2日目 冒険者登録と情報収集する
●2日目
朝、今日の分の宿代を支払っておく。
冒険者ギルドの場所をリズさんに聞いて、向かう事にした。
冒険者ギルドは石造りの大きな建物で、二階建ての学校や役所といった感じだ。
大きな両開きの扉があり、いかにも冒険者といった、格好の人が出入りしている。
中に入ると、正面に受付カウンターがあり、左手にテーブルや椅子が並び
ちょっとしたフードコートを思わせる。どうやら飲食もできるらしい。
右手には、2階に上がる階段と掲示板があり、掲示板の前では数人が熱心に
張り出されている物を見ている。
「この辺もイメージ通りだな。」くすっと思わず顔がほころんでしまった。
早速、受付カウンターの前に行くと、いらっしゃいませと女性のスタッフに声を
かけられたので、そちらに向かう。
「本日は、どのようなご用件でしょうか」
と人懐っこい表情のショートボブの女の子、いや俺は12歳だから
女性というべきか、が声をかけてきた。
「仕事をしたいので、ギルドの登録をしたいんだけど。」
「では、こちらに必要事項を書いてもらえますか?字が書けないようでしたら、
代筆いたしますが、いかがでしょう。」
「大丈夫だと思います。」
羽ペンとインク、わら半紙より粗雑な紙が出てきた。
一応紙らしきものは、あるんだな。スキルに読書きとあるから大丈夫だろう。
名前、年齢、出身地?!げっ、ヤバい。出身地なんて考えてない。
というより地名が全く分からない。
「あのー。この出身地なんですが、人里離れた所でお爺さんと二人っきりで
住んでたんで、地名がわからないんですが・・・」
恐る恐る訊いてみた。
「あー、ではそのまま空白にしておいてください。たまにそういった方は
いらっしゃいますので。」
「書きました。」と言って紙を渡す。
「はい、この内容で受け付けます。それでは、私ヘレンがご説明させて頂きます。」
「冒険者にはSABCDEFGの全8のランクがございます。
アルスさんはGランクからのスタートとなります。
Gランクは主に街中での雑用が主となります。
ランクFに上がるには金貨1枚を収めて頂いた後、昇格試験を受けて頂きます。
Cランクまでのアップは金額が変わりますが同様となっております。
Bランク以降はそれら以外にギルドの推薦が必要になります。
ここまでは、よろしいでしょうか。」うなずくと
「では次に規則の説明をさせて頂きます。ギルド内では暴力沙汰は厳禁です。
依頼はアルスさんの右手にある掲示板に張り出されていますので、
そちらでご確認ください。依頼をいったん受けられて失敗されますと
違約金が発生しますので、お気をつけください。
期限など依頼条件は掲示板の依頼票に書かれていますので忘れずに
チェックしてください。それと違法行為等があれば、ギルドから除名されます。
ギルドは各都市間で定期的に情報共有されてますので他の街でも
入れなくなるとお考え下さい。」
「以上で、説明は終了ですが、何かお聞きになりたいことがあれば、
遠慮せず聞きに来てくださいね」
うん。長かったけれど、おおむね予想通りっていうかそのまんまだな。
ここまで王道だと、こっちの世界から向こうの世界に行き来してる奴がいて
こっちの情報を流しているんじゃないかって、邪推してしまうじゃないか。
なんてな。
「えーと、ヘレンさんでしたっけ。ギルドに資料室とか図書室みたいなのは、
ありますか?人里離れた場所にいたんで、その・・・常識とか地名とか
わからない事が多くって・・・」
ちょっと演技で、はにかんだ様に言ってみた。
ヘレンさんはフフッと笑って
「2階に資料室があるから、おねえさんが案内してあげる。」
と優しそうな声で言ってきた。
お、おねえさん?!
まあ見た目はそうなんだろうけど、精神年齢はたぶんこっちが上なんだけどなぁ。
まあ、いっか。「ありがとう」というとヘレンさんは、カウンターから出てきて、
「こっちだよ」というと手をつかまれ、引っ張る様に2階へ向かっていった。
「持ちだしたら駄目だけど、自由に見て構わないからね。」
といってバイバイと手を振り去っていった。
意外と多くの資料がある。気合いをいれて、中に入り資料を読み漁った。
夕方まで一心不乱に読みふけった結果、
ここは、ランゴバルドという名の街で、ジュノー王国という国だ。
ランゴバルドの南方に王都があり、この国自体は逆三角形した形で
南側は全て海に面している。
ランゴバルドは国の北方に位置する。具体的な国境は不明だが、
北西にはドワーフの王国とエルフの王国がある。
北東にはバルシー神聖法国、更にその先に十三連合国という小国家の
連合体がある。
それぞれ街道でつながってはいるが、他の国の地図はないのでわからない。
北方は妖魔の森と呼ばれ、モンスターの巣食うエリアのようだ。
また、場所などは不明だが、トロールの国や獣人族の国もあるようだが
詳細はここでは分からない。
そして魔法については、どうやら魔力操作があれば誰でも発動できるみたいだ。
ただし、属性魔法がないと全く火力が出ない。属性なしの魔法を無属性魔法と呼ぶ。
属性魔法に属さない魔法もあるらしいが、魔法かスキルか詳細は不明だ。
重要なのが魔法もスキルもレベルがあり、最大10レベルと言われている。
レベル3で優秀、レベル5でマスタークラス、レベル7以上は人間では、
ほぼいないと言われている。
また、人間の種族としてのレベルは50が上限と言われている。
レベル40以上で英雄と呼ばれるようで、30でマスタークラスらしい。
俺のメニュー画面については、一切書かれていない。
という事は、普通の人には表示されないとみて良いだろう。
自分のスキルやレベルを確認するためには、
ステータス鑑定魔法やスキルでないと判らないと書かれている。
では普通の人は繰り返し使用しているとそれに付随する
スキルや魔法が得られる。
例えば、火属性魔法の火を繰り返し使用していると火属性のレベルが上がったり、
魔力操作も魔法を出そう出そうと訓練する事により得られると書かれている。
あとは、生まれつき持っている才能もあると書かれている。
こうしてみると、俺の能力はチートといっても過言ではないみたいだ。
まあ、無双するような状態ではないが、行動に気を付けないと変な足枷ができて、
下手をしたら奴隷のようになるかもしれない。
ただ、生き残るためにはこのチートを使って生き残れるようにしなくては。
結局、夕方まで調べられるだけ調べて、終了した。
屋台では、色々な物が売られている。朝も食べたが肉挟みパンが美味い。
20cm以上あるフランスパンみたいな大きめのパンに縦に切れ目を入れて
葉物野菜と焼いたぶつ切り肉がどっさりと挟まれた逸品だ。
これで銅貨5枚というから驚きだ。
夕食を済ませ、朝用に普通のパンなどを買い、宿屋で休むことにした。
明日から仕事を受けなければ!
寝る前に考えをまとめる。
SPの獲得条件は不明だが、恐らくレベルアップに係わっていると考えられる。
SPは有限で、しかも得られるポイントは分からない。
スキル内のSP獲得上昇を取るのは必須だ。200ポイントと高いが、
採算合うのを期待するしかない。マイナスってことはないだろう。
ということでSP獲得上昇を取得してしまう。
すると、取得できるスキルが追加された。
それとSP上限が500から5000になってる!
ベッドの上で寝転がりながら、ようやく道筋が見えてきて、物思いにふける。
俺の前世と言って良いのか、の記憶は実は断片的なものだ。
小中高大と学校に通っていた記憶もあれば、色々な仕事をしている記憶もある。
バイトやサラリーマンを経験し、小さいながらも会社を経営していた記憶もある。
それが、複数の人生の記憶かもしれないし、全て前世での記憶かもしれない。
しかし最後に自分がどうなったのかは記憶がない。突然死んだか、それとも
生きたまま転生したか、夢でも見ているのか。
これが夢でないのなら、前世で学んだ事を胸に刻み生きていくしかないだろう。
特にこのような古くからの馴染みも知り合いもいない環境では、
誰も自分の利とならなければ助けてくれるはずもない。
その利の為に利用され、略奪され、下手をすれば命すら奪われるかもしれない。
冒険者という職業がまかり通るような世界だ。命の価値は低いと考えるべきだ。
しかも、見た目は12歳。
そういえばどんな顔してるんだ俺?鏡がないから気にしなかったが。
精神年齢は記憶が正しければ50超えてるはずだが、そんなものは関係ない。
下手に目立てば面倒事には事欠かなくなるだろう。
この世界で生き残るには、最初は目立たず、それでいて早急に暴力に抗う力と
自由を確保できるだけの情報、財力を持たなければならないだろう。
この世界の人間の気質は、人間以外の種族は、どんなものだろう。
俺はネットもない、電気もない不便だらけの世界で
ホントにやっていけるんだろうか・・・