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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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64日目 テイマー協会 後編

<続き>


昼食を済ませた僕たちは、テイマー協会へやってきた。

エルフ王国の中ではテイマー協会は比較的大きな組織の様だ。

建物も随分と立派だ。

「ちょっといいかしら。会長はいるかしら。」

「これはヒュリア様。ご案内します。」

受付の人が随分と手馴(てな)れているように見える。

「ヒュリアは会長という人と知り合いなんですか?」

「古い腐れ縁ってところね。」

案内されたのはテイマー協会会長の執務室だった。

「ヒュリアじゃない。珍しいわね。こんな所に。」

「アマンダ、あなたに頼みごとがあってね。」

「ヒュリアが頼みごとなんて、今日は雪でも降るんじゃないかしら。」

アマンダと呼ばれたエルフの女性はにこやかに応じた。

「それで、その後ろにいるのは、あなたの彼氏かしら?」

「そんなんじゃないわよ。馬鹿なことは言わないで。」

「あら?でもあなたの条件には合ってそうだけど?確かあなたは私より強い人じゃないと嫌なのって、散々告白を()ってきたじゃない。後ろの坊やは本気でやれば、あなたより強いわよ。まあ、それは置いておいて、紹介くらいしなさいよ。」

「紹介する前に茶々(ちゃちゃ)を入れてきたのはアマンダでしょ。もう。それより、紹介するわ。この人はアルス。私達に協力してくれた仲間よ。」

「へー、じゃあ、この子があの有名な妖精族の友アルスくんね。」

「アルスくん、はじめまして。私はテイマー協会会長のアマンダっていうの。あなたの事は色々とヒュリアから聞いているわ。よろしくね。」

そういって、アマンダはウインクをして見せる。

エルフにしてはかなりの社交的な性格の様だ。というか軽すぎないか?

「アマンダ、片っ端から手を付けないで頂戴(ちょうだい)。これだから、紹介したくないのよ。」

最後の言葉はぼそりと小声で言った。

2人の()り取りからしてかなり仲がいいと感じた。

「聞こえたわよ。それで、頼み事って?」

「実はアルスがシークロコダイルの卵を持っていて、譲りたいっていうのよ。」

「シークロコダイルの卵を?条件は?」

「アルス?何か条件はある?例えば金銭とか他の物品とか?」

「えーと、特に考えてませんでした。」

「ヒュリア?あなた、シークロコダイルの卵の価値を説明していないの?」

「したわよ。でも()らないって聞かないのよ。」

「アルスくん、私からも確認させてもらうけど、シークロコダイルの卵って高ランクの魔物の卵でしょ。確か人間の冒険者ギルドでは、モンスターランクがBだったかしら?つまり、簡単に言えば、自分の言う事を聴くBランクの冒険者数人分の強さがある味方が手に入るのよ。それがどれだけ貴重な物か分かるでしょ。売るなんて止めておきなさい。」

「でも、僕の冒険スタイルでは足手まといにしかならないような気がするんですよね。」

「はー。Bランクのモンスターが足手まといって。・・・それでちょっと話の腰を折ってしまって申し訳ないけど後ろのピクシーさんは、何?」

「ああ、こちらはリリーです。僕の旅の仲間です。」

「リリーだよ。私もアルスにテイムされてるのよ。」

「はい?」「はぁ?」

2人とも開いた口が(ふさ)がっていないようだ。

「リリー、シーッ。それは内緒(ないしょ)なの。」

小声でリリーに言ったけど、時すでに遅かった。

「ちょっと。アルス(くん)どういう事よ。(なの。)」

2人は険悪(けんあく)な顔つきになった。

2人でハモらないで下さい。そして怖い顔しないでください。

俺は仕方なく、リリーとの経緯(けいい)を話した。

「相変わらず、アルスは意味不明な事ばっかり起こしているわね。」

溜息交(ためいきま)じりに、ヒュリアは言葉を()らした。

「ちょっと、アルスくん。あなたのテイムは人間やエルフにも効果があるのかしら?」

笑顔で訊いてきたけど、目が怖いですよ。アマンダさん。

「そんな怖い事するわけないじゃないですか。出来ちゃったらどうするんですか?解除できればマシですけど解除できなかったら、怖いじゃないですか。」

「ふーん、怖い。ね?」

何か考えながら言ってきた。

「そのピクシー、リリーちゃんだっけ。解除しようとしたのかしら?」

「以前、元の住処(すみか)に帰そうとしましたけど、リリーがついて来るって言ったから試していませんけど。」

「そう。同意が得られないなら難しいかもね。」

「どういう事?」

ヒュリアはテイムについてはそれ程、知識はないようだ。俺もないけど。

「普通のテイムでも同様だけど、基本的にはテイムするにはお互いの同意が必要なのよ。強制的に出来なくはないけど、その場合、ちょっとしたことで離反する可能性が高いわ。強制したテイムで過去何度も離反した魔物はたくさんいるのよ。そして逆にテイムしている状態から解除しようとする場合も同様に同意がないと繋がりを切れない場合も多くあるのよ。だから、現状リリーちゃんがアルスと離れる意思がない場合は、基本的にテイム状態は解除できないわ。」

まるで戦略ゲームの忠誠度みたいだな。

「基本的にって?」

思わず訊いてしまう。

「そうね。例えば、魔法的に(つな)がりを解除させられた場合は関係はそのままだけど、テイム状態ではなくなるわ。そしてそれが(しばら)く続くと、モンスターは自己保存の本能から徐々に離れるようになり、野生に戻るわ。だけど、その状態で再度テイムすれば、お互い同意している可能性が高いから、すぐにテイム状態になる場合が多いわね。あとは、どちらかが一時的にでも死んでしまった場合はテイムが解除される場合も多いわね。ただし、これについては人により時間的差が大きすぎてまだ研究中で、はっきりとはわかっていないのよ。私は(きずな)の違いと()んでいるけど。分からない事は多いのよ。」

「ふーん。良く分からないけど、事故なんだから仕方ないじゃない。」

ヒュリアは俺の立場を一応理解してくれたようだ。

「そうだ、アルスくん。ヒュリアをテイムして見せてよ。」

突然、アマンダは言いだした。

「何なら、私でも構わないよ。アルスくんはちょっと可愛いし。」

「突然何言ってるのよ。駄目よ、そんな事。」

ヒュリアはアマンダの考えが多少分かったのか、強く拒絶する。

「ほら、アルスも(ほう)けてないで、拒否しなさい。取って食われるわよ。」

「ちょとした実験じゃない。少しくらいいいじゃない。減るもんでもないし。」

「駄目ったら駄目。アルスもアマンダの言う事なんか聞かなくていいからね。」

ヒュリアが珍しく顔を赤くして文句を言っている。

こんなヒュリアは初めて見た。

ワイワイガヤガヤとした後で、ようやく本題に戻った。

「あーあ、残念。」

アマンダさんが笑いながら言った。

そして、少し真顔に戻って

「それで、シークロコダイルの卵だっけ。はっきり言って、金銭的に価値をつけるのは難しいわね。過去にBランクのモンスターの子供の取引があったけど、年齢が(すで)に数か月経っていたこともあり、テイムできる者が限定的だったから、結局買い手の言いなりだったし、Cランクのモンスターの卵の取引では逆にC級魔結晶との交換だったし。」

「C級魔結晶ですって。」

ヒュリアが思わず叫んだ。

「魔結晶って何ですか?」

知らない名前が出てきた。魔石とは違うようだけど。

「アルスくんは知らないのね。魔石は知っているわよね。魔物の体内で作られる魔力の塊ね。それが石化して体内に残っているのが魔石。魔結晶とは、大地の奥深くで生成された強力な魔力の塊がある特殊な大樹に取り込まれて、その塊が実となって現れたものなの。魔結晶を得られる大樹は基本的にエルフの王家が守っているわ。1本からは数百年に一度なるかならないかという希少性なの。そして、その魔結晶のなっている樹木を発見したら最初の魔結晶は発見者の物でそれ以降は王家で管理されるわ。魔石との大きな違いは、魔石はある程度使用すると魔力が尽きて壊れてしまうけど、魔結晶はどんなものでも魔力が尽きる事はないのよ。格で違いがあるとしたら、どれだけの魔法の数を維持できるかだけだわ。それが魔結晶。」

「つまり、有限が魔石で無限が魔結晶ってことで合ってますか?」

「うん。その理解で問題ないわよ。ただし、あてがえる魔法の種類もかなり違うけどね。魔石だと精々、ライトの魔法やクリエイトウォーターなんかの低位の魔法だけだけど、魔結晶には限界はないのよ。」

「例えばですけど、クリエイトゴーレムを当てた場合、ずっとゴーレムを作るんですか?」

「ええ、作るわよ。」

「それって危険じゃないんですか。」

「ゴーレムなんか作っても無駄よ。魔結晶には意思は無い。ゴーレムは製作者の意思を植え込んで初めて動き出すものよ。簡単に言えば術者がゴーレムを作る時は私(創造主)の意に従いなさい。という基礎命令が組まれる。それを他人に従いなさいという基礎命令は組み込めないのよ。だから、ゴーレムが出来てもそれはただの人形でしかないわ。」

なるほど、魔法も万能じゃないと。

「それで話を戻すけど、仮に魔結晶との交換となっても最低B級、妥当な所でA級の魔結晶辺りになるわね。」

「それだと、魔結晶の方が価値は高い気がするけど。」

「そんなことはないわ。だって、モンスターは増やせるもの。卵をいくらでも取れるとしたら、どうかしら?」

「一財産出来ますね。」

「強く育てるという条件はあるけどね。価値は分かったかしら。」

「そこまで考えてもいませんでした。」

「ならば、売るのは止めにして自分で育ててみたらどう。」

「うーん。でもやっぱりいらないです。」

前世の小さい時に、犬や鳥、魚などペットを飼っていたけど、

決して良く面倒を見ていたとは言えない。

大人になって、もっとちゃんと世話をしてあげてれば良かったと

思い起すこともある。

リリーみたいに話が通じれば意思疎通もできるから大丈夫だけど、

人間より短い寿命で狭いエリアに閉じ込められるのは可哀そうで仕方ない。

だったら、ちゃんと面倒を見て可愛がってくれる人に見てもらえれば

お互い幸せだろう。そう思っている。

「結構、頑固なのね。」

「そうなのよ。」

そこっ、2人してそんな評価はやめて下さい。

「本当に後悔しないわね。」

「しませんよ。僕にはリリーもいますし。」

「では、協会員に通知を出すわ。アルスくんに条件は無いようだし。取引方法は、まず価値の高い物と交換できる上位10人を協会で選別します。その10人の中からアルスくんが選んで。希望があれば面談形式でも構わないけど。

面談をするなら調整に1か月はかかるわよ。どうする?」

「1か月は掛かりすぎです。まあ、別にやる事ないし、面談してもいいけど、更に迷いそうだから、それはやめておきます。」

「妥当な判断ね。でも最低1週間は時間をちょうだい。相手にも取引できる物を用意できるか時間は必要でしょ。それまでの間、ヒュリアとデートでもして待ってて。」

クスクスと笑いながらアマンダは言った。

「アマンダ!」

ヒュリアはまた顔を赤くして怒っている。

何故、怒ってるのか分からない。

もしかして、ヒュリアは忙しいから時間を取られすぎると

大変だから怒っているのかも。

それから簡単に依頼書など作成して、

これから忙しくなるからと言ってアマンダは俺達2人を追い出した。


「アルスは1週間どうするの?」

ヒュリアが訊ねてきた。

「エルフの港町ってどれくらい離れているの?」

「そうね。馬車で1日もかからないわよ。港町に興味があるの?人間の港町と大して変わらないわよ。」

「昨日、宿屋で面白い噂話を聴いたから、ちょっと行ってみようかなって思ったんだけど。」

「どんな噂話だったの?」

「えーと、港町の南の海底に塔があって、昔、人間の魔術師が人魚と暮らしていたって話。ヒュリアは知ってる?」

「聞いた事ないわね。そんなどこの作り話か分からないような話、信じるの?」

「人魚っている?」

「もちろん、いるわよ。男の方はマーマンと呼ばれて、女の方はマーメイドって呼ばれているわ。」

「エルフの吟遊詩人(ぎんゆうしじん)が海で歌っている時にマーメイドにせがまれて、歌をたくさん歌って、そのお礼に面白い話を聞かせてって言ったらその塔の話になったって言ってたよ。友好的なら人魚に会ってみたいな。」

前世でも人魚の話は世界各地である話だ。

それだけ人間にとって羨望(せんぼう)の存在なのかもしれない。

「人魚って言ったって私達と大して変わらないわよ下半身以外はね。性格もいい人魚もいれば悪い人魚もいる。それはどこへ行っても変わらないわ。」

「ヒュリアも来る?」

「できれば行きたいけど、私も仕事を抱えているし、王都から離れるのは難しいわね。残念だけど。」

本当に残念そうな顔をしている。

今日のヒュリアはなんか表情が豊かで一緒にいて楽しい。

噴水のある広場で、買い食いしながら、お互いの近況を話した。

そのような感じで時間はあっという間に過ぎていき、日もだいぶ傾いてきた。

「いけない。城に戻らなきゃ。ごめんね、アルス。」

「いいよ。お仕事頑張って。明日は港町に行ってみるから。1週間もしないで帰ってくるから。」

「海は気をつけてね。地上とは違うんだから。」

「大丈夫だよ。人魚に会えればなあってくらいにしか考えてないから。」

そしてお互い手を振って別れた。

「さて、リリー。明日は港町に行くよ。」

「港町って臭いから好きじゃない。」

「買物に行くわけじゃないから安心して。」

「うん。ほんとだよ。」

「ああ、それじゃあ、宿屋へ戻って休もうか。」

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ヒュリアがヒロインなのか?
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