56日目 謎の集団現る
●56日目(グリウス歴863年6月28日)
ドワーフ達のおかげで、ゆっくりと眠る事が出来た。
ドワーフ達にお礼を言って、食料のおすそ分けで少し提供する。
主に肉が喜ばれたが、喜んでくれたのなら良いだろう。
今日はここから、ダンジョン方面に上空から突っ切ってみる事にした。
向こうに着くのは丁度、昼頃になるだろう。
索敵をしつつ、進んでいくのだが、どうも、モンスターが少ない様に感じる。
偶々なのかもしれないが、少々気になる。
何度かフライの呪文をかけ直しながら、ようやく砦が見えてきた。
様子がおかしい。
索敵に反応がないのだ。急いで砦に向かう事にした。
着いてみるとそこでは戦闘があったようだ。
兵士達が無残にも殺されている。
門が壊されているが、建物自体はあまり壊されてはいない。
工員達の姿は無く、備蓄は荒らされていた。
兵士たちの死体は15人程のようだ。
まだ、建築は完全ではないので工員がいないのはおかしい。
しかも、兵士の常駐は20人くらいだったように思う。
死体を調べていくと、モンスターの仕業には見えない。
剣や魔法で殺されている。
盗賊の襲撃にしては武器の残りも多いし、少し違うように思える。
ぞわっ!
突然背筋が寒くなるような感覚と共にダンジョンから何かが現れたと感じた。
索敵で確認すると10人くらいの人間がダンジョンから出てきたようだ。
向こうも、どうやらこちらを認識したようだ。警戒する動きを見せる。
お互い姿を見せていないにも関わらず、認識し合うなんて
今までお目にかかった事は無い。
相手の力量を考えると、かなり危険な状態だと思える。
身の危険を感じたので、一通りの防御呪文を発動させる。
「ミサイルプロテクション!」
「ディテクトインビジブル!」
「ディテクトエビル!」
「プロテクションフロムエビル!」
「プロテクションフロムファイア!」
「プロテクションシールド!」
「アースシールド!」
「マジックシールド!」
「マジックプロテクション!」
呪文を発動させている間に、10人程の人間が視界に現れた。
大盾を持ったプレートメイルを着た戦士風の男が2人。
両手用のグレートソードを持ってプレートメイルを着た人間が1人。
片手剣と小型シールドを持って金属の胸当てを着た人間が2人。
弓を構えて、皮鎧を着ている人間が2人。
同じく皮鎧を着ているが両手にダガーを持っている人間が1人。
魔法使いと思しき人間が2人。合計10人だ。
相手はこちらを見るなり、弓と魔法を放ってきた。
弓はミサイルプロテクションによって逸らすことができた。
魔法は、ファイアボルトとストーンブラストが飛んできた。
ファイアボルトはプロテクションフロムファイアと
マジックプロテクションのおかげでダメージは無い。
そしてストーンブラストはマジックシールドで弾かれたのだが、
こちらのマジックシールドが、かき消されてしまった。
有無を言わさず攻撃されたので、こちらもファイアーボールをお見舞いする。
しかし向こうも既に防御魔法をかけているらしく、
一部ダメージを与えたが軽い火傷を負わせる程度だった。
強い。
瞬間的にそう思った。
・・・一人では勝てないぞ。
向こうは容赦なくこちらを叩くつもりだ。
その間にも大盾の2人が盾を前面に押し立て突撃してくる。
そしてその後ろに大剣を抱えた奴が盾に守られながら一緒に走りこんでくる。
その両脇を片手剣の2人も合わせる様に走っている。
このまま距離を詰められると非常にマズい。
弓の攻撃はまたもや外したが、魔法使い達は別の呪文に入っている。
「リリー戻れ!」
リリーを異空間収納に戻した。
「テレポーテーション!」
テレポートして魔法使いの後方に瞬間移動する。
移動後、振り向きざま攻撃をする。
「アイスストーム!」
魔法使いと両手持ちダガーの3人を巻き込む様に発動する。
3人にはそこそこダメージを与えたが、
防御魔法が掛かっているようで深手を負わせられなかった。
ちょっ、マジですか。
だが、こちらの攻撃で相手の魔法使いは呪文を唱えるのに失敗している。
これで時間を稼げた。相手の前衛はかなり離れている。
ここは逃げるが勝ちだ。
「フライ!」
「能力強化-全」
相手の視覚から逃れる様に低空で飛んで離れる。
そのまま木の隙間から上空に上がり、テレポートで距離を稼ぐ。
ギリギリ索敵範囲の500m圏で一旦様子を伺う。
どうやら相手の索敵は500m以下のようで、
こちらを追ってくる様子はないようだ。
今回はかなりピンチだった。
下手したら死んでいたかもしれない。
一体あいつらは何者?
今まで魔法の武具など見たことなかったが、
あんなにはっきり違いがあるのかと思うほど、全然見た目が普通ではない。
まず、大盾の2人は盾に何らかの魔法が掛かっていた。
それとグレートソードは、変なオーラみたいなのが溢れていたし、
こっちのファイアーボールやアイスストームでも
相手を倒すことは出来なかった。
「一人で無理する必要もないか。」
リリーを再召喚してから言った。
「リリー、街に戻るよ。」
ここは一旦ランゴバルドに戻って報告した方が良さそうだと
判断して移動を開始する。
なるべく早く街に戻る為に、テレポートを多用して街に戻る。
多少迂回する事にはなったが、その甲斐あって数時間後には街に戻った。
そして、その足で冒険者ギルドに入っていく。
受付にいたヘレンさんは俺の姿を見てビックリしている。
「アルスくん、大丈夫?」
「はい、ちょっとボロボロですけど、怪我とかはないですよ。それより、至急ギルド長に報告したい事があるんです。」
「分かったわ。少し待ってて。」
ヘレンさんは、急いで2階のギルド長室へ入って行った。
すぐに、2階から手招きされたので、2階に行く。
「アルスか、至急のほうこ・・・く・・・って、どうした?」
ギルド長もビックリした顔をして立ち上がる。
「ダンジョン前の砦が全滅したと思う。」
そう話し始めると、ギルド長のシモンは真剣な顔で手前のソファーに座り、
こちらにも座るよう促した。
「どういう事だ?」
「大地の牙の報告は聞いてる?」
「ああ。ジャイアントの件は聞いている。」
「その後、物資輸送隊の無事を確認するために道沿いに橋まで行ったんです。そこのドワーフ達に確認したらドワーフの護衛と共に通過したと言われてその日は、そこで泊ったんです。そして今朝、そこから、ダンジョン前の砦まで行ったら、兵士達がすでにやられていたんです。そこで少し調査していたら、いきなりダンジョン内から人が出てくるのが分かったんです。相手は10人程だった。状況から判断して可能な限り防御魔法を掛けていたんですが向こうも初めから戦闘するつもりだったようで、先制攻撃を受けました。防御魔法も補助魔法も完全に掛けきれないまま、そして話し合いもないまま戦闘に突入してしまったんです。こちらも反撃はしたんですけど、人数差もあるし、向こうはかなり強かった。大したダメージも与えられないまま、撤退しました。索敵範囲ギリギリのところまで逃げ切って、少し様子を伺っていましたが、追って来ないので、こちらに戻ってきました。」
「そいつらは、ほんとに人間だったのか。お前の攻撃を凌げる人間がいるとは思えないのだがな。」
「向こうにも魔法使いが2人いたし、索敵上、人間の反応だから人間で間違いないはず。ただ、全員が仮面を被っていたから素顔は見てない。」
「どんな奴らだった?」
「防御型の戦士2人、攻撃特化の戦士が1人。魔法使いが2人、盗賊のようなでも戦闘もこなせるタイプが1人、あとオールラウンダーの戦士が2人。それと弓兵が2人だった。もしかしたら、何人かは魔法の武器を持っていると思う。特に攻撃特化のグレートソードを持った奴はかなり強いと思う。相手を鑑定する余裕が全くなかったから、憶測になるんだけどさ。」
「それで、砦の状況はどうなっている?」
「兵士が15人程やられていたのは確認した。他は分からない。多分いなかったと思う。」
「工員はいなかったのか?あそこには兵士20人と工員18名がいたはずだが。」
「もし、死んでいたら分からないかな。あとは逃げていればこちらに向かっているかもしれないけど。俺は戦闘を回避するために大きく迂回して戻ってきたから道の状況は分からない。」
「わかった。この後の事はこちらで対応しよう。少し休んでくれ。何かあったらまた、依頼させてもらう事になる。報酬はこの後ヘレンから受け取ってくれ。いつまでもそんなボロボロな格好では居たくないだろう。」
そう言われて改めて自分の格好を見てみる。
上着はボロボロでほとんど着けていないに等しくて、
ズボンも下着も所々焼け焦げている。
これでは、ほぼ裸に近い格好と言われてもおかしくない。
「うわぁ、服が駄目になってる。」
「今更かよ。」
シモンが呆れた顔でつっこんでくる。
少し失礼して、予備の服に着替えさせてもらう事にした。
「それじゃあ、下に行きましょうか。」
ヘレンさんに付いて行く。
「それでは、任務報酬と査定の結果、金貨45枚になります。」
10枚ずつ積み上げられた金貨4束と5枚の金貨を出される。
それを、袋に入れる様に見せかけて、異空間収納にしまう。
昼食を食べてなかったので、結構お腹が空いている。
折角なので、スパゲッティを食べに行く事にした。
「アルスくんじゃないか。食べに来てくれたのかい。」
厨房の中から店主が顔を出した。
「最近、どうですか。」
「おかげで、昼も夜も大忙しだ。これもアルスくんのおかげだな。何食べるのかな?」
「じゃあ、ミートソースで。」
「ちょっと待っててくれ。すぐに出すから。」
そう言って奥へ引っ込む。
「ミートソースお待たせしました。」
ウエイトレスが運んできた。
うん、やっぱり旨い。
リリーはテーブルの下で隠れて果物を食べている。
いつも果物ばっかりだが、大丈夫なんだろうか。
肉や魚は食べないから大丈夫なんだろうけど、少し不安になる。
そうだ。今度、持ち帰り用の小鍋を持って来よう。
そうすれば、作る手間もかからないし、いいかも。
店を出て、早速、蓋付の小鍋10個と服を2着買い足した。
金貨2枚の出費になった。
今日のところは、もう宿でゆっくり休もう。




