17日目 エルフの王国
●17日目(グリウス歴863年5月19日)
パーティーは明日開かれるとの事で、予定に変更はないと
メイドさんが教えてくれた。
もし、街に出るのであれば案内役を付けるのでお申し付けくださいとも言われる。
少し悩んだが、折角なので、街に出てみようとメイドさんにお願いする。
案内役が来るまでお待ちください。
という事で今部屋でリリーとじゃれ合いながら、と言っても指だけだが遊んでいる。
コンコンとドアが鳴り、
「失礼します。本日、街の案内役を務めさせていただく、スライアと申します。ヒュリア団長の副官を務めております。以後、お見知りおきを。」
そう言って、敬礼したまま挨拶してきた。
「こちらこそ、よろしく。そんな畏まらなくていいよ。別にお偉いさんってわけじゃないからね。」
と言ったものの、少し困った表情で
「了解しました。では、馬車を用意しておりますので、こちらにお越しください。」
って全然固いんですけどっ!と心の中で突っ込む。
「リリー、街に出かけるよー」言うなり、リリーは、いこーっとはしゃいでいる。
「どちらに行かれたいですか」馬車までスライアさんは訊いてきた。
「ここに来るのは初めてなので、どこか良さげな所ってないですかね。」
と訊き返す。
「では、通称露店通りなんていかがでしょう。色々な店がありますので、珍しい物があるかもしれません。」
想定された質問のように迷うことなく受け答えた。
ヒュリアの入れ知恵かとも考えたが、まあいいだろう。
「露店通りでお願いします。」
ここへ来た時は、日も暮れ始めていて馬車の中だったので、
ほとんど街の様子は分からなかった。
街のあちこちに水路が通されて、水面がキラキラ光り、その反射のせいか、
はたまた、建物が白を基調とした作りだからなのか、非常に明るく綺麗としか
表現できない街並みになっている。
水路と道の間には、花壇があり、色とりどりの花が植えられている。
路地を見ても、整然としていて綺麗に掃除が行き届いている印象だ。
まるで前世で見たどこかのテーマパークにすら見えてくる。
そんな中、一際広い通りにはたくさんの露店がこれまた、
整然と並んで出されている。
露店通りの入り口付近に馬車を止めて降りる。
馬車は近くに待機場所があるらしく、そちらへ向かった。
「リリー、いいかい。珍しい物があっても、勝手にふらふら飛んで行っちゃだめだよ。迷子になるからね。行きたい所があったら、俺に言いな。」
と一応注意をする。
「わかったよー」
そう言いながら、ひらひらと飛んで行こうとする。
「ダメだって言ったろ!次、どっか行こうとしたら、収納の中に入ってもらうからね。」
心の中では無理だろうなぁと思った。
案の定、5分も立たずにひらひらと飛んで行こうとするので、
結局は、強制的に収納してしまった。
露店で売っているものの中には、見知らぬ食べ物や物が多く、
そのたびに、スライアさんに聞いて回った。
珍しい果物など主に食料を金貨1枚弱も買ってしまった。
露店通りの反対側まで来た時には結構いい時間になっていた。
スライアさんに楽しかった事を伝え、馬車に乗り城に戻った。
城に戻り、寛いでいると、ヒュリアがやってきた。
「アルス、ちょうど良かった。早速で申し訳ないのだが、陛下と謁見する時間が取れた。すぐに一緒に来て頂きたい。ああ服装はそのままで構いませんよ。非公式なので。」
そう言って、俺を連れ出した。
コンコン。「アルス殿をお連れしました。」とヒュリアが中に声をかける。
すると中から「入れ」と応答があり、扉を開ける。
中は、一見会議室のような様相であった。
奥の椅子には、エルフの王と思しき人物とドワーフの王と思しき人物が
鎮座していた。また、中には側近と思われる者達がそれぞれ数人控えている。
大きなテーブルを挟んで、座るよう促された。
「此度は事件解決の協力を感謝する。私はエルフ王国国王、エリアルド・カナンという。そしてこちらにおわす方はドワーフ王国国王、バライド・デュード陛下である。」
「お初にお目にかかります。私は、ジュノー王国ランゴバルド所属の冒険者、アルスと申します。お目にかかり恐縮でございます。」
「余に親書を持ってこられたと聞いておるのだが、左様か。」
「はい、こちらに。」
そう言って、近くに立っていたヒュリアに手渡す。ヒュリアはそれを受け取り、
テーブルを回り、王の側近に渡す。
更に側近は軽く手紙を検めて、なにか魔法をかけてから、王に渡した。
なるほど、魔法のある世界では、手紙にも魔法的なトラップが
あるかもしれないという事か。
カナン王は、封蠟を確認したのち、開封して手紙を読んだ。
そして、その手紙をドワーフ王にも見せた。
「そちの事情は聞いておる。手紙には、国交の正常化の為に、会談を持ちたいとの事だ。その調整の為にまずは、事務官の派遣をしたいと提案がある。また、同様の内容をドワーフ王国とも行いたいので、その仲裁をしてほしいとのことだ。もちろん、こちらとしても、異存はないと考えておるので後ほど、返答を書いてお渡ししよう。デュード王はいかがか。」
とカナン王はデュード王に訊ねる。
「ふむ。こちらとしても異存はない。カナン王にお任せしよう。」
と受け答える。
「ところで、アルス殿」とカナン王が訊ねてくる。
「アルスで結構でございます。」と即座に言っておく。
「そうか、では、アルスよ。お主は、今回の件で、面白い考察をしたと近衛師団長から少しばかり聞かせてもらった。その話をもう一度聞かせてはもらえぬか。」
その話というのは、何故あんな所で犯人達がキャンプしていたかという事か。
アルスは昨日の見解を話した。
「その考察にはジュノー王国についての見解が抜けているようだが。」
とデュード王が訊いてくる。
「それは単純でございます。もし、ジュノー王国が犯人ならば、わざわざ森に潜むのではなく、そのまま国内で潜伏でもさせた方が楽ですし、見つけるのは至難の業でしょう。仮に国家の仕業ではなく、ジュノー王国内のどこかの組織であっても、同様です。現在エルフ王国とジュノー王国の間の流通は最小限に留まっています。つまり普通に街道を使っても怪しまれる事はほとんどありません。すれ違ってもたまたま通りかかった行商か、冒険者が関の山です。なのでわざわざ、ジュノー王国から外れるように森に潜伏するのは考えにくい事です。また、仮にジュノー王国が東方のどこかの国と共謀していた場合、
例えば法国であれば先の理由と同じで、潜伏する必要性はありません。十三連合国や帝国また、更に東方の国家であった場合は、他国を通過しなければならない陸路では、どこかで見つかるリスクが高すぎます。その場合は海路を取った方が遥かに安全でしょう。そういった諸々を考慮すれば、現状ジュノー王国が関与している事は非常に確率の低い事だと言わざるを得ません。」
「なるほど。」とデュード王は感心するように見ている。
「では、仮にどこかの国家が関与しているとしたら、どこが怪しいかね」
とカナン王が訊ねる。
「申し訳ございませんが、現状情報が少なすぎます。強いて言うならば、法国は可能性が低いと考えます。」
「おや?先ほどは、法国内にしかもかなり高位の者が関与しているかもと聞いたが、矛盾していないか。」
とカナン王が訊ねる。
「それは、あくまでも法国という国家がということです。先程言った通り、法国全体というか国家としてそのような行為をする場合、ジュノー王国に留まるよりもすぐさま、法国内に入った方が安全で確実です。一度入ってしまえば、とっとと通過させてしまえば良いのです。それができないという事は、国家として、そのようなことは出来ない状態にあるということです。ただし、先程の通り、もしかしたら高位の中に共謀者がいる可能性は捨てきれないでしょう。その場合、その者は法国自体も騙している事になるでしょう。それと付け加えさせて頂くなら、私は、南方の海洋国家については知りませんし、法国以東の国家についても詳しいわけではございません。ましてや魔族の存在などは、本で読んだ程度で、実在している事すら信じていませんでしたから、その辺りはご了解いただければと存じます。」
と説明する。
「ほう!」とカナン王とデュード王は口を揃えて唸った。
「なるほど、面白い話を聞かせてもらった。実に面白い。貴殿の働きの褒美については十分に報いさせてもらおう。」
退出後、部屋に戻るまでの間にヒュリアは申し訳ないと
何度も謝罪していた。
「別にいいですよ。隠す必要もないですし、また同じような事件が起きても困りますし。なにより、子供達がかわいそうだ。」
そう言って、アハハと笑った。
部屋に着き、
「明日のパーティーは、午後5時から始まります。それまで、自由にしていて下さい。もし、出かけるなら、スライアを付けますので言って下さい。それと今日の食事は、申し訳ないのですが、私もギームも式典の準備で手が離せないので、部屋に運ばせます。」
とヒュリアはまた申し訳なさそうに言った。
「気を使わないでいいよ。その代わりお願いがあるのだけれど、明日もし問題なければ、お城の図書室なんかで、本を読ませてもらえないだろうか。」
「それなら、問題ない。すぐに手配しておこう。では、朝食後、迎えに来させるよ。」
ヒュリアは半ば急ぎ足で去っていった。
「じゃあ、あとはリリーと遊んでるかな。」
そういえばリリーって食っちゃ寝ばかりだよな。




