14日目 手紙
●14日目(グリウス歴863年5月16日)
早朝より、ギルドに足を運ぶ。昨日大量に買い物したので
金銭的に大きめの依頼を受けて、金策したいと感じていた。
そろそろ受ける段階に来ていると判断して、宿は敢えて押さえなかった。
大きい依頼は基本的に日数がかかるのが多いからである。
今日はギルド内が騒がしい。
法国の事故対応に出ていた冒険者が戻ってきたからである。
ヘレンさん曰く、良いお金になったから、仕事を受ける人は
まだ、少ないと嘆いていた。
もう何日かすれば、金欠になった冒険者で仕事が減るだろうとも言っていた。
依頼が減る前に、ここらで依頼を受けておくのが望ましい。
とはいえ・・・・掲示板を見る。
・・・・いつも通りの常設依頼を除くと、出来そうなのは護衛依頼。
一つは、エルフ領への護衛、もう一つは法国への護衛。
討伐依頼はランク外ばかり。そろそろランクを上げるべきか。
こっちに来て2週間Eランクへのアップはどのくらいが適正か分からない。
訊いてみよう。
「ヘレンさん、おはようございます。」
「おはようございます。アルスくん、今日は早いのね。」
「ええ、まあ。それでちょっと訊ねたいことがあるのですけど、いいですか?」
「なんでも聞いてちょうだい。」とヘレンさんはにこやかに答える。
「他の皆さんはEランクにどのくらいで上がっていくものなんですか?」
と素直に訊いてみた。
「そうねー。人それぞれだけど、早い人だと2か月くらいかしら?1年経っても上がらない人はだいたい辞めていくわね。」
「へー、そうなんだー。ちなみに一番早かったのはどのくらいですか?」
「たしか、2週間が最高記録だったかしら。」
「凄い人がいるんですねー」と感心したように言う。
「そうだ、なんなら、アルスくん、ランクアップして新記録作っちゃえば。」ニコニコ。
「いやあ、僕じゃ無理ですよー」と若干顔を引きつらせて言う。
「そんなことないとおもうけどなー」ニコニコ。
この人怖っ。ヘレンさんは俺の所持スキルを知っている数少ない人だ。
話を逸らそう!
「そうだ、忘れてたー。魔石の買取をお願いしたかったんだ。お願いできますか?」
「いいですよ。では魔石を出してもらえますか。」
周りに見られないよう、ベルトポーチから出すよう気を付ける。
「随分、持ってきたわねー」
しばらくして
「お待たせしました。買取は合計で金貨25枚になります。やっぱり、ランクアップ試験受けたら?」と話をぶり返す。
「ありがとうございます。じゃあ掲示板見てきます。」
と聞こえなかった振りをして離れて行った。
ヘレンさんは、俺の秘密に感づいていそうで怖いんだよなぁ。
ともあれ、魔石を売った金額がそれなりだったので、金策は解決してしまった。
さあて、どうしようかなと悩んでいると、
受付からヘレンさんが呼んでいるのに気づいた。
計算ミスでもしたのか。と思いつつ受付に向かう。
「アルスさん、度々すみません。お手紙が届いています。先程、渡し忘れていました。」と1通の手紙を渡された。
「手紙?」俺に手紙を出すような知り合いはいない。
というか知り合いは数えるほどしかいない。
「一体誰だ?」
表には『ランゴバルドの冒険者ギルド所属アルス殿』と書かれており、
裏には『ヒュリア』と書かれてあった。
「アルスくん、エルフに知り合いでもいるの?」とヘレンさんが訊いてくる。
えっ?なんでエルフって分かるの?この人。
「なんで、エルフ?」と思わず訊き返すが、声が上ずってしまった。
「・・・・・」じーーーー。無言で見てくる。
「な、なんでエルフかなぁ?」明らかにバレている。にも拘わらず、訊き返す。
「はぁ」と大きなため息をついて
「だって、その裏の封蠟、エルフ王国のものじゃないですか。それはエルフ王国の王族で使われているものよ。見間違えるはずないわ。」
と身を乗り出し小声で教えてくれた。
周りに聞こえないよう気遣ってくれたようだ。
ん?ヒュリアは別に王族じゃないよな。王族なのか?そんな話一切してないぞ。
護衛騎士とかそんなんじゃないのか?明らかに困惑しているのが
顔に出ていたらしい。
「まあいいわ。個人の詮索はご法度だからね。でも困ったことがあるなら、ちゃんと相談しなさいね!」
と人差し指で頭を小突かれてしまった。
「はい。じゃあ、僕はこの辺で。」と言って逃げるように出て行った。
露店で飲み物を買い、周りから見られない場所で手紙を読む。
『拝啓 アルス殿 今回の件では大変感謝申し上げます。つきましては、来るグリウス歴863年5月20日にエルフ王国とドワーフ王国共催で祝賀会を催す事となりました。大変貢献して頂いたアルス殿には賓客としてお迎えしたく存じます。国王陛下もぜひ、お礼を申したいとの事ですので、ご足労ですが、ぜひ、エルフ王国王城までお越しくださいますようお願い申し上げます。 追伸 ギームも是非会いたいと言ってましたよ。』
エルフの国王がお礼を言いたいだと。という事は、
あの誘拐された子供は王族で、もしかしたらドワーフの方も王族の可能性が高い。
しかも、今、政情的にエルフ、ドワーフと人間国家では嫌厭状態ではなかったか。
そんな中で、人間の俺が呼ばれている。普通は謝礼金を渡して終了じゃないのか。
うーん、理解できん。
ヘレンさんなら詳しそうだけど、どこまでしゃべっていいのか分からん。
仮に王族が誘拐なんて知られたら、対面が良くないはず。
そしてヒュリアも内密にと言っていたはず。
しかも、その誘拐には人間が絡んでいるというか主犯はおそらく人間側。
ああ、こんな事なら一昨日戦闘現場に足を運んでいた方が良かったか。
いや、恐らく証拠の類は残されていないだろう。
仕方ない、ヘレンさんに相談してみるか。
再び冒険者ギルドへ向かった。
「ヘレンさん、相談したい事。というか確認したい事があるんですが、できれば内密に。」と小声で訊く。
「ちょっと待ってて」
ヘレンさんはこちらの質問に少し考えた後に答えた。
一度奥に行って、同僚になにか伝えると戻ってきた。
こちらにいらっしゃいとヘレンさんに促されて、2階にいく。
そして、とある扉の前でノックをする。
「入りたまえ。」内側から返事が返ってくる。
「失礼します。」とヘレンさんが入っていき、
さあどうぞと部屋に入るよう促された。
「やっと来たね。アルスくん。」
奥の机に初老の男性が座っていた。
「どうぞ、かけなさい」
優しい口調だが、有無を言わせぬ圧力を感じる。
「えーと、これは、どういうことですか」
どちらともつかず、訊いてみる。
「アルスくんは、訊きたい事があるんじゃないかね。そうそう、自己紹介がまだだったね。私はこのギルドを任されているシモンという。よろしく。」
と言いながら、机の前にある応接ソファに座った。
さあ、かけなさいと再度促された。とりあえず、ソファに腰を掛けた。
「何から訊きたい?ギルドの立場かね。国の情勢についてかね。」
とすでに訊きたい事が見透かされているようだ。
ここは腹を決めるしかない。
「では、お言葉に甘えて。まずはこのギルドとジュノー王国との関係性を教えてください。」
ギルド長のシモンさんは頷く。
「冒険者ギルドは独立した組織だ。それぞれの国、主に人間の国家だね。そこに数か所の拠点が設けられている。ジュノー王国内ではこのランゴバルドの冒険者ギルドが一番大きくて影響力も大きい。建前上ではどの国にも所属せず、つまり国に対しては中立を謳っている。」
「建前上ですか。では、実際には?」
「実際には、持ちつ持たれつだな。国から要請があれば、その国にあるギルドは断ることは難しいだろう。ただし、それなりの要求はするがね。」
「なるほど。では、人間とエルフ、ドワーフといった国々とは現状どう関係ですか。」
「君も噂くらいは聞いているのだろう。今人間の国家と亜人種の国家とは上手くいっていない。しかし、流通が止まったり、貿易が止まったりというレベルまでには至っていない。減少はしているがね。」
「なぜ、揉めているんですか。」
「人の欲望のなせる業かな」ハハハとから笑いする。
「一体どういうことです?具体的に言って下さい。」
少しムッとしたように言った。
少し間を開けて、まじめな顔に戻り、シモンさんは訊いてきた。
「君はエルフを見てどう思った?」
「綺麗だと思いました。」素直に言う。
「では、ドワーフは?」
「素晴らしい技術を持っているかと。」
「その通り、君が思ったことは、他の人間も感じている事だ。人は欲深い。綺麗なものを見て欲しいと思う。素晴らしい技術を目の当たりにすれば欲しいと感じる。そして、なんとしてでも手に入れようとするのが人間だ。つまり、そういう事だよ。エルフを捕まえて慰み者にする。ドワーフを捕まえて奴隷のように働かせる。そして、エルフとドワーフの接点が薄ければ薄いほど、非情になっていく。ジュノー王国は、エルフとドワーフの国とは隣接している。交易も盛んだ。一昔前であれば、エルフと人間、ドワーフと人間が結婚するなんて話は当たり前にあったんだ。しかし、法国は宗教国家であるから、そうでもないが、その先にある十三連合国や帝国などは、自分たちの欲望の道具としか見ていない風潮がある。それで、一時期、亜人種に対して酷い仕打ちが国家として行われた。それ以降、エルフやドワーフは人間との接触を拒むようになった。これで今の現状は理解できたかな。」
「ええ、だいたいは。では、ジュノー王国とエルフ、ドワーフの国とは、現状どのような感じなんですか。」
「私は、国家の人間ではないから、実際の所は分からないが、国王は少なくとも現状を憂いていると思うね。交易が滞れば、経済は停滞し、税収が減ってしまうからね。このままではジュノー王国は国力を落としていくことになる。法国は宗教国家なので民間の消費は低い。十三連合国は、現在のところ政情不安定だ。これには帝国が絡んでいると思われる。その帝国だが、軍備拡大が続いている。そんな国家と交易しても危険度が増すだけだ。エルフやドワーフの国から見てもそうだ。結局は人間の国家。帝国や十三連合国と手を組む可能性が大きいと考えている。そんな国家に技術を売るような真似はしたくないのが本音だろう。」
「では、帝国とエルフ、ドワーフ王国との戦争の可能性はありますか。」
「現状ではまず無いだろう。帝国がエルフないしドワーフ王国に攻める場合、法国を通り、ジュノー王国を抜ける必要がある。もう一つは海上からというのもあるが、海上の戦闘ではエルフの方が圧倒的に強い。なのでこれもあり得ない。法国と帝国の戦争も低いだろう。法国と戦端を開けば、十三連合国の法国よりの国家も参戦するだろう。当然ジュノー王国にも援軍の要請がかかるはずだ。王国としても法国が無くなれば単独で事に当たらざるを得なくなる。それを無視するわけにはいかないだろう。これが今の情勢だ。」
「分かりました。最後にもう一つ。エルフとドワーフの王族には、何かあるんですか?」
「何かとは?」質問が抽象的過ぎたか。
「んー。なんて言えばいいんですかね。そうですね。エルフの王族は他のエルフとは何か違うんですか。ドワーフも同様ですが。」
「質問の意味がいまいちはっきりせんが、エルフもドワーフも王族はエルダー種と呼ばれていると聞いたことがあるが、本当かどうかはわからん。」
他に質問がないか、考えを巡らし、これ以上は無さそうなので
「ありがとうございました。」
「ここまで協力したんだ。次はこちらの質問に答えてもらうよ。」
「今からする質問はギルドの義務だ。理解してくれ給え。」
やはり来た!
「君はエルフの王国ないし王家から正式な文書をもらったね。どういった内容だね?」
「ただのパーティーの招待状ですよ。」
「ただのね。なるほど。では、君はいつからエルフの王家と知り合いになったんだい。」
「確かにエルフの人とは一昨日、知り合いになりました。魔物の討伐中に。」
嘘は言ってない。
「という事は、エルフの王家に係わる者が王国の領内にいたのかね。」
「いいえ、私とそのエルフがあったのは、妖魔の森の奥ですよ。敵を追撃中にばったりと。」
「ふーん、なるほど。」
シモンは少し考えるように続けた。
「そのエルフが王族だったという事かね。」
「どうなんですかね。正直、そのエルフが王族なのか、今でも信じられませんが。」
これは実直な感想だ。
「そのエルフの名は何て言うんだね。」
「手紙に書かれていた名前ですよ。見たんですよね。」と反抗してみる。
相手は少しムッとした感じがしたので、少しマズイと感じ、
「ヒュリアですよ。書いてあったでしょ。」と言い直す。
「ああ、そうだったね。確かそんな名前だ。」と
シモンも、けむに巻く体で答える。
「では、何のパーティーだね?」
「ただ、助けてくれたお礼に招待するからおいで。と書かれていましたよ。」
嘘は良くないが、全部まともに言う必要もないだろう。
先程からヘレンさんは一言も話さない。ただこちらをジッと見ているだけである。
見ているだけなら普通出ていくと思うが、そういうことなのだろう。
「いやあ、助かりましたよ。いきなりパーティーの招待って言ってもエルフの王国には入ったこともないし、今仲が悪いって聞いていたから不安だったんですよ。これなら、問題なく遊びに行けますね。本当に助かりました。他に訊くことも無さそうなので、これでお暇します。どうもありがとうございました。僕はこれから出発の用意があるので、これにて失礼します。」
と言って、席を立ち、部屋を出ていく。
「どうだね?」とギルド長が訊ねる。
「ほとんど嘘はありませんでした。」とヘレンさんが答える。
「ほとんど?」とギルド長は訊きなおす。
「ええ、最後の問題なく遊びに行けますね。の部分です。」と苦笑交じりに答える。
「そうか。ワハハハハハ。賢しい小僧だ。」と可笑しそうに笑った。
とりあえす、情報は期待以上に得られた。
今回攫われた子供たちは、それぞれの王族もしくはそれに準じる血統なのだろう。
そしてその血統とはエルダー種、より妖精族としての素養を高く持った者たち
なのだろう。
そして誘拐を企んだのは、ベルガド帝国、もしくは十三連合国のどこか。
恐らくベルガド帝国が濃厚だろう。
ベルガド帝国は十三連合国の北バルシー神聖法国の北西に位置した軍事大国だ。
現在の皇帝は、かなりの高齢だということだ。
エルフ王国とドワーフ王国から呼ばれたという事は、
今回の誘拐事件でどこの仕業か探るために呼ばれていると見た方が良いか。
この2国にしても、西側に巨人族の領土が広がっていて、
時折、侵略行為で対応を余儀なくされているという状況のようだ。
出来れば人間の国家と揉めるより、同盟した方が良いと考えているに違いない。
同盟するなら、ジュノー王国しかないだろう。
法国は亜人種に否定的な要素が強いので厳しいだろう。
奴隷制度に否定的であることが両者の対立が生まれていない要因であり、
お互い中立を望んでいる節がある。
そんな中、ジュノー王国に所属している冒険者が助けた。
可能なら、それを糸口に世論の緊張緩和とジュノー王国との関係修復に
繋げたいというところか。
それとも、本当にただのお礼がしたいという事だけなのだろうか。
まあ、今考えても何もできないし、
変なことに巻き込まれないよう、注意しておくくらいか。
すでに昼を過ぎている。
エルフ王国の王都まで歩いて2日半くらいだ。
20日の朝にはエルフの王都に着いていたいから
17日の午後には出発しなければならない。
つまり、明日には出発しないと間に合わないということか。
「一応、ヘレンさんに言っておくか」
再び、冒険者ギルドへ戻る。
先程、ヘレンさんは業務に戻ったようなので、ヘレンさんの所へ行く。
「ヘレンさん、先程の話ですが、明日にも出発しようと思っています。一応、お知らせしておこうと思いまして。」
「そうですか。気を付けていってらっしゃいね。」
いつものヘレンさんが答えてくれた。
「明日からの準備があるので、今日はもう帰ります。」
といって、ギルドを後にする。
エルフ領への護衛依頼はあったのだが、日程が合わなかったので
受けないで一人出発する事にした。




