28日目 ランゴバルド攻防戦
●28日目(グリウス歴863年5月30日)
今日、ここを出れば、ようやくランゴバルドに到着だ。
そうすれば一先ず安心できるだろう。
だが、まだ気を抜くことはできない。
ここから先は、人の通りが極端に少なくなっていく。
追手のほかに盗賊や獣と遭遇する可能性がある。
名目上、護衛は俺一人だ。気を引き締めていこう。
索敵には全く反応は無いので、ミーナさんに貴族の事を確認する。
まず、ミーナさんを拉致したのは、フェーゲル準男爵。
この父親が金で爵位を買った男として有名で、もとは一介の商人だった。
南方の海洋国家と貿易をして一財産を築き、国に莫大な寄付を行い、
準男爵に任じられた。
最近家督を継ぎ、年齢は20代後半らしい。
父親の時は、爵位に甘んじることなく、貿易に力を入れ、順調だったが、
2代目からは、徐々に貿易量が減少していて、
人、特に船乗達はどんどん辞してるという噂だ。
ただ、残された財産は十分にあり2代目でも使い切る事は
無いだろうと言われているという事だ。
なぜ、こんなことをミーナさんが知っていたかというと、
はじめは王都の街中で声を掛けられたのだそうだ。
最初は紳士的に食事に誘ったりしていたらしいが
その時から自慢話が多く、不審に思いギルドで調べてもらったとの事だ。
そして段々、本性を現したというべきか、酷くなり、
数年前にランゴバルドに移ったのだそうだ。
特に音沙汰がないので、もう大丈夫かと考え、
王都までの仕事を半年くらい前から受けるようになったという流れらしい。
何度か休憩を挟みながら、ランゴバルドが見える所までとうとう戻ってきた。
しかし、ランゴバルドの様子がおかしい。門が閉ざされているのだ。
更に耳を澄ますと微かにドーンという何かが
爆発でもしているような音も聞こえる。
「どうしたんでしょう。戦争でしょうか」
とカーターさんは身をこわばらせて訊いてきた。
いや、戦争だったら城壁をぐるりと敵が取り囲んでいるだろう。
ただ、戦闘をしている可能性は大きい。
「急ぎましょう。」
そう言ってカーターさんを促す。
城門の近くまで来ても閉まったままだ。声を掛けても誰も応答しない。
カーターさんに
「一度街から離れてください。僕が城壁を迂回して様子を見てきます。それまで丘のあたりにでも退避していて下さい。それとミーナさん、あとでお礼しますのでカーターさんの護衛よろしくお願いします。」
と言って馬車から飛び降り、走り出す。城壁の上を確認するが人の気配がない。
ただ索敵では街に人がいるのは分かる。
しばらく走り、索敵に大量の反応が現れた。
森側の城門に敵が殺到しているようだ。数は多すぎて不明である。
城壁内にも多くの反応がある。ふと、頭に浮かぶ言葉がある。
『モンスターホード』
このまま城門に行くのはマズい。
城壁に近づき城壁に索敵反応がない事を確認して、
「レビテーション!」
魔法を発動させた。体がふわりと浮かび上がり、そのまま城壁の上まで行く。
そして城壁に取り付き、城壁の上の通路を走り出す。
城壁の上では、弓兵や魔法使い達が外に向かって攻撃している。
城門前では城門が破られないように力の強そうな者達が必死に抑えている。
魔法攻撃や弓攻撃ではなかなか数を減らせていない。
外には、ゴブリンやオーガ、リザードマン、ヒュージ種のモンスター、
狼などの獣、トロールまでもがいる。
よく見ると、モンスター達は通常の雰囲気ではなく、
狂気にでも取り付かれているような感じを受ける。
そのまま城壁上部を走り、魔力切れか休んでいる魔法使いと
思しき人に声を掛ける。
「状況は?一体何が起きてるんだ?」と問い詰める。
「モンスターホードだ。それよりお前誰だ。」
「そんな事より、魔法職や弓兵が少なすぎないか?」
と有無を言わさず質問する。
「これで全員だ。」
よく見るとそこら中に魔力切れを起こしている人が寝転んでいる。
「指揮は誰がとっているんだ。」
と再度質問する。
「下で、辺境伯とギルド長が取ってるはずだ。もういいだろ、休ませてくれ。」
門は今にも破られそうだ。このままでは、いずれ門が破られ、
街は壊滅するだろう。こうなったら仕方ないと諦め、城門の真上まで移動する。
「ウインドストーム!」
すると城門前にいたモンスター達は切り刻まれ絶命するモノ、
吹き飛ばされて落下死するモノであふれ返った。
メニュー画面を開き、SPの残りは650。
魔力適正(地)をLv4まで上げる。魔力適正(火)をLv3まで上げる。
これでSP残りは130となった。
再度、「ウインドストーム」を放ち、城門前のモンスターを薙ぎ払う。
次に城門前に「ストーンウォール」で門を補強するように立てる。
モンスターが固まっている箇所に「ファイヤーボール!」を放つ。
このファイヤーボールは、目標地点まで飛んで行き、
目標地点で爆発炎上させる魔法である。
ストーム系より範囲は狭いが、MPコストに優れている。
しかも殺傷能力が高いのと、火を恐れるモンスターが多いのも利点である。
ファイヤーボールを2発叩き込んで、メニュー画面を開く。
よし!レベルが上がってる。当然SPが2000増えている。
MPが残り僅かになるまでファイヤーボールを効率よく数を減らせるように
放つ。
その間に他の魔法使いや、弓兵には門の前を抑えてくれと、お願いする。
そうしている間に、階下からMP回復ポーションが運び込まれて
魔力切れを起こした者たちも復帰し始めた。
MPが一回底を尽いたので、メニュー画面を見る。Lv7に上がっている。
更にSPが2000追加された。
ここでMP自動回復をLv5から8に一気に上げる。
これで回復量は15秒1ポイント回復する。
他にも魔力適正(水)Lv3、剣術Lv7、異空間収納Lv9を取得しておいた。
これでSP残970。
魔力適正は組み合わせで新しい魔法が使えるようになる。
例えば水と風と光でライトニングの魔法が使用できるようになった。
異空間収納はこれで容量無限となった。
現在のMP総量は100.つまり1500秒あれば、全回復する計算だ。
しかし、今それでは遅い。MP回復ポーションを貰った。回復量は30だった。
まだ、あれから2/3くらいしか減っていない。
初めに建てたストーンウォールは崩れ始めている。
ここは時間を稼ぐ為に「ウインドストーム」と「ストーンウォール」をかける。
これで少しは時間が稼げるだろう。
なので、少し離れた所で休むことにした。
「いやあ、アルスくん。大活躍だねー。」声がする方を見る。
そこには、ギルド長のシモンが立っていた。
「そんな事より、戦力が少なすぎなんじゃない。他の冒険者達はどうしてるのさ」
と愚痴をこぼす。
「これで全員ですよ。ちなみに兵も総動員ですけどね。実を言うと第一波でかなりやられまして、何とか凌いだのですが、こちらも半壊状態だったんです。それでもあらかじめ用意していた門を破られたものと交換できたまでは良かったのですが、今見てる第二波に襲われているという次第です。」
と詳しい状況を教えてくれる。
「で、勝てそうですか?」と質問する。
「厳しいでしょうね。あなたが来るまでは、撤退準備に入ろうとしていましたから」
「民間人は早めに逃がした方がいいんじゃないですか。」
「無理ですね。モンスターホードは人間に敵意を向けてやってきます。過去、脱出させた民間人が真っ先に狙われて壊滅した事例もありますし。」
「それじゃあ、この後はどうするんですか?」
「頑張ってもらうしかありませんね。」
「無策かいっ」と突っ込まずにはいられない。
「そうですね。かなり数を減らしてくれたおかげで、勝ち筋は無くもない。ゴブリンやオークなどの雑兵は下にいる者達でも対処可能でしょう。そこで提案なのですが、アルスくんにはこの後、厄介なトロールと後ろに鎮座しているアースドラゴンを何とかしてもらえないでしょうか?」
「・・・・はい?」
「あなた以上の戦力は今この街には一人もいません。あなたが無理なら、諦めて全滅するしかないでしょう。」
と真面目顔で言ってきた。
「とりあえず、やるしかなさそうですね。出来なくても文句言わないでくださいね。」
「安心して下さい。あなたにできなければ、誰にもできませんから。」
そう言って、階下に去って行った。
「まずはトロールからだな。トロールは全部で10匹。」
「ステータス鑑定!」
火、酸で攻撃すれば再生できないみたいだ。HPは大体300くらいだな。
結構高いぞ。火の攻撃魔法はファイアボルト、ファイヤーボール、
レベルを上げてもファイアウォールしかないか。
ファイアボルトで何発で倒せるか試してみるか。
「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」
「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」
やっと1体倒した。これはしんどい。魔力値上がってこれですか。
MP1で打てるのは助かるが・・・。
あっ!強化し忘れてた。魔力無駄にしたな。
「能力強化MAG!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」
「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」
このまま、続けてー「ファイアボルト!」・・・・
残り5体かそろそろMP回復ポーション飲んでも大丈夫そうだ。
先程、メニュー画面に変なマークが出ていたので確認すると
ポーション系は飲んだ後、暫くは飲んでも効果がないと判った。
メニュー画面でMP回復ポーションのクールタイムが消えたのを確認して飲む。
そして一気に5体倒しきる。
あとはアースドラゴンのみ。
アースドラゴンは鈍足なのか、ようやく射程内に入ってきた。
「ステータス鑑定!」弱点は、風属性。HPは1000。せ、千だと・・・。
単純計算で15発くらい叩き込めば倒せるのか?
MP回復ポーションのクールタイムが終わるのを待ち、
再度MP回復ポーションを飲んだ。
「さあ待たせたな。残りMPはアースドラゴン!君にプレゼントだ。」
「ウインドスラッシュ!」「ウインドスラッシュ!」
「ウインドスラッシュ!」「ウインドスラッシュ!」・・・・
結局18発のウインドスラッシュで何とか倒せた。
魔法抵抗がトロールより高かったという事か。
アースドラゴンがブレス攻撃を持ってなくて助かった。
アースドラゴンが倒れた瞬間、合図が上がり、城門が開く。
すでにストーンウォールは壊されていたので城門も全壊状態だ。
下に待機していた冒険者や兵士達が突撃していく。
城壁の上にいる魔法使い達は全員魔力切れで、へたり込んでいる。
弓兵もほとんど矢を打ち尽くし、最後は石を投げている物すらいた。
MPをほとんど使い切ったので、少し休む。
その間、メニュー画面を開くと、Lvが更に2つ上がっている。
Lv9になった。SPも追加で4000入った。
休んでいる間にガンガン取ってしまおう。
異空間収納をLv10のMaxに。魔法敵性(風)をLv7、(土)Lv5、
(光)Lv5、物品鑑定LvMax、魔力鑑定LvMax、
索敵Lv8、物品鑑定、魔力鑑定、ステータス鑑定の3つが
最大レベルになった事でスキルの統合が発生し、
全鑑定LvMaxになった。
下では、まだ激戦の中にあった。すでに乱戦状態なので魔法は使いにくい。
ただ、少しずつこちら側の優勢になりつつある。
駄目押しに味方がいない場所へ「ファイヤーボール」を撃ち込む。
15体くらいは巻き込んだだろうか。
しばらく激戦が続いたが、最初の1/5くらいの数になった頃、
ようやく、モンスター達は潰走し始めた。
これで決着はついた。
門は予備も壊れたので修復には時間がかかりそうだった。
当面は簡易なバリケードが要所要所に設置されることとなった。
そして、魔物の素材になりそうなものは、ギルド倉庫に運ばれ、
それ以外は全て燃やされることとなった。
しばらくすると、カーターさんとミーナさんがやってきた。
裏側の門が空いたというので街に入って来たと説明を受けた。
ミーナさんは暫くカーターさんの所で匿ってもらう事になったらしい。
そこで簡単な仕事を手伝って当面の生活費に充てていくことになった。
カーターさんから依頼完了のサインを貰い、
ミーナさんに護衛を頼んだ例として銀貨3枚渡した。
ミーナさんは最初断ったが、これから大変だからと説得して
受け取ってもらった。
ギルドへ行き、依頼完了の報告をする。
すると、ギルド長がやってきて、部屋まで来るよう呼ばれてしまった。
「アルスくん、ご苦労だったね。君ならやってくれると思っていたよ。」
と一応感謝された。
「感謝は出来れば言葉だけでなく、形で頂けたらと思ってます。今回の依頼は金銭的に赤字だったもので。」
と照れ隠しに言う。
「それは残念だったね。もちろん、今回の活躍には相応のモノで答えさせてもらおう。」
「それでだ。君は一体何者かね?」
と真剣な眼差しで問いかけてきた。
「んー。Eランク冒険者?」と答えてみる。
「一応真面目に聞いているんだがね。そもそも、12歳でこれほどの魔法を行使できる人間にはあった事も聞いた事もない。ここは人間の領域では、ある意味最前線だ。他の街に比べれば冒険者だって、それなりに強者の部類に入る。王都にいる宮廷魔術師ですら、あそこまでファイヤーボールを連発で使用できないだろう。しかも君はその前に嵐の魔法や石の壁の魔法まで使っている。更にトロール10匹、アースドラゴン1匹を単独撃破など前代未聞なんだよ。」
「いや、倒せと命令したのはあんたじゃないか。」
と不平を言う。
「やれって言っても、普通出来るとは思わんだろ。ふ、つ、う、は。」
ニヤリと笑う。
フンっとそっぽを向く。
「まあ、本題はそこじゃない。君に頼みたい事があるのだが。」
「お断りします」と間髪入れずに答える。
ギルド長が持ってくる依頼は碌なものじゃない。
「そうか、残念だ。そう言えば今日の戦闘で辺境伯が甚く感動していてね。こんな立派な冒険者は国の宝だと言って、国王に報告して、国の為に城に常駐させて働いてもらおうなんて言っていたんだよ。ワハハハ。まあギルドしては、こんな優良株をみすみす国に取られるのもどうかと思っているんだけどね。ただギルドとして、国に対してモノ申すのも大変なんだ。それなりに結果を見せないとね。ハハハハハ」
「つまり、今回依頼を達成させれば、国から守ってやるから依頼を受けろというわけですか?」
「流石アルスくん。理解が早くて助かるよ。」
「・・・で、なにすれば?」
すると、ギルド長は、自分の机に戻り大きな紙を持ってきた。
「これは、この周辺の地図なのだが。」と地図を拡げる。
ここが、ランゴバルドだ。と指をさす。
で今回モンスターホードはこの方向からやってきたと指で進んできた
ルートを差す。
「つまり、そっちへ行って大元を殲滅してこいとかいうんじゃないでしょうね?」
と訊く。
「流石にそこまでは求めない。今なら、モンスターのルートもはっきりしている。木々もなぎ倒されているしね。君には原因の調査だ。」
指をさしながら、
「この先に一体何があるのか。なぜ、モンスターホードが発生しているのか。可能な限り調査をしてもらいたい。」
「・・・俺一人で?」
「君にもし、連れていきたい仲間がいれば、連れていくといい。その分の報酬も追加しよう。しかし、現状、他の冒険者では君の足手まといにしかならないと私は思っている。連れて行く者達を守りながらというのは厳しかろう。」
確かにその通りだ。
先の戦闘を見ても、森の奥で戦闘に耐えられるほどの猛者はいなかった。
ただ、野営の問題もある。森の中では木の上は安全ではない。
一人では眠ることすら覚束ない。
「確かに俺一人の方が通常の戦闘では戦うにしても逃げるにしても楽だ。だが、睡眠をとらずに動き回れるほどタフでもないんですよね。」
と考えながら言う。
「他に何か危惧する点はあるかね?」
「そういえば、この先はどうなっているのか知ってますか」
と森の奥をさして聞いてみる。
「分からん。」
「えっ?何も?例えば、言い伝えではとか、古い文献ではとか、何かないの?」
「ない。」
「・・・」
「そもそも、森の奥まで行って戻って来た者は一人としていない。せいぜいがこの辺だろう。」
と差したのは、エルフとドワーフと共に戦った場所から
少し手前くらいの場所だった。
「はっ?そんなものなの?」と思わず訊き返した。
「考えてもみたまえ。森の奥に道なき道を行けば当然迷う恐れがある。当然魔物も強くなる。だから行かない。」
「この間行った時は、別にそんな強い魔物なんて出なかったけど?」
「君は一体どこまで行ったのかい。」と訝し気に訊く。
「確か、川がこうだから、この辺かな。」
地図には川が森の入り口までしか書かれていないので、予想の範囲で答えた。
「そんな奥まで・・・君一人でか。となるとやはり君に頼む以外ありえないな。」
「分かりました。ただし、こちらも条件があります。依頼は段階を踏んで出してもらいます。第一段階の依頼は日帰りで調査。まずは、木が倒された方に向かって偵察します。半日進んで半日で帰ってきます。これで可能な限り偵察します。次の段階の依頼です。その偵察の過程で見つけた異変のある場所の
調査。もしくは討伐。それ以降は、状況により話し合うという事なら受けても構いません。それと本来ならば、Eランクの冒険者が受ける内容でもないですよね。このギルドにはBランクはいるか分かりませんが、CランクもDランクもいるわけですから、2階級、3階級、下手したら4階級上の仕事ですから、危険報酬の割り増しはしっかりと払ってほしいものです。」
こちらも命がけの任務になるなら、この程度の条件は安いはずだ。
「わ、分かっているさ。最大限努力するよ。」
「では明日から調査しますので、報告は当日必ず行うので時間を空けておいてくださいね。」




