66日目 海底の塔 後編
<後編>
開いた扉から中に入ると、中は意外と明るかった。
中にはランタンのようなものが壁に掛けられて光を放っている。
多分、コンティニュアルライトが掛かっているのだろう。
部屋の中には特に何もないが、塔の内壁に沿って階段がある。
そして、その階段は上へと続いている。
上を見ると水面が見える。
水面から顔を出して見ると、塔の中の水位は1階部分で
2階部分がプールサイドみたいなな感じになっている。
再度、水の中をじっくり観察していると、扉が閉まりだした。
どうやら一定時間で自動的に閉まるようだ。
開け方は分かるので問題ないだろう。
1階部分は特に何もなかったので、
階段から2階部分のプールサイドへ上がる。
奥に扉が見える。このプールサイドには椅子やテーブルがあった形跡がある。
しかし、経年劣化で脆くも崩れ去ったようだ。
今はその残骸が少し残っているだけだ。
奥にある扉は木で出来た扉だが、朽ちているようには見えない。
「ディテクトマジック!」
やはりというか、当然というか魔法がかかっている。
この場合、ハードロックの魔法が考えられる。
ハードロックのおかげで朽ちずにいられるのだと思う。
「ノック!」
すると、扉はギギギと重い軋みを上げて開いた。
中の様子を見ると、ここはキッチンスペースの様だ。
食事もできるようにテーブルや椅子がある。
この部屋の家具は形をそのまま残している。
魔法はかかっていないが、防腐処理かなにかされているのかもしてない。
試しに椅子を触ってみた。
ベキッ。なんと触れただけで壊れてしまった。
完全に劣化していて触っただけでボロボロになってしまうようだ。
「完全に駄目だな。」
そう話しかけたが、リリーを召喚していなかったことに気づいた。
リリーを召喚する。
「ここどこー?」
「ここは、海底の塔の中だよ。2階部分かな。」
「椅子、壊れちゃってるね。」
「随分と古いから仕方ないよ。」
テーブルも棚もボロボロで下手に触ると危険だ。
「リリー、ここにあるのは随分古いから、触ると危険だよ。」
リリーに注意を促す。
そう言っているのに、リリーは片っ端から物を壊していく。
どうやら、自分の力で物が簡単に壊れるのが楽しいようだ。
「あまり、散らかすなよ。」
そう言って、周囲を観察する。
この部屋から更に上へあがる階段がある。
「アルスー。変なの見つけたよ。」
リリーのいる方へ向かう。
棚の中にあったものがリリーが壊したことで出てきたようだ。
木屑を退かしてみると、一つの箱があった。
その箱も壊れており中に何かが見える。
箱を見てみると薄らとマーメイド用と書かれている。
それをショートソードで開けてみる。
指輪だ。しかも5個同じものがある。
「ディテクトマジック!」
5個の指輪は儚くと光っている。
この光は俺しか見えないが、光ったという事は
マジックアイテムであることは間違いない。
しかも光り方が弱いので然程強い魔法が掛かってはいないと思う。
指輪なら指にはめさえしなければ、
仮に呪いのアイテムであっても発動はしないはず。
鑑定するには必ず手に取ってみないといけないが今回は大丈夫だろう。
指輪の一つを手に取って魔法で鑑定する。
「ロアー!」
頭の中にこの指輪の特徴が流れ込んでくる。
この指輪は魔法の発動体だった。他には特に魔法の効果はない。
箱にマーメイド用と書いてあったことから、マーメイド用に
水中であることを加味して指輪の発動体を送っていたのだろうか。
リリーもそうだが、もしかしたらマーメイドも魔法の発動体なしで
魔法を使っていたのかもしれない。
魔法の発動体があるのとないのでは、魔法の威力が全く違うのは実証済みだ。
特に呪われていないのは分かったので、リリーに勧めてみよう。
「リリー、この指輪は魔法の発動体だよ。これを付ければ、魔法の威力が上がるかもね。」
そう言って、リリーに指輪を渡す。
「じゃあ、付けて見るね。」
リリーが指にはめると指輪が急に小さくなり、
リリーの小さい指にフィットした。
残りの4つの指輪は異空間収納にしまってくおく。
「試していい?」
「やめなさい。こんな所で。外に出てからにしなさい。」
「はーい。」
リリーは嬉しそうに指輪を弄っている。
ここの階にはもう何も無さそうなので、上へ行く事にする。
「リリー行くよ。」
3階に上がってきた。
ここには、ボロボロなソファーだった物、背の低い朽ちたテーブル、
見る影もないタペストリーや絨毯。
どうやら、リビングとして使っていたようだ。
今にも壊れそうな台座の上に花瓶が乗っている。
落ちないようにそっと、花瓶を取る。
この花瓶は、まだ十分使えそうだ。
デザイン的にも今まで見た事ないような柄や形をしており、
学術的に貴重な品かもしれない。
なので、異空間収納にしまってしまう。
それと本棚がある。本もぎっちりと詰まっている。
そっと手を伸ばし、本を取ろうとした。
ボロボロ・・・。手に取ろうとした本以外も同時に崩れ去ってしまった。
「あーあ、勿体ない。」
振動を与えただけで崩れるなんて思いもしなかった。
本は諦めて、他に何かないか見回す。
ほとんどが朽ちていて元が何なのか分からない物ばかりだ。
あとは4階に上がる階段だけだ。
4階は寝室だった場所の様だ。
朽ちてはいるが、多分ベッドの名残だろう物がある。
この部屋の者は3階よりも朽ち方が酷い様に思える。
ただの木屑が散乱した部屋というのがこの部屋の状況だ。
更に上へ向かう階段がある。
そちらへ向かうと、階段の上部には昇降用の蓋があり、閉まっていた。
一瞬、外かとも思ったが、仮に外であっても
水が流れ込んでくるような造りにはなっていないはずだ。
その蓋を押し上げると部屋になっていた。
そのまま上へあがると、部屋の中央に魔法陣の中で
浮いている一際大きい魔結晶がある。
まず、魔法陣からロアーの魔法で調べる。
この魔法陣は、魔結晶から、魔力を受けて、
魔結晶を浮かせている役割の様だ。
それと魔結晶を取ろうとする者に自動的に攻撃する魔法が
組み込まれているもの分かった。
続いて、魔結晶を同じくロアーで調べる。
魔法陣の中では決して魔結晶を盗もうなどと考えてはいけない。
それを注意しながら調べる。
この魔結晶には、いくつか魔法が施されていて、
一つは、この塔の強度を維持し、かつ自動修復させているようだ。
2つ目は、塔を攻撃する意思のある者への攻撃の魔法が施されている。
効果範囲は塔の周囲10mの範囲の様だ。
3つ目は塔の中の空気を清浄化させる魔法も施されている。
これのおかげで、塔内の空気が澱んでいなかったのだろう。
他にも何か魔法が施されているようだが、
今はこれ以上調べられないから別の機会にしよう。
鑑定の魔法のロアーは同じ対象物に対して
1日1回しか掛けられないという制限があるので仕方ない。
それよりも、ここは誰も入れない。つまり、俺の秘密基地になれるかも。
この塔の所有権ってどうすればいいだろう?
帰ったらヒュリアに訊くしかないか。
この階には、魔結晶だけが置かれているようだ。
これ以上、上に登る階段もない。
そういえば、だいぶ、おなかが空いている。
もしかして昼はとうに過ぎているのじゃないだろうか。
「リリー、ご飯食べる?」
「うん。お腹すいた。」
「じゃあ、ここで食べていこう。」
リリーには果物で、俺はパスタを食べる。
やはり、出来立てを仕舞ってきて良かった。
食事を済ませ、一度1階と2階に入る扉の前まで来た。
俺のノックで簡単に開いたという事は、ここに掛かっている
ハードロックの魔法はそれほど強固には掛けられていないと思える。
なので、俺の魔法でハードロックをかけ直す事にした。
何もない現状ここから先には侵入者は入れたくない。
「ディスペルマジック!」
魔法を解除し、解除されているか続けて魔法を発動させる。
「ディテクトマジック!」
うん。魔法は解除されているな。
「ハードロック!」
「合言葉は『1杯の紅茶』」
「よし、これで良いはず。」
「1杯の紅茶。」
すると、扉はゆっくりと開いた。よし、ちゃんと掛かっているな。
「リリー。一旦帰るよ。しばらくまた、収納に入っていてくれるかい。」
「うん。いいよ。」
リリーを異空間収納の中に入れた。
「ウォーターブリージング!」
水の中へ入り、扉の前までくる。
索敵で周囲を確認するが特に気をつける者はいないようだ。
「開けゴマ。」
大きな扉がゆっくりと開いていく。そのまま海中に出る。
扉から少し離れて見ていると扉が閉まりだした。
だいたい30秒くらいかな。
閉まるのを確認して、海上まで泳いでいく。
そろそろ海上に出るという所で、フライの魔法を発動させて
一気に上空へと上がる。
あまり高度を上げると寒さで風邪をひくかもしれないので
あまり高くは上がらない。
今は夏なので、寒くはないが、冬はどうしたものか。
そんな考えをしながら街に戻って行く。
そしてようやく塔の中でかなりの時間を過ごしていたのに気づいた。
日はだいぶ傾いていて、時間で言うと3時くらいだろうか。
今日は、このまま宿屋で休もう。
着替えもしたいし、海水で濡れた服も洗う必要があるだろう。
人目に付きにくい場所で服を脱ぎ、軽く絞ってまた着る。
そして昨日泊った宿屋へ向かう。
「おや、ずぶ濡れじゃないか。あんた、一体何したんだい?」
宿屋の女将さんが、呆れ顔で訊いてきた。
「ちょっと、海の中へ入ったもので、濡れてしまいました。部屋で着替えていいですか。」
「風邪をひく前に、さっさと着替えてきな。それと裏庭にある盥を使っていいから、服も洗うんだよ。ご飯の用意が出来たらまた部屋に呼びに行かせるからね。」
それだけを言うと奥へ引っ込んでいった。
この世界での魔法使いは洗濯などお手の物だ。
まずは、盥に「クリエイトウォーター!」
じゃぶじゃぶと洗ってから服に「ドライ!」
すると一気に服が乾いていく。
体は布で拭いていく。
人体にドライの魔法はあまり使用しない方が良いらしい。
なんでも、多用すると乾燥肌になって、肌が荒れると聞いている。
部屋に戻り、リリーを再び呼び出す。
食事の時間になるまで、リリーとあの塔を改造するなら
どんなのが良いか話しあっていた。
食事も済ませて部屋に戻り、考えた結果、明日は一旦王都へ戻る事にした。
寝る前にリリーがどうしても魔法が使いたいと言ってきかないので、
部屋の窓から1回だけという事で空に向かって魔法を放つ許可をした。
「ウインドスラッシュ!」
ビュッと音がして、風の刃が空中へ飛んで行った。
「は?」
いつ、そんな魔法を憶えたんですかリリーさん、聞いてませんよ。
周りで誰も見ていないのを確認してそっと窓を閉めた。
「リリー。もう武器要らないよね?」
「ええー、欲しいよ。」
「だって、普通に攻撃魔法使えるじゃん。」
「アルスが作ってくれるって約束したもん。」
「・・・分かりました。材料が揃ったら作るね。」
それとなくリリーを鑑定してみるとLv3魔法とステータスに出ていた。
最後の最後でなんか、疲れた。




