66日目 海底の塔 前編
●66日目(グリウス歴863年7月8日)
今日は、ある意味楽しみで仕方なかった。
それというのも、人前で空を飛んでもなんとも思われないのだ。
一度、街の上からどんな街づくりなのか見て見たかった。
まるで某有名アニメであったように箒に乗って街中を飛ぶ、
誰しもやってみたい事柄の一つじゃないかと思ってる。
朝食を早々に済ませて、街へ乗り出す。
「アルスは今日なんか楽しそうだよね。」
「そうりゃあね。街を上から眺められるなんて人間の街では考えられないからね。ここなら、誰に気兼ねなく空を飛べるんだよ。こんなにワクワクする事なんか滅多にないよ。」
「なんで他の場所は飛んじゃいけないの?りりーにはわかんない。」
「人間の街では魔法が使える人が少ないからね。使えても堂々と使えるような雰囲気でもないんだ。使ってはいけない訳じゃなくって、使う事でひどく目立ってしまうのが駄目なんだ。」
「良く分かんないけど、今日はいっぱいお空を飛ぶんだ。」
「ああ、そうだよ。まず、街がどんな感じか見てみる。その後に海に出て、空から沈んでる塔を探してみようと思う。たぶん、この世界の海は汚されていないと思うから、そこそこの深さなら見つけられると思うんだ。それじゃあ出発しようか。」
そう言うと、リリーは服の中に潜り込んだ。
「フライ!」
魔法を発動させると、一気に上空へと上がる。
30mほど上がる。ビルで例えると10階くらいの高さになるだろうか。
周りを見渡すと、この街は港を中心に陸上へ
半円状に広がっているのが分かる。
そして、石畳の道が王都の方へ向かって一直線に伸びている。
この街の建物は、2階建ての建物が多く並んでいる。
こうやって見ると意外と整然と並んでいる。
港付近の街の中心地に一際大きな建物がある。
たぶん、この街の庁舎かもしれない。
この庁舎は大きな教会を思わせるような建物の中心に尖塔が建っている。
その尖塔の最上部近くにはバルコニーがあり、
物見やぐら的な役割で使われているのかもしれない。
そして、青く澄んだ海には沖へ向かう船や戻ってくる船など
大小様々な大きさで10隻以上浮かんでいるのが見える。
この街の建物は白い建物が多く、屋根が黄色に近いオレンジ色がほとんどだ。
「こうして見ると綺麗な街並みだね。」
リリーは服に中からひょっこりと顔を出して見ている。
「花の方がきれいだよ。」
うーん、確かにリリーのいた花が咲き乱れていた
あの場所と比べると見劣りするけど、それとはちょっと違うんだよなあ。
その高さのまま、港の方へゆっくりと飛んで行く。
街の彼方此方でエルフが空を飛んでいる。
流石にこの高さまで高く上がっているのはいない。
そもそもこの高さまで上がる必要はないからだ。
思ったよりも飛んで移動しているエルフは少ないようだ。
エルフでも全員が魔法に習熟しているはずもないし、当たり前か。
ふと庁舎の方を見てみると、バルコニーから手を振っているエルフがいる。
周囲に誰もいない事から、俺に振っているのは明白だ。
どのみち海へ向かうにあたって、近くまで行く事になるので
そちらに寄ってみる事にした。
「おーい。」
「こんにちは。」
挨拶をしながら近づいていく。
「やっぱりそうか。もしかして君が噂の妖精族の友アルス君じゃないのかな。」
うへー。もう身バレしてるし。
「ええ、まあ、そうですね。なんで分かったんですか?」
「実は昨日王都から通知が来て、アルス君がこの街に来るかもしれないので、来たら粗相のないように。とあったんだ。」
もしかして、ヒュリアの差し金かな?
「本人を前にそんな事行っちゃっていいんですか?」
この人ぶっちゃけ過ぎじゃないのかな?
「アハハハ。まあ、そんな固い事、言いっこなしだよ。」
随分陽気なエルフさんだね。
「こんな所まで飛んで、何してるんだい?」
「空から眺める街並みが見たかったのと、海底に沈んでいるという塔が見たくって、飛んでたんですよ。」
「ああ、あの塔ね。この街は綺麗だろ。あえて、色が統一されてるんだよ。海から一目で分かるようにさ。これで遠くから見ても街の位置が良く分かるらしいんだわ。面白いだろ。ハハハ。」
なるほど、そういう意味があったんだ。って、ちょっと待って。
「あの?さっき、塔の事、知ってるような口ぶりでしたけど・・・。」
「ん?塔?ああ、あの塔は街のエルフはみんな知ってるよ。有名だからね。」
「そんなに有名なんですか?」
「子供でも知ってるさ。あれはひと月前くらいだったかな。吟遊詩人が塔の話を聞いてから、その存在が知れ渡ってみんなして見に行ったんだよ。」
「それじゃあ、中にも入ったんですか?」
もし、中が探索されていたら、少し残念だなと思いながら訊いた。
「いや、誰も中に入れないぞ。入り口が開かないからな。」
「何かで封印されているんですか?っていうか一回そっちへ移ってもいいですか。そろそろ魔法の効果が切れるかもしれないんで。」
「ああ、いいぞ。内緒だけどな。アハハ。」
一旦、バルコニーに上がらせてもらう。
「それで、さっきの続きですが、封印されてたりするんですか?」
「いや、合言葉さえわかれば入れるんじゃないか?扉の前にヒントが堂々と書いてあるからな。リードランゲージの魔法でその書いてある言葉は分かるんだが、誰も意味が分からんのだよ。お手上げだな。だから、もうみんな興味をなくしてるんじゃないか。最近は誰も行ったなんて話は聞かないからな。」
「そうなんですね。それじゃあ僕も行ってみますよ。どっちにありますか?」
「たしか、この方角だったかな。港から500mくらい空を飛んで行けば薄らと塔の影が見えるはずだ。」
「よく今まで見つかりませんでしたね。」
「船から覗いた程度じゃ見えないし、目的も無しにそこまで飛んで行く奴なんかいないしな。気を付けて行けよ。塔の天辺は水深10mくらいあるからな。当然、入り口は更に下だからな。」
「ありがとう。」
そう言って手を振って別れた。
教えてもらった方向に飛んで行く。
一旦港の端で着地し、フライの魔法をかけ直す。
そしてある程度高度を取って、一気に500m付近まで飛んで行く。
すると、朧気ながら海底に塔の頂上が薄らと見えた。
今日のようによく晴れていて、
それでいて、ある程度の高度でないと確かに見えないようだ。
海に入る前に完全に失念している事があった。
それは水泳のスキルが1レベルしか取っていない事だ。
前世の俺は小学生の頃にスイミングスクールへ通っていたので普通に泳げる。
だから、今も普通に泳げると勘違いしていたのだ。
この世界はあくまでスキル依存だ。
急いで水泳スキルを取り敢えずLv3まで上げた。
このまま海に入って行ったら素早く最下部に潜れなかったかもしれない。
それと警戒の為、いくつか魔法をかけていく事にした。
「ディテクトエビル!」
「ディテクトインビジブル!」
「プロテクションフロムコールド!」
「プロテクションフロムエビル!」
「マジックプロテクション!」
「マジックシールド!」
「アースシールド!」
「プロテクションシールド!」
「ウォーターブリージング!」
ここまで魔法をかけて、リリーには申し訳ないが
一旦、異空間収納の中へ入ってもらう。
流石に2人分の魔法をかけるのは、MP的に心許無い。
そして一気に海中へ飛び込む。
ウォーターブリージングのおかげで、水中でも呼吸ができるのは嬉しい。
塔はそれ程大きくはないが、5、6階建てくらいはありそうだった。
そのまま水中を潜っていく、索敵には近くに魔物の類は確認できない。
水中でも索敵が有効ならの話だが。
塔の1階部分へ到着した。
そこには、なんと日本語で文字が書かれていた。
書いてある内容は次の通りだ。
ひかりのない みずのそこ
ランタンではともせない みずのそこ
けれどもそこはひとつのらくえん
ごじゅうのとうがそびえたつ みずのそこ
マーメイドがうたう あんじゅうのち
ということは、この塔を建てた魔法使いというのは
俺と同じ転生者だよな、きっと。
それよりも、この詩はなんなんだ。確かに意味が分からない。
水の中でランタンをつけて、何か歌えばいいのか?
歌ってなんだ?五重塔の歌なんてあったか?
五重塔を建てたのは誰だっけかな?
でも五重の塔っていくつかあったはず。
有名どころだとたしか東寺のだったか?
えーと、思い出せ。うーん、そう、たしか空海が作ったんだっけかな?
でも何度か焼失してるよな。最後に建てたのは徳川家康?家光?
なんかそんな感じだったような気がする。
けど、それがなんだって?それに関連した歌なんか知りませんよ。
という事は、違う。そういう事じゃない。
もっと冷静に考えよう。
たぶん、最後の2行はこの塔も五重の塔に因んで五階建てである事、
そして昔はマーメイドと一緒に暮らしていたという事を
暗示しているのかもしれない。
そうすると残りの3行の中でランタンがキーワードのような気がする。
「・・・・・ん?」
「あーーー!」
「なんだ、そういう事か。この魔術師、さすが日本人。こんな簡単な引っ掛けに惑わされるなんて。」
深く考えすぎて、少し恥ずかしい。でも答えが分かって良かった。
「それじゃあ、扉を開けますか。」
「開けゴマ!」
すると、硬く閉ざされた大きな扉がゆっくりと開いていく。
「やっぱりそうだったか。大体こちらの世界で開けゴマなんて意味誰も知らないはずだから、分かる訳がない。本当にもう、縦読みなんて、ありえない。」
また少し長くなったので、前後編に分けさせてもらいました。




