30日目 いらない褒美
●30日目(グリウス歴863年6月2日)
昨日宿屋でリリーと2人で豪華な食事をした後に
またレベルアップしている事に気づいた。
強い魔物を倒すと経験値も多く入るようだ。
まあモンスターホードで上がり切らなかった分と
今日の戦闘合わせて上がった感じだ。
そして索敵をLv9に、魔力適正の水、火、闇をLv4に
状態異常の耐性を各Lv4まで上げた。
索敵を上げたことによって、マップ化を取得した。
これで周辺の地理も把握できるようになった。
魔法はこれで、全属性最低4レベルとなった。
朝食を済ませ、とりあえずギルドに行ってみる。
「ヘレンさん、おはようございます。」
「おはようございます。アルスさん」
「ん?」今までアルスくんと呼ばれてたのに、さん付けで呼ぶなんて、
やっぱり何か怒らせちゃったのかなぁ。
昨日ヘレンさんおかしかったからな。
こういう時は、触らぬ神に祟りなしって言うし。少し、離れておこう。
「あっ掲示板見て来ようかな。それじゃあ。」
そそくさと掲示板へ逃げることにした。
掲示板を見ると、昨日の防衛戦に参加した者は、
午後3時に2階のミーティングルームへ集合する事。と書いてあった。
午後3時か、結構時間はあるな。
集合まで時間が空いているので、今後の事を考慮し、
カーターさんの店に行ってみることにする。
「こんにちは。」
「いらっしゃいませ。」
店の中には、女性の人がいた。
中は、思ったよりも小さい店と感じた。
「僕はアルスという者です。カーターさんはいらっしゃいますか。」
「ええ、おりますよ。」と言って、裏の倉庫の方にいる
従業員らしい男に旦那さんを呼ぶよう言いつけていた。
「すぐ、来ると思いますので、ちょっとお待ちくださいね。」
と言ってる間もなく、奥からバタバタと誰かが走ってくる音がした。
「はあ、はあ、アルスさん、いらっしゃい。どうされたんですか。」
と息を切らせながらやってきた。
「ちょっと、カーターさんに相談があってやってきました。」
カーターさんの所にやってきたのには訳がある。
今回のモンスターホードでの戦闘で感じたモンスターの強さが
今までの戦闘とは次元が違うと思っていたからだ。
戦闘中にMP回復ポーションを使ったが、回復量が低すぎて
ドラゴンと戦闘に入るのが遅くなってしまったのだ。
そこで、今持っているエルフから貰ったMP回復ポーションは20本あるが、
いざという時の為にもっと持っておくべきだろうと思ったのだった。
ただ、鑑定でエルフ特性と説明がある通り、人間の街では入手できない。
入手できるのは30しか回復しないポーションだけだ。
しかも受注生産である。ならば、エルフの国に行商に行っている
カーターさんなら入手できないだろうかと考えたのである。
「なるほど。エルフのMP回復ポーションですか。」
カーターさんは難しそうな顔をしている。
「私達が取引してもらえるポーションは、この国で作られているポーションより若干品質が良い程度のポーションなんです。通常のポーションは、劣化が1か月ですが、エルフのポーションは2か月まで大丈夫なんです。確かにもっと強力なポーションがあるようなのですが、人間に売ってもらえるという話は聞いた事がないのです。仮にMP回復ポーションを仕入れられてもたぶん上質な物であれば何とかなりますが、アルスさんが言っているポーションは多分売ってもらえないでしょう。」
とカーターさんは残念そうに話した。
「その上質なポーションというのは、どのくらいの物なんですか。」
「少しお待ちください。」と言って奥へ入っていく。
そして奥から一つのバッグを持ってきた。
「こちらがそのポーションです。」と言ってバッグから取り出した。
そのポーションは、自分が持っているポーションは赤色だが、
それより少し色が薄く、ピンクがかった色をしていた。
鑑定をしてみると、回復量は50となっていた。
劣化は多少進んでいたが、効果の劣化はまだ進んでいない。
「このバッグには、劣化を抑える魔法がかかっているのです。そしてこのポーションも試しに仕入れてみたポーションなのですが結局売れずに、残ったままなのです。金額も高いですし。」
カーターさんは溜息交じりに言った。
「このポーションはいくらなんですか?」と訊いてみる。
「金貨15枚です。ですが、多少劣化も進んでいるようですし、今なら、金貨14枚でどうですか。」
「なら、それは買いますよ。このポーションは仕入れることは出来ますか。」
「ありがとございます。仕入れは可能です。ただ、元の金額が高いので金貨15枚になってしまいますが。」
「それでいいですよ。そのポーションを5本仕入れてもらえますか。」
「わかりました。エルフ領には3日後くらいに出発するつもりでしたから、10日後くらいには戻れると思います。」
「では、宜しくお願いします。こちらは前金です。」
そう言って金貨89枚を支払った。
帰り際、食料を少し補充して、再びギルドに向かった。
集合時間まで、まだ1時間以上ありそうだ。
ギルドの飲食スペースで少し遅い昼食を取ることにした。
居心地が悪い。
みんなが横目でこちらを見てはひそひそと話しているのが、目に入る。
一つは俺が一昨日の戦闘で見せた異常なまでの戦闘力で、
それに対して何か話しているのだろう。
あと誰も話しかけてこないのは、
いくら強いからと言っても12歳の子供相手では、
どう接するか決めあぐねているという事か。
年齢が上なら丁寧に話しかけられるし、
同年代なら、冒険者らしく話しかければいい。
だが、年下、それもまだ子供、結婚していたら
自分の子供くらいの年齢に対して保護者面して
話しかける事もできないといった具合か。
シモンギルド長が言っていたように、
たぶん現在ここにいる冒険者の中では突出しているのだろう。
こんな事なら、外で飯を食ってくれば良かった。
いっそ、お調子者の馬鹿が絡んでくれた方が
暇潰しにでもなったかもしれないな。
「おっと、これは街の英雄坊っちゃんじゃないですかー」
いやいやこんなフラグ回収いりませんから・・・。
「そんなつれない顔しないでよ。ここ空いてる?」
と目の前の席を指して言う。
見た目は、皮鎧に弓という格好で年齢も20代そこそこといったところか。
「席ならそこら中に空いてますが。」
俺の周りの席は全て空いている。
「まあまあいいじゃない。英雄くん。」
「僕は英雄でもなんでもありませんよ。」
「こらっ、ジェス迷惑をかけるな。」
そう言ったのは、その後ろからやって来た、戦士風の男だった。
「すまないね。邪魔したみたいで。」
その戦士は丁寧に謝ってきた。
「邪魔ってなんだよ。暇そうにしてたから、話相手になろうとしただけじゃん。」
ジェスは悪びれた様子もなく、そう答えた。
「なあなあ、英雄くん、名前なんてーの?俺の名前はジェス。見ての通りレンジャーやってる。」
いきなり自己紹介始めちゃったよ。
「アルスです。魔法職です。」
そう言えば、この世界の職業クラスの名前って知らないな。
普通は何て言うんだろう。
マジックユーザー、メイジ、マジシャン、ソーサラー、
ウィザード・・・どうでもいいか。
「本当にすまない。私はこいつとコンビを組んでるトールという。よろしく。」
「はい、よろしくお願いします。」
とトールさんに向かってだけ言う。
「うーん、冷たいねーアルスくーん。」
ジェスという人は、随分おちゃらけてるな。
「アルスくんは、誰かとパーティー組んでるのかい?」
ジェスは勝手に椅子に座り、話し込んできた。
ここで邪険にしては周りも見ている事だし、悪いイメージを持たれたくない。
適当に話をしておくか。飽きればどっか行くだろう。
「ええ、一人ですよ。」
「そっかぁ。一昨日、いきなり現れてさー。すげぇ魔法使ってたじゃん。最初の襲撃の時いなかったよね?どこにいたの?俺はずっと上で戦ってたから、気になってさ。」
そうかあの時上にいた人なんだ。
「僕は王都から馬車の護衛でやってきたんです。その時はもう戦いは始まっていたんですよ。それで状況を確認して大変なことになっているから、手助けしただけですよ。」
「へー。馬車の護衛ねー。でも、門は閉まってたっしょ。どうやって入ったの?」
おちゃらけた様な振りしているが、目の奥はおちゃらけていなかった。
「・・・想像にお任せします。」とだけ答えておく。
「アルスくん、冷たいなー。俺との仲じゃないかー。教えてくれれよー。」
無視して、もう冷めてしまったスープを口に運ぶ。
「ほら、ジェス、もういいだろ。」
トールさんはそう言ってジェスを引っ張る。
「あわわ、引っ張るなよトール、アルスくん、またねー」
と言って受付の方へ行った。
遠目で見ていた冒険者たちも徐々に2階へ移動を始めていた。
「そろそろ時間だな」
俺も席を立ち、2階へ上がっていった。
かなりの人数がこの部屋にいる。
そして、部屋にヘレンさんとシモンギルド長が入ってきた。
「みんな、今回は街を守ってくれてありがとう。街を代表して礼を言う。今回の戦闘では、カードに記された記録を基に報酬を支払う事になった。また、戦闘以外の評価はギルド職員の記憶を基に査定させてもらった。異議のあるものは後ほどカウンターで言ってくれ。そして、功績の度合いをそれぞれ、ABCDの4段階で評価させてもらった。D評価には、金貨20枚、C評価には、金貨50枚、B評価には金貨100枚、A評価には、金貨100枚とランクアップ査定にプラス30点。評価を受けたものは、この引換書を持って、10日以内に受け取るように。まあ、今日貰わないような奴はこの中にいないだろうがな。」
とシモンが説明すると、ワハハと会場が湧きたつ。
「ではDから始めるぞ。名前を呼ばれたら前に来てくれ。」
そう言って、名前を読み上げる。
その横でヘレンさんが引換書なるものを渡していく。
もらった人間からは「畜生、Dかよー」などと
嘆く言葉や喜んでいる者様々だ。
「続いてC」と言ってどんどん冒険者たちは受け取っていく。
「次はBだ」更に冒険者の数は減っていった。
「最後はAだ」この時には部屋にはオレを含めて5人しかいない。
「ジェス」、「トール」先程、話しかけてきたジェスだった。
彼らは先程Dランク冒険者と言っていた。
低いランクの冒険者なのにA評価とは意外だった。
ジェス、そう言えばどこかで見かけたような気がする。
どこだったか・・・そうだ、城壁上で、魔法使い達全員が
魔力枯渇状態で弓使い達も矢が無くなり休んでいた時に
上から石を投げていた奴だ。
でも、石を投げたからといっても牽制にしかならなかったはず。
もしかして、トールの援護をしていたのか?
もしそうなら、彼らはランク以上の働きができるコンビなのかもしれない。
残りの2人は女性だ。戦闘中は気にならなかったが、
あの時女性もいたんだなと改めて思った。
「アンジェ」、「マリア」そう呼ばれた2人は
引換書を受け取り出て行った。
あの2人は、今まで見たことはなかった。
「最後にアルス」そう呼ばれて、俺一人しか残ってない事に気づいた。
すでに全員降りていったようだ。
「アルス君、君の評価は別だ。」
そう言いながらシモンは椅子に座るよう促した。
椅子は隅にあったがヘレンさんが出してくれた。
ヘレンさんはその後、部屋の扉を閉めた。
扉が閉まったのを確認したあと
「さて、褒賞の件だが、まずはランクをアップする。今日からCランクだ。そして、金貨1000枚だがこれは、白金貨で支払わせてもらおう。この金貨1000枚の内、ランゴバルド辺境伯からの500枚が含まれる。そして、最後に家を進呈しよう。」
シモンさん、家の部分でどや顔するのは、どうなんでしょう。
「家・・・ぶっちゃけて言うといりません。」
今の俺に家などあっても意味がない。
誰かと一緒に住むならまだしも、一人で家に住むなんて面倒この上ない。
炊事、掃除、洗濯はまあクリーンの魔法でどうにかなるにしても。
宿屋の方が掃除は勝手にやってくれるし。
飯付きのところなら飯の心配をしなくていい。
それに家を空けることも多くなると思う。
「家、いりませんけど。」
もう一度言う。大事なことだからね。
「え?」シモンさんとヘレンさんが声を合わせて驚いている。
「いやいや、家だよ。なかなか手に入れるの難しいんだよ。」
それはなんとなく分かる。狭い城壁の内側の土地は限られている。
当然、欲しい人間はいくらでもいよう。
正直、まだここに定住するとか決めてないし。
「チェンジで。」
「まあ、なんとなく君ならそう言うと思ってたけどさ。本当に良いのかい。こんなチャンス滅多にないんだよ。」
シモンさんは食い下がる。
「いいんです。チェンジで。」
「・・・わかった。再考しよう。結果は後日知らせるよ。」
溜息交じりに言った。
たぶん、辺境伯からの褒美なんだろうな。
下の受付で、ヘレンさんから報酬のお金を貰い、一つ質問した。
「ヘレンさん、一つお聞きしたいんですが、先程、評価Aだった女性の2人は今まで見たことなかったように思うんですがこのギルドの所属なんですか。」
「彼女たちは数日前にこちらに移ってきた冒険者の方です。なんでも、元は南部の港町の所属の冒険者で、商船の護衛やダンジョンでも魔物狩りをメインに活躍していたようです。その後、王都の冒険者ギルドに所属を移したようなのですが今度はこちらに移ってきたと言ってました。アルスくんとは入れ違いになった感じですね。」
「ちなみに彼女たちのランクは、なんですか。」
「彼女たちはBランクね。商船護衛ではかなり有名人らしいですよ。」
そうなんだ。
やっとひと段落したけど、今から仕事って気分でもないし、
今日は帰ってリリーと遊んで過ごすか。
そう言えば、今いくら持ってるんだろう。
宿に入ってから気になったので確認した。
白金貨200枚、金貨938枚、銀貨銅貨少々。
日本円にして約3000万円。
前世で、これだけ稼げてたらなぁ。人生もっと楽しかったろうに。
正直この世界だと金の使い道が衣食住に限定されすぎて使い道がない。
そのうち、必要になるかもだけど。




