58日目 痛み分け 前編
今回は長くなってしまったので、前編と後編に分けさせてもらいました。
●58日目(グリウス歴863年6月30日)
次の日の早朝、一の鐘が鳴る頃に門の前で集合する。
集合場所に、大地の牙は既に来ていた。
「おはようございます。」
大地の牙の面々が挨拶に答える。
「では、早速出発するとしようか。」
ピエールの号令で出発する。
今回は遺体回収が1つの目的なのでギルドは馬車を2台用意してくれた。
15km程の道のりだが、しっかりと整備された道ではない。
物資の輸送などで馬車が何度も通っているが気をつけて進む必要がある。
先頭の馬車には俺とピエール、マークの3人が乗っている。
残りのメンバーは後ろの馬車だ。
「そう言えば、アルスはランクAに上がったんだってな。おめでとう。」
ピエールは馬車を操作しながら言った。
「アルスは、俺達の命の恩人だ。そのアルスがAランク冒険者なんて俺達も鼻が高い。」
マークも嬉しそうに言った。
「別にAランクなんかならなくても良かったんだけど、ホントはあまり目立ちたくなかったんだよね。」
2人の気持ちはありがたいが、
俺は特に有名冒険者になりたかったわけではなかったので本音が漏れた。
「そうなのか。Aランクといえば、英雄クラスじゃないか。そうそうなれるものでもないんだぞ。」
ピエールは笑いながら答えた。
「もともと俺はのんびり暮らせるだけのお金を稼げればよかっただけなんだ。正直、戦闘はそれ程好きじゃない。特に対人戦闘は未だに抵抗がある。もちろん、攻撃されれば抵抗はするけど、殺さずに済むならとか、どうしても考えちゃうよ。」
「そうなのか。でもお前のような力を持った者は、それだけでも命の危険な任務や仕事が転がり込んでくる。そんな考えでは命がいくつあっても足りなくなるぞ。慣れろとは言わないが、自分の身を守るためにどこかで折り合いをつけねばならないんじゃないか。」
「そうできれば、良いんだけどね。」
俺は、この世界の人生がまだ浅い。
記憶が所々無いとはいえ、前世での生活や考え方が染みついている。
その環境では命の遣り取りなんて無縁の世界だったし、
モンスターの解体すら未だに抵抗がある。
例えば犯罪者が死刑になるのは別に許容できるが、
自分がその死を直接与える事には非常に抵抗がある。
そういった世界で長年生きてきた俺にとって命の遣り取りの多いこの世界は
正直辟易する事も多い。
初めは、この世界にワクワクもしていたし、自分の能力も嬉しかったが、
漫画やアニメやゲームの世界での憧れが現実になってしまうと
だんだんと何に憧れていたのか分からなくなる。
それだけ五感で感じられる現実の死は想像の上をいくものだと理解した。
それでもこの2か月近くでかなり慣れ始めてはいるのだが。
「俺はのんびりと暮らしたいだけなんだ。」
「何を言ってるんだ。随分年寄り臭い事言って。お前まだ12歳だろ。」
ピエールは呆れた様に言った。
「それだけ、濃い人生を送ってきたということだよ。」
「ホント、ジジ臭いな。」
マークまでも同意しながら、笑い出した。
「前方にジャイアントスパイダーがいるから、追い払ってくる。フライ!」
放っておいても問題ないのだが、
場の雰囲気から逃げ出すように先行する事にした。
「お前は十分冒険者だよ。」
ピエールは笑いながら送り出した。
ジャイアントスパイダーは道から少し外れているが、
何かあった時は邪魔になる恐れもある。
索敵の反応があった場所にジャイアントスパイダーが2匹いる。
大した強さでも無いのでライトビュレットで簡単に始末できた。
死体はそのまま異空間収納にしまう。
他にもモンスター反応はあるが、
道からはかなり離れているので問題ないだろう。
そのまま、馬車に戻る事にした。
「お疲れ。」
マークは労いの言葉をかけてきた。
「あと少しで、休憩できる場所があるはずだ。少し広めの所で、魔物除けのハーブが植えられているらしいので、すぐに判るはずだ。」
ピエールが休憩場所を教えてくれる。
しばらくすると、馬車が4、5台泊まれそうな広い場所にでた。
周辺には明らかに人の手が加わっているような場所に、
数種類の植物が植えられている。
日あたりを良くする為か木も広めに伐採されている。
ここが第一休憩所らしい。
だいたい道のりの1/3位の場所だ。ここで馬に水分補給させる。
乗っている者も体を伸ばしたりしている。
馬車は車と違ってかなり揺れるし、段差の衝撃がそのまま伝わってくる。
馬車にサスペンション付ければもっと乗り心地が良くなるのにと
思わざるを得ない。
このペースで行けば、午後には砦に着けそうだ。
ある程度休憩したら、すぐに出発する。
「そう言えば、この間、武器とか駄目になったじゃない。新調できたんですか。」
「まあ、何とかな。同じものを揃える事は出来たが、金はだいぶ減ってしまったよ。報酬貰っても赤字さ。」
ピエールは苦笑いしている。
あの時は気づかなかったが、魔法使い以外で鎧は全員買い替えが
必要になったのだとか。
見た目は剣や盾の破損が酷い様に見えたが
見た目に反して鎧の方が深刻だったようだ。
「災難だったね。」
「そういう事もあるさ。駆け出しならまだしも、俺達のような冒険者は鎧一つで運命を左右するから、既製品には手を出さない。基本的に鎧はあらかじめ予備を注文しておくのさ。ただ予備の鎧を持っておくことは出来ないから、防具屋に預かっていてもらうんだ。金は先払いだから、鎧はすぐに手に入るが、次の予備を注文しておく事で結局金は出ていくんだよ。」
「へー、そうなんだ。俺も鎧を買おうと思ったんだけど、オーダーメイドって言われて諦めた。」
「アルスは、まだ成長期だろ。今、鎧を買っても1年後には着れなくなるぞ。もし、買うなら、パーツごとにしな。そうだな。まず、盾だな。アルスは剣も魔法も使うようだから、小型のランタンシールドって分かるか?簡単に言えば、籠手に付いている盾だな。これなら、両手が空くからアルス向けだろう。それと、動きやすさ重視なら、硬化処理されていないレザーアーマーが良いだろう。硬化処理されているものより安く済むし、今のただの服よりマシなはずだ。ただ、防御面では服よりマシなだけだけどな。それなら、既製品でも問題ないだろう。防具屋には売ってないから、今度、売ってる店を紹介してやるよ。」
「そうなんだ。助かるよ。ありがとうピエール。」
「そんな成りで今までよく冒険できていたな。それだけ、お前が強いって事なんだろうけど。それより、お前はいつまでソロで冒険者をやるんだ。お前と釣り合う冒険者はなかなかいないのだろうが、いつまでも一人じゃ、この先厳しいのじゃないか。俺達のパーティーに入ってくれても助かるが、正直、俺達では足手まといにしかならないと思っている。前衛だけならまだしも、お前と組むとうちの魔法使い達の活躍がなくなりそうだ。あいつらなりに頑張っているし、成長させてやりたい。誰か目を付けている奴はいないのか?」
ピエールは俺を誘っているのかそうじゃないのかはっきりしないな。
いや違うな。ただ心配してくれているんだろう。
「パーティーかぁ。考えてもいなかったよ。」
「お前は魔法が凄くて他の者は気づきにくいが、剣もそれなりに使えるだろ。だから、自分一人でなんとかなって来たんだろうけど、この間の話を聞く限り、前衛が何人かいれば、逃げずに済んだ可能性も高そうだ。一人一人の力より連携力はそれ以上に大事だぞ。だからと言って不釣り合いなチームではお前の負担が大きくなるし、組んだ奴らがお前に頼りきりになって、駄目になるだろう。そういう意味では俺はアンジェ達と組むのが良いと思っているんだがな。あいつらなら、それなりに強いし、人数も2人きりだ。俺はいいと思うがな。」
「仮に俺が必要と思っても、向こうは必要と思ってないじゃないですか。」
確かにアンジェ達は2人でBランクの冒険者になっただけあって、
強いと思う。だけど、女性2人で冒険者なんかやっているほどだ。
なにか理由があるに違いないと思わざるを得ない。
その中に俺が入っても邪魔になるだけなんじゃないだろうか。
そう思っている。
「アンジェ達は何か目的があって冒険者をやっているんじゃないんですか。」
そう疑問をぶつけてみる。
「確かに何か目的があるんだろうとは思うが、向こうにしたって現状の戦力ではやれることが少なくなっているはずだし、あとはお互い協力できるかどうかだけじゃないのか。」
「そんなものですか?」
「ああ、そんなものだ。」
ピエールは軽く笑いながらそう答えた。
そんな話をしながら、2か所目の広場に着いた。




