39日目 第四階層
●39日目(グリウス歴863年6月11日)
朝、拠点で本日使う食材を食糧庫へ移す。
昨日交換した矢は、ジェスさんとクロムさんで使う事となった。
ピエールさんは前衛に専念する事になったらしい。
出発前にジェスさんとクロムさんから、簡易な盾を貰った。
これでポイズントードの毒を防ぎながら進む。
一気に3階層へやってきた。ここまで来るのに面白い話を聞いた。
ダンジョンでは時折モンスターホードを引き起こすが、
定期的にモンスターを狩っていればモンスターホードは起こらない。
モンスターホードの起こる原因は、長年徐々に生み出されたモンスターが
ダンジョン内で上限に達するとモンスターは湧かなくなる。
ただその間ダンジョンにモンスターを作るエネルギー的なものが蓄積され、
それの許容量を超えるとモンスターホードになるというモノだ。
あくまでも予測の話らしい。なぜなら、検証できないからだ。
ただ、この話の信憑性というか支持されているのは、
各種族の研究者による研究成果だからなのだとか。
面白い話だが、それが分かった所で何が変わるわけではないので
頭の隅にでも覚えておくことにした。
さて、そうこうしている内にポイズントードの部屋の前まできた。
昨日作った石は今の所、大丈夫なようだ。あとは、盾でポイズントードの
毒液を避けつつ、飛び移りながら駆け抜けるだけだ。
一応、作戦立案と石を作ったものとして、最初に行くと提案したが、
全員から却下された。
最初はシーフ技能のあるジェスさんが、続いてアンジェ、トール、
魔法使い2人、マリア、俺、残り戦士、最後にクロムとなった。
ジェスさんは軽快に飛び移っていく。ほぼ走っているような感覚だ。
その間、ポイズントードの内岩の近くにいる1匹が毒液を吐いたが、
掠りもしなかった。
続いてアンジェ、トールと続いたが、トールさんが渡っている時に、
毒液がトールさんに命中、しかし、盾で防いでいたので、
全く問題ないようだ。
その後、バリントンさんの時にはヒヤッとしたが、
全員無事に通り過ぎる事が出来た。
この先には、一応部屋はあるが、索敵上何もいない。
中に入ると部屋の隅に宝箱が安置されている。クロムさんが例の木の棒で、
宝箱を叩いたり小突いたりしたが何も起こらない。
そして近づき、調べ始める。全員下がるように言って、
ザナッシュさんから盾を借り、木の棒を使って、箱を開けた。
ガキンと金属がぶつかる音がしたが何も起こってないようにも見える。
近づくとクロムさんが
「この宝箱の罠はな。蓋に仕掛けがあって、開けようとすると、無数の針が突き出し、串刺しにするという感じだな。ご丁寧に毒まで塗ってある。」
と教えてくれた。
ただ、無数の針が突き出すと言って人差し指で針の様子を表してくれるのは
ありがたいが、それじゃあ、鬼の真似っぽくなってますよ。
中には、金でできたアクセサリーやメダル、宝石のついたアクセサリーが
ふんだんに入っていた。
「アルスすまないが、この財宝を運べるか」
と訊かれたので、そのまま収納した。
これ以外は特に何もないので、先に進む。この先は階段だ。
今日の本命はここからだ。
階段を下りていくと、扉になっていた。
罠など調べたが何もないので、開ける。
見たところ、部屋の中央に魔法陣が描かれている。鑑定をすると、
セーフルームとなっていた。いきなりセーフルームとは驚きだ。
つまりこの階層にもモンスタールームがあるという事だ。
扉を調べて問題ないようなので、開けた。
ここも1階層と同じような石造りの回廊のようだ。
幅は7m前後になるだろうか。大人3人でも余裕で並んで歩ける。
剣を振り回すことを考えると2人くらいで丁度良いか、という大きさだ。
この道は真っ直ぐ先へ進んでいる。
ここで、索敵を行う。ちょうど500m先で左に通路は折れ曲がっている。
その先は不明だが、この通路の左手横に並行して通路があるのがわかる。
そして、その左側も。更にその左側も。
この形を想像するに、つむじ型の通路と予想できる。
しかも、少しずつ下っているのだ。それを全員に伝える。
それを聞いて、全員が少し考えこむ。
「色々きな臭い構造ですけど、気を付けるのはモンスタールームがどこにあるかという事ですわ。最後であれば、まだマシですが、途中にあったら、挟み撃ちの危険にさらされますわ。」
とマリアさんは言った。
「それもそうだが、俺はこの下り坂が気になる。後ろから何か液体が流れてきたら、それだけで全滅しかねない。液体が水ならまだマシだが、酸とかだったら終わってる。」
とクロムさんが言った。
「強敵が出た場合も厳しいな。仮に撤退するにしても、ずっと上り坂だと、敵の攻撃をかなり食らってしまう恐れがある。」
「挟み撃ちについては、モンスタールームを見つけてから考えよう。強敵についても接敵しなければわからん。今は罠のみ気を付けて進もう。索敵はアルスを全面的に信じるという事で、どうだろう。」
ピエールさんの言葉に、とりあえず皆納得したようだ。
先頭をジェスとクロム、2列目をマークとトール、
3列目をアルスとバリントン、その後ろをアンジェとマリア、
最後尾は大地の牙の戦士勢となった。
5mも進まない内に何かを発見した。
案の定、罠だ。上の壁が動くようになっているらしい。
全員その場から動かないよう言われ、ジェスとクロムは辺りを調べ始める。
だが、何も見つからず、しまいには今きた階段付近も調べている。
結局見つからなかった。
2人の話だと、もし、この罠を発動させて解除する場合、
大量の水とかが流れ込む可能性がある。
その場合、この先には進めなくなるとの事だ。水はいずれ引くだろうが。
いつになるかは見当もつかないという。
このような罠の場合はスイッチを無効化するのが定石らしい。
という訳で、スイッチを探しながら進んでいくことになった。
最初の曲がり角まで来た時に、索敵上モンスターが
こちらに近づいてきているのが分かった。
「前方からモンスターが来ます。」
皆に警戒するよう伝える。
「数は・・・多数、続々とやってきます。敵はゾンビです。うわっ凄い数だ。前方の通路が埋め尽くされてます。マリアさん、バリントンさん援護お願いできますか。僕が先制攻撃をかけます。とにかく数を減らさないと。」
といって前に出る。マリアとバリントンは両脇の斜め後ろに立つ。
「少し引き付けます・・・」
ゾンビのスピードはそれ程速くない。しかし、あまり近づかれたら
対処する時間が減ってしまう。敵が100m付近にくるまで、焦らず待つ。
奥からゾンビの唸り声の合唱が段々大きくなる。
「ア、アルス君、大丈夫か?」
とバリントンさんの声が上ずっている。通常、魔法使いにとって、
敵に近づかれるのは致命的だ。恐れる気持ちは分かる。
「マリアさんと、バリントンさんは抜けてきたゾンビに光魔法を放てるように準備しておいて下さい。」
「ええ、大丈夫ですわ」
とマリアさんが請け負った。ゾンビは100mを超えてきた。
索敵上ではまだまだ後続がやってくる。
「ライトニング!」
指先から出た稲妻がバリバリバリと大きな音を発しながら一直線に迸る。
ライトニングは指先から放たれた電撃が直線状にいるモノ全てに
ダメージを与える。
この電撃は約360mくらいまで貫通する。
通路の直線が500m以上あるので、最大効率でダメージを与えられた。
この一撃で、通路の中央付近にいたゾンビは軒並み屠る事が出来たようだ。
ただ壁際を進んでいたゾンビは、ほぼ無傷に近い。
すでに壁際を進んでいるゾンビは80m付近まで近づいてくる。
俺はバリントンさんの前に立った。
「ライトニング!」
再び指先から稲妻が迸る。一番近いゾンビは50m先にもう来ている。
すかさず、マリアさん側に行き、3発目のライトニングを放つ。
本来、ライトニングを食らったゾンビならライトニングの発火作用で燃えて、
周囲を確認できるようになるし、死体が邪魔で敵の進みが遅くなるはずだ。
しかし、ダンジョンでは死ぬと暫くして死体は消えてしまう。
その為、敵の進みは遅くならないし、本来倒れた状態で
炎が燻ぶっている状態のはずが、それも無くなってしまうのだ。
本当に相手に都合よくできている。
ただ、この3発でゾンビの前線は、300m先に後退した。
数体抜けてきているが、全くダメージが入っていない訳ではないので、
マリアさんのホーリーライトで呆気なく消滅した。
この3撃で、凡そ、600体近く倒せたはずだ。索敵上まだやってくる。
正直足が遅くて助かっている。
メニュー画面を開けて確認する。レベルが2つ上がったいた。
600も倒せば上がるか。この世界のゾンビはかなり弱い部類だ。
動きは遅いし、特殊な攻撃もない。
ただ厄介なのは、大抵大量にいるという事ぐらいだ。
すぐさま、魔力適正の風と光を1つずつレベルを上げておく。
それとこのダンジョンは状態異常のエリアがあるので、
一気に状態異常系のスキルを全部レベルMAXまであげてしまう。
そしてMP自動回復も最大のLv10にする。
そんな事をしている間に、そろそろ、100m圏内にゾンビが入り始めた。
先程と同じようにライトニングを3連発放っていく。
再び前線が後退した頃、ようやく、最後尾を捉える事ができた。
しかし、最後尾にゾンビではない魔物が混ざっていた。ワイトが5体である。
「最後尾が見えてきました。ゾンビは、およそ300体ほどです。それと最後尾にワイトが5体います。ゾンビは何とかしますのでワイトはお願いします。」
と皆に伝える。MPは既に4割切っている。ライトニング3発撃てば、
残り1割しか残らない。回復速度が異常に早いと言っても、これはマズイ。
一応、最後尾のワイトがライトニングの射程内に入り次第、放つ。
ゾンビが5体、ワイトも5体残った。
ワイトにもダメージは入っているはずだ。
そのまま、一旦後ろに下がる。
ワイトはゾンビより格上のアンデッドモンスターだ。
厄介なのは、ダメージを受けると、エナジードレインを受けてしまうことだ。
このエナジードレインは、最悪レベルダウンを引き起こしてしまう。
その場合、時には死に至る事もあれば、スキルを消失してしまう事もある。
勿論、最大HPやMPも失われてしまう厄介な攻撃だ。
その為、前衛は攻撃よりも防御に徹して、後方から攻撃して倒すのが
セオリーとされている。
そして、最も厄介なのは、通常武器が効かないという事だ。
銀製の武器か、魔法をエンチャントされた武器しか役に立たないのだ。
その為、隊列は、ザナッシュとトールの二人で、
その後ろをマリアとテトリアとバリントンに変わる。
5体のゾンビは、テトリアのファイアーボールでとどめを差した。
「残りのワイトが来ます。」
そう、前衛に伝える。
バリントンは、プロテクションシールドを2人にかける。
テトリアはファイアボルトで攻撃する。マリアはライトビュレットを放つ。
2人の放った魔法でワイト2体が沈んだ。
ライトニングのダメージが入っていたのだろう。残り3体。
1体1なら前衛二人が防御に徹していればダメージを受ける事は無いだろう。
あと1体何とかすれば、勝ちが見えてくる。
接敵直前に、マリアはホーリーライトを唱えた。
そして1体が崩れ去った。
「すみません。一旦下がります。」そう言って、マリアは後ろに退避した。
ガキンガキンとワイトの攻撃が前衛の盾に当たった音が聞こえた。
テトリアは前衛の隙間を狙って、ファイアボルトを放つ。
バリントンはホーリーライトを唱える。
すると1体がまた崩れ去った。残り1体。
「すみません。私も下がります。」
とバリントンが言った。その入れ替わりに、アンジェが入った。
ザナッシュは、盾のスキル、シールドノックバックで相手を吹き飛ばした。
ダメージは入っていないが、態勢を崩したのと1mほど距離が開いていた。
「ファイアボルト!」
アンジェとテトリアはそれを見逃さず、同時に魔法を放った。
2人の攻撃を受けて、ようやくワイトも全滅した。
もう一度メニュー画面を確認する。
レベルアップ後、ゾンビ300体近く倒したのでレベルがまた上がっていた。
そこで、風と光の魔力属性を1つずつ上げた。
一息ついた後、大量に転がっている魔石の回収に移った。
魔石の数は約1500個。異空間収納は範囲内にあれば、
手を触れずに収納できるが目視は必要なのだ。
結局回収だけで、30分くらいかかってしまった。
回収しながら進み、次の曲がり角まで来た。
やはり、この階層は渦巻き状になっていた。
ただし、この先に渦巻き状の外側、つまり右手に部屋がある。
ちょうど、通路の半分の位置に入り口がある。
索敵には特に反応は無いので、その部屋の前までいく。扉は無い。
ここまで、一応罠を確認しながら来たが、普通に考えて罠は無いはずだ。
ゾンビが罠の発動スイッチを意図的に通過するなどありえないからだ。
しかし、魔法的な発動の可能性も捨てきれないので、慎重に進んできた。
部屋の周囲も罠は見つからない。部屋を鑑定する。
予想通り、モンスタールームだった。魔法陣も見える。
「さて、どうしますか。」
とマリアさんが訊いてくる。
「今までモンスタールームが1つの階層に2か所以上あるとは聞いた事が無い。だから、モンスタールームはここだけと考えても問題ないだろう。」
とアンジェさんが答えた。
「あれだけの数を倒したんだ。魔物が出るにしても、それなりに時間はかかるんじゃないか。その間に先に進んでしまおう。」
ピエールさんはそう提案した。全員同意して、先に進むこととした。
暫く、罠がないか調べながら、進んでいく。
すると、ちょうど一周してきた所で、罠のスイッチが見つかった。
たぶんこれは、入り口の罠に繋がっているのだろうというのが
ジェスさんとクロムさんの一致した意見だった。
解除は難しいとの事なので、分かりやすいように目印をつけておく。
そのまま、罠を調べつつ、先へ進む。
途中、休憩を挟んで軽く食事を済ませる。
数時間後、ようやく扉の前にやってきた。
扉には罠は無かったが、床には小さい丸い穴が2つほど空いていた。
特に罠などは見つからず、排水溝ではないかとの結論になった。
扉を開けると、その先は階段になっていた。ここまでかなり時間がかかった。
マリアさんやバリントンさんのMPも心もとないので、
今日はここまでで帰還する事になった。
砦に戻ったのは、日もだいぶ落ちた頃だった。
砦内は、兵舎が完成していたが、家具などは一切なく、
まだ雑魚寝の状態である。
また、食事を作るスペースには簡易だが屋根が出来ていたり、
テーブルなどもいくつか置かれ始めていた。
また、兵舎以外の建物も作り始めていた。
だんだんと拠点らしくなってきた。
ちなみに補給部隊は今日は来なかったらしい。




