36日目 第一階層
●36日目(グリウス歴863年6月8日)
朝、目が覚めると既に全員起きていた。
「おう、目が覚めたか。」とピエールさんが声を掛けてきた。
「おはようございます。寝坊しちゃいましたか。」の問いに
「おはよう。今、朝食の準備中だ。そろそろ起こそうと思ってたところだ」
とトールさんが答えてくれた。
水魔法のクリエイトウォーターで顔を洗い、目を覚まさせる。
食事を済ませ、出発する。
ある程度の疲労は取れたようで、進みは順調だ。
この後特に魔物は現れずに、昼前には、目的の場所に到着した。
工員たちは手分けして、陣地に適した場所をさがす。
その間、索敵を駆使し、工員に被害が出ないよう、警戒する。
そして、地盤も固く、守りやすそうな場所を見つけた。
すぐに、その場所に拠点を作るため、資材を出した。
兵士達の護衛の下、拠点づくりが開始された。
冒険者チームは、ダンジョンを見に行くこととなった。
「王都のより大きいな」
そうアンジェさんは感想を漏らした。
「門がこれだけ大きいのは、この大きさの魔物がいる証拠です。階層も王都より深い可能性があります。」
とマリアさんが説明した。
王都のダンジョンは5階層との事だ。
「さて、どうやって探索していくか。」
とピエールさんが意見を求める。
「基本的には少人数です。全員でまとまって行っても時間がかかっては話になりません。しかし、中の魔物のレベルや階層の状態が分らないので、2チームに分けて探索するのが良いかもしれません。セーフルームを見つけるまでは、絶対に階下には進まないでください。」
とマリアさんが言った。
「なら、連携を考えて、大地の牙とそれ以外で組むのがちょうどいいんじゃないか。」
ピエールさんが答える。
「それでいいと思いますわ。」
とマリアさんも同意する。
「それでは一旦戻って、物資の確認と武器の整備をしてから挑みましょう。」マリアさんが言って一同頷く。
準備が整い、門の前に全員が揃った。
「今日は小手調べです。欲張らずに夕食前までには一旦戻りましょう。」
とマリアさんが言って、扉を開ける。
扉を開けた瞬間、嫌な空気を感じたが、すぐに気にならなくなった。
これが魔障なのか?と疑問を抱きつつ、中に入っていく。
中は当然の如く、暗い。各パーティーはそれぞれ2個の明かりを取り出す。
こちらのチームはアンジェさんとジェスさんが取り出した。
両方ともシャッター付きの魔法のランタンのようだ。大地の牙も同様だった。
冒険者の必需品なんだなとつまらないことを考えていた。
道は真っ直ぐに伸びている。
意外に広く人が3人並んでも余裕があるくらいだ。
「さて、行くか」
とピエールさんが言った。
「ちょっと待って下さい。」
と俺は引き留めた。
「1回調べますので。」
そう言って、索敵スキルにあったマップ化を試す。
脳内に索敵範囲の周囲500m内の通路や部屋が浮かんだ。
それをさっと地面の土の上に指で書く。
通路はこの先二手に分かれており、いくつかその先に部屋らしきものがある。
ただ、索敵範囲内で合流できる通路はなさそうだ。
「へー、面白いな。それも魔法?」
とジェスさんは訊いてきた。
「まあ、そんなものです。」と曖昧に答えた。
マリアさんと大地の牙の一人がすぐに羊皮紙を取り出し、書き写す。
インクも無しに二人とも書いている。
「インクはいらないんですか」と訊くと
「これは魔法のペンだよ」と答えが返ってきた。なるほど便利なものだな。
「さて、分かれ道のようだな。ここで二手に分かれるか。」
分かれ道まで来て地図の通りなのを確認した後、ピエールさんは言った。
「我々はこちらに行こう」とピエールさんは右手を差した。
「そちらはよろしく。」そう言って右手に歩き出した。
「では、私達も進もう。隊列だが、ジェスと私が先頭に立とう。ジェスは罠に注意してくれ。中列にアルスとマリア、後ろの警戒をトールに任せたい。それでいいか」
とアンジェさんが提案する。全員同意して、進み始める。
ジェスさんは姿勢を低くしながら見落としが無いように慎重に進んでいく。
俺も定期的に全鑑定を行い、見落としが無いかチェックする。
そして、最初にマップ化した時にあった部屋の前に着いた。
扉は無く、中はガランとした印象だ。特に飾り石の壁もなく、何もなかった。
鑑定しても何もなかった。
その部屋を後にして、更に進んでいく。
一度直角に曲がり、今度は正面に扉が見えた。
ジェスさんは手で全員を制して、低い姿勢のまま床、壁をチェックしていく。
そして扉の前に来て、扉に触れずに何かをチェックしていた。
罠もなく、鍵もかかっていないようだとジェスさんが言った。
鑑定でも扉としか鑑定できない。
ジェスさんが開けるぞという仕草をしたので、アンジェさんが身構える。
ジェスさんはゆっくりと扉を引いていった。
中には骸骨が3体立っていた。
扉が開いて、アンジェさんを見た瞬間に
その骸骨達はボロボロな剣を振り上げて動き出した。
すぐさま、アンジェさんは中に入り骸骨を引き付ける。
そのあとマリアさんが入っていき、横合いから骸骨の頭をメイスで叩き割る。
アンジェさんは残り2体を剣で牽制しつつ、周囲を確認する。
マリアさんは叩き割ったその勢いで、もう一体に殴り掛かり、
見事に頭を粉砕する。
アンジェさんは最後の一体の剣を弾き飛ばして剣を叩きつけた。
あっという間に戦闘は終了した。
鑑定するとスケルトンと出てきた。アンデッドである。
スケルトンは倒れた後、煙のように消えていった。
これがダンジョンの魔物なのかと外との違いを
まざまざと突き付けられた感じだった。
2人が魔石回収後、スケルトンは弱いが、剣ではダメージを
与えにくい魔物だと話した。
マリアさんのような鈍器で叩く方が効率良いのだとか。
ジェスさんがこの部屋も調べたが特に何もないようだった。
扉は左右2か所ある。ここで再度、索敵を行う。
今度はマリアさんから事前にペンと羊皮紙を貸してもらった。
右手は部屋続きになっていて行き止まり。左は通路が続いている。
その通路は真っ直ぐに伸びているのではなく、すぐに右手に折れている。
さらにその先は少し大きめの部屋になっており、
その部屋の扉を抜けた通路の途中に階段がある。
ただ通路自体はそのまま伸びている。
まずは右手の部屋を調べる。ここは、セーフルームのようだ。
中に魔法陣も見つけた。鑑定でもセーフルームとなっていた。
中に入ると確かに空気が違うような気がする。重苦しい感じがしないのだ。
セーフルームがここにあるという事は、
モンスタールームがどこかにある事になる。
先に進み大きな部屋の前まで来た。
この中にモンスターがいる可能性が高い。
もしかしたらモンスタールームかもしれない。
「ここは隊列を変えよう。私とマリアとトールが前衛。アルスは状況をみて援護。ジェスは後方警戒で頼む。ではいくぞ。」
そう言って、扉を勢いよく開け放つ。
中は仄かに明るく、奥に大きな椅子が据えられている。
そしてその椅子にはハルバードを持った牛の頭をした大男がいた。
すぐさま鑑定をする。
ミノタウロス HP500 となっていた。
「ミノタウロスです。」俺はそう叫んだ。
それを聞いて、アンジェさんは
「エンチャント・フレイムウエポン!」
と魔法をかけるとアンジェさんの持っていた剣に炎が纏われた。
トールさんは盾を構えつつ、前進する。
マリアは敵の顔めがけて「コンティニュアルライト」をかけた。
しかし、抵抗されたようで失敗している。
俺は、トールさんに「プロテクションシールド」をかける。
ジェスさんは後続の敵が来ないように扉を閉めている。
ミノタウロスは、椅子から立ち上がり、こちらに向けて走り出している。
接敵する前に、ミノタウロスの勢いを削ぎたいと思い、
「ファイヤーボール!」を放つ。
ミノタウロスは、正面に直撃する形でまともに受けた。
その為、走り出した勢いは削がれて、少し仰け反る形となった。
体勢が整う前に、アンジェさんはミノタウロスに急接近し、一撃を見舞う。
そして、そのまま飛びずさり一旦、距離を取る。
マリアさんは追い打ちで「ライトビュレット!」を放つ。
しかし、これは大きなダメージにはならなかったようだ。
ミノタウロスは、それでも倒れず、ハルバードを振り回した。
しかし、体勢が崩れていた為、誰にもあたる事は無かった。
ミノタウロスは、怪力を利用して再度攻撃する。
今度は正面にいたトールさんに目掛けてハルバードを振り下ろす。
ただ、トールさんは、これを予測していた感じで敢えて前に出る。
ミノタウロスの振り下ろしたハルバードの刃は
トールさんの後ろで静止していた。
トールさんは、ハルバードの柄の部分を盾で受けていたのだった。
アンジェさんはいつの間にか側面に回っており、
横から思いっきり切りつけた。
あまりの痛さにミノタウロスは吠え、アンジェさんの方に向き直ったが、
その反対側にマリアさんがいることに気がつかなかった。
ちょうど背を向ける格好となった時、
マリアさんはメイスを思いっきり叩きつけたのだった。
ミノタウロスは、もんどりうって、思わず地面に膝をつける。
トールさんの脇から、がら空きとなった首筋にウインドスラッシュを放った。
そしてミノタウロスは、動かなくなり、魔石を残して消えていった。
「皆さん、ナイス連携でした。」
マリアさんは笑顔で言う。
「しかし、1階層でミノタウロスとは、先が思いやられるな。」
とアンジェさんは息を整えながらそう漏らした。
その後、ジェスさんが椅子の周りを調べたが特に見つかるものはなかった。
その部屋を抜けると、階段のある通路である。
ここで再度、索敵をすると前方の通路から大地の牙の反応があった。
通路が折れ曲がっていてまだ見えないが、反応を見る限り、
全員大丈夫そうだ。そして、そのことをみんなに伝えた。
その後、階段の前で、無事合流を果たせた。
お互い地図を照らし合わせて、俺達のルートの方が出口まで近いので
そちらから外に戻る事にした。
一旦外に出て、お互いの状況を報告し合う。
その間にもお互い地図を写しあった。
大地の牙の方は、部屋はたくさんあったが、何もない部屋ばかりだった。
1か所モンスタールームらしき部屋を見つけたそうだ。
話には聞いていたので、部屋に入らず観察していたら、
ゴブリンが1匹突然湧いたそうだ。
そのゴブリンは部屋の外に誘い出し、始末したという事だった。
意外と時間がかかったみたいで、既に夕方になっている。
今日の探索は終了して、拠点となるべき場所に向かった。
大きな丸太で作られた壁が立てられ、外周が出来上がりつつあった。
予想以上に早い。
外周の丸太は金属で補強されてあり、強度はそこそこありそうだ。
そしてさらにその外側には木の杭で作られたバリケードも設置されている。
あとは、堀を作れば外周は、ほぼ完成のようだ。
これなら、多少は安心して休めそうだ。
残念ながら、レベルは上がっていなかった。




