43日目 白昼の襲撃
●43日目(グリウス歴863年6月15日)
「・・・アルスよ・・・」
ここは?目を開けると、そこはひどく霧のかかった場所だった。
場所と言ってもどうやら俺は空中に浮いている感じだ。
足元を見ても真っ白で何も見えない。そして声だけが聞こえてくる。
「・・・アルスよ。王都南の古い教会を目指しなさい。私との契約を果たすのです・・・」
「はっ!」目覚めると、そこはベッドの上だった。
何だ、さっきの夢は。王都南の古い教会?
リリーはベッドの上でまだ眠っている。
「アルスさん。起きてますか?」
ユミコは微かな声で語りかけてきた。
「ああ、今起きた。」
頭をポリポリ掻きながら答えた。
「先程、神様の啓示を頂きました。お願いです。私を王都南にある古い教会という所へ連れて行ってもらえませんか。」
「えっ」
俺が見た夢と同じこと?つまり、あの夢の声は神の声ということか。
「神の啓示って、その声は本当に神の声だった?君をまた、何かに利用しようとする者の声じゃなかった?」
俺の記憶の中には神の存在はない。
ただ、俺だけ他の者とは違う能力というかシステムというか
この世界の理からズレている感覚がある。
それを成しえるのは、神において他にはいないだろう。
だから、神は存在するとしても、夢の内容が本当に神なのかは分からない。
「はい、間違いないです。お願いします。」
そう言われると、こちらも無下にはできない。
「わかったよ。ただ、やる事があるから、行くにしてもそれを済ませてからだけど、いいかな。」
朝食を済ませて、リリーにはまた戻ってもらった。
ギルドに向かう。
ギルドには、ピエールをはじめ皆がすでに集まりつつあった。
全員が揃い、座って待っていると、
ギルド長のシモンとランゴバルド辺境伯がやってきた。
「さて、全員が揃ったところで、報告をしてもらおうか。」
ギルド長が報告するよう促した。
まずは、ピエールが代表して大まかな報告を済ませる。
その後、俺に振られて、第六階層ボスの話と最下層の魔核の話をした。
ただし、魔核については、魔法で壊したとしか話さなかった。
嘘をつくとバレる恐れがあるため、嘘をつかないよう気を付ける。
そして、話はダンジョンの構造についての疑問に移った。
全員がそれぞれ、疑問やその予想される事などを話す中、
俺は質問をぶつける。
「あのダンジョンは一体いつから存在していると考えてますか。」
と質問した。
「モンスターホードは200年前には、間違いなく起こっている。その時の規模を考えるとそれ以前にも発生したと考える方が自然だ。文献自体は200年前のものしか残っていない。そもそも、このランゴバルドの街ができたのは、220年前くらいだ。それまではこの辺りは開拓村が点在しているようなものだったらしい。最初は交易の中継点として発展したが、200年前のモンスターホードをきっかけに、城塞都市のような造りに変わったとされている。最初のモンスターホードで、ほぼ壊滅。100年前のモンスターホードでは
壊滅は免れたものの、半壊まで追いやられたとされている。そして今回だ。」とギルド長は説明した。
「つまり、3回のホードから、ダンジョンが出来たのは、最低でも300年前という事ですか。」
「そうだな」
とギルド長は相槌を打つ。
「6階層の探索が中途というのは、どういう事なのだ。」
と辺境伯が訊いてきた。
「私の魔法で調べたので、地図自体は、ほぼ間違いないです。ただ、こちらも戦力的に少なかった事と、物資に余裕があったわけではなかったので最短距離のルートだけ調べたのです。」
と説明する。
「そうか。」
と一言漏らしただけだった。
「報酬の件だが、魔石と唯一の財宝の回収で一人当たり金貨250枚となった。あとで受け取ってくれ。それとギルドの貢献度100ポイントをそれぞれに進呈する。これによって、トール、ジェスはCランクにアップだ。アルスもBランクにアップする事になった。手続きを忘れるなよ。今回は皆よくやってくれた。では解散する。」
そう言って、解放された。
受付へ行き、ランクアップと報酬を受け取る。
「Bランクおめでとうございます。またまた新記録ですね」
とヘレンさんが笑顔でカードを渡してきた。
「勘弁して下さいよ。」
と苦笑いする。
ここへ来るたびに、俺の当初の目標であった目立たず、
かつ生き残れるだけの強さと財力を獲得するというのは
徐々に霧散していくような気がしている。
一通り、手続きを済ませてから、ふと思い出した。
そういえば、カーターさんは戻ってきているだろうか。
頼んだものが入ってきているといいな。
カーターさんの商店へ向かった。
「こんにちは。カーターさんはいらっしゃいますか。」
と店の中で店番の女性に訊ねた。
「お待ちください。」
と店の奥にカーターさんを呼びに行った。
「これはアルスさん。ちょうど良かった。昨日の夜、こちらに戻ったばかりなんですよ。頼まれていたポーションをお持ちしますので少し、お待ちくださいね。」
そう言って、また、店の奥に入っていく。
「こちらが頼まれていたポーションです。ご確認ください。」
ポーション5本、MPの回復が50ある、上質なものだ。
鑑定でも間違いない。
「助かりました。」
とポーションを異空間収納の中にしまう。
それと今回のダンジョン探索で使い勝手が良かった道具の購入もしておく。
まず、木の棒を2本長めと短めのもの。手鏡1つ、松明5本、
食料を少々買い足しておく。
買物をし終わり店を出ようとした所で、
フードを被った男が5人ほど入ってきた。見るからに怪しげな感じだ。
店から出ると、もう一人フードを被った男が入り口に立っていた。
見張りか?ここまで来ると怪しさ満点だ。
店を出て、すぐに見張りに見られない位置に移動する。
「インビジビリティ!」
姿を消して店に戻る。
「いいから、来るんだ。」
フード付きの男たちは剣を抜いて喚いている。
ミーナさんは男に手を引かれながらも抵抗している。
ミーナさんを攫おうとしているという事は、例の貴族か。
だったらここで、対処しておく必要がありそうだ。
まず、見張り役の男の後ろに回り込み、
「ショックマインド!」の呪文をかける。
この呪文は接触しなければいけないが、成功すると相手は一発で気絶する。
見張りは、声を出すこともできずに、倒れる。
音がしないよう、倒れる前に支える。
そのまま、担いで、店の横に寝かせておく。
インビジビリティが解けているので、速やかに店の入り口前まで戻る。
すると、中ではミーナさんが気を失っており、
カーターさんは腕に切り傷を負っていた。
他の店の従業員は奥に逃げてしまったようだ。
だが、この場合巻き込まないで済むので助かるというものだ。
店内に向けて、
「ハイテンスペル・スリープ!」
スリープの魔法を最大効果に強化して発動させる。
魔法の効果はカーターさんを含め残り3人のフード付きの男達を眠らせた。
だが、一人だけ寝なかった男がいた。
その男は、何が起きたのか分からず、
「何だ、どうした。」と周囲を見回していた。
すかさず、店内に入る。
フードの男は突然入ってきた子供にビックリしたが、
「貴様がやったのか。」と問うてきた。
「白昼堂々と人攫いなんて、あんたら馬鹿なの。」
と答えながら、鑑定を発動させる。
Lv10、片手剣Lv3。まあ、こんなものだろう。
「フン、ガキが舐めくさりおって。貴族に歯向かうとはいい度胸だ。ガキはここで死ね。」
と言って襲い掛かってきた。
はい、馬鹿確定。自分で素性を漏らしてどうすんだ。
こちらもショートソードを抜く。
それを見た男は薄ら笑いを浮かべている。
明らかにこちらを格下と見ている。
身長差もあり、上段から切りかかってきた。
予想通りの攻撃と、剣の技量差のおかげか、相手の動きが良く分かる。
相手の剣を振り払おうとしたのだが、
相手の剣は勢いあまって、ふっ飛んでいった。
男はあまりの衝撃に手を痺れさせて、
思わずもう片方の手で腕を押さえていた。
すかさず近寄り、「マインドショック!」と魔法をかける。
男はそのままの姿勢で倒れこんだ。
全員の武器と持ち物を回収して、店からロープを借りて、縛り上げる。
カーターさんは怪我をポーションで治していた。
ちなみに眠っていた奴らにも起きられると面倒なので、
マインドショックで気絶状態にしておく。
本来、ここで、街の衛兵に突き出すのが普通なのだろうが、
それでは、根本的に解決されるか分からない。
なので、店から荷馬車を借りて、
カーターさんとミーナさんに付いて来てもらい、一旦冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドに入り、辺境伯がまだいるか、訊ねる。
辺境伯は少し前に庁舎へ戻ったと聞いてランゴバルドの庁舎へ向かった。
庁舎前でカーターさん達には待って貰い、俺は中に入った。
ランゴバルド辺境伯に緊急の面会を申し入れて、
暫くすると、中に通された。
「アルスか、なにか用か。」と訊いてくる。
そこで、ミーナさんに係わる内容を全てぶちまけた。
辺境伯にとって人攫いなど特段気にする事は無いだろうが、
自分の領地で他の貴族が無法を働いたという事実は辺境伯にとっても
メンツを潰された事になる。
「あの成り上がりどもか。」と唸った。
「その捕まえた奴らは今どこにいる。」と訊いてきたので、
庁舎前で縛り上げて荷馬車に載せていると伝える。
「ちょうど良い。そいつらはこちらで引き取ろう。あやつらの家を取り潰すいい機会だ。ここは任せてもらおう。」
とニヤリと笑った。
フェーゲル準男爵家は1代目が優秀だった。
金銭的に世話になった貴族も多かったが代替わりになって、
継いだ息子はそれをネタに色々と好き勝手やっているという相談を
受けていたようだ。
王の所にもそういった話が出ていると聞いた事があるらしい。
王も気に病んでいたようだから、いい機会だろうと説明してくれた。
「であれば、こちらも。」と言って、奴らからみぐるみ剥いだものの中から、
フェーゲル準男爵家の紋章の入った防具や剣など
証拠になりそうなものは全て出した。
それと、ミーナの人相や特徴を描いた紙や攫った後の
指示書みたいなものも出した。
「これだけ揃っていれば、こちらもやりやすい。そのカーターという商人とミーナという冒険者にも安心するよう言っておいてくれ。」
これで、安心できるだろう。
部屋を出て、付いてきた庁舎の衛兵に男たちを引き渡した。
辺境伯が何とかしてくれるという話を2人にして、安心するよう伝えた。
「いやあ、アルスさんには、いつも助かっています。本当にありがとうございます。」
カーターさんは荷馬車を操作しながら礼を言ってきた。
ミーナさんにも礼を言われる。
一度、カーターさんの店の前へ戻り、そこで別れた。
カーターさんは何かお礼をと言っていたが、店も結構壊されているし、
要らないと答えた。
再び、冒険者ギルドに戻る。
王都の南へ行くのに仕事をしながら行くか、
乗合馬車で行くかを決めるためだ。
王都に行く商人の護衛はあったが、
どれも村々を経由していくものばかりだった。
乗合馬車は、明日、朝に出発するものがある。これで行くのが良いだろう。
ヘレンさんに、王都へ行くので、暫く戻らないと伝えておく。
そう言えば、馬車の乗り心地は正直良くない。
座布団みたいな物があれば、便利だろう。
まずは、乗合馬車の乗車券を買いに行く。
乗車券と言っても紙のようなものではなく、
木の板に番号が書かれたものだった。
乗る時にこの木の板と名前を言う必要があるらしい。
なので、盗まれても、名前が分からなければ使えないという仕組みらしい。
次に座布団みたいな物を探すことにした。
一応あるにはあったが、中に綿やスポンジが入っているわけではなく、
布切れを入れただけのものだった。
無いよりは全然マシだが、仕方ない。これを買っておく。
これが思ったより高かった。金貨1枚もした。
これで出発の準備は一応整った。
宿屋へ戻り、休むことにした。
そういえば、今日は昼食べそこなっちゃったな。
リリーとユミコと話をしながらふと思い出していた。




