37日目 第二階層
●37日目(グリウス歴863年6月9日)
今日は第2層目の探索をする予定だ。
拠点設置は本日中に門と見張り用の櫓の完成を目指すようだ。
昨日は、魔物の襲撃は無かったとの事だが、安心はできない。
兵士達の戦闘力は個人では弱いが、連携しての戦闘は流石に
訓練されているようで、乱戦にさえならなければある程度対処できるようだ。
朝食を済ませ、早速、ダンジョンに向かう事にした。
第一階層は、念の為ミノタウルスのいた部屋は避けて、
別ルートで階段まで行く事になった。
特に問題なく到着し、2チーム揃って降りていく。
かなり長い階段を降りていくと、扉で終わっていた。
特に罠などは無いようなので、扉を開ける。
扉の先には、ゴツゴツした岩肌が剥き出しとなった
かなり広い洞窟が広がっていた。1階層とは様相が全然違っている。
すぐに索敵を行ってみる。洞窟は索敵範囲で横幅1kmくらいあり、
この入り口は丁度中央に当たる位置だった。
奥は500m先まで続いているようだ。高さも高い所では15mくらいある。
ただ、索敵に掛かった生物の量が多い。
天井には蝙蝠が多数おり、また、小動物も多数生息しているようだ。
また、地面や壁には所々に光苔が密生しており、仄かに光っている。
魔物のようなものは今の所、見当たらない。注意しつつ進んでいく。
100mほど進んだ時に、索敵上左手の奥に池なのか湖なのかが現れた。
水の中にも生物がいるようである。
更に、右手奥に、多数の索敵反応が出た。ゴブリンだ。
ただし、数が50以上いる。
もしかしたら、この中でゴブリン達が生活しているのかもしれない。
ゴブリン達が密集している辺りには横穴がいくつもあるようだ。
ただ、どれも浅く、深い横穴は無いようだ。
一旦、停止し、みんなにこの状況を知らせる。
「ゴブリンの数が50以上いるという事は、リーダー格のゴブリンが必ずいるはずだ。そして、そのリーダーによって脅威度は全く違うものになる。」
とピエールさんが言う。
「全体像をもう少し把握したい。数は50くらいで間違いないのか。」
とアンジェさんは訊いてきた。
「まだ、索敵範囲ギリギリなので、現状最低50ほどしかわかりません。」
と答える。
「偵察に行ってきましょうか。」と提案してみる。
「では、後方支援で、俺とジェスが弓で援護できる位置で付いて行こう。」
とピエールさんが提案してきた。
「すまない。頼む。」とアンジェさんは頭を下げる。
俺は索敵に注意しながら進んでいく。その10m後方から2人はついて来る。
近くに魔物はいない。100m程進んだ所で全体像が見えてきた。
数は約80。そのうち半分が横穴の中にいる。
ゴブリンの中にボブゴブリンが5体。ゴブリンメイジが2体。
ゴブリンロード1体が特定できた。
これ以上近づくのは危険なので、一度戻る事にした。
「ゴブリンロードにゴブリンメイジ、ホブゴブリンか。しかも数は80体。この人数なら勝てなくはないだろうが、こちらも被害がでる可能性が高いな。」
ピエールさんが感想を述べた。
「問題はゴブリン80体もそうですが、それだけ大きな戦闘をしてしまうと、他の所から別のモンスターを呼び寄せる事にもなりかねないですわ」
とマリアさんは言う。
「ならば、ゴブリンの反対側を進んでみて、この洞窟の全体を調べた上で、対処したらどうだろう。」
とトールさんが提案する。
それが妥当かも知れないと何人かが賛同した。
「決まりだな。アルスを先頭にして進んでみよう。後方の警戒はクロムにやってもらおう。」
そうしてゴブリンの集落から離れるように奥へと進んでいく。
まず目指すは水場の方へ向かう。
その水場は、どうやら地底湖のようだ。見えている大きさは
それ程ではないが、水の澄み具合から、
壁の奥まで続いていてもおかしくない。
地底湖には魔物の気配はないようだ。小型の魚がいるのはわかる。
また、ここはゴブリンも利用している形跡がある。
この辺りは、光苔の他にも、普通の苔も生えている。
ここに留まるのは危険なので、先に進む。
湖を超えて、更に進むと両脇の壁が狭まっていく。
ちょうど、入り口の反対側に当たる所に扉が見えてきた。
その扉の前まで行く。
索敵で見る限り、この先は階段になっている。
「ゴブリンの集落付近で確認できていない場所はありますが、ここにはセーフルームはなさそうですね。」
と皆に伝える。
「すると、あのゴブリン達はダンジョンのモンスターではない可能性もあるな。そうすると、ここで自活しているのか?」
とアンジェさんは自問している。
「ただ、このまま放置しても今後、襲われる可能性もあります。毎回階層を降りるのに、隠れながらというのは厳しいのではないでしょうか」
とマリアさんは言う。
「そうだな。殲滅しておいた方が、今後の為だろう。」
とピエールさんも同意する。
「問題はどうやって戦うかだけど、80体もいると魔法職を守りながらは難しいと思う。長期戦になるが、なるべく少数を相手にしていきたい。」
とアンジェさんが言った。
「一つ作戦があります。あの地底湖にはゴブリンがきている形跡がありました。なので、そこで待ち伏せして数を減らしていきましょう。ただ、いずれ異変に気付いて、大量に押し寄せてくるかもしれませんが、数を減らせるのは間違いないと思います。もう一つは、階段の扉内で戦うというのも考えられますが、そこまでおびき寄せる方法とそこまで追ってくるのかという問題もあります。わざわざこのような洞窟内で暮らしているという事は階段に近づくのは危険と考えているかもしれません。そうなると、こちらの思惑に乗らずに、警戒心だけ煽って、結局全部といっぺんに戦わざるを得ない可能性がでてきます。階段で戦えれば、一番楽なのですが。」
と皆に提案してみる。
「しかし、地底湖付近で待ち伏せて、戦闘しても結局そぐにバレてしまうのではないですか。」
とマリアさんは訊き返してきた。
「そこは、私の魔法で音を消します。あまり多用出来ませんが、音が漏れる事は無いでしょう。ただ、皆さんも音が聞こえなくなるんで、そこは気を付けてください。」
と答える。
そして、全員が納得の上、待ち伏せすることになった。
地底湖の周りはゴツゴツした岩が、せり上がっている箇所がいくつかあり、
そこの影に身を潜ませている。
1時間ほど経つだろうか。索敵にこちらへ向かってくる集団を捉えた。
数は12体だ。皆に来たことを伝え、そのまま潜んでいてもらう。
ゴブリン達は、水を汲みにきたようだ。
10体のゴブリンは小さい水瓶を持っている。
2体はその護衛だろうか、石斧を持っていた。
作戦通りゴブリン達が水辺まで来るのを待つ。
そして水を汲み始めた瞬間に魔法を発動させる。
「ワイデンスペル・サイレンス!」
ゴブリン達は突然周囲の音が聞こえなくなった事に戸惑っている。
その隙に、アンジェ、マリア、ザナッシュ、マーク、トールが
ゴブリンに突撃していく。
ジェス、ピエール、クロムは、最後尾にいる石斧を持った2体に矢を放つ。
魔法使い達は周囲を警戒している。
ピエールの放った矢は手前にいたゴブリンの心臓を突き刺し、倒した。
その奥にいたゴブリンはジェスとクロムが矢を射かけ、
胸と腹に矢が刺さり倒れた。
残りのゴブリン達は武器らしいものは持っておらず、
あっという間に切り伏せられていった。
そのゴブリン達は、やはり倒れても消えなかった。
血の匂いが広がる前に、全て収納していく。
この狭い空間ではもしかしたら感づかれたかもしれないが
やらないよりマシなはずだ。残りのゴブリンはまだ70弱はいる。
しかも今倒したゴブリン達は戦力的に弱い者達と思われる。
地面に残っている血は水を流して処理する。
それらが終わり、再び、岩陰に隠れた。
その後、軽く食事をそれぞれ済ませておく。
戦闘から2時間経った頃だろうか、今度は5体のゴブリンがやってきた。
一体は弓持ちで、残りは石槍を持っている。
そのゴブリン達も周囲を警戒しつつ、水辺に近づいてきた。
固まってきてくれたのは、有難い。先程と同じように魔法を発動させる。
「ワイデンスペル・サイレンス!」
それと同時に、矢が放たれる。
矢は弓を持っていたゴブリンに3本とも突き刺さる。
そして他のゴブリン達は何か叫ぼうとしたが声にならない事に動揺している。
ただ先程と違って、一応戦闘態勢にはなっていた。
こちらの前衛が突撃してくるのをゴブリン達は反撃しようと試みたが、
程度の低い石槍では相手にならない。石槍は簡単に折られ、
あっという間にゴブリン達は制圧されてしまった。
すぐさま、死体を回収する。
戦闘が始まった時に、その後方から1体のゴブリンが索敵内に入ってきたが、
すぐに引き返して言ったのを見落とさなかった。
その事を皆に伝えて、ここで囲まれる危険を避けるために、
一度上り階段の方へ退避する事になった。
様子を探るために、ゴブリン集落の方に近づきつつ戻ったのだが、
集落内の動きが慌ただしくなっているのは分かった。
「確実にバレましたね」皆にそう伝えた。
階段前で、再度作戦を練り直す。
「一番厄介なのは、ゴブリンメイジだ。それと乱戦になると夜目が効くゴブリンの方が有利な事も問題だ。ただ、先程戦った感じでは、さほどレベルの高いものがいるようには感じなかった。さて、どうしたものか」
とピエールさんは皆に訊ねた。
誰も良い案が出せずに、考え込んでいる。
「少し、休憩しましょう。ずっと待ち伏せしていて疲れていると思います。ゴブリン達がこちらに来ている様子もないですし。」
そう言って皆に休憩するよう促した。
1時間ほど休憩して、中には談笑する者もいたが、
その間、ゴブリン達は索敵範囲にやってくることはなかった。
「偵察にすら来ませんねー。」
と誰に言うでもなく言葉を発した。
扉で索敵が阻害されるのを考慮し、敢えて扉は開いている。
「とりあえず、偵察してきましょうか」と申し出る。
「だったら、もう全員で行かないか。こんな所で時間を掛けていても仕方ない。強襲しよう。」
とアンジェさんは言った。
この人考えるの辞めたのか。
「強襲は別にして、状況が分からないと作戦も何もあったもんじゃないですから、私が一人で偵察に行くか、皆さんで様子を見に行くか決めましょう。」
と再度訊いた。そして結局、全員で様子を見に行くこととなった。
索敵しつつ進んでいく。そろそろゴブリン達の集落が索敵範囲に入る頃だ。
皆に注意を促し、更に進んでいく。
しかし、集落のあたりにはゴブリンの反応はない。
そしてもっと近づいたが、やはり全ていなくなっていた。
皆にそれを伝えて、集落の方へ向かう。集落に近づき分かった事だが、
集落の一角に1本、横穴が伸びている道がある。
ただし、途中で道が切れている。
沢山のゴブリンがこの中へ入っていく足跡があった。
しかも真新しいということだ。
その穴の中へ入っていくと、途中で穴が土砂で埋められていた。
つまり、ゴブリン達はこの穴から逃げていったと判断して間違いないようだ。
全員が腑に落ちないといった感じだったので、
「戦わずして勝ったんですから、上々じゃないですか」
といっておいた。周りからは苦笑いされたが。
この集落を調べたが、やはりセーフルームは存在していないようだ。
今日はこれで帰還することとなった。
拠点に帰ると、門と櫓が完成していた。
門は馬車がギリギリ1台通れるかくらいの大きさだが、安心感が違う。
そして、拠点内に建物が1つ立っていた。
建物といっても小屋程度だが、食糧庫として使うらしい。
今日は、気疲れしただけの1日だった。明日は気を取り直して頑張ろう。




