38日目 第三階層
●38日目(グリウス歴863年6月10日)
今日は、宿舎の建築に入るらしい。順調にいけば今日にも使えるとの事だ。
ただし、全員ではないし個室でもない。
それでも屋根のある所で眠れるのは嬉しい事だ。
今日は第3層の攻略だ。
微妙に疲れが残っているが、気を引き締めていきたい。
1階層でコボルド3体と遭遇したが、難なく撃破。
2階層の下り階段の前までやってきた。
罠が無い事を確認して入っていく。索敵の通り、下に続く階段だ。
階段を下りた先は、1階と同じような石造りの通路となっていた。
ただ1か所違う点があるとしたら、それは足元が泥水で覆われていた。
クロムさんが罠発動用に持っていた木の棒で深さを測る。
だいたい30~40cmくらいだった。ちょうど膝下までいかないくらいだ。
問題はそれがずっと通路に続いているということだ。
通路の先に扉が1つ見えるが、数段高くなっていて、
扉は開くようになっているみたいだ。
つまり、この泥水は意図的に設置されていると考えた方が良い。
足場が悪いという事は戦闘になった時に回避できない事を意味する。
アンジェさんやピエールさんのような軽戦士スタイルの人は
かなり不利となる事が予想される。
その為、両チームとも、このエリアでは盾持ちが先頭に立つこととなった。
最初は索敵から始める。この階層は最初は真っ直ぐ道が続いており、
その道には右左右左と交互に4部屋ある。部屋から続いている道は無い。
その先は左に折れ曲がっていて正面に部屋がある。
その奥にまた道が続いている。そう言った感じで、羊皮紙に地図を描く。
それを大地の牙の方にも写した。
最初は大地の牙が行くとピエールさんが言った。
ザナッシュさんが先頭に立ち、その横でクロムさんが棒で突きながら
足元を確認しながら進んでいく。
2列目にピエールさんと火魔法使いのテトリアさんが並ぶ、
その後ろは水土魔法使いのバリントンさん、
そして最後尾に戦鎚のマークさんという並びだ。
少し間を空けてからこちらも進んでいく。
先頭はトールさん、その横にジェスさん、2列目に俺とアンジェさん、
最後尾はマリアさんとなった。
索敵反応では、まだ先だが通路の曲がり角に1体魔物がいる。
扉の2番目にも索敵反応がある。数は2体。
まず最初の扉をクロムさんが調べている。
扉に罠があるようで、他の人達は、泥水の中に戻る形で離れた。
「おやっ?あの扉内側に開くんですね。」
とジェスさんに話しかけた。
「よく気づいたな。アルスくん。たぶんあれは、内側に扉を開くと中のスイッチに当たって、何かが飛んでくる仕掛けじゃないかな。」
クロムさんの動きを見ながらそう予想した。
クロムさんは、壁に張り付きながらそっと扉を少しだけ開ける。
その後は、木の棒を使って勢いよく扉を押し開けた。
扉が開いたと思った瞬間、キンッと高い金属音がしたと思ったら
扉の反対側の壁に直径1cmくらいある金属製の針というか杭というか、
それが飛んできて壁にはじかれ泥水の中に落ちた。
クロムさんは、鏡で部屋の中を確認した後、部屋の中に滑り込んだ。
部屋の中を見るとクロムさんは、正面に空いたいくつかの穴に
小石を入れていた。そして、スイッチの部分を小さい金槌で破壊した。
その後、部屋の中に大地の牙は入っていった。
俺達のチームはそれを過ぎて次の部屋に行く。
この部屋には2体いるのが分かっている。
魔物の名前はスライムとなっていた。
「スライムが2体いますね。」
そういったら、ジェスさんが持っていた松明に火をつけた。
トールさんは一旦下がって、アンジェさんとジェスさんで入るようだ。
ジェスさんが合図して扉を開ける。一見、中には何もいないように見える。
外側からジェスさんは中の様子を見た上で、扉の上の壁、
室内側に松明の火があたる様に持ち始めた。
すると、上から、ベチャっと水のようなものが落ちてきた。
その落ちてきたものに、アンジェさんがファイアボルトを放った。
すると、その水のようなものは蒸発するが如き、消えていき、
魔石が残されていた。
ジェスさんは松明を左右に振ってスライムを炙り出しているようだ。
すると、またしてもスライムが上から落ちてきた。
あとはアンジェさんのファイアボルトでさっきと同じように魔石と化した。
「スライムは今のように待ち伏せしてるから、憶えておくといいよ。」
と俺に言った。
「よく憶えておきます。」そういって、笑顔で返した。
索敵反応はないので、部屋にジェスさんが入る。罠が無いか慎重に見ていく。すぐにOKのサインが出て中に入る。
「スライムがいる時点で罠はないと思うが念の為だね。」
「なんでスライムがいると罠が無いんですか。」ジェスさんに訊く。
「何故って、スライムは知能が無いから、あちこち動き回って罠が発動しちゃうだろ。それじゃあ、罠の意味がないじゃん。」と笑って答える。
この部屋には何もなかった。
大地の牙は3番目部屋に取り掛かっていた。扉には何もなかったようで、
扉は開いていた。クロムさんはしゃがんだ状態で部屋の外から観察している。
どうやら、魔法陣を見つけたようだ。
こちらが2番目の部屋を出た時に、こちらに魔法陣が何かわかるかと
声がかかった。
鑑定をしてみる。結果セーフルームと分かった。
「鑑定でセーフルームと出ています。」そう伝えると、
「ありがとう」と返ってきて、中に入っていった。
4番目の部屋の前に来た。ジェスさんが扉を調べている。
通路の先の曲がり角で待ち構えている反応が気になっていた。
ここからはまだ距離があるが、さっきから一向に動かない。
ジェスさんが扉を開く。そして中を観察し始めた。
後ろに大地の牙が待っていた。
ジェスさんがクロムさんを呼んでいた。何かあるらしい。道をあける。
その間、アンジェさんとピエールさんに曲がり角の魔物について相談する。
「あそこの曲がり角にクロコダイルがいます。どう対処しますか。さっきから全く動いていないんです。」
「泥の中にワニ公かぁ」とめんどくさそうにピエールさんが言った。
「確かに面倒だな。しかも角で陣取ってるのもいやらしい。」
アンジェさんも同意した。
すると突然後ろからガコンという音がした。
振り返ると部屋の中に大きな穴が開いていた。
「クロムありがとう。助かった。」
ジェスさんはクロムさんに礼を言った。
「この仕掛けはデカかったですからね。俺でも一人じゃ解除できなかったと思うよ。」
そう言って、2人でハイタッチしていた。
「このピットは壊せないですね。」とクロム。
「まあ解除方法も確定したし、いいんじゃない。」
とジェスさんが答えている。
「じゃあこちらも片付けますか。試したい魔法があるのでやってもいいですか。」
とアンジェさんとピエールさんに訊く。
「ああ、いいぞ」「やっちまえ」2人の返答が返ってくる。
「トランス・マッドトゥロック!」
すると通路の角の泥が突然3平方メートルの石に変わった。
「行ってみましょう。」そう言って2人を誘う。
角に近づくと、バシャバシャと何かが藻掻いている音が聞こえる。
見ると大きなワニが口先から頭半分まで石に埋まっていた。
俺は石に乗り、素早くショートソードを取ると、そのままワニに突き刺した。しばらくするとワニは動かなくなり、消えていった。
魔石が残ったがすぐに沈みそうだったので、急いで取り上げる。
「変わった魔法だ」とアンジェさんは呟いた。
その先にある部屋はかなり大きめだった。
しかし、先程の部屋とは違い、中は泥水で浸っていた。
そして、その中からいつの間にか索敵反応が現れた。
「さっきまでいなかったのに。いきなり現れるという事は、もしかして、ここはモンスタールームなのかな。」
と独り言のように言葉を発した。
鑑定で確かめると、やはり、モンスタールームとなっている。
「皆さん、ここはモンスタールームです。通路はこの先にしかありません。今この中にポイズントードが10体現れました。」
と全員に聞こえるように伝えた。
「随分面倒な階層だなここは。アルス、さっきみたいに全部石にできないのか。」
とピエールさんが訊いてきた。
「こんな広い場所は無理ですよ。さっきのだって意外とMP消費が半端ないんですから。」と答える。
「奴らの吐く液には気を付けろ。」
「作戦を思いつきましたわ。前衛は盾で毒液を防いでください。弓と魔法で1匹ずつ仕留めていきます。たくさん押し寄せてきたら、後退して先程アルス君が作ってくれた足場の石を利用して、上から弓と魔法で攻撃しましょう。」
とマリアさんが提案した。
「よし、それで行くぞ。前衛はザナッシュ、トール。二人に任せていいか。」
「おう!」と2人とも返事を返す。
「まずは近い奴から行くぞ」とピールさんが号令する。
ポイズントードは顔半分しか泥から出ておらず、当てにくい。
ただ、攻撃されるとこちらに近づくために動くと
体の半分が見えるようになる。
そこを狙って、弓を射る。
ジェス、クロム、ピエールの3人がメインで攻撃する。
魔法使いは、ギリギリまで攻撃しない。
特にテトリアとアンジェの火魔法は相性が悪い。
ポイズントード自体は火に弱いが、
この泥水のせいで威力が半減しているのだ。
バリントンとマリアと俺は、弓で仕留め損なったものだけ狙っていく。
すでに8体倒している魔石も一応回収できている。
しかし、魔物が減っていないのだ。次から次へと増えるのだ。
索敵上は今7体いる。
「もう、矢が無くなりそうだ。」とピエールさんが言う。
索敵で見るとモンスタールームの先に部屋があり、
そのすぐ先に階段があるようだ。
「皆さん、階段の位置が特定できました。今日は一旦引いて、出直しませんか。」と提案する。
「チッ、ここまで倒したのに仕方ねぇか」
と矢がなくなったピエールさんは答えた。
「試しにやれるだけやって明日に備えます。」
今なら、トランス・マッドトゥロックを3回放つことができる。
これを部屋の入り口から、1m置きに泥を石に変える。
これが壊されなければ、明日はこれで、走り抜けていけるはずだ。
「トランス・マッドトゥロック!」・・・
一度2階層へ戻り、かなり遅くなったが昼食にした。
皆、空腹でカリカリし始めていたからだ。
食欲を満たし、皆それぞれが休憩する。
「あと、何本矢はあるんですか」とピエールさんに確認する。
「拠点に帰ればあと20本だな。クロムはどうだ。」
「自分は今5本と拠点に20本です。」とクロムさんは答える。
「ジェスさんはどうです。」と確認する。
「俺はもう全部使っちまったから、拠点に同じく20本ってところだな。」
「マリアさん、バリントンさん、ライトビュレットだとあと何発くらい打てそうですか。」
「私は10回は撃てるけど。」とマリアさん。
「自分はあと3回がいいとこですかね」とバリントンさんが答えてくれた。
「テトリアさんとアンジェさんにも援護してもらえば、もうちょい出来るかな?」
「皆さん、すみません。先程撤退すると言ったのですが、明日の為に、もう一度さっきのカエル部屋に行ってもらっていいですか。実は、MPだいぶ回復したので、結構、石作れちゃいそうなんですよね。上手くできれば今日中に反対側に行ける石の道ができるかもしれません。どうでしょう。」
「MP回復ってどうゆうこと?」
マリアさんがびっくりしている。他の人も唖然とした表情を浮かべている。
「いや、特殊なスキルを持ってて、MP回復が人より早いんですよ。そんな事よりどうですか。」と皆に訊く。
一同顔を見合わせる。
さて、また戻ってきたが、さっき魔法で変えた石は大丈夫のようだ。
ポイズントードはまた10体まで増えている。
相変わらず泥の中に埋まっている。そして入り口の近くにはいない。
部屋に入らず、トランス・マッドトゥロックの魔法をかけていく。
1回、2回、3回、4回、5回、6回。
何とか向こうの出口近くまで作る事が出来た。
これで、明日まで壊されなければ、明日は、すぐに次の階層へ行けるだろう。
作っている間、魔物は新しく現れる事は無かったので助かった。
拠点に戻った。日が落ちるまでまだ2、3時間はありそうだ。
ピエールさんが早速兵士の人に矢を分けてもらえないか交渉している。
拠点では、オーガ2体が現れたそうだ。弓を射かけて追い払ったが、
仲間を増やして再び来るかもしれないと厳重な見張りを立てていた。
兵舎はだいぶ出来上がっていているが、まだ完成はしていない。
ジェスさんとクロムさんは、工員の方達から道具を借りて
何か作り始めていた。
「何を作っているんですか。」ジェスさんに訊ねる。
「アルスか、秘密兵器さ。なーんてな。ポイズントードのエリアを安全に渡れるように、簡易な盾を作ってるのさ。戦闘には耐えられなくても毒液を防げれば、安心して渡れるだろ。俺とクロムならこの程度の物は朝飯前さ。」
と答えた。
確かに、この中では、2人はレンジャーシーフなだけあり、
器用さではピカイチである。
「そうなんですね。頑張ってください。」とエールを送る。
「おうさ。」といって、また、作り始めた。
トールさん、ザナッシュさん、マークさん、戦士組の3人は資材を
運んだりと工員の方たちの手伝いをしている。
「アルス君、ちょっといいかな。」
と工員のリーダーで、確か名前はゴドーさんだったか。
「何でしょうか。ゴドーさん」
と珍しい人から声を掛けられて少し緊張する。
「折り入って頼みがあるんだが、こっちに来る時に倒木をアイテムボックスに仕舞っていると聞いてね。実は建築資材が足りなくなりつつあるんだ。向こうを出発する前に急遽用意した資材なもので、数を間違えていたり、間違った加工がされていたり、必要のない物が混ざっていたりでね。困っているんだ。もし、使わないのであれば、倒木で使えそうなのを少しで構わないから譲ってもらえないだろうか。」
とゴドーさんは、困った表情で相談に来た。
「ああ、それなら全然かまいませんよ。というか、僕は倒木なんか使いませんし、どこに捨てようか悩んでたくらいですから、そうだ、いっそのこと全部差し上げます。この中では、邪魔になりそうなので、外に積んでおきますよ。」
と答えた。
異空間収納が無制限になった事で、内容量を気にしなくなっていたが、
すっかり忘れていた。無駄に収納していてもしょうがないし、
これは渡りに舟という状況ではないだろうか。
「助かるよ。」そう言って、ゴドーさんと一緒に、砦の外に出た。
なるべく、邪魔にならないように、いくつかに仕訳けて取り出していく。
まずは、長くて太めの木、次に、それ以外の真っ直ぐな木、
次に折れて薪とかにできそうな木、根のついた木、それ以外。
といった感じだ。
ただ、流石に量が半端ない。
この量なら家が2、30軒くらい立てられるんじゃないかという量だ。
これを見たゴドーさんは目を丸くして、開いた口が塞がらない様だった。
とはいえ、これで資材は加工すれば困らないだろう。
砦内に戻ると、アンジェさんとマリアさんと工員の1人が
何か話し合っているようだ。
「どうしたんですか。」とマリアさんに訊く。
「アルス君じゃない。今、この方、食事係の方と話していたのですが、食料がこのままだと不足してしまうかもと心配されてまして。食料の調達ができないか相談されていたんですわ。」
と少々困ったように答えた。
「そんなに厳しいのですか。」
「本来なら、道を作りながら、こっちに来る予定だったでしょ。食料に関しては、その都度、補給予定だったみたい。それが予定が変わって取り敢えず、向こうで最初に準備していた食料を持てるだけ持ってきたのですが、この辺りは予想以上に温かいので、駄目になりそうな食料が出始めているというの。プリザーベーションバッグとかも活用しているようなのですが、人数が人数なだけに入りきらないようなのですわ。」
と教えてくれる。
「だったら、僕が持って来ましょうか。」と申し出る。
「僕の収納は時間が停止しているようなので腐りませんよ。」と説明する。
「それに先程、不要な木材を捨てられましたし。」
と言うと、食事係の人は、是非にとお願いしてきた。
「では、食料で腐りそうなものは預かります。毎朝、その日の必要な食材を言って下さい。ダンジョンに行く前にお渡ししますので、それでいいですか。」
そういうと、食事係の方も是非是非と食糧庫の方へ俺の手を引っ張って
食糧庫に駆けだした。預かる食料を一応メモして、
在庫が分かりやすいようにした。
それが終わり食糧庫から出てくると、ピエールさんと兵士の方が
まだ話していた。
「なにか、問題でもありましたか。」とピエールさんに訊く。
「矢を分けてもらえないか交渉しているのだが、矢を分けると、弓兵の武器が無くなるというんだ。こっちにも予備武器があればいいのだが、今日の戦闘で、弓と槍2本が壊れてしまったらしい。それでただでさえ戦力がダウンしているのにこのままでは拠点を守り切れないというのだ。ダンジョンを攻略するのが第一目標なんだから、なんとか頼むと言ってるのだが。納得してくれないんだ。」
とピエールさんが説明した。
「兵士長さん、槍4本と交換じゃ駄目ですか。」と訊いてみる。
「駄目じゃないが、即席の槍では厳しいな。」と首を横に振る。
「これでは、いかがですか。」と以前オークから頂いた槍4本を出す。
兵士長はそれを手に取ってみる。
「ほう、随分まともな槍じゃないか。強度も大丈夫そうだし。これなら、矢40本と交換してもいいぞ。」
交渉は成立した。
いくつかの問題点も解消したし、予定通りならば、明日か明後日には道路建設部隊と補給部隊がやってくるはずだ。明日も頑張ろう。




