54日目 任命
●54日目(グリウス歴863年6月26日)
朝食を済ませ、早めに王都を出発する。
午前中は畑仕事をしている農家の人や、出発する商人など
意外と人が多くてテレポートで移動するのが困難だった。
その為、ひたすら歩いていた。
午後には人も疎らになると考え、昼食は早めにとる事にした。
今日の昼食はやはり魚でしょう。ご飯が欲しくなるのは仕方ない。
簡単に焚き木を集めて火をつける。
魚を焼き始めて気づいたことがある。
それは虫が寄ってくるのだ。確かに魚を焼くと匂いが強い。
肉を焼くときも少なからず、虫が寄ってきたが、魚はその比ではない。
今度、防虫用の薬草みたいなのを探す必要がありそうだ。
若しくは街中で調理しておくべきだった。
なぜ、そうしなかったのだろう。
今日の所は煙や焚き木を周りにおいて我慢するしかなさそうだ。
昼食も終え、後かたずけをする。
焚き木をあちこちに置いたので、念の為にクリエイトウォーターで
消火を念入りにしておく。
リリーは煙いのは嫌と果物を食べて、
すぐに俺の服の中に潜り込んでいたのだが、
消火した後は服の中から出てきた。
午後は索敵で周囲を確認しつつ、テレポートで距離を稼ぐ。
街に着いたのは、予定よりだいぶ早い時間だった。
まだ遅い昼食なのか早い夕食なのか分からないが、
食事を取っている人が見受けらるような時間だ。
着いて早々、庁舎に向かった。そして受付に行き、手紙を見せる。
暫く待たされた後、辺境伯の執務室に通される。
「アルスか、久しいな。」
「お久しぶりです。ランゴバルド辺境伯。賞金を貰いに来ました。」
そう言って、王都で貰った手紙を渡す。
「・・・」
辺境伯は、その手紙をじっくり読んでいる。
そして読み終わると、少し待ってろと言われ、
辺境伯は隣の部屋に出ていった。
少し時間が経って、戻ってくると、
「アルス、これを冒険者ギルドに渡せ、褒賞はそこで貰ってくれ。」
そういって、別の手紙を受け取る。
「ここで貰えるって話だったんですが。」
サクッと渡してくれるだけでいいのにと考えながら、疑問をぶつける。
「すまんが、ここでは用意できないから仕方ない。」
「そうですか。」
「私は今忙しいので、多少話もしたいが、また別の機会にしよう。」
そう言って追い出される形になった。
なんなんだ、この盥回しは。
納得できないながらも、今度はギルドに向かう。
久しぶりの冒険者ギルドでは何やらバタバタしている感じだ。
受付にはヘレンさんがいたのでそちらに向かう。
「あれっ、アルス君じゃない。元気だった?」
こちらに気づいて声を掛けてきた。
「久しぶりです。忙しいところすみません。この賞金を貰いに来たのですがいいですか。」
と手紙を見せる。
ヘレンさんは少し考えてから「ちょっと待っててね」と言って2階に行った。
もしかしたらギルド長のところだろうか。
2階の階段上から、ヘレンさんが呼んでいる。
呼ばれたまま2階へと行き、ギルド長の執務室に通された。
「アルス、元気そうじゃないか。今まで何してたんだ。」
ギルド長のシモンが訊いてきた。
「あれから、王都へ行ったり、港町に行ったりしてました。」
「そうか、それでお前、何やったんだ。」
質問の意味が分からず、訊き返す。
「まあいい、とりあえずギルドカードをヘレンに渡せ、処理しておく。」
言われるままカードを渡す。
「そういえば、何かありましたか。帰りにランゴバルドで物資が大量に運ばれていると聞いたのですが、まさか戦争でも始まるんですか。」
冗談のつもりで訊いたのだが、その答えは「良く分かったな」だった。
「へ?」
「なんだ、知ってるんじゃないのか。」
「知りませんよ。冗談で訊いたのに。」
「まだこの街が戦乱に巻き込まれる事はないが、最悪の場合、ここも戦場になる。」
そう言って溜息を吐く。
「状況を教えて欲しいんですけど。」
「まあ、お前なら問題ないか。実は、この間エルフの王国から使者が来た。」
エルフの使者?俺の不思議そうな顔を見て
「うん?その前の説明も必要か。お前の功績でエルフ王国とドワーフ王国と通商条約と軍事協定の条約が結ばれた。軍事協定は、同盟の前段階程度の内容で、両国が何かあった場合の物資の提供や戦力の投入など決められている。そして、先日ドワーフ王国に巨人族が大攻勢を仕掛けてきた。エルフがドワーフへ援軍を送った事で、なんとか撃退はできたそうだ。ただ、侵入防止壁などが破壊されたために大急ぎで修復している状況だ。その為、物資をドワーフ王国へ輸送をかけている。現状、エルフとドワーフが巨人に対して防波堤の役目を担っているが、もし破られれば、人間の国家はあっという間に滅びるかもしれない。特に最初に影響を受けるのはジュノー王国になる。だから、エルフにもドワーフにも倒れられてはいかんのだ。」
「そうなんですね。撃退したってことは、暫く大丈夫なんですよね。」
「どうだろうな。こちらが掴んでいる情報では、最近巨人族の侵攻が活発になっているようだ。エルフは強力な魔法師団があるし、ドワーフに至っては強力な機械師団を擁している。防衛戦では落ちる事は無いと考えたいが、巨人族の戦力は不明だからな。何ともいえん。」
そのような話をしていると、扉がノックされた。
ヘレンさんが、ギルドカードを持ってきた。
「では、褒賞を授与する。今回の褒賞でアルスをAランクの冒険者と認定する。以上だ。これからも、頑張ってくれ。」
とギルド長は言った。
「はい?」
「だから、今回の働きで、Aランクに認定だ。」
「いや、ちょっと待って。俺が聞いた話では今最高ランクはBって聞いてるんだけど。」
「そうだ。今いる冒険者の最高ランクはBだが、今日からAだ。何か問題でも?」
「問題あるでしょ。たかが1、2か月の冒険者がAランクって。しかもAランクって英雄クラスって聞いてますよ。」
「その通り。まさに君が英雄だ。実力も国から保証され明示されている。実力があるのだからランクが上がるのは当たり前だろう。」
そう言って、ギルド長はニヤリと笑みを浮かべた。
「はぁ、ちなみにAとBで何か変わる事ありますか。」
これ以上、意味のない問答は止めにして、念のため訊いておく。
「AとBの違いか。そうだな。いくつかあるが、大まかに言うと、認定した国の依頼が回ってくる。それと他国の依頼についてジュノー王国の不利益になる事は拒否しても問題なくなる。基本どの国でも国からの依頼は拒否すれば、相応のペナルティが発生する。軽いもので罰金から重いもので入国拒否など様々だ。Aランクでは、そういった依頼を拒否できる権限が与えられている。また、依頼の優先順位もその冒険者に決める権利が与えられる。そういった意味ではBランクよりも優遇されている事になる。また、国内での権利は中級貴族と下級貴族の中間くらいの権利が与えられる。引退後は下級貴族になる事も可能だ。貴族の権利については一応許可も必要だが、事後報告で済む場合も多い。ちなみに中級と下級の間というと子爵と男爵の間くらいか。」
「えーと、たしかこの国の爵位は、大公、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士階級に分かれているんでしたっけ。」
「そうだな。大公は王族だが、王位継承権が無い方だな。公爵は王の外戚が多いな。」
「へー。」
正直、貴族なんてどうでもいいかな。面倒この上ない。
「それと、各国への入国税が免除されるな。」
それはいいかもしれない。
「そこで、早速の指名依頼をしたいのだが。どうだ。」
「なんか、随分用意周到な気がするのは気のせいですか。」
「そんな事は無いぞ。実際、この指名依頼はアルスだけではなく、大地の牙とアンジェのチームにもそれぞれ出ている。」
なんとなく懐かしい名前が出てきて嬉しくなった。
とは言っても、それほど日数が立っているわけではないのだが、
色々ありすぎて、懐かしく感じる。
「皆さんは元気ですか。」
「たぶんな。」
「たぶんとは?」
「それぞれ依頼を受けて出ている。アンジェ達には、物資輸送の護衛。大地の牙には妖魔の森の調査だ。実は、巨人の目撃情報が出ている。それらしい痕跡もある。物資の輸送は最重要事項なので、アンジェ達の他にも3チームのCランク冒険者を付けている。アンジェ達だけでは、人数的に負担が大きい。今回目撃されているのは恐らく、ドワーフ王国を襲った、先の戦闘ではぐれた巨人族がいるのだろう。そいつらが紛れ込んでいると予想している。その為、索敵に優位の大地の牙に輸送路周辺の探索に行ってもらっている。アルスにも、妖魔の森の探索にあたってもらいたいというのが今回の依頼だ。目撃情報からすると、ジャイアント種が1体、トロールやオーガーが複数いると予想されている。期間は、物資が到着するまでだ。到着は、明後日になる予定だ。依頼料は1日金貨10枚。巨人族を倒せば、追加報酬が出る。受けてくれるか?」
大地の牙やアンジェ達も参加しているし、
何よりエルフやドワーフの危機を救うための仕事だ。
協力するのもやぶさかでない。
「分かりました。明日から明後日まででいいんですね。」
「そうだ、終わり次第、一旦報告の為に戻ってきて欲しい。」
「了解した。」
ギルドを出ると既に日が暮れ始めていた。
急いで宿を探す。いつもの銀の鹿亭が空いていたので、そこに決める。
なんだか、どんどんきな臭くなってくる。
それに、ユミコが以前話した他の転生者の存在、勿論ユミコを含めて、
エルフやドワーフの例の事件、俺の他と違う能力、
あの中途半端なダンジョン、そして神の声とその存在。
謎だらけで考えるだけで頭が痛くなる。
いずれ何か分かれば、いいのだけれど。




