24日目 ささやかな依頼
●24日目(グリウス歴863年5月26日)
肩の荷が下りたからか、珍しく起きたらだいぶ日が高くなっていた。
起きてから下へ降り、遅い朝食を食べる。
なにか新しく依頼が出されてないかギルドに向かう。
掲示板にカーターさんの依頼が出されていた。
カーターさんの出発は26日の朝のようだ。
もう一つ気になる依頼があった。
『あなたの経験した冒険譚を語ってくれる方。報酬金貨1枚~』
とあった。
なんだか非常に気になり、紙を持って受付に行く。
「すみません。まずはこの依頼について詳しく教えてもらえますか」
と受付をしている人に訊いた。
「ああ、この依頼ですね。実は貴族の方の依頼なんですが、その娘さんに話を聞かせたいという依頼なんです。ただ、ご存じのように王都周辺で冒険譚を語れるような冒険者はいないんですよ。それでこの依頼についてですが、何でも娘さんは、特殊な病気らしく寝たきりなので娘さんを少しでも楽しませたいとの事です。ただ、その娘さんは特殊なスキルをお持ちで嘘を簡単に見破ってしまうとの事で、何人かは契約不履行で罰金を支払うような状況です。娘さんもそんなに長くはないとの事でこの依頼は出しっぱなしになっているのです。」
と説明してくれた。
「あれ?でも昨日はなかったですよね。」と確認する。
「1週間くらい前に体調を悪化させて、もう駄目かとなったので一時的に取り下げたのですが、昨日なんとか持ち直したので、再度掲示する事になりました。」
「なるほど。では、この依頼を受けるので、手続きをお願いします。」
と手続きをしてもらう。
まずは貴族の家に向かう。最初は貴族の依頼と聞いた時はやるつもりは
なかったけど、話を聞いていたら、ちょっと可哀そうになっちゃったな。
それで、多少でも喜んでくれればと思う。
貴族の家は、中の中と言った感じだ。ノックをして待つ。
中からメイド姿の女性が出てきて
「どのようなご用件でしょう」と訊ねてきた。
「はい、ギルドの依頼で参りました。」
と答えるとそのメイドは慌てた様に
「どうぞ、お入りください」と言って招き入れた。
とある部屋に通されて待つと、
「お待たせした。」と少し痩せたというよりやつれた感じの20代後半、
もしかしたら中頃かも知れない男が来た。
「早速だが、娘に話をしてくれる冒険者だね。ギルドで聞いていると思うが嘘はすぐにバレるので、そうならすぐに去ってもらいたい。それと話の内容が冒険譚とはほど遠い話であれば、報酬は出せない。まずはどんな話をするのか大まかにここで話してもらおう。」
「私が話せるのは、冒険でエルフとドワーフと知り合い、一緒に戦い、その後エルフの王国へ行って、楽しい夜を過ごしたという話です。」
「ほう、それは本当かい?君のような年の子が?」
と怪しむように言う。
「娘さんは嘘を見抜けると聞いています。嘘を言ってもすぐ分かる事でしょう。」
と答える。
ジッと見られてわかったという感じで
「私の名は、ハインリヒ・シュラ―子爵。この子爵家の当主だ。そしてこれから会う娘はベスティア・シュラ―、私の一人娘だ。娘は病気でね。治療方法が分からない病気にかかっている。魔法も試したが治らなかった。薬師にも頼んでみたが、どんな病気かも分からないという。いつ死んでしまっても
おかしくないとも言われている。」
と悲しそうに言った。
「娘さんが少しでも喜んでもらえるように頑張ります。」
というと、よろしくと手を握られた。
ドアをノックし、
「ベスティア、冒険者の方に来てもらったよ。お話を聞きたいんだろ。調子はどうだい?」
と言ってベッドに近づく。
娘さん、ベスティアは年齢は5歳くらいだろうか、
ここでやってみたい事があった。
「ステータス鑑定!」を発動させる。
ベスティア 人間 女 8歳 となっていた。
寝たきりだったので体が小さいのかもしれない。
ステータスのパラメーターは全て一桁HPもMPも一桁だ。
スキルは、ユニーク?となっていて、嘘看破と出てきた。
これがベスティアの能力か。そして状態には、精霊憑依と出ていた。
あれっ?病気じゃない?精霊憑依ってなんだ?精霊憑依の文字を注視する。
すると精霊が憑依している状態。としか出てこない。
「あなたが、冒険者の方ですか?」とか細い声が聞こえた。
ステータスに気を取られていた為に慌ててスキルを解除する。
「はい。ベスティア嬢。私はアルスという冒険者です。ぜひ、私の冒険を聴いて頂きたく参りました。」
となんとか取り繕った。
「嬉しい。聴かせて。」
と嬉しそうに囁くような声で言った。
「では。お聞き下さい。」
そう言って、エルフとドワーフとの出会い。その3人で共闘した事。
エルフの王国に呼ばれた事。そこでドワーフの王とエルフの王と話した事。
3人とエルフやドワーフとのパーティーで飲んで食べて、踊ったこと。
機密扱いの事を省いて語った。
ベスティアは目を輝かせて、ところどころ質問をし、感嘆の声を上げていた。
「そして3人は再会を約束し、別れました。これが、私の体験した冒険譚です。」
彼女は天井を見ながら自分の想像の世界に入っているようであった。
興奮しすぎたせいか熱が出たという事で、一旦部屋を出て別室に戻った。
「アルスくん、ありがとう。娘も凄く喜んでいたみたいだ。あんなに楽しそうな表情は久しぶりに見た。君には感謝の言葉もない。」
そう言って目頭を押さえている。
「シュラ―子爵。つかぬ事をお尋ねしたいのですが、ベスティア嬢はなんという病気と聞いていますか?」
と問いかける。
「娘の病名は不明だ。神官や薬師などに訊いても分からないとしか答えない。前例がないという事らしい。」
「なるほど。」
誰も病気ではない事にすら気づいていないのか。
「一つお願いがあるのですが、何も聞かずにお嬢さんをもう一度観察させてほしいのですが。」
と訊いてみた。
「・・・・・分かった。ついてきなさい。」
そう言ってベスティアの部屋へ向かった。
ベスティアは今は眠っているようだ。
そっと入り、先程中断してしまったステータス鑑定を行ってみる。
状態 精霊憑依 と出ている。
そして説明は精霊が憑依している状態となっていたが、更に集中してみる。
すると精霊の前に悲哀の精霊というのが見えた。
それ以上は判りそうになかったので、一旦部屋を出て、先程の部屋へ戻った。
「シュラ―子爵。王都で沢山の書物がある場所を知っていますか。」
「そうだな。王立図書館だろう。」
「それは、私でも入れますか?」
「それは難しいだろう。基本的に貴族しか入れない。貴族の紹介があれば有料で入れると思うが。」
「では、私を紹介して入れるようにして貰えませんか。」
「今日は無理だ。明日ならばなんとかなるだろう。」
「娘さんの状態が分かるかもしれません。ぜひ、お願いします。」
「なに!それは本当か!」
と睨むように見てきた。嘘だったら絞殺される勢いだ。
「あくまでも可能性の話です。今は確証がないので、確かなことは言えません。」
「・・・よし、ならば、明日の朝までに入れるよう手配しておこう。もし、何かわかるなら可能な限り褒美を出そう。私はこれから入れるよう手配しに行く。」
そして今日の所はシュラ―子爵家を後にした。
基本的に貴族に関わるのは避けたかったし、話をするだけで金貨1枚以上もらえる
仕事なんてそうあるものでもない。そんな軽い気持ちで受けた依頼だったが
ベスティア嬢の様子を見て、もし助ける糸口が見つかるならと考えてしまった。
明日調べる前に、ギルドでも調べてみるか。
ギルドの資料庫には、さすが王都だけあって、量が多い。まずはここで
精霊について調べよう。
精霊は有名なのは、地水火風光闇の精霊が有名だが、その他に精神の精霊も
いるらしい。有名なのは怒りの精霊。怒りに捕らわれると一時的に怒りの精霊が
取りつき、我を忘れてしまうと言われている。その他にも感情の種類に応じた
精霊が存在していると考えられているという事らしい。
そして、普通はある程度時間がたつと、自然と元に戻るのだが、稀に戻らない
場合もあるようだ。有名なのはバーサーカー。怒りの精霊が取り付いたまま
怒りのままに周囲を破壊し続け、最後は死に至ると書かれている。
ただ、事例が少ないため、完全に確証のある話ではないとも書かれていた。
たぶん、ベスティア嬢は、この状態なのだろう。
ギルドでは、これ以上の資料は見つからなかった。
この日は、明日に備えて休むことにした。




