101日目 パルーア市国入国
●101日目(グリウス歴863年8月13日)
「アーくん、起きて。」
体を揺すられ、目を覚ます。
アンジェの顔が目の前にあった。
「起きた?そろそろ出発の準備をしないと。」
「おはよう。」
「おはよう、アーくん。」
アンジェが軽くキスをする。
体が少し重い。毎度のことながら、どうにも惰眠を貪りたくなる。
それでも体を起こして周りを見る。
部屋の中は夜と同じように薄暗い。窓一つないこの部屋では当たり前だ。
テーブルには朝食であろうスープとパンが置かれている。
「2人はもう食べたの?」
服を着替えながら訊ねる。
「ええ、先に食べたわ。」
テーブルにつき、パンとスープを頬張る。
スープはまだ温かかった。
食べ終わった所で、クリーンの魔法をかける。
こういった所は、ものぐさだった俺には便利この上ない。
なんせ歯磨きも洗顔も必要ないのだから。
その間、アンジェとマリアは自分達の荷物のチェックをしていた。
「それじゃあ、行きますか。」
3人で部屋を出て、馬車のある広間まで行く。
広間には既に何人か出発の準備を終えて待っていた。
伯爵たちはまだ来ていないようである。
「持って行く荷物は俺が預かるので、馬車から出してくれないか。」
御者の男達にそう伝えて荷物を運び出してもらう。
荷物は個人のもの以外にもパルーア市国への手土産などもある。
そういった物は全て異空間収納に仕舞っておく。
「アルス殿。」
後ろから声をかけてきたのは、昨日拘束した男だった。
「昨日はすまなかったね。」
「いえ、それはいいんです。・・・あのお願いがあるのですが。」
「なんでしょう?」
「昨日捕まった時に遠見の筒を拾われなかったでしょうか。」
そう言えば、収納したままだったのを思い出す。
「そうか、返すの忘れてたね。ちょっと待ってて。」
そう言って、異空間収納から望遠鏡のような物を取り出す。
「これだよね。」
そう言って、男に手渡す。
「そうです。拾っておいてくれてありがとう。無くしたら大目玉喰らう所でした。」
「すまなかったね。」
男は懐に遠見の筒を仕舞い、一礼して去っていった。
あれは魔道具なのかな。鑑定しておけばよかった。
もし、魔道具でないのであれば
この世界にもレンズを作るだけの技術があるということだ。
この世界は魔法技術と科学技術が織り交ざった中途半端な感じを受ける。
魔法技術もそれほど高くはなく、かといって科学技術もそれほどではない。
魔法技術に関しては魔族やエルフが得意としていて、
科学技術はドワーフが得意としている。
人間社会はこれらを中途半端に吸収し、どっちつかずの状況にある。
どちらも発展させれば、同じよなことが出来、
前世の現代に近い暮らしも夢ではないだろう。
だけど、教育環境が整っていないこの世界では
発明や発展は先のように思える。
そんな埒もない事を考えているとベイドに連れられて伯爵たちがやってきた。
「全員揃っているようですね。そろそろ出発しましょう。」
ベイドと彼の部下3人が道先案内人のようだ。
他の部下は多分ここの護衛として残していくのだろう。
洞窟から出ると日差しが温かく、むしろ少々暑いくらいに感じる。
ただ、森の中に入ると少しひんやりとして気持ちがいい。
そんな森の中の獣道のような所を歩いて進んでいく。
途中休憩を挟みつつ、1時間ほど歩いただろうか。
ようやく森を抜けた。
抜けた森の先には湖があったのだが。
「海?」
海と見紛う程の大きな湖で海と勘違いしても
おかしくない大きさだった。
その湖の先にはまるで水に浮いているように見える大きな城塞都市が見える。
その手前には比較的大きな船が浮いている。
そしてその周りを3体のペガサスが飛んでいる。
ペガサスの上には人の姿も見えた。
そして船の周りを水上バイクの如く、
水しぶきを上げて水上を滑走しているものが見える。
「あれがペガサスライダーとケルピーライダーか。」
ペガサスライダーは、想像どおりのいでたちであったが、
ケルピーライダーの方は想像とは少し違っていた。
想像していたのは、馬のように跨って水上を走る?ようなイメージだったが、
ケルピーの本体は半分水面下にあり、
馬のような首と上半身が水上に出ている。
その上をまるでサーフィンのように中腰で立って人が乗っているのだ。
その姿を見て、まず出た感想が「よく落ちないな。」である。
それと「あれで戦えるのか?」ということである。
「どうですか?」
アンジェとマリアが横に来て、一緒に眺めながら訊いてきた。
「大きな湖だね。まるで海を見ているようだよ。」
「パルーア湖は分かっている湖の中で一番大きいと言われているわ。遠くに見えるのが城塞都市のパルーア市国で島全体が街になっているのよ。島は湖の北側に位置していて一部水深が浅い所に橋が架けられていてそこが唯一歩いて渡れる場所になるわ。ここは、湖の西方で北側以外の水深はすごく深いと言われているわ。だから、北側以外から街に行こうとすると船を使う以外は不可能なのよ。ただ、大きい船は接岸できないから、小舟で大きい船までいかないといけないのですけどね。」
先程、大きい船から何艘かの小舟が出てきているのも見えていた。
今はその周りをケルピーライダーが護衛しているように見える。
「ところで、あのケルピーライダーだけどさ、あれで戦えるの?」
どうしても気になったので、訊いてみた。
「あれは、巡回姿勢といって、偵察や哨戒の時にはあの姿勢で行動します。視点が高い分、遠くまで見えますし、湖水の中も多少は判別できますからね。戦闘になれば、馬のように騎乗する格好になりますよ。」
「なるほど。そう言われると納得だね。」
湖は青くキラキラ光って幻想的な雰囲気を出している。
「すごく幻想的だね。」
「この湖には水の精霊が多くいると言われています。実際に街の中心にある泉の最深部には大精霊が住んでいるとか水の精霊界に繋がっているとか、そんな話もあるのですよ。」
後ろから、ベイドが近づいてきて話しかけてきた。
「一度見てみたいな。」
「そうして下さい。さあ、もう間もなく舟が到着します。乗船の準備をしておいて下さい。」
いつの間にか舟はもう目と鼻の先まで来ていた。
舟は小舟と言っても大きめの部類で乗客を
10人くらい載せられる大きさだった。
それが3艘到着したのだ。
1艘目には伯爵たちが、2艘目には執事やトール達冒険者が、
3艘目には俺達とベイドともう一人の部下が乗船した。
ベイドの部下2人は、ここで別れて戻る事になっているようだ。
乗り込み終わると順次大きな船へ漕ぎ出す。
漕ぎ手は左右に3人ずつ居て、船尾には操舵する人が乗っている。
そして周囲には警戒姿勢のままケルピーライダーが警護している。
こちらの上空にはペガサスライダーの1騎が旋回しながら飛行している。
何事もなく大きな船まで到着した。
近くで見るとこの船も大きい。
外洋にも出られるんじゃないかと思えるほど大きく
そしてこれが軍船という物だと判った。
舟の横には小舟から乗船できるように階段が設えてあった。
そこを登って乗船する。
船長と思しき格好をした男が出迎えた。
「遥々、ジュノー王国からお越し下さり、恐縮です。短い間ですが、皆様には良い船旅を。」
そう挨拶して、ホフマン伯爵達を船室の方へと案内した。
俺達は甲板の上に特別に設置されたであろうテーブルや椅子の所で
休むように言われた。
ベイドも報告があると船の中へ入っていった。
舟の上では水夫たちが忙しそうに動き回っている。
「右回頭、微速前進。」
「ヨーソロー」
船員たちの声が聞こえてくる。
船がゆっくりと回頭しながら動き出した。どうやら南側に向かうようだ。
船の縁に立って、景色を眺める。
「こんなゆったりとした旅もいいなあ。」
思わず口から零れた感想をアンジェとマリアに聞かれた。
「そうよねー、アーくんってば、いつも忙しなく動いているものね。こうしてゆっくりと移動しながら旅を楽しむのもいいよね。」
マリアも同じ感想なのか、遠くを眺めながら言った。
「そうそう、パルーアにも港があってね。その近くには市場が出ているのよ。着いたら行ってみましょうよ。」
「いいね、それ。」
それから暫くゆったりとした船旅を味わっていると、
船は島の南側へやってきた。
島の南側には大きな港があり、アンジェの説明によれば
向かって右半分が軍港、左半分が民間港になっているそうだ。
見ると、軍港には今乗っている船と同じような大きさの船が
何隻も停泊している。
そして左半分には大小様々な大きさの船が停泊していた。
民間船は漁船や輸送船などがあり、
輸送船は主に湖の南部にある港まで往復しているとの事だった。
湖の南部にある港には関係者以外は人が住んでおらず、
防衛拠点としての機能もしっかりとしているらしい。
パルーアの流通は北部の橋と南部の港に支えられているという事だ。
そして、船は軍港の方へ入港する。
「それでは皆様方には一度王宮に向かって頂きます。」
この船の船長だろうか、水兵に比べるときっちりとした軍服に
身を包んでいる男が言った。
船を降りると馬車が5台用意されていて、その馬車に分乗する。
俺達の馬車にはアンジェとマリア、ベイドが乗車した。
「城についたら私はそこでお別れです。報告にあがらなければなりませんので。」
ベイドは名残惜しそうに話した。
「ところで、今、王位はどのような状況なのですか。」
アンジェがベイドに訊ねる。
「今、王は不在です。ただ、今王位継承権1位がアメリア様で、第2位がシグルド侯爵となっております。そして、3位から10位までは不在となっている状況なのです。」
「アメリアが1位なのですか?」
「はい。」
アンジェとマリアは何か複雑そうな表情を見せた。
「それにしてもシグルド侯爵って、あのシグルドですか?」
「はい、そうです。」
「あのっていうと、もしかして、アンジェと結婚を目論んでいた人の事?」
俺が確認するように訊ねた。
「はい、そうです。」
ベイドもこの話を知っているようで、
アンジェとマリアの代わりに答えてくれた。
「王の不在が問題になっているのと王位継承権者が2人しか残っていないという事で宮廷ではアメリア様を王位につけようとする派閥とシグルド侯爵とアメリア様を婚姻させてより強固な体制を作ろうとする派閥に分かれて水面下で争っていたようです。」
「それは少しおかしくないですか。」
マリアが割って入る。
「王位継承者を強固にするなら、アメリアとシグルドが結婚なんて逆じゃないの。血統を重んじるのであれば、安全に2人は別の人と結婚して継承者を育てた方が良いのではなくて?」
マリアが指摘した事は部外者の俺でもわかる話だ。
2人が結構して子供が出来てもその子供しか継承者になれない。
2人が別々に結婚すれば単純に2倍の人数が継承者として誕生する事になる。
「それが、シグルド侯爵から言わせると、今は複数の継承者を出すよりも一致団結する方が王位は安定すると喧伝しておりまして、それがまさに2つの派閥を作る要因にもなっているのです。」
「相変わらず、言っている事が滅茶苦茶だわ。」
アンジェが溜息交じりに言った。
「それでアメリアは何て言ってるの?」
「アメリア様はこの件については触れられておりません。ただ、アメリア様を擁護する派閥は、それに猛然と反対しております。」
「そうよね。アメリアもあのシグルドと結婚なんて嫌でしょうし。それにしてもシグルドの節操のなさには呆れるわね。」
「そのアメリア様?というのは、アンジェとマリアと仲が良かったの?」
「アメリアは元々王位継承権のない王族でした。私たちの5つ下だったかしら、アーくんと同じくらいの年齢よ。私とはあまり接点はなかったですけど、マリアは少しは知っているんでしょ。」
「そうね。アメリアは私の遠縁にあたるので、何度か遊んだ事がありましたわね。でもアメリアがまだ5、6歳の頃の話ですし、向こうは憶えていないかもしれませんね。大人しくて賢い可愛らしい子供でしたわ。」
「ん?アメリア様?が俺と同じくらいの年齢でシグルド侯爵が40代だったっけ?それで結婚しようとしているの?」
俺が昨日聞いた話で間違っていないか確認した。
「そうですわね。」
マリアが短く答える。
「シグルドにしてみれば、権力さえ手に入れば結婚なんて誰でもいいんでしょ。相変わらずの権力志向だわ。」
シグルドの人間性がなんとなくわかった気がした。
「それよりもアンジェとマリアは大丈夫なのか?2人は結婚が嫌でここから出て行ったんだろ。戻って大丈夫なのか?」
「そうね。あまり王宮には出向きたくはなかったけど、シグルドは王位継承権のない私たちには興味ないでしょ。私たちはシスターポーリンのお陰で正式にアーくんと結婚した事はペンダントの喪失で証明されてるから。でも、多少の嫌がらせはあるかもしれないわね。でもこちらも、もう王家とは関係ないし、向こうも曲がりなりにもジュノー王国からの使者の一団相手にあまり無礼な事はできないでしょう。」
「それよりもベイド。お願いがあるのですけど。」
アンジェがベイドに話しかける。
「何でございましょう。アンジェリカ姫。」
「もう姫ではないですよ。私はジュノー王国所属のBランク冒険者アンジェです。これからはアンジェと呼んでください。」
「いや、それは流石に・・・。ではアンジェ様でよろしいでしょうか。」
「いいわ。少し、調べて欲しい事があるの。昔、私の世話をしていた者達の事ですけど、今どうしているか知りたいのです。私付きの執事のジョハン、侍女のメアリ、それとマリア付きの侍女のローネ。それとモルガンおじい様の状況だけでも何とかなりませんでしょうか。」
「それくらいならお安い御用ですよ。モルガンおじい様というのはモルガン公爵閣下の事でよろしいのですか。」
「そうです。国を出る時に挨拶も満足にできませんでしたから、気になりまして。」
「モルガン公爵閣下は王位継承権を捨てているとはいえ、この国の重鎮であられたお方、確か今は隠居されて政治からは身を引いていると聞いております。お住まいは変わらず侯爵邸にいらっしゃるかと。執事や侍女たちの事は後ほど、ご連絡させていただきます。」
「ありがとう、ベイド。お願いしますね。」
港から街中へ入っていくと、そこは露店がひしめく市場通りとなっていた。
早朝はもっと人通りが多く、昼前には人通りも落ち着くということだった。
今は昼までにはまだ多少の時間があるものの早い者では
そろそろ昼食にする者達も出てくるだろう。
そんな中を通り抜けると、今度はレンガ造りの集合住宅のような
建物が並んだ場所に入っていった。
この辺りは市場で働くもの達や漁師の中でも自分の船を持っていない者達や
所得がそれほど多くない者達が住んでいるエリアらしい。
そしてこの建物を管理しているのは国であるというのも驚いた。
マリアの話では、居住地を与えておくことで、
税金や賃料をまとめてとれるし、何よりも他国で多く見られるスラム化して
治安が乱れる事を防止する意味もあるのだとか。
それ以外にもこの国ならではの互助を目的とした地域組織や
職業ごとの代表者が集まる地域職業会といったものもあるらしい。
前世での商工会や民生委員や自治会みたいな組織なのだろう。
この世界の中では意外と先進的なのかもしれないと、ふと思った。
そうこうしている間に王城が目の前に現れた。
それというのも他の国と違い、意外と建物の高さが高いからだった。
最初に抜けた集合住宅のような建物も1階1階は一軒家に比べると
多少低いようだが、それでも4階建てやら5階建ての建物が多かった。
今、通り抜けている場所も一軒家ではあるが、
他の国と比べると1軒1軒の敷地は狭い代わりに3階建ての建物が多い。
島の中で限られた土地を有効活用するには横に広げられない以上、
上や下に広げるしかないのは必然だ。
もう少しで王城という所で、大きな広場に出た。
そこには人口で出来たまるで公園にある噴水池のような所に出た。
前世でよく見た噴水池とは大きさが全く違い、
イメージ的には5倍くらい大きいと感じる大きさだった。
そこはパルーアの泉と呼ばれる所で、この泉の深淵には
水の精霊界と繋がっているとか水の大精霊とか精霊王が住んでいるとか
言われているらしい。
泉の中心からは水が湧き出ているのか、
中央の水面が大きく盛り上がっている。
そして、その水は横にいくつかある水路に流れて言っているのが見えた。
話によるとこの水路は上水用と下水用に分かれていて、
上水用から生活用水を得ているという事だった。
また、下水用水路はそのまま湖に流されているとの事だった。
一見、汚染が気になる所だが、この世界では化学製品が
ほとんどないと言っても過言ではない。
皿を洗う洗剤にしても植物の実などを磨り潰したものだし、
ほとんどが自然界にあるものだけだからだ。
しかも、この国では何と浄水場のような働きをしている場所があるらしい。
今では失われた魔法技術らしいのだが、
ある区画を通過する水には浄化の魔法が掛けられているという。
これは英雄の時代に造られたもので、
英雄の中の一人が造ったと言われている。
この浄水の駆動には魔石が必要という事だが、
どんな設備なのか一度見てみたい気はする。
泉から水路が四方八方に伸びていて、
その上に架かる小さい橋をいくつか通り抜け、王城へ辿り着く。
泉の広場と王城がこの島の中で一番高い位置にあるようだ。
大きな城門を抜け、正面入り口に馬車の一団は到着した。
入り口の前には数人の兵士や役人と思しき人が十数人待ち構えていた。
馬車から降りると、ホフマン伯爵と役人風の男が話をしていた。
最後尾を走っていた俺達の馬車が到着した時には
既に全員が馬車から降りていた所だった。
「これはこれは。元王族のアンジェリカ元姫とマリアンジュ嬢ではないですか。」
嫌味たらしく言って迎えたのは30代で貴族の風体をした男だった。
社交辞令のつもりだろうか笑みを浮かべるのだが
口の片端が吊り上がって、いかにも下衆な顔つきの男だった。
「カッチェ伯爵自らお出迎えとはどうされたのですか。」
マリアが汚い物でも見るかのような顔で、言葉は丁寧に訊ねた。
「いえいえ、こちらに我が国を裏切った者が性懲りもなく舞い戻ってきたと風の噂を聞きまして、確かめに参った次第ですな。それが、元王族のお二方だったとは驚きを禁じ得ませんな。」
さっきから、元という言葉をやたらと強調して話してくるのが、
精々この程度の嫌がらせしかできない小物であると
自分で表現している事に気付いてもいやしないのだろう。
「それで、その裏切り者は見つかりましたか。カッチェ伯爵?」
マリアはそれが自分達の事を言われている事は分かっている上で訊き返す。
カッチェ伯爵は自分の嫌味が相手に通じなかったと誤解したのか、
小さく舌打ちをした。
「さあ、どうでしょうか。これからゆっくりと調べて逆賊には報いを与えるべきでしょうな。クククッ。さて、私は一度戻らねばなりません。精々楽しんでいかれよ。元王族様方。」
そこまで言って、カッチェ伯爵は踵を翻すと王城の中へ戻って行った。
「いつもながら、嫌味しか言えない男ね。」
マリアが憮然と言い放った。
「何と言うか。どこぞの小説にでも出てきそうな悪役貴族の典型って感じがするね。」
「あの男は昔からそうなのです。あんな男と婚約だなんて、それこそ死んだ方がマシというものですわ。」
「あれはちょっとねぇ。」
アンジェも大きく頷いて同意する。
俺も同じ立場なら、出奔するのに微塵も後悔などしない気がする。
その後、客間に通された。
客間と言っても1区画が全て客間になっており、部屋数も20部屋近くある。
城内に通じる扉は1か所しかなく、扉の城内側には衛兵が常に立っており、
出入りは自由ではないようだが、それ以外は自由に使わせてくれるらしい。
部屋割を決め、それぞれに与えられた部屋に入っていく。
最初の部屋はロビー風になっていて、
荷物を整理したら一度全員で集まる事になっていた。
各自旅装を解き、普段着に着替える。
普段着と言っても、正装に近い服でないといけないようで、
俺は昔貰った正装の服を着ることにした。
アンジェとマリアはドレス姿で出てきた。
ホフマン伯爵の執事やメイドは仕事着のまま、
王国の重鎮たちは簡易な正装に身を包んでいる。
トール達も正装とまではいかないが、
それでも一般庶民にしては上等な服に着替えてきている。
ロザリーもあまり上等ではないけれどもドレスに身を包んでいた。
城内では武器を所持する事はご法度である。
しかし、護衛という事で短剣の所持は認められている。
ただ、その短剣も実用よりも形式を慮った物で装飾やらで
実用にはあまり向いていないような感じだった。
そんな実用的でない短剣など冒険者が持ち合わせている訳もなく、
それらの短剣はホフマン伯爵が用意していた物だった。
女性は短剣を持つことは出来ないが、
トールとジェス、俺の3人だけ短剣を腰に吊るした。
俺は別にいらないと言ったが、形式上持つ必要があると言われ、
仕方なく受け取っている。
全員がロビーに集まった所で、今後の話し合いが持たれた。
話し合いとは言っても決定事項の通達だけだが、
ホフマン伯爵には常に甥っ子であるオーバン秘書官が付き、
その護衛にトールが付くことになった。
ドラン法務官にはジェスが、ロバート軍務官にはエマ魔法士官が
付くことになった。
ロザリーはこのエリアで待機してもらい、
無いとは思うが賊が侵入してきた場合に対処してもらうこととなった。
まあ、子供のような年齢の護衛なんか連れていたら
体面的に問題だからというのが本音だろう。
俺とアンジェとマリアについては、立場が微妙という事で、
護衛の仕事からは外れる事になった。
アンジェとマリアが元王族だという事は先の話で
全員が知ることになったからだ。
そういった人間を交渉の場に出すのは、
どちらの側も不信感しか生まないと判断された結果だ。
そして俺はこの近隣で唯一のAランクの冒険者である。
俺が出ては警戒されるのがおちという事で俺も外された。
基本的に城内で護衛なんか本来必要ではない。
ただ格好がつかないので付けるというのが実情だ。
そう言った訳で俺達も居残り組となった。
これに喜んでいるのはロザリーただ一人なのだが。
そのような話をしていると、伝令の兵士がやってきた。
その伝令によると、本日この後、謁見の準備が整い次第、すぐに行われる事、
夕食時は迎賓会が催される事。
明日は、戴冠式を行うので来賓として参加を要請された事。
明後日から、会談が設けられることを告げられた。
伝令が帰った後、ここまで運んだ物資を全てこのロビーに出した。
この中にはパルーア市国への手土産やここで開くお茶会用の食材、
自分達で使うかもしれない食材などが入っていた。
手土産の方は様々な貴族にバラまくために用意されていた物だが、
戴冠式があるという事で急遽新しい王への手土産に変更された。
俺達は今謁見の間に向かっている。
そして案内されたのは謁見の間の前にある待機部屋の中だった。
入室の際には最前列にジュノー王国の重鎮がそのすぐ後ろに
護衛のトール達が更にその後ろに他の者が並び
俺達はなるべく目立たないように最後列にいる事となった。
まあ、それでも目を引くことは避けられないのだけど。
「ジュノー王国が使者、ホフマン伯爵ご入場。」
室内から先触れの声が聞こえた。
両開きの大きな扉が音を軋ませながら開いていく。
ホテルの大宴会場を思わせるような広い部屋の奥に玉座に座った女性がいる。
その横には壮年の男性が1人。
玉座のある壇上から下がってその両脇を文官や武官の
多分地位のある者達だろう、が横1列になってこちらに向いている。
そしてまるで玉座までの道を作るかのように近衛兵が槍を立てて
左右1列に並んでいる。
その近衛兵の作った道を全員が進んでいく。
近衛兵の立っている最前列まで来たところで一同止まり、深々と礼をする。
「この度は長い危険な道のりをわざわざお越し下さいまして感謝に堪えません。どうぞ、面を上げて下さい。」
一同が面を上げると玉座に座っている女性が言葉を続ける。
「私はパルーア市国第一王位継承者、アメリア・マルクィス・フォン・パルーアです。」
「お初にお目にかかります。アメリア・マルクィス・フォン・パルーア第一王位継承者様。私目はジュノー王国から参りましたルクソール・ホフマン伯爵と申します。此度はご拝謁賜り、深く感謝申し上げます。更に明日は戴冠式との事、誠におめでとうございます。」
「ありがとう。ホフマン伯爵。貴国とは十分に話し合いを持ちたいと考えています。その間、どうぞごゆるりとお過ごしください。」
「ご配慮感謝いたします。」
そのような挨拶が行われている間にマリアから小声で教えてくれた。
「玉座に座ってるのが私の遠縁のアメリアよ。その横に立っているのがシグルドね。向かって右側に武官が左が文官よ。ここにいるのは各部門の責任者クラスね。それで更にその外側は有力貴族達ね。」
責任者の数は文官武官合わせても10人程度で、
どの人も意外と若いというのが印象的だ。
その外側の有力貴族の方は30人近くいる。
即行の謁見にしては意外と多くいると感じた。
「あの貴族たちは暇なのよ。能力もなく、受け継がれた権力を振りかざして、まるで自分達が何かをしてきたかのように振舞って気色悪い。」
マリアがボソッと言ってきた。
ああいった貴族連中に色々と辛酸を舐めさせられたのだろう。
言葉にはかなりの棘があった。
よく見ると一番端にカッチェ伯爵もいた。
敵意剥き出しと言った目つきでこちらを見ている。
おいおい、謁見中にその表情はないだろうと心の中で呟いた。
「ところで、ホフマン伯爵殿。今回そちらには前代未聞のAランクの冒険者殿がいらっしゃると話を聞いておりますが、どなたでしょうか。」
挨拶が一通り終わって、そろそろ退場かという時に
アメリア暫定女王がホフマン伯爵に訊ねてきた。
ホフマン伯爵は一瞬ギョッとしたが、冷静に受け答える。
「はい。おりますが、貴族の出という事でもございません。アメリア第一王位継承者様に不快な思いをさせかねないのでご容赦を。」
そう言って、やんわりと断りを入れる。
しかし、アメリアも頑なに引かなかった。
「構いません。冒険者とはかくありきと知っております。多少の無礼は水に流しましょう。」
ここまで言われると流石にこれ以上断る事は
外交上不利になると判断したのか、俺を呼んだ。
「アルス殿、前へ。」
ホフマン伯爵が俺を呼ぶと、俺の前にいた人達はスッと道を空けた。
覚悟を決めて前に出る。
ホフマン伯爵の横に並び、礼をする。
「こちらが、唯一のAランクの冒険者であるアルス殿でございます。」
ホフマンが紹介した。
「お初にお目にかかります。アルスと申します。」
それだけを言って、そのまま礼をしたまま姿勢を維持する。
「アルス殿。顔を上げて下さい。」
顔を上げると、この場にいる全員の視線がこちらに向き、
部屋中がざわついていた。
「なるほど、随分と若いのですね。年の割にはさぞお強いのでしょうね。」
お前が言うな。
「もし良ければ、貴方の冒険譚を是非とも聞かせて欲しいのですけど、いかがかしら。」
そう言いつつも視線はこちらから後ろの方へと
向けられているようにも感じた。
「ご要望とあらばいつでも。」
短く答える。
するとその横で立っていた男、マリアが言っていたシグルドが
アメリアを注意する。
「王たるもの、下々の者とそう易々とお会いになりませぬよう、お気をつけ頂きたい。」
「あら、Aランクの冒険者というのは、冒険者ギルドが認めた英雄クラスの人間でなくって?英雄に対して下々とはそれこそ失礼に当たるのではなくって。」
アメリアが平然と言ってのける。
「確かに冒険者ギルドなる組織は世界的に見ても重要な組織ですが、所詮は民間の得体のしれない組織です。我が国までそのような下賤の組織を相手になさることはないでしょう。」
「あなたこそ、力は正義と一番思っている人間でなくって?そのあなたが力を否定する時が来たとは驚天ですわね。」
「・・・・」
「後ほど、使者を送ります。貴方の話を聞かせて下さいな。」
「はい。」
その返事を聞いて、アメリアは謁見の終了を宣言する。
そして、アメリアはそのまま下がっていった。
そして俺達も退場しようとした時にシグルドがホフマン伯爵に声を掛けた。
「ホフマン伯爵殿。アメリアに拝謁させる際にいくつか注意をさせてもらいたい。そこで拝謁するアルス殿とそのメンバーを少々残して頂けないでしょうか。」
ホフマンはどうやって断ろうかと考えたようだったが、
こう言われては断ることは出来ないと判断し、
「では、我々は先に下がらせてもらいましょう。」
そういって、退出していった。
その後、見物客である貴族連中も退出し、
シグルドは近衛兵にも下がるように命令していた。
暫くすると、そこにはシグルドと俺、アンジェとマリアだけが残っていた。
流石にカッチェ伯爵も残る雰囲気ではなかったのか大人しく退出していった。
「久しいな。アンジェリカ。」
「お久しぶりですわね、シグルド侯爵様。」
アンジェは敢えて爵位まで言った。
その言葉を聞いて、シグルドは意に介さず続けた。
「王家と国を裏切っておきながらよく戻れたものだな。」
「王家も国も裏切っておりませんわ。それにこれはれっきとしたお仕事ですから。」
「国を捨てておいてよく言う。」
「あなたこそ、国王陛下を始め、何人もいた王位継承者を一人も守れず、よく言うわね。」
「フン、守れなかったのはお前にも言える事だろう。お互い様さ。」
「それで、王位継承権が手に入って嬉しくて私たちを呼び止めたのかしら。しかも今度は節操もなくアメリアと結婚まで進めているそうじゃない。少しは恥ずかしいとは思わないのかしら?」
「この国の為だ。必要ならそうするまでだ。」
「それが厚顔無恥だっていうのよ。」
「お前らこそ、王族の義務と責任を放棄して色恋優先なぞ笑わせてくれる。」
「何が王族の務めよ。私やマリアに対して陰から私たちに嫌がらせやいじめを指示して気の弱くなった時に婚姻を迫る事が王族の務めだって言うの?知らないとでも思ったの?」
「さあ、知らんな。」
「お陰であなたと危うく結婚する所だったわ。結婚して私を女王に仕立てて、その上で暗殺する。それがあなたの筋書きよね。どうぜ、あなたの前の奥さんも邪魔になったからあなたが殺させたんでしょ。」
「ふざけるな。貴様に何が分かる。」
シグルドが激しい怒りを露わにした。
しかし、次の瞬間、冷静さを取り戻して言った。
「もう、お前達には関係のない事だ。この国の事はこの国の人間で決める。余計な事は一切するな。これは忠告ではない警告だ。」
そう言って、シグルドは俺達の横を通り過ぎて謁見の間を出て行った。
マリアがアンジェに寄り添う。
マリアがアンジェに寄り添いながらアルスに言った。
「私やアンジェが何故いじめや嫌がらせを受けていたか、アーくんには詳しく言ってなかったわよね。アンジェとわたしは生まれた時に予言を受けているのよ。『この者、いずれこの国を導くだろう。』そういう予言だったらしいわ。詳しくは分からないけど。その予言が王を示唆しているかは分からないけど、周りの特に王位継承権者は皆そう思っていたはずよ。ただ、私が同じような予言を受けた事で一時期予言が間違っているとも噂されたらしいわ。だけど、周りはそんな事はお構いなしで、年齢が上がるにつれて酷くなっていったわ。そして私が光の魔法が使えると分かると私が聖職者としてアンジェが王としてこの国に君臨するという話がより強固になっていったの。私はそれ以降はそれ程のいじめはなくなっていったけど、アンジェの方はあからさまで、それは酷かったのよ。そしてそれを扇動してたのは、あのシグルドだったのよ。彼はアンジェが壊れる寸前まで虐め抜き、そこを救う事で結婚まで持ち込もうとしたの。結婚後は今度はアンジェを利用して王位につければ、アンジェと結婚したシグルドは直系の一族と判断されて王位継承権が上位に変換される。その後は最初の奥さん同様暗殺して、自分が王位を簒奪する計画を持っていた。これはあのシグルドが言った訳ではないけど、その側近であるカッチェ伯爵が漏らした事よ。カッチェ伯爵はその見返りとして私と結婚できるようシグルドに頼み込んだらしいわ。本来であれば私とカッチェ伯爵が結婚しても私が降嫁する事になり王位継承権が無くなるだけなんだけど。それが女王の夫であるシグルドが言えば、もしくはシグルドが王になったならば降嫁ではなく、婿入りとしてカッチェは侯爵に下手したら公爵を手にする計画だったのよ。」
「よくそんな情報が手に入ったね。」
いくらなんでもカッチェがそのような事を漏らすとも考えにくい。
「そんなの簡単よ。カッチェは私と婚約寸前まで行ったのよ。私と接触する機会は多かったのよ。そこでグデングデンに酔わせて後は光魔法のセンスライで計画を白状させたわ。私がちょっと演技しただけであの馬鹿ペラペラとしゃべるんだから、ホント小物よね。」
マリアを本気で怒らせるとただでは済まないと肝に銘じておく事にした。
マリアはアンジェにサニティの魔法をかけて落ち着かせる。
「アンジェ、大丈夫?」
俺もアンジェに寄り添った。
シグルドが出て行った後、へたり込んでいたアンジェをゆっくりと立たせる。
「取り敢えず、戻ろうか。」
アンジェを支えながら謁見の間を出て行った。
部屋に戻る間にアンジェは平静を取り戻した。
そしてロビーに戻ると、メイドのシンシアがお茶を入れてくれる。
そのお茶を飲み始めて間もなく、今度はアメリアの使者がやってきた。
「失礼いたします。アメリア様からの使者でございます。ご足労ですが今からアメリア様がお会いになられるとの事です。アルス様Aランクの冒険者チームの皆さまはどうか、お越しくださいますようお願い致します。」
一息つく間もなく、使者の後について行く事になった。
「アメリア様、お連れしました。」
「どうぞ。」
扉を開くと先程の衣装とは違って少しラフなドレスを着て
座っているアメリアがいた。
その後ろには女性の護衛騎士が立っている。
部屋に通され、座るように促される。
「ようこそ、いらっしゃいました。アルス様。それとアンジェリカ様、マリー姉さま。」
「私の事憶えているのかしら?」
マリアがアメリアに訊ねる。
「勿論ですわ。私が大好きだったお姉さまですもの。私は少し前までマリー姉さまが死んでしまったと凄く悲しんだのですよ。」
そうか、シグルド以外のペンダントがアメリアの下に集まった事を考えれば
そう考えるのが普通だ。
「ごめんなさいね。心配かけたようで。」
マリアは素直に謝った。
「それと、国を出る時何も言わずに行ってしまわれて、置いて行かれたと思ってその時も凄く悲しかったんですからね。」
少しむくれて見せるのは年相応と言った所か。
「あの時はアメリアもまだ小さかったし、連れて行くわけにはいかなかったのよ。それに国を出る時は急を要していたからね。そこは謝るわ。」
「それよりも、アーくんに託けて私たちを呼び出すなんて何かあったの?」
「ばれました?」
「ばれましたって、あの場にいるほとんどの人間が分かるわよ。」
「ええー、ちゃんとそれらしい理由考えたのにー。」
「それで、どうしたの。」
「私女王になるのはもう仕方ないって思ってますけど、シグルドとは結婚したくはありませんの。でも徐々に貴族達を切り崩されてしまって、為す術がなくなってしまったの。だからマリー姉さまに助けてほしくって。この時期にマリー姉さまが帰って来てくださったのは、きっと神の思し召しだと思うのです。お願い、助けてお姉さま。」
「そうは言ってもねえ。私もアンジェも他の貴族からは疎まれていた方だし、逆にアメリアの足を引っ張る可能性の方が大きいわ。他に誰か有力貴族の後ろ盾は無いの?」
「あれば困りませんわ。モルガンおじい様も政界を離れて久しいですし、今後ろ盾になっている貴族の方も私がいいではなくって、シグルドが嫌だからという理由でしかないのです。」
「あー、ちょっといいかな。アメリア様。」
「何でしょう、アルス様。」
「俺達はこの国の現状が全く分からないんだが、そもそもどうして王位継承者や国王が亡くなったんだ?俺からしたらあまりにも不可解なんだけど。例えば街が蹂躙されてとかなら分かるけど、街が健在なのに何で王族だけこれだけの人数に犠牲が出てるんだ?」
「それでは順を追って説明しましょう。まず、事の発端は毎年開かれる十三連合国会議でした。パルーアでは第一王子がこの会議に参加していました。この会議で帝国の襲撃を受けたのです。引き入れたのは十三連合国の北部連盟の国でした。この北部連盟は親帝国派の国で帝国と組んで南部の反帝国派の国を攻め滅ぼしにかかったのです。この会議には国王自ら出席する所もあれば、代理を立てる所もあり、様々ですがそこを襲撃された事で南部の国家は有力な指導者を多く失う事になりました。そしてそれと時を同じくして帝国の武力侵攻が始まったのです。ただそれは、引き入れた北部連盟も帝国に裏切られてあっという間に占領されてしまいました。パルーアでは、その知らせが入るか入らないかというタイミングで国王の暗殺事件がおきました。犯人は帝国の暗殺者でした。こちらはすぐに捕らえたのですが、自害してしまいました。国王と第一王位継承者を失ったパルーアは侵攻してくる帝国に対して残った王位継承者が集まって継承者会議が開かれました。アンジェリカ様とマリー姉さまがいませんので残った7名でかなり揉めたようです。そんな中、帝国側から休戦協定を結ぶ会談を申し込まれました。これが罠だと主張する者、ここで休戦に応じないと滅ぼされてしまうと訴えるものこれも紛糾したようです。結局、休戦を支持していた第3位から第5位の継承者が向かう事になったのです。それというのも、帝国側から追加の案で十三連合国の分割統治をするという提案が来たのです。会談でその調印もするので統治する者が直接来るようにとあったからです。第2継承者はそんな事をしなくても順当に行けばパルーア国王になれるので行きませんでした。なぜ、こんなにも簡単に引っ掛かってしまうのかはアンジェリカ様とマリー姉様ならお分かりかと思います。」
「アイツらは自分の権力に執着してたから、チャンスだとでも思ったんでしょ。」
「それもありますが、十三連合国会議で死なせてしまった第一王位継承者の賠償金が送られてきたのです。国王暗殺については帝国ではない、帝国に濡れ衣を着せようとした十三連合国の他の国だと主張していました。結果、多額の賠償金が支払われた事もあり彼らはそれを信用して出て行ったのです。そしてものの見事に捕まりました。その後帝国の魔物の軍勢が攻めてきたのですが
この戦闘で第6、第8、第9継承者が戦闘で亡くなっています。実はこの少し前にペンダントが私の下に来たのです。多分シグルドにもこの段階で来たのでしょう。ですが、第2継承者が戦闘の指揮を取らざるを得なくなりました。第2継承者は前線指揮の最中に味方の魔法の暴発により亡くなってしまいました。その為、私が王位継承権を手にした事を自発的に公表しました。本来であれば最上位の継承者によって周知されるはずでしたが、この段階で最上位は捕縛されていましたし、国内には継承者不在である事で士気の低下が著しかったのです。その発表の後、シグルドも自発的に公表したのです。それと同時になんと捕縛された継承者たちが処刑されたと聞きました。この時、私の継承順位は3位、シグルドが4位、他の継承者がいるかどうかが不明でした。1位と2位はお姉さま方である事は分かっていましたが、ペンダントの個数が把握できずにいました。ただ、その頃から帝国の攻撃が散漫となっていきました。多分、この時に法国への侵攻があったのだと思います。その後はシグルドと協議しながらなんとか凌いでいきました。ある時、ペンダントがシグルドを除く全てが私の下にあることがわかりました。私はてっきりお姉さま方が死んでしまったと勘違いをしてしまい、シグルドにその事が露見してしまいました。順位が変わった以上、隠すことは出来ないのは分かっておりましたが、継承者が残り2人になった事も私は恐怖以外感じませんでした。シグルドが噂通りなら私もいずれ殺される可能性があると。ただ、唯一の救いはシグルドが直接殺害の指示を出したり、手を下すことは出来ないという事だけでした。」
「それはどういう事?」
「それはね。ペンダントの加護の一部分なのよ。」
アンジェがアメリアの代わりに答えた。
「ペンダントの所有者同士で殺害計画を立てるだけで呪いが発動して殺害をしようとした者へ罰が下るようになっているの。どんな魔法だとかどういう仕組みかなどはまったく解明されてないけど、現実として過去にそういった事件はあったのよ。それにこの効果はあくまで直接関わったかどうかが重要で、信奉者は勝手に事を起こした場合は呪いの発動は無いのよ。」
「なるほど、それで泥沼のような継承者同士の争いを封じていたんだね。」
「話を戻しますが、王位の不在が長引いているので私が王位を継ぐことになったのです。」
「なるほど、そう言った経緯だったんだね。ちなみに賠償金っていくら払ってきたの?」
「金貨50万枚ですわ。」
「50万?」
金貨50万枚っていうと、日本円で50億円って事?マジか。
それなら信じる奴も出てくるわけだ。
ここまで話したところで、ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼いたします。そろそろ晩餐会の時間になります。準備をなさいませんと間に合わなくなります。」
「そう、分かったわ。」
アメリアは時間を知らせに来た侍女に答えると、こちらに向かって言った。
「名残惜しいですけど、時間が無くなりました。またの機会といたしましょう。」
そう言った後に、小声でまた連絡しますわ。と付け加えた。
その後、再びロビーに戻った俺達は、ようやくゆっくりすることが出来た。
晩餐会はジュノー王国のお偉方のみだけの参加なので、
俺達は部屋に運ばれて来た食事で済ますことになった。
食後に3人で集まったが、明日は戴冠式という事もあり、
今日明日に結婚式がある訳でもないという事で
今日はそれぞれで考えることにした。
今日は体力ではなく精神的に疲れたようだ。
それにアンジェもマリアも何か思うところもあるだろう。
たまには1人でゆっくり休むのもいいだろう。
部屋に戻りベッドの上で、今後どうするべきかを考えていた。
はずなのだが、いつの間にか眠ってしまった。




