を立てて眠っているのは分かった。

仕方ないので、リリーはそのままにしておき、索敵に注意しながら、そのまま皆が起きるのを待った。


「そんなことがあったのですか?」

ヒュリアはジッとペンダントを見つめながら訊いてきた。

ヒュリアもギームもペンダントに触れようとしない。

通常、このような曰く付きの物には呪いが掛かっているのが多い。

鑑定で呪いが掛かっていない事は分かっているのだが、

それでも触れようとはしない。

「それで、どうするのですか?」

「何が?」

俺はヒュリアに質問の意図が見えずに訊き返した。

「このペンダントですよ。そのゴーストの話を聞くと明らかにゴーストがアルスに依頼しているじゃないですか。」

「あー、やっぱりそうだよね。断れないかな?」

「断れば?」

ヒュリアは意地悪そうに答える。

「どうやって?」

「さあ?」

「だよねー。」

そう答えて、ギームをちらりと見る。

「何にしても行くしかなかろうて。変に放置して呪われでもしたら、目も当てられん。そもそも何でお主はこうまで厄介ごとに巻き込まれるんじゃ?」

「俺が訊きたいよ。」

ヒュリアとギームはお互いを見てヤレヤレといった表情で肩をすくめた。

「指した方角はこっちで間違いないんじゃな。」

「それは間違いない。ゴーストが指さした時、地面に木の枝で矢印を描いたから。」

そう言って、地面を指さす。そこには簡単に矢印が描かれていた。

「こんな所でウダウダしていても始まらん。飯食って、すぐに出発じゃ。」

ギームとヒュリアは朝食の準備に取り掛かった。

「あの、このペンダントは?」

「お主が持っておれば良かろう。」

ですよねー。

(さわ)るのは雰囲気的に微妙なのでそのまま異空間収納に仕舞った。


ゴーストの指し示す方向へと歩いて行く。

先頭をギームが手斧で歩きやすように所々の枝を払いながら進んでいく。

しばらく進んでいくと獣道へ出た。その道をさらに進んでいくと、

使われて久しい小道が現れた。

その小道は目的の方向へと伸びていた。

途中、昼食を軽く取り、再度進んでいく。

数時間後、一つの家が現れた。

その家は街の平均的な家よりも少しだけ大きいが

かなり古ぼけた感じがしている。

「こんな所に家があるなんて。」

ヒュリアは不思議そうに呟いた。

「調べてみるか。」

ギームはスタスタと家の扉の前まで進んでいく。

「鍵がかかっておるようだぞ。」

ドアノブをガチャガチャと動かしながら言う。

「魔法で開けましょう。」

それを聞いてギームが一歩下がる。

俺はドアの前まで進み、魔法を発動させる。

「ノック!」

ガチャッと音がして扉は思いのほか静かに開いた。

中は薄暗く良く見えないが、荒れた様子は感じられない。

「ライト!」

持っているワンドに明かりを灯して入っていく。

索敵には特に反応もないので中に何かいる可能性は限りなく低い。

この家の間取りは玄関から廊下が伸びてその先に扉が2つ見える。

そして地下へと降りる階段も見えた。

一番近い扉を開くと、その中は居間のような感じでソファーやテーブル、

戸棚など家具がひしめき合っている感じだ。

ただ、残念な事にそこに置かれていたであろう食べ物は干からびている。

また、布などもボロボロな状態で触れただけで

ボロボロと崩れ去ってしまう有様だ。

この部屋の奥にはもう一つ扉があった。

この部屋には特に目ぼしい物は無さそうなので、更にその奥の扉を開けた。

その部屋は寝室のようでベッドが1つ置かれていた。

ここも劣化(れっか)が激しいので悪戯に触らず、

目視で観察したが特に変わった物は無かった。

一度廊下へ戻り、もう一つの扉を開ける。

ここはキッチンのようだ。ここも先程と同じような感じだ。

大した物も無さそうなので、階段を降りる事にした。

石の階段を下りていくと、正面には魔法で封じられた扉が見えた。

そして、扉の前には明け方に見たゴーストが静かに(たたず)んでいた。

そしてこちらを見るとそのまま振り返り、

扉に吸い込まれるように消えていった。

「どうやら、ここで間違いないようですね。」

扉に魔力感知に反応があった。

「ここも魔法で閉じられていますね。」

よく見ると、扉の横に丸い窪みがある。

察するにゴーストの後に残されたペンダントの大きさとマッチしている。

「ここにペンダントを填められそうですね。」

「少し調べるわ。ギームも手伝って。」

そう言って、2人は周囲を調べていく。

「罠は無さそうね。填めてみてもいいわよ。」

ヒュリアが言ったので、ペンダントを取り出し、填める。

ガコンと何かが外れる音がして扉が開いた。

中には、先程のゴーストが床の上で朽ちた遺体の前でこちらを見ている。

ゴーストから思念が流れ込んできた。

「見つけてくれてありがとう。もし、可能ならば私の亡骸(なきがら)の呪いを解いて埋葬(まいそう)して下さい。そのお礼にこの部屋にある私の研究資料や魔法の道具は全て差し上げましょう。奥のチェストを開けるには合言葉が必要です。私の研究成果をあなたの役に立ててもらえれば嬉しい限りです。呪いは発動してかなり時間が経っているのでリムーブカースで解呪できるでしょう。お引き受け下さるかしら?」

ヒュリアとギームは武器を構えて警戒している。

どうやらこの思念は俺にしか届いていないらしい。

「2人とも大丈夫ですよ。」

そう言って2人をなだめて、ゴーストに答える。

「わかりました。俺にできる事なら望みの通りにしましょう。」

そう答えると、ゴーストは少し微笑んで、そのまま遺体の中に消えていった。

それを見届けて魔法を発動させる。

「リムーブカース!」

朽ちた遺体に光の粒子が入り込んでいき、淡い光で包まれた後、

光が拡散して消えていった。

「呪いは解けたようですね。」

「呪いが掛かっていたのですか?」

ヒュリアが訊ねてきた。

「先程のゴーストが教えてくれました。この遺体はどうやらここに住んでいた人のもののようです。ここにある物を引き継ぐ代わりに、呪いを解いて、埋葬する約束をしました。2人とも手伝ってくれますか?」

「わかった。では少し待っておれ。上で遺体を包む布を探してこよう。」

そう言ってギームは上に戻って行く。

少ししてギームが戻ってきた。

ギームが探してきた布に遺体をそっと移して地下から運び出す。

庭の(すみ)にどこからか持ってきたスコップで交代で穴を掘る。

浅すぎると獣に荒らされる恐れがあるので、

それなりの深さまで掘った所で、遺体を埋葬する。

穴を埋めている間にギームが木材で墓石の代わりを作っている。

その間に俺とヒュリアでしっかりと埋める。

そこにギームが作った墓石を立てて3人は冥福(めいふく)を祈った。

「さてと、無事埋葬も終わったし、地下に戻りましょう。」

地下に戻って奥にあったチェストの前に立つ。

「真実をここに。」

するとチェストが開いた。

チェストの中には、1冊の本と1本のワンドと刀が1本仕舞ってあった。

鑑定をしてみると、ワンドと刀は魔法の道具で、

本は魔法が掛かっていなかった。

「とりあえず、日も暮れます。野営の準備をしましょう。」

ヒュリアの言葉を合図に動き出す。

日も暮れ始めているので、今日はこの家で過ごす事にした。

チェストの中身はとりあえず運び出す。

居間を片付けて寝れるようにし、夕食を取る事にする。

「さっきのお宝は何だったんじゃ?」

ギームは夕食を食べながら訊いてきた。

「本はどうやら、ここに住んでいた魔法使いの研究内容が書いてあります。どちらかというと日記のようでもありますけど。あと、ワンドはちょっと変わったワンドで、1度だけこの世界のモノでない者をこの世界から追放できるワンドみたいです。一度使ったら、壊れてしまいますけど、レアな物であるのは間違いないでしょう。刀は雷神剣(ライトニングソード)でかなり強力な武器です。」

「何か(いわ)くありげな代物だな。」

ギームが感想を漏らす。

「もしかしたらこの本に入手の経緯(いきさつ)などが描かれているかもしれませんね。」

そう言って本をヒュリアに渡す。

チェストに入っていた物は劣化することなく

まるで新品の(ごと)く保管されていた。

あのチェストもあとで貰っておこう。

ヒュリアは本をぺらぺらとめくってギームに渡す。

ギームもぺらぺらと数ページめくって、そのまま返ってきた。

(わし)らには読めんな。」

ギームもヒュリアもこの文字を読むことは出来ないらしい。

俺もページを開いて見てみる。

そこには日本語で書かれてあった。ここもか。

「でしたら、俺の方で解読しておきましょう。他の物はどうしますか?」

「全部、アルスが持ってればいいんじゃないかしら。」

「そうじゃの。」

「えっ?いいんですか?結構な魔法の道具ですよ。」

「だからですわ。」

ヒュリアが答える。

「強すぎる魔具は、それなりの代償を伴うものです。その力を振るおうとすれば多くの魔力が必要になるのが普通ですわ。正直、そこまでの強力な物は私を始め多くの物が使えないでしょう。使えば命を落とす可能性もありますから、

過ぎた物は所持しないに限りますわ。」

「その通りじゃな。というわけで、アルスが持っておれ。お前さんならもしかしたら使いこなせるやもしれんて。」


その夜は、日本語で書かれた本を読み続けた。

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