25日目 精霊憑依
●25日目(グリウス歴863年5月27日)
明日にはランゴバルドに戻る依頼に行かなければならない。
調べられるのは今日しかない。その為、早朝に子爵家へ足を運ぶ。
「来たか。アルス殿。この紹介状を持っていけば、金貨3枚で入れるだろう。金貨3枚もこちらで用意した。よろしく頼むぞ」
王立図書館までの道を教えてもらい、向かった。
王立図書館に入ったが、思ったより蔵書の数が半端ない。
ここから探すのは素人では至難の業だろう。
そこで司書の方に精霊に関する事が書かれている書物について尋ねた。
10冊ほど選び、悲哀の精霊というものについての記述を探す。
5時間くらいたっただろうか。ようやく悲哀の精霊に関する記述を発見した。
そこには言い伝え的なものを記載されており、
『大切な人を亡くした少女は悲哀にくれた。悲しみがあまりに深すぎた。その為に精霊が引き寄せられ、その子と共に悲しみに明け暮れる。少女の記憶から大切な人の記憶が薄れてもその精霊は共にある。その少女の命を糧に』
そして、最後の方に、
『少女が死の淵で佇んでいる。そこに旅のエルフがやってくる。エルフはその少女を見て少女に問いかける。君は悲しいかい。少女は答える。悲しい。何が悲しい。母がいない事。私が病弱である事。不幸の連続である事。君は生を望むかい。私は生を望む。希望や夢があるから。ならばこれを飲みなさい。さすれば、あなたの中の悲しみは去っていき、生を得られるだろう。そしてその液を飲んだ少女は、悲しみから解放され、天寿を全うした。』
というのが書かれていた。
詩のような記述だが、詩ではなく実際の出来事だろう。つまり、そのエルフの
もたらした飲み薬で悲哀の精霊を追い払える可能性がある事。
そうすると、その飲みクスリとはどんな飲み物だろう。
そこで、司書に今度は飲みクスリについての記述されている
書物について聞いた。
すると、ここからここまでです。と言われたのだが、数百冊はある。
この中から今日中に探すのは、ほぼ無理だろう。
しかもヒントはエルフがもたらしたポーションという事しかない。
もしかしたら、そんなポーションは存在しないかもしれない。
なにか、良い方法はないだろうか。
いや、待てよ。
物品鑑定のLv6で得られたのは対象指定。薬草を探すのに
対象を指定出来たら楽かもしれないと上げておいたスキルだ。
これで『エルフのポーションが書かれている本』と指定すればどうだろう!
おお、だいぶ減った。
では、『精霊を追い払う薬の書かれている本!』
・・・・あった!でもこれ1冊だけだ。その本を手に取り、探していく。
精霊忌避薬とある。このレシピを書き写したいが、紙とペンがない。
しまったーー。司書さんに訊いてみよう。
「すみません。度々、紙とペンは売ってないですか。もしくは借りられないですか。」
「写本用の本か羊皮紙があります。ペンは貸出できますが、インクは有料です。本は金貨30枚、羊皮紙は1枚で金貨1枚、インクは金貨5枚です。」
「では羊皮紙1枚とインクを下さい。あとペンを貸して頂けますか」
「では金貨6枚頂きます。」
羊皮紙に精霊忌避薬について書きだしていく。
間違いがないように正確に写し、間違っていないか再度確認する。
「よし。」終わったころにはすでに閉館時間となっていた。
閉館時間と言ってもまだ、午後の3時くらいだ。
ギリギリなんとか間に合った。王立図書館を出て、そのまま、子爵家に向かった。
そういえば、書かれた薬草ってどこかで聞いたような気がするけど思い出せん。
「どうだったね。」
シュラ―子爵は心配そうに訊ねてきた。
「はい。まず、お嬢様の状況を説明します。お嬢様は病気ではありませんでした。」
「病気ではないだと。・・・・すると、呪いか?・・・・」
「いえ、呪いではないと思います。可能性が一番高いのは精霊に憑依されている状態だと思われます。」
「精霊に憑依・・・・?」
「はい。多分、悲哀の精霊と呼ばれるものだと思います。それでお聞きしたいのですが、お嬢様がひどく悲しまれた事はございませんか?」
と問う。
「・・・娘がこの状態になる半年ほど前、この子の母親、つまり私の妻が亡くなってしまった。最初は死んだ事を理解していない様子だったが、だんだん母親が死んだ事を理解してきたのか、どんどん塞ぎ込む様になってしまった。そして今のような状態になってしまった。」
「やはり、そうでしたか。それで、王立図書館で調べた結果、お嬢様を治すポーションの作り方は判りました。その方法は、この羊皮紙に写してきたのでこれを作れる薬師さえ見つかれば大丈夫でしょう。」
と羊皮紙を見せる。
「この薬草、聞いたことがあるんだが、なんだったろう?・・・・・んー・・・・」
シュラ―子爵は必死になにか思い出そうとしている。
「そうだ、あれは私が交易官として交易品の管理をしている時だ、たしか、エルフの王家からジュノー王国への贈答品にあったものだ。・・・たしか、市場に出回らない国家で管理されている薬草だったかな?うん。そうだ。完全に思い出した。だが、こんな貴重な薬草は今、手に入れるのは不可能だ。国交が正常化されれば、可能性もあるだろうが・・・」
と悔しそうにしていた。
エルフ?そういえばあの時。異空間収納に手を伸ばす、
そして頭の中で薬草の名前を浮かべる。
すると、手に触れる物がある。
「あっ、持ってた!」思わず、口走った。
「えっ」と子爵は顔を上げる。
「そ、それは、まさか・・・」
「はは、私が持っていたみたいです。」
と頭を掻いてばつが悪そうに言う。
「そうだ!そんなことよりも知り合いの薬師をすぐに呼んでください。一番腕の立つ人を!」
と子爵を急かす。
「わ、わかった」と言うなり、執事らしきものに指示を出す。
薬草は一旦収納しておく。
「子爵様、急ぎというので参上いたしました。」
年輩の薬師が来た。
「薬師殿、材料があれば、この製法で薬を作れるか?」
とシュラ―子爵は羊皮紙を見せる。
じっくりと羊皮紙を読み、顔を上げる。
「製法自体は簡単なようです。分量もしっかりと書かれていますので問題ないでしょう。ただ、この材料は知りません。」
と困ったように言う。
「アルス殿、薬草を譲って頂けないだろうか。希少な物なのは判っているが、どうかこの通り。」
と頭を深々と下げる。
「頭を上げてください。勿論譲りますよ。それより薬師殿、今すぐ作れますか」
と薬師に訊く。
「このくらいならば、今持っている道具で作れましょう。」
「ならば、急ぎ作ってください。」
と言って、1回分のポーションが作れる分の薬草を渡す。
「すぐに取り掛かりましょう」
それから、3時間後、ポーションは出来上がった。
「すぐにお嬢様に飲ませて確認いたしましょう」と子爵を促す。
「そうだな。よし、行こう」
ベスティアを起こし、薬を飲ませる。
すると「熱い、あついよー」と苦しみだす。
そして、判るものには判ったが、その瞬間何かがベスティアの体から
滲み出てくる姿がうっすらと見てとれた。
これが、悲哀の精霊なのか?
こちらを一瞥した後、上に向けて昇華したような、そんな感じがした。
子爵も何かを感じたようだ。
すると、ベスティアは急に何かから解放されたようにベッドで眠ってしまった。
念の為、ステータスを鑑定してみたが、精霊憑依は消えていた。
「ありがとう、アルスくん」
子爵は娘がもう大丈夫だという確信を持っている。
「いいえ、お嬢様が良くなって良かったです。」
薬師は謝礼を受け取ってすでに帰っている。
「アルスくんにお礼がしたいのだが、今すぐ用意できるものは少ない。2、3日待って頂けないだろうか」
と懇願する。
「うーん、それは難しいですね。」
「どうして。ほんの2、3日だろう。」
「あー、えーと、違うんです。私は次の依頼で明日にはランゴバルドへ向かう事になるんです。もともと、向こうの人間ですし。今回はたまたま王都に来ただけなんです。ですから、今回の報酬は次にお会いした時に頂ければ結構です。」
「ホントにそれでいいのかい」
と困惑気味だ。
「今回は僕の貸しという事で、もし僕が困った時に手助けしていただければ、非常に有難いです。」
「君というやつは。わかった。その時は全力を挙げて君を助けよう。君は娘の命の恩人だからな」
と言って手を差し出す。
ギュッと握手を交わして、最後に依頼完了のサインを貰い、別れた。
これは、元々の依頼料だと言って、金貨2枚渡された。
帰りに、ギルドに寄り、報告を済ませ、宿へ帰った。
明日は、カーターさんとランゴバルドへ出発だ。ミーナさんも一緒だろう。
いつもの通り、リリーを召喚して、精霊の事を訊いてみた。
「せいれいさんはね、リリーたちのまほうをたすけてくれているんだよー。りりーたちとなかのいいせいれいさんはねー、ねむりのせいれいさんとー、みりょーのせいれいさんとー、こんらんのせいれいさんがいるんだよー。」
もしかして、リリー達が使用している魔法は、俺達が使用している魔法と系統が
違うのかもしれない。眠りの魔法、スリープは闇属性の魔法だ。
眠りの精霊なんて関係ないと思う。深く考えても仕方ない。
今度、ヒュリアにあったら訊いてみよう。
それと今回貴族と友好関係になれた事は心強いかもしれない。
完全にあてにはできないが、多少の事なら協力してくれるかもしれない。
ベスティア嬢は元気になればいいな。
そう願いつつ、ベッドに潜り込んだ。




