58日目 痛み分け 後編
58日目の後半部分です。
「あるすー。たいへん。たすけてー。」
突然リリーが、姿を見せて話しかけてきた。
リリーは普段近くに人がいる時は決して姿も見せず、話しかけてもこない。
それが困惑した表情で、しかも姿を見せて話しかけてきている。
「な、なんだ。ピクシーか。」
休憩していたバリントンがこちらを見て驚いている。
「ピクシーだと。どこだ。」
テトリアもすぐに反応して警戒する。
「待って。待ってくれ。」
俺は大急ぎで大地の牙に説明する。
「はあ?使い魔だって?」
「違いますよ。テイムモンスターですよ。」
勘違いしたザナッシュにクロムがつっこむ。
「ピクシーをテイムしたなんて聞いた事がありませんね。」
バリントンは首を傾げながら考えている。
「それよりも、そいつは何て言っているんだ。」
ピエールが訊いてくる。
「あるすー。みんながしんじゃうよー。たすけてあげてほしいの」
「みんなって、他のピクシーの仲間か?」
「そう、いまおそわれているのー、はやくたすけてー」
そう言えば、ピクシーがいたのは、ここからそう離れた場所ではない。
1kmもないだろう。飛んで行けばすぐの距離だ。
「ピクシーの生息場所が襲われているらしい。俺は、こいつリリーの故郷を助けに行ってくる。みんなはここで待っているか、先に進んでくれて構わない。あとから、すぐに追いつく。」
「待て。ここは全員で行った方が良いんじゃないか。もう砦の近くだ。お前が遭遇した奴らかもしれないんだぞ。一人で対処できるのか。」
「しかし、もしピエールの言う通り、襲っているのが例の奴らなら、それこそ連れていけない。あの強さは半端じゃない。そんな中に連れてはいけない。」
正直、このメンバーでは相手にならないだろう。
だったら、遺体回収だけでも目的を達成させるべきだと思う。
俺一人なら相手を引き付けつつ撤退できるはずだ。
それに戦闘になっても、今度は相手に痛手を負わせられる手を考えてはある。
殲滅は無理でも戦力を低下させることは可能なはずだ。
「俺達の目的は調査と遺体回収だ。ならば、その襲っている奴らが何者かを調べるのも仕事の内ってね。」
クロムは、軽いノリで言い放った。
「いいな、アルス。お前はAランクだが、この調査依頼のリーダーは一応俺だ。調査の為に向かうぞ。」
「・・・わかった。でも絶対に無理はしないでくれ。特にバリントンとテトリアは支援を最大限にしてほしい。でないと前衛が無事では済まなくなる。それと馬車はどうする?」
俺はピエールに確認する。
「馬車はここへ置いておく。モンスター除けがあるから、他の場所よりも少しは安全だ。」
ピエールが答える。
「わかった。じゃあ、すぐに出発しよう。みんな俺に掴まっていてくれ。魔法で跳ぶ。」
全員訳も分からず、俺に掴まる。リリーは服の中に入った。
「テレポーテーション!」
森の中では、さほど距離は稼げないが、
それでも一瞬で数十m移動できるのは十分早い。
数回のテレポートで目的の場所まで残り500m圏内に入った。
索敵上では例の10人の人間がいるのがわかる。
「あいつらだ。」
俺は皆にそのことを伝えた。相手の索敵範囲にもすぐ入ってしまうだろう。
俺は、ひとまず、効果時間の長い補助魔法だけを使っておく事にした。
「ディテクトエビル!」
「ディテクトインビジブル!」
「フライ!」
そして全員を対象に
「プロテクションフロムファイア!」
「プロテクションフロムコールド!」
「プロテクションフロムエビル!」
再度、全員に掴まる様に言う。
ここまで来ると木々や下映えの草が少なくなってくるので、
テレポートで距離は詰めやすい。
「テレポーテーション!」
一気に200mほどテレポートする。もう相手にもバレているだろう。
残り300m程だ。ここで全員に防御魔法をかけまくっていく。
「マジックプロテクション!」
「マジックシールド!」
「アースシールド!」
「プロテクションシールド!」
「ミサイルプロテクション!」
バリントンもアースシールドとプロテクションシールドを掛けていく。
「能力強化-全」
索敵では完全に相手はこちらに気づいているようだ。
ピクシーの広場からこちらに向かってきている。
テトリアはエンチャンテッドフレイムウエポンを前衛全員にかけていく。
すると木陰から向こうの姿が見えてきた。
まだ、距離は100mある。
向こうの防御魔法を削るうえでも、先制して攻撃しておくべきと判断した。
「ウインドストーム!」
相手のいるエリアに竜巻を呼ぶ。
周りの木々でダメージはあまり期待できないが、
防御魔法を削るには十分と判断した。
しかし、ウインドストームは数十秒と持たずに掻き消えてしまった。
どうやら、ディスペルマジックで魔法効果を消滅させたようだ。
ここからは消耗戦である。相手に魔法を使わせる余裕を奪う必要がある。
「アイスストーム!」
竜巻が止んだ後に、今度は吹雪の嵐が巻き起こる。
またもやかき消されたようだが、先程より時間がかかっていたようだ。
もう一丁お見舞いしてやる。
「ウインドストーム!」
今度は、魔法は消えずに、向こうの前衛が飛び出してくる。
木々が邪魔で前回のような完全な陣形ではないが、
盾持ちを前面にその後ろから剣士が3人追随している。
敵の2人の魔法使いはウインドストームの範囲外にようやく逃れてきていた。
前衛がこちらとの距離を1/3程、詰めてきた後に、
このチャンスを逃すまいとテレポートで
一気に相手の魔法使い達のいる場所に一人でテレポートする。
相手の魔法使い達は這う這うの体で逃れたのに
目の前にいきなり現れた敵を目の前になんとか逃げ出そうと背を向ける。
俺はショートソードを抜き、魔法使いの一人に突き刺す。
ゴフッと吐血しながら、一人の魔法使いは絶命した。
もう一人は果敢にも魔法を唱え始めている。
その行為は明らかに間に合うはずもない行為だ。
俺は、ショートソードを引き抜き、相手の首を切り払った。
その魔法使いは呪文を完成させるまでもなく倒れた。
振り向くと、敵の前衛はこちらを無視して大地の牙に向かって
突っ込んでいっている。
前回弓を使っていた者もなぜか剣を抜いて突撃している。
よく見ると魔法使いの近くに弦の切れた弓が落ちている。
どうやら、先制の魔法で弓が壊れたのだろう。
だが、このままでは、相手の前衛が8人とマズい事になる。
「テレポーテーション!」
今度は敵の側面にテレポートする。
こうする事で、味方を巻き込まずに範囲魔法が放てる。
そして距離が完全に詰められるまでに攻撃を加える。
「ハイデンスペル・ライトニング!」
指先から発した電撃は、
大盾持ち2人と小型の盾持ち戦士の3人を巻き込んだ。
大盾持ちの戦士の一人は完全に電撃が貫通した事により、そのまま倒れた。
もう一人の大盾持ちは、電撃の余波を喰らってはいたが
ダメージはそれ程でもないようだ。
しかし、電撃で痺れて盾と武器を落としてしまう。
小型の盾と剣を持っていた戦士も
電撃の余波で剣と持っていた腕を負傷した。
命には別条ないようだが、腕が使えないほどのダメージを受けている。
それでも他の敵は突進を辞めずにとうとう大地の牙と接敵した。
ザナッシュはグレートソードを持った敵と対峙した。
もともとザナッシュはそうする事が目的だったからだ。
ブロードソードを持った敵にはピエールが接敵したようだ。
クロムはもともと敵のシーフとやり合うつもりで、
回り込んで上手く接敵した。
マークはもともと弓使いだった2人が接敵した。
弓使い達はもともと2人で共同で戦闘するつもりだったようだ。
武器を落とした重戦士は武器を拾おうとしており、
腕を負傷した軽戦士はポーションを飲もうとし始めていた。
この2人を落とせば、人数的には五分以上に持ち込める。
「ハイデンスペル・ライトニング!」
再び、電撃が2人を襲う。
この2人は足を止めたことにより完全に捕捉されて
まともに電撃を受ける事になった。
2度の攻撃でこの2人も倒れる事になった。
数が一緒になったとはいえ、力量では相手の方が上の様だ。
軽戦士とピエールは互角と言ってよいだろう。
どちらも激しい剣撃を応酬し合っている。
マークは2人の弓兵より個別では力量が上だが
2人に翻弄されている。
クロムは相手のシーフと戦ってはいるが、
圧倒的に技量に差があるので防戦一方だ。
そして最悪なのはザナッシュだ。
明らかに相手は格上である。
2人の魔法の援護で辛うじて対峙していられるような状況だ。
魔法の支援が無くなればすぐにでも倒されそうな勢いだ。
そして次の瞬間、2人の悲鳴が響く。
ザナッシュとクロムが同時にやられた。
ザナッシュは後方に吹き飛ばされて尻もちをついた状態だ。
クロムは二刀流の短剣に切り裂かれて左肩と腹部から血を流して
倒れてしまった。
「ファイアボルト!」
テトリアは、クロムを援護するためにファイアボルトを放ち、牽制する。
詠唱時間を短縮した所為で、魔法の威力はほとんどなかったが
バリントンの魔法を使わせるだけの時間は作れた。
「アースバインド!」
相手のシーフの足止めをするためにバリントンが魔法を放つ。
相手シーフの足は地面から生じた石の塊に捕らえられて
身動きができない状態になった。
ザナッシュは倒れたままグレートソードの攻撃を受けたが、
受けそこなった攻撃で片足を切り飛ばされてしまった。
俺はグレートソードを持った奴にライトビュレットを放ちながら接近する。
相手が自由になればバリントンもテトリアも無事では済まない。
ライトビュレットは弾かれてしまった。
防御魔法はテトリアの攻撃で破られていると思ったが駄目だった。
しかし、こちらに注意を向ける事はできた。
グレートソードを持った男は「また貴様か!」と吠える。
その時またしても悲鳴が上がる。
今度はテトリアと敵のシーフだった。
テトリアが放ったファイアランスと敵の投げたダガーで相打ちになっていた。
お互い倒れたまま動かない。
ピエールは、倒れていく仲間に焦りを感じている。
しかし、相手と同技量では焦った方が負けである。
バリントンはザナッシュとクロムに交互に回復魔法をかけているが、
ダメージが大きすぎて思うように回復できずにいる。
グレートソードを持った男は、周りの状況から、
俺と対峙する事を選んだようだ。
相手は仮面をつけているので表情は窺えない。
「名を聞いておこう。貴様は誰だ。」
そういって、じりじりと威圧しながら近づいてくる。
「まず、自分から名乗ったらどうだ。」
相手を牽制する。
フン!それ以上話すこともないと判断したのか相手は
こちらに走り向かってくる。
その男は大剣を大きく振り回した。
軌道を見極め、ステップを踏んで躱す。
そしてすかさず、相手の懐に飛び込み、ショートソードを突き出す。
相手もそれを予測していたのか、返す手で攻撃を大剣で受け止める。
ガキンと大きな音を出してお互い一瞬止まるが、
相手は更に流れる様に大剣で突いてきた。
それを横に飛び退って避ける。
呼吸を整えるために一旦そのまま距離を置く。
しかし、相手はそのリーチの長さを利用して再び切り込んできた。
俺はショートソードで弾きながら剣の軌道を変え、捌いていく。
数回の剣撃を交わしながら、非常にマズイ事がわかった。
あと何撃かで剣が折れそうだ。
相手の剣は魔法の武器なのか、元々の素材のせいなのか分からないが、
この剣はもう駄目だろう。
一度、剣撃を往なして、大きく下がる。
下がる際にダメもとで剣を相手に投げつける。
投擲スキルくらい取っとけばよかった。
だが、武器を持ち替える時間は取れた。
ドワーフから貰ったミスリル製のショートソードを異空間収納から取り出す。
そして、立て続けに魔法で強化する。
「エンチャンテッド・ライトニングウエポン!」
銀色に輝くショートソードがまるで稲妻を纏っているような感じになった。
相手の男は思わず「ほぅ」と嬉しそうな表情をした。
一体何が嬉しいのやら、碌なものじゃないな。
相手が見極めようと一瞬動きを止めた隙に別の魔法を発動する。
「ミラーイメージ!」
3体の分身が現れた。
「はっ、ならばこれでどうだ。」
相手はグレートソードを大きく上段に構え大きく振り下ろす。
相手が大きく振りかぶった時に危険を感じ後ろに大きく飛び退る。
次の瞬間、土煙と共に石礫がまき散らされた。
すると、男の前には大きなクレーターのような穴が出来上がった。
こちらの分身は悉く消されてしまった。
「随分粗暴なやり方だな。」
俺は相手を挑発する。
「貴様も小賢しい真似をいつまでしている。」
「賢しくて悪いか。」
「貴様、なかなか見どころがある。俺と共に来い。」
「はあ?なにを言っている。」
「お前、転生者だろう。しかも異世界からの。違うか?」
「・・・だったらなんだ。」
「だったら、お前は俺の下に来い。そうすれば、この世界の真実を教えてやろう。」
「この世界の真実?お前は何言ってるんだ?」
「お前は、なぜ、転生させられたのか知っているのか?誰に?何の目的で?何をさせられるのか?知っているのか?」
「・・・・」
俺の記憶は途切れ途切れでその辺りも含め、分からない事は多い。
ただ言える事は俺の転生は、
もしかしたら他の転生者とは何かが違うかもしれないという事だけだ。
「真実を知りたくはないか?」
その男は繰り返し言ってきた。
「アルス、そんな戯言に惑わされるな。」
ピエールは敵と対峙したまま叫んだ。
「五月蠅いぞ。黙れ!」
そう言って横に薙いだ剣からウインドスラッシュに似たような斬撃が走り、
敵の戦士を巻き込んで切り伏せた。
「うぐぁ」
ピエールは咄嗟に相手の戦士を盾にした事で致命傷を免れた。
相手の戦士はその一撃で絶命してしまい、
ピエールも脇腹を大きく切り裂かれてしまった。
「貴様は、一体何様のつもりだ。仲間を平気で殺して一体何がしたいんだ。」
相手の行動にこれまで感じたことのない不快感に襲われ、怒鳴り散らした。
「仲間だと?そんなものはここにはいない。そいつらは俺の駒だ。俺の物である以上、どこで捨てようと俺の勝手だ。」
「俺はお前の駒になるつもりは絶対にない。」
「そうか、では次に会った時は容赦はしない。覚悟しておくことだ。」
そう言って、一つの大きな魔石を取り出す。
「転移!」
一瞬のうちにその男の姿は掻き消えた。
「転移?転移だと?あいつは転移と言ったのか?」
その男が発した転移という言葉は日本語だった。
男が去った後には惨憺たる有様だった。
更に男が去った後、
男の仲間は全員が本来の傷とは別の要因で死んだいることがわかった。
バリントン曰く、ギアスの魔法ではないでしょうかという事だった。
ピエールはヒーリングライトの魔法とポーションで辛うじて回復できた。
ザナッシュとクロムとテトリアは死んでしまったが、
レイズデッドの魔法で何とか生き返る事には成功した。
テトリアは更に毒に侵されていたのでキュアポイズンの魔法も必要とした。
ザナッシュはリジェネレーションの魔法で失った足を再生させた。
そしてこの3人は、その代償として大幅なレベルダウンとなってしまった。
マークは傷つきながらも2人の弓兵を倒したが満身創痍だ。
こちらも魔法とポーションで傷は癒えた。
彼らを休ませている間に、ピクシーの住処へ様子を見に行く事にした。
リリーが他のピクシーに訊いた所、半数のピクシーが殺されてしまった事。
長老もすでに瀕死の状態で助かりそうもない事が分かった。
そしてリリーの頼みで長老の下へ行き、ヒールで癒そうとしたが、
傷ではなく、呪いの類でリムーブカースも
グレートディスペルマジックでも無理だった。
その間、長老とリリーは何やら話をしていた。
そして、その話が終わると長老は息を引き取った。
ピクシーの住処はかなり荒らされていた。
だが、これらは時間と共に回復できるという事なので、
一旦、大地の牙の所へ戻る事にした。
敵の装備をはぎ取り、収納した。
はぎ取ったのは大盾2枚、ブロードソード4本、ダガー2本、
バックラー2枚、他に有用そうなアイテムらしいものは無かった。
多分、貴重なアイテムなどはあの男が全て持っていたのかもしれない。
また、身元が分かるような物は一切所持していないかった。
リリーは長老と話した後、服の中で眠ってしまったようだ。
少し具合が悪そうなのでそのままにしておいた。
全員が歩く程度には回復したので馬車に戻り、砦に向う事にした。
砦に着いた時は夕暮れ時になっていたので、
今日はここで野営をする事にした。
建物は無事なので、とりあえず安心して眠れるはずだ。
もちろん、見張りは交代で行った。
是非とも下の☆マークで評価の方をお願いします。
頑張って書いていきます。




