4日目 常設依頼と人助け
●4日目
朝、目が覚めると不思議と昨日の疲労感は無くなっていた。
とりあえず、かなりお腹が空いている。
今日は午前中は買い物をして必要なものを揃えよう。
ぶらぶら買い物をし、ある程度の生活用品は買った。
服やタオル代わりの布切れ、水筒、保存用パン2本それと解体用に小型ナイフ、
実験用に温かい串焼き1本。
残り銀貨11枚か、はぁ、貧乏だなぁ。
先程買った肉挟みパンをかじりながら、昨日までのギルドの中を思い浮かべる。
これだけ魔法が強いのなら、冒険者に魔法使いが多くても良いように思う。
だが、実際はそれ程多くはなかった。ぱっと見、魔法使いみたいな杖持ちは、
数パーティーに1人いるかいないかという感じだ。そして魔法使いのいない
パーティーには弓持ちが必ずと言って良いくらいいた。
魔法使いがいるパーティーには弓持ちはいたりいなかったりといったところだ。
そうすると、魔法の取得というのは難しいのだろうか。
それとも俺の魔法がおかしいのだろうか。
何にしてもここは偽装しておく必要がありそうだ。
魔法発動体には杖や指輪があるらしいが、指輪はあまり使われていないみたいだ。
本には、杖の方が扱いやすいのと手軽に入手でるからという事らしい。
発動体の杖だと偽装は難しそうだから、ここはあえて指輪をしておこう。
という事で雑貨店で安物の指輪を購入しておく。
午後になり、ギルドに来た。
Fランクの仕事、ラノベでは超ド定番の薬草採取。
これは例にもれず、常設依頼という事で期限なし、5本以上採取で1本銀貨3枚。
つまり、最低銀貨15枚の仕事である。
そして、待ちに待った最初に取得していた物品鑑定スキル。
これがあれば、どれが薬草か間違えることはない。
今日はヘレンさんは休みだったので、違う人に常設依頼について確認をした。
薬草は採取して2日以上そのままにしておくと価値が下がるらしい。
生け花のように水に挿せば1週間くらいは平気だという。
その日のうちに買い取ってもらえば問題ないとの事だ。
薬草の種類も確認したし、早速出かけよう。
目指すはエルフ王国方面の草原。
薬草はこの街の西方、エルフ王国との間でよくみられるらしい。
エルフ王国では植物関係の特殊な魔法が盛んでその影響ではないかと
言われていると記述があった。
なので、エルフ王国に近づけば近づくほど多く見られるがあまり近づきすぎると、
最近のエルフと人間は微妙な関係になっているため、トラブルになりやすいらしい。
2、3時間行ったあたりで探すといいよとギルドの職員さんが教えてくれた。
3時間ほど歩いてきたが、見つからない。
物品鑑定Lv1は、1つの物品に対しては鑑定を行える。
Lv2に上げれば、1m四方の複数の物品に対して鑑定ができると
ウインドウの説明にあったから、ここは上げるべきか悩むところだ。
しかもLv1は2ポイントだったのにLv2は10ポイントも使用する。
残り83ポイントしかないがどうするか。このままだと5本すら怪しい。
このまま取れないよりマシだと考え、物品鑑定Lv2を取得する。
ちなみにLv3にするには、20ポイントかかる。
まあいい、薬草をさっさと探そう。
「鑑定、鑑定、鑑定・・・・」
鑑定する事8回目、やっと見つけることができた。
「あったぁー。」どれどれ、これかぁ。こんな陰に隠れてたら見つからないよ。
早速、収納。その後、何となく生えている箇所が分かるようになった。
だいぶ日が傾いてきたな。そろそろ引き上げないと夜になったら面倒だ。
薬草も22本、十分だろう。帰りは街道に沿って帰った方が早そうだ。
低い丘を越えて、もう少しで街道にでるというところで、
荷馬車が止まっているのが見えた。
よく見ると野犬みたいな獣に取り囲まれているのが見える。
馬は怯えきっていて暴れている。
それをどうにかしようと御者がなだめようとしている。
護衛が1人いるようだが、多勢に無勢で近づかれないようにしているが
精一杯に見える。これは助けないと!
そう思った瞬間、体は自然に走り出していた。
ウインドスラッシュの射程ギリギリから連発すれば、何とかなるだろう。
射程内のここなら当たると感じたところで、一番近い野犬っぽいのに向かって
「ウインドスラッシュ!」一発で絶命した。
味方がやられた野犬が数匹こちらに向かってきた。
間髪入れずにウインドスラッシュを連発する。
5匹ほど屠ると、残った野犬どもは一鳴きすると脱兎のごとく逃げて行った。
何とかなったな。
荷馬車に近づき、大丈夫ですかと声をかける。
御者をしていた男が、「いやあ、助かりました」と笑顔でこちらに近づいてきた。
馬はだいぶ落ち着きを取り戻している。
その男は少し小綺麗なジャケットのような服を着ていて、
下級貴族のようななりをしていた。
特徴的なのは若いといっても24、5くらいで、髪が真っ白である事。
少々吊り上がった目が印象的だ。
「私は行商をしているカーターという者です。お名前を伺っても?」
「私はアルスです。お怪我がないようで何よりでした。もう一人の方は大丈夫ですか?」
「彼女は護衛してもらっている冒険者の方です。それよりも凄い魔法をお使いになるのですね。」
そう言い終わると今度は護衛をしていた女性が近づいてきた。
皮鎧にバックラーを腕に装着して、
武器は槍とショートソードをぶら下げている。
髪は茶色でポニーテールにしている。見た目は若い。10代ではなかろうか。
「ありがとな。助かったよ。君が来なければ駄目だったかも。アハハ。でも君の魔法すごかったねー。」
「そんなことないですよ」
「アルスさん」とカーターさんが切り出す。
「もしよければ、お礼を兼ねて今倒したウルフの素材を買い取らせて下さい。色を付けますので。どうでしょう。」
「ええ、構いませんよ。」
「では早速準備しますね」
と言って、腰のナイフを抜いて、倒したウルフを手際よく捌いていく。
「そう言えばまだ、名乗ってなかったね。私はミーナ。ランゴバルドで冒険者をしてるんだ。よろしく。」
「僕はアルス。僕も先日ランゴバルドで冒険者になった新人です。」
「うん。よろしくね。じゃあ私の後輩だね。アハハ。」
「はい。よろしくお願いします。」
「アルス君は、年いくつ?結構若く見えるんだけど。」
「12歳ですよ。」
「へー、12歳でそんな魔法が使えるんだね。すごいねー。もしかしてお貴族様だったり?」
「爺ちゃんと人里離れた所に住んでて、爺ちゃんが亡くなったから街に出てきたんだ。」
「へー大変だねー」などと談笑しているうちに、カーターさんが戻ってきた。
「アルスさんは、この後どうされるのですか。」
カーターさんは剥いだ素材を荷馬車に積みながら話しかけてきた。
「今日は、もうランゴバルドの街に戻る予定です。」と答えると
「よろしければ、馬車に乗っていかれないですか。私どもも街に向かっている途中なので。それと買い取りの支払いもちゃんとできますし。」
「ええ、それではよろしくお願いします。」
そう言って荷馬車の後ろに乗って街に向かっていった。
カーターさんは街の中で店を出していて、そちらは主に奥さんが見ている。
その店の前に停めて、「ちょっと待っていて下さいね」と言って奥へ入っていった。
しばらくすると、「今日の謝礼と買い取りの分です」と小袋を渡された。
中をちらっと見てみると金貨が10枚近く入っていた。
「えっ、こんなに?」というと、
助けて頂いたお礼ですからとニコリとして笑った。
そして、「もし入用ならぜひウチで買い物して下さいね。」と言って別れた。
ミーナさんは街に入った後、依頼票を受け取り、
そのままギルドに行ってしまった。俺もギルドに向かって歩き出す。
顔がにやけている事に気づいたのは、しばらくたってからだった。
ギルドに到着して、依頼の報告と買取りをカウンターで済ませ、
買取り金額の金貨6枚と銀貨6枚を受け取った。
振り向くと、横から「アール―スーくーん」と声を掛けられた。
見るとミーナさんが手招きしている。
「ねぇねぇアルスくん。この後、予定ある?」と覗き込んで聞いてきた。
ちょっとドキッとしながらも「今日はもう帰るだけです。」と答える。
「じゃあ、一緒にご飯でもどうかなぁ?ごちそうするよっ」と
覗いたままの姿勢で聞いてきた。
「えーと、なら、お言葉に甘えまして」と言うと
「行こ行こっ」と手を引っ張って出口に向かう。
「おいしい店あるからそこ行こ。ね。」
着いたお店は、ギルドにも近くて結構繁盛している店だった。
家族連れやカップルや仕事仲間の集まりなど多様なお客がいた。
奥の2人用のテーブルに案内され、嫌いなものないよねと言って
ミーナさんは適当に注文していた。
「今日はホントにありがとね。今日の新しい出会いにかんぱーい。」
カチン!グラスを軽く合わせて飲む。
「甘い。」
「ぶどうジュースだよ。私のはワインだけどね。えへへ。アルスくんもワインが良かった?」
「僕はまだ12歳ですよ。お酒はまだ早いです。」
「そうだねー。今日のお礼だからいっぱい食べてね。いただきまーす」
「じゃあ遠慮なく、いただきます。」
そういえば、こっちの世界でまともな食事は初めてかもしれない。
「アルスくんは、誰かとパーティー組んでないの?」
「この街にきて冒険者になったのは、まだ数日前ですから、一人ですよ。特に知り合いもいませんし。そういうミーナさんはどうなんですか」
「私も一人だよ。前にいくつかパーティーを組んでもらった事もあったけど、どうもね。色々面倒くさい事になっちゃってね。それ以来一人でやってる。でも、一人だと仕事に限りが出ちゃうのが難点だよね。討伐依頼なんかは難しいし、護衛依頼も基本パーティー優先だしね。今回は緊急案件で人が集まらなかったから私一人の護衛になっちゃったけど、今日みたいに複数の魔物の相手が出たらどうしようもないかなぁ。」
ミーナさんはそう言うと一気にワインを飲み干して、追加を注文した。
「それよりアルスくんの魔法すごかったね。あんな凄い魔法は初めて見たよ。」
「ミーナさんは他の人の魔法を見たことがあるんですか?」
「あるよー。でもそんなに強くなかったよ。ゴブリンに火の魔法?撃ってたけど2、3発当ててやっとだもん。しかもなんか呪文っていうのかな。それを唱えるのにそれなりに時間がかかってたから。あれじゃあ、弓の方が効率いいよね。アハハ」
「えっ、そんなに弱いんですか?」
「うーん。なんか人によってかなり違うらしいよ。得意な属性がどうのこうのって。それでも一発で倒せるのは上位の魔法って言ってたかなぁ。そういえば、アルスくんは、杖とか持ってないよね。杖がないと魔法が弱くなっちゃうって聞いてるけど。」
「僕はお爺ちゃんからもらったこの指輪が発動体なんです。杖よりこっちの方が慣れてるから使いやすいんです。」
「へー、指輪とかもあるんだね。」
その後、色々な話をしながら、久々に食べるおいしい料理に舌鼓を打った。
宿に戻り、今日得た話を整理すると、
第一に同じ魔法でも個人差によって威力が全然違う。
第二に俺の魔法は他から見て段違いに威力が大きい。
第三に個人で得手不得手というものがあるらしい。
第四にスキルの取得方法は、自分では意図的に取れない。
訓練の度合い等でそれに近いものが取れるらしい。
第五にSPの概念がない。
第六に魔法の道具や武器も存在する。
という事がわかった。
なんとなくだが、この世界の人間と俺では、世界のルールが違う気がしてきた。
それとも、知らないだけで、同じルールで成長しているのか。
不安を憶えつつも、そのまま眠っていた。