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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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99日目 パルーア市国に向けて1日目

●99日目(グリウス歴863年8月11日)


薄明かりが()す中、砦の正門前では、馬車が3台、整然(せいぜん)と並んでいる。

寒くはないが少し空気が冷たく感じる。

しかし、これから暑くなることを考えると

気持ちいいくらいの冷たさでもある。

馬車に(つな)がれた馬の低い(いなな)きがブルルルッと時折聞こえてくる。

そんな中を十数人の男達が馬車に木箱を積み込むために(せわ)しなく動いていた。

時間が経つにつれて急速に空が白み始める。

砦の中心部からこれまた十数人の老若男女が馬車に向かって歩いてきた。

その姿を見た一人の男が向かってくる集団に声を掛けた。

「皆さん、おはようございます。準備は間もなく終わりますので、少しお待ちください。」

「ご苦労。」

答えたのは、少し太めの如何(いか)にも貴族という格好をした男だった。

「旦那様、馬車の中で待ちしましょう。」

初老のきっちりとした服を身に着けた男がその貴族に声をかけた。

その声を聞いて、何人かがそれぞれ馬車へ乗り込んでいく。

残ったのは、男性3人と女性3人となった。

その内、子供が男女1人ずつ含まれていた。

「それじゃあ、隊列を決めようか。」

声を出したのは、意外にも男の子からだった。

「まず、ロザリーは2台目の馬車の御者台に乗ってくれるかい。」

ロザリーと呼ばれた女の子は(うなず)く。

「アンジェとマリア、それとジェスさんとトールさんは騎乗して下さい。先頭馬車の横をアンジェとマリアで後方の3台目の馬車の横をジェスさんとトールさんでお願いします。俺は先頭の馬車の御者台に座ります。特にジェスさんは後方の警戒をよろしくお願いしますね。」

「任せろ。」

答えたのは皮鎧に身を包んで弓矢を装備した男だった。

「前方の索敵は俺が担当します。それぞれ出発の準備をして下さい。」

「なあ、アルス。2台目の馬車の護衛はいいのか?」

「大丈夫ですよ。トールさん。2台目を攻撃できる敵がいれば、先にこちらが見つけられるから。」

トールと呼ばれた、盾を背負っている戦士風の男に

アルスと呼ばれた男の子が答える。

「アルスがそう言うのなら大丈夫なんだろうけど。」

トールは2台目の馬車にロザリーだけになるのを気にしているようだった。

「私も2台目の馬車に気を配っておきますから安心して下さい。」

「すまないな、アンジェ。気を使わせてしまって。」

トールは戦士風の女性にお礼を言った。

この6人のメンバーは全員同じようなフード付きのマントを付けていた。

パッと見、夏にこの格好は暑いだろうと思えるのだが、

日陰のない場所を移動するには多少暑くてもフードや帽子が必須となるのだ。

そして金属の鎧を付けている人間にはマントも必須となる。

そうしている間に、荷物の積み込みも終わったと報告がきた。

全員が馬車や馬に乗り込み終わっているのを確認して、

アルスは出発の号令をかける。

先頭の馬車から順にゆっくりと馬車が動き出す。

その先にある門も音を(きし)ませながらゆっくりと開いていく。

3台の馬車は砦から順に出て行った。

すでに空は明るくなっている。


「どういう行程で行くのかい?」

馬車の中から声が聞こえた。

声の主は先程、旦那様と呼ばれた小太りの貴族だ。

「3時間ごとに小休止を取ります。なるべく馬も皆さんも体力は温存したいですから。それでよろしいですね。ホフマン伯爵。」

アルスは、訊いてきたホフマン伯爵にそう答えた。

「行程はアルス殿に一任している。頼みましたよ。」

まだ砦を出たばかりで襲われる心配はほとんどない。

この周辺は冒険者が毎日のようにモンスターを狩るために

出て行っているからだ。

その為、この周辺のモンスターは狩りつくされたと言っても過言ではない。

今、冒険者たちの狩場は、これから向かうタイス市周辺になっている。

タイス市国内には、モンスターがまだ多数生息している。

そこから出てきたモンスターを狩っているとの事だ。

今朝、十三連合国の詳細な地図を確認したが、

砦からタイス市国まで真っ直ぐ行けば約1日だ。

以前タイス市に行った時は、街道沿いに進んでいったために

大きく迂回(うかい)していたことに初めて気づいたのだ。

テレポートを使ったにも関わらず、馬車と同じ行程になるのが不思議で

地図を確認させてもらったのだ。

前に行ったルートはタイス市とトパ市の中間へ向かった後に

北上するT字路のような場所にぶつかる。

そのまま真っ直ぐ街道を進めばタイス市で北上するとトパ市になる。

ただ、タイス市へ向かう街道はその後大きく南下していく。

つまり、弧を描くように進んでいたのだった。

今回は街道を進まず、真っ直ぐタイス市へ向かうために、

距離的に大きく短縮できるのだ。

タイス市からダイア市とアクアン市の中間を抜けて、パルーア市に向かう。

地図上では、このルートがほぼ直線距離となり、最短で到着できる。

ただ、街道とは違って、道は無いので、時間的には大差ないようだ。

タイス市からダイア市まで街道で4~5時間、

ダイア市からアクアン市まで街道で4~5時間、

アクアン市からパルーア市まで街道でやはり4~5時間、

こちらの都市間は均等になっている感じだ。

街道を進まないとは言っても、まったく人が通らない道を行くわけではない。

街道として整備されていないだけで、畦道(あぜみち)は繋がっている。

今回はそんな道を行く行程となっている。

「この道は裏道を行くのですね。」

アンジェが訊いてきた。

「そうだね。基本時に馬車では通らないけど、早馬や早く目的地に向かいたい人達が使う道だね。」

「そんな道で大丈夫なのか。」

ホフマン伯爵は不安そうに訊ねた。

「正規の街道では大きく迂回もしますし、何よりいくつか街を抜けなくてはいけない。そうなると必然的に戦闘の機会も多く、この少ない護衛では通過することすら難しいでしょう。この道なら仮に戦闘になっても周囲に見つかるリスクは少ないでしょう。」

昨日の話し合いの時に見せてもらった地図を見て、

このルートしかないと決めていたのだ。

「でも、よくこの道があるって分かりましたね。」

マリアは不思議そうに訊いてきた。

「別にある事を知っていた訳じゃないよ。ただ、街道の造りが不自然だったから、整備されてない道もあるだろうと予想してただけだよ。それに、道が無くても、比較的安全なルートである事には変わりないしね。」

今通っている道の様子から、多くはないが

それなりに使われている道であることはすぐに判る。

馬や人が通れば地面が固まり草も茂らない。

馬車でも十分に進めていける道であった。

「それにしても、この馬車のスピード早くない?」

以前、護衛で商人の馬車に乗った時は、もっとゆっくり進んでいたと思う。

今はこの整備されてない道を結構な速さで進んでいる。

「そうですか?」

アンジェは特に違和感が無いようだ。

「それはですね。この馬たちは通称角なしと呼ばれる馬で、バイコーンやトライコーンといった魔物との掛け合わせで生まれた馬なんですよ。バイコーンやトライコーンとの間に産まれた場合、こういった角なしたちが産まれる事があるのです。角なしは見た目も元の馬のままだし、バイコーンやトライコーンなどの魔物と違って、気性も激しくはありません。ですが、能力的にはそこらにいるウォーホース等よりも早さも体力も目じゃありません。まあ、バイコーンやトライコーンと比べれば能力は落ちますがね。」

説明してくれたのは、先頭の馬車の御者の男だった。

バイコーンとは2本角の馬のような魔物で、

トライコーンとは3本角の馬のような魔物だ。

「へー、そんな馬もいるんですね。」

「誰でも手に入れられるような馬じゃありませんがね。それに気性が激しくないと言っても普通の馬に比べればそれなりに大変なんですよ。俺達はこいつらが小さい頃から世話をしてるから懐いていますがね。誰でも言う事を利かせられるわけでもないんですよ。」

実際に今の移動速度は普通の馬車の5割増しくらいの早さだ。

整備されている道ならもっと早いのだろう。

「でも、そうすると馬車自体は大丈夫なの?」

これだけの早さで悪路とは言わないまでも、それなりのデコボコ道だ。

こんな速さでは馬車の車軸が折れてしまうんじゃないかと不安になる。

「もちろん、この馬車も特注ですから。角なし達に()かせる為にわざわざドワーフに造らせた馬車ですんで。」

なるほど、思ったより揺れが少ないのは、そういう理由があったのか。

護衛についている馬たちは速歩(はやあし)状態になっている。

「これは下手すると、護衛の馬の方が先にへばるかもしれないな。」

「大丈夫ですよ。こっちの馬はライトウォーホースですから、体力的には問題ありません。トールの馬だけ重量の関係でミドルウォーホースですけどね。」

アンジェは俺の心配を打ち消してくれた。

ウォーホースとは軍馬の事である。

その中でライト、ミドル、ヘビーとランク付けされている。

「それならいいんだけど。」

しばらく、草原の中を進んでいく。

「そう言えば、これから向かうパルーア市はどんな街なんだい。」

十三連合国の大半が占領されている中で唯一落ちていない街だ。

軍門に下った街で無事な所もあるが、

独自に抵抗しているのは凄いと言わざるを得ない。

「そうですね。パルーアは大きな湖に囲まれたというか、湖の中にある島の上にある街です。島全体が城壁に囲まれていて水の都と呼ばれていた時期もあるんです。」

「そうなんだ。詳しく聞かせてくれる?」

「いいですよ。」

マリアが説明を始めた。

「パルーアはその昔、十三連合国と呼ばれる前はパルーア王国と呼ばれていました。およそ、600年前に建国されたと歴史で学びました。その頃は世界は混沌としていて、魔族と人間族、エルフやドワーフ等の妖精族、この3者で常に争っていたと言われています。人間族の中では更に魔族寄りの国家や妖精族寄りの国家もあり、必ずしもずっと戦争をしていたわけではないようでしたが

それでも争いは絶えなかったと言われています。そして400年くらい前に人間族と魔族の大きな戦争で人間族が大敗を(きっ)する事となったのです。それにより、人間族は十三連合国やジュノー王国周辺以外の土地から追いやられていきました。完全に力のバランスが崩れて、人間族が魔族に対抗できる状況になくなった時、人間族の中から英雄と呼ばれる異能の力ある者が出てきました。これを英雄の時代と呼んでいます。英雄の時代に突入すると今まで一方的に負けていた人間族は英雄たちの働きにより魔族を追いやっていきました。300年前に人間族と魔族と妖精族は協定を結び、今の帝国、十三連合国、ジュノー王国、南方の海洋国家を人間の領域(りょういき)に、北方を魔族の領域に、今あるエルフやドワーフの国を妖精族の領域に定めたと記されています。西方にある巨人族の領域や東方の未開の領域については、(いま)だに判っていません。ドラゴンの領域があるとかライカンスロープ達の街があるとか、あっ、ライカンスロープは今は獣人族と呼ばれている種族です。(いわ)くありげな話も色々とあります。少し脱線(だっせん)してしまいましたが、その時にパルーア王国は現在の十三連合国の地域を治めていました。この時に、王位継承のルールが定まったと言われています。しかし、英雄の時代が終わり、英雄たちの姿も徐々に見られなくなった頃、パルーアでは次第に領主が力を持つようになったのです。そして王家の力も徐々に衰退(すいたい)して、今の十三連合国となっていったのです。パルーアが何故滅びなかったかと言うと、パルーアの立地と城塞(じょうさい)都市としての機能、それから、王位継承権のあのペンダントのお(かげ)だと言われています。まあ、歴史についてはこんなところで、終わりにして、パルーア市の中心には水の精霊界に繋がっていると言われている泉があるのです。そこからは際限(さいげん)なく水が()き出ていて、その水はパルーア湖に流れ出ているのです。その中心にパルーア城があります。」

「凄い街だね。じゃあ、敵を寄せ付けないのは、その湖と城壁のお陰なのかな。」

「そうですね。それが大きいと思います。ですが、それだけではないのです。王位継承者には、ペンダントを使って水の精霊を限定的に使役できる力があります。あくまでも湖の範囲内だけですけど。それと、ケルピーライダーと呼ばれる騎士団も存在しています。数はそれほど多くはありませんが、湖の戦闘ではペガサスライダーと共に連携する事で敵なしと言われています。」

「ペガサスライダーは分かるけど。ケルピーライダーって初めて聞いたよ。」

「ケルピーは水馬(すいば)とも呼ばれる魔物で、上半身が馬で下半身が魚のようにヒレを持った姿をしています。本来、テイマー以外に操れるような魔物ではないのですが、ペンダントの力で、湖の圏内(けんない)では使役できるのですよ。」

「そうなると、そのペンダントって凄くない?」

「ええ、非常に強力な物ですが、制約も非常に強力になってます。パルーアから離れていられる期間があるのも、その制約の一部ですね。」

「なるほどね。」

その後、パルーアの食文化の話や貴族の話など色々と教わった。

そうしてかなり進んだ所で一旦休憩を取ることにした。

ここまでは、索敵にひっかかる敵性生物にはぶつからなかった。

休憩中、御者の一人から軽く何かを食べるように言われた。

それというのも、普通の馬車と違い、速い速度で移動しているのと

状態の良い道を進んでいるわけではないので、

ガッツリとした食事はお勧めできないというものだった。

そのため、休憩ごとに軽く食べる事によって、

体調を悪くするのを防ぐらしい。

そう言う事なので、果物を1つずつ食べることにした。

馬に水や飼葉(かいば)を与えて、再度出発となった。

この調子なら暗くなる前にタイス市へ到着出来るかもしれない。

本来であれば、ギリギリまで進むつもりだったが

明るいうちに野営地を探せるのは大変ありがたい。

今予定している野営地は前回タイス市へ行った時に

池だか沼だかのある森を南周りに行った周辺を考えている。

タイス市と森を(はさ)んでおけば多少の煙も目立ちにくいはずだし、

(にお)いが街の方へ流れていくのも防げるかもしれない。

距離があるとは言っても獣系の魔物だったら嗅覚(きゅうかく)(あなど)れないはずである。

そうして、またしばらく進んでいくと、前方に森が見え始めた。

「一旦停止して下さい。」

俺は御者の男に言った。

御者は後続の馬車にも分かるようにゆっくりと停車させた。

3台の馬車が止まったあと、ジェスとトール、ロザリーがやってきた。

「どうしたんだ。敵か。」

ジェスが神妙(しんみょう)な顔で訊ねてきた。

「いえ、そうじゃないよ。前を見て。あの森は多分最初の野営地付近にしようとしていた森だと思う。予想よりだいぶ早く来たかもしれない。ただ、あの森が目的地の森か分からないから、偵察(ていさつ)に出ようと思う。もし、あれがその森ならあの森の北にタイス市があるはずなんだ。森の大きさも分からないし、どの程度近づいたかも分からないと動きようがないから、偵察に出ている間、慎重(しんちょう)に進んでいってほしいんだ。」

随分(ずいぶん)ショートカットしたとは思うが、もうタイス市の近くに来たのか。早くないか?」

トールも信じられないといった風で()いてくる。

「ほぼ真っ直ぐだったし、馬車のスピードも通常の馬車以上に早かったし、間違いないと思う。それで、もし、あの森が予想地点だったら可能な限り森の外縁(がいえん)に沿って行く予定だよ。道はこの様子だと森の中に入っていってるからこれからは道を外れる事になる。もし、偵察に出ている間に森に着いたら、そこで、待ってて欲しい。まだ道沿いに行った方がいいのか外れた方がいいのか分からないからね。」

「わかった。一人で大丈夫か。こっちは心配しないで大丈夫だ。アンジェとマリアも残ってくれるんだろ。」

「偵察は俺一人で十分だよ。」

「アンジェとマリアもいいね。」

「アーくんの言うとおりにするよ。」

「リリーも置いていく。何かあったらリリーに連絡してもらってね。いいかい、リリーも。」

アンジェとマリアそれとリリーにも声を掛ける。

「あるすー。がんばってー。」

「よし。じゃあ、行ってくる。みんなも十分気をつけて。」

そう言って、一通りの防御魔法とフライの魔法を発動させる。

そして、一気に森の方へ飛んだ。

なるべく目立たないように、一気に上昇をかける。

ある程度上昇した後、森の方を観察する。

森は思った以上に大きかった。

そしてその先には街が見える。多分予想通り、あれがタイス市だろう。

前来た時よりも荒んで見えるのは気のせいだろうか。

森は、街の西から南にかけてを囲むように(しげ)っている。

東の草原地帯に薄らと白っぽい線が伸びているのが見えた。

もしかすると、あれがタイス市からアクアン市とダイア市の間を抜ける

道かも知れない。

本街道はタイス市の北側から伸びているはずで

今見ている白い線は真東から出ているように見える。

すると今回の野営地は、今いる場所が最も森に

(さえぎ)られている箇所(かしょ)になるのだが、道沿いというのは気に入らない。

通りやすいという事は、モンスターも通る可能性があるという事と同義だ。

ただこのまま森の外縁に沿っていくと進めば進むほど

森が薄くなっていっている。

そうなると、野営している時の火や煙、匂いが

周辺の魔物を呼びやすくしてしまう恐れもある。

悩みながら東の方角を見ていると1箇所、周りとは色の違う場所があった。

急いでそちらに飛んで行く。

近づいてきて分かったのは、遺跡(いせき)か過去に打ち捨てられた

建物の残骸跡(ざんがいあと)地のように見えた。

一気に急降下して近づいていく。高度を可能な限り下げて更に近づく。

どうやら、かなり昔の遺跡というか倒壊した石造りの小さな村にも見えた。

低空でその遺跡の上空を周回しつつ索敵を行ったが、魔物の反応はなかった。

ここなら、タイス市からも離れているし、周囲からも目立たないだろう。

急いでリリーに念話で話しかける。

「リリー、聞こえるかい。」

「なぁにー、あるすー。」

「みんなに、進路を真東に進むように伝えてくれるかい。」

「わかったー。あるすがねー、ひがしにいけってー。そう、まひがしっていったよー。」

リリーよ、念話のまんま大声で話さないでくれ。

頭の中でリリーの大声が響く。

「あるすー、つたえたよー。」

「ありがとな。俺もすぐ合流するから。また後でね。」

そう言って、馬車のいる方へと戻って行った。

空から見たよりも思ったほど離れていたのが分かった。

おかげで、遺跡についたのは暗くなり始めている頃になってしまった。


「索敵で周囲にモンスターはいないと思うけど、野営出来そうな安全な場所を探そう。なるべく敵が襲ってきても守りやすそうな所がいいな。」

「わかった、手分けして様子を見よう。」

ジェスとトールと俺とで別れて野営に良さそうな場所を探しに行った。

他のメンバーはそのまま護衛をしてもらっている。

(しばら)くして再び戻ったら、ジェスが良さそうな場所を見つけたという事で、

全員でそちらに向かった。

半壊していて屋根は無かったが、馬車が3台入っても十分な広さがある

大きな建物の跡地だった。

確かに、ここなら火を()いても周りから直接見られる恐れはなかった。

ここで野営する事に決め、食事の準備や寝床(ねどこ)の準備などを始めた。

ジェスは周りに簡単なトラップを作ると言って何やら始めていた。


「少しお話をしませんかな。」

俺が周囲の索敵を念入りに行っていた所にホフマン伯爵が話しかけてきた。

「なんでしょう。」

「いえなに、少々世間話でもと。」

そう言いながらも、ホフマン伯爵の目は笑ってはいなかった。

「そうですね。構いませんよ。」

その言葉を聞いて、ホフマン伯爵は瓦礫(がれき)となった大きな岩に腰かけた。

「パルーアについて、不思議ではありませんか?」

おもむろに話し始めたホフマン伯爵の話の意図が見えず()き返した。

「何がですか?」

「パルーアの防衛能力が優秀なのは知っております。あそこを落とすのは容易でない事は過去の歴史から見ても分かります。しかし、帝国は十三連合国のほぼ全てを滅ぼしてしまった。それなのに歴史も古く、強固な守りがあるとはいえ、ただの城塞都市だけで果たして帝国に(あらが)えるものなのでしょうか。私には本気で帝国がパルーアを落とす気がないのではと思っているのですよ。」

ホフマン伯爵の言っている事は判る。

帝国はあっという間に他の十三連合国の都市を制圧して見せた。

それほど、帝国の戦略は狡猾(こうかつ)で用意周到(しゅうとう)だったと言わざるを得ない。

ある場所では軍事力で打ち滅ぼし、

ある場所では内部崩壊させてからの占領といった、

まさに事前に徹底した調査が()されていないとできない事だと思う。

「それで、伯爵はどうお考えで?」

逆に訊き返してみる。

「そうですな。私もパルーアについてはあまり知識は多くないのですが、帝国と繋がっているのではと(あや)ぶんでいます。」

「でも帝国の侵攻は受けているんですよね。」

「そうですかね。本気とは思えませんが。」

「仮に帝国と繋がっていたとして、他の市国の中には明らかに帝国側であった所もあると聞いてます。それらも結局は滅んでいるに等しい状況ではないですか。それについてはどう思われますか。それに、パルーアの王族は何人かが死んでいるでしょう。それでも繋がっていると思いますか?」

これは、流石(さすが)に自分でも身内びいきな質問にも思える。

まるで、アンジェとマリアが帝国側だとでも

言われた気分になってしまったからだ。

「ほうほう、王族が無くなっていたのですか。それは知りませんでしたね。私の所にはそんな重要な情報が入ってきませんでしたね。」

おっと、これはマズった。

「たまたま助けたパルーアの難民から聞いたのですよ。具体的に誰がどのようにとは訊きませんでしたけど。」

「そうですか。それは残念です。」

明らかに残念そうな顔をしていないところが(しゃく)(さわ)る。

「それでその難民の方は今どちらに?」

「さあ?それ以降会ってはいませんから。」

「そうですか。できればもっと詳しくお聞きしたかったですね。」

ホフマン伯爵は一体何を探ろうとしているのやら。

「そう怖い顔をしないで下さい。別にアルス殿と敵対したいわけじゃないんですよ。ただ、これから行くパルーアの内情はこちらでも分からない所が多すぎるのです。もしかしたら、帝国が本気で落とそうとしたが返り討ちにあったとか、帝国との情報戦で帝国を出し抜いたとか、他にも考えられることはたくさんあります。アルス殿がそんなに顔に出てしまってはこの先大変ですぞ。まあ、つまらない話をしました。お気を悪くなさいませんよう。私は向こうに戻らせてもらいます。」

そう言って、ホフマン伯爵は執事たちの待つ場所に帰っていった。

「むう。」

思わず、(うな)ってしまった。

すると今度はジェスがやってきた。

「よう、アルス。伯爵と何か話していたけど、してやられたのか。ククク。」

何かしてやられたというのは分かっているようだ。

「ジェスは伯爵を良く知ってるの?」

「うーん、どうだろうな。悪い奴ではないと思うし、あれで結構頭の切れる奴だとは思ってる。」

悪い奴ではないという事は、さっきのは忠告?

「それよりもだ。今までどんな冒険をしてきたんだ?ゆっくり聞かせろよ。」

「そっちこそ、義妹(いもうと)さんなんて話聞いてないぞ。随分、頭が上がら無さそうじゃないか。」

「2人で何の話をしてるんだ。」

トールがやってきた。

「これから、アルスの冒険譚(ぼうけんたん)を聞いてやろうって話してたんだ。」

「おっ、俺も聞きたいな。」

「そっちがどんな冒険してたのか先に聞きたいな。」

「おーい、食事の準備ができたよー。」

ロザリーが呼ぶのが聞こえた。

「いこうぜ。飯食いながらじっくり聞かせてもらうからな。」

「先にそっちの話が聞きたい。」

「別に大して面白くないぞ。」

「聞いてから判断するよ。」

そのあと、食事をしながら、ジェスの話を聞き、

こちらの話も根掘り葉掘り質問された。

そして遅くまで話した後、見張りの順番を決めて休む事となった。

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