98日目 チフーラ砦へ
●98日目(グリウス歴863年8月10日)
またやってしまった。
体が重く感じる。
日差しの加減から陽が出てから随分時間が経っているのが分かる。
前世では決して童貞などではなかったけど、こんな感覚は記憶にない。
行為の途中からの記憶がぶっ飛んでいて、夢見心地というか、
酒を記憶のなくなるくらい飲んだ状況にも似ている。
心の中では気持ち良かった事しか残っていないのが、
酒と違う所かもしれない。
眠い目を擦りながら、眩しすぎる日差しに耐えながら、
ゆっくりとベッドから起き上がる。
アンジェとマリアはすでに起きているようで、部屋にはいなかった。
ベッドから這い出し、服を着る。
ふと、頭を過ぎったのは妊娠という言葉だ。
そういえば、この世界で避妊ってどうしているのだろう。
この年齢で稼ぎはある程度あるとしても、
この年齢で父親になるというのは如何なものだろうか。
それにもし、2人の内どちらかが妊娠でもしようものなら、
3人で冒険には出られなくなる。
どこかに安息できる家を買わなければいけないだろう。
普通に住むだけなら、あの塔の中でも十分だけど、
周りに人がいる訳でもないし、
医者?そういえばこの世界に医者はいるのだろうか。
産婆さんくらいなら居そうだけど
塔の中生活するのは、やはり難しいとしか言えない。
着替え終わって、ベッドの淵に座りながら、
そんな事を考えていると扉が開いた。
「あっ、おはようアーくん。起きてたのね。」
入ってきたのはアンジェとマリア、リリーだった。
手には料理の乗った食器を持っていた。
「そろそろ起きるかもって思ったから、ご飯持ってきたよ。」
アンジェが持っているのはスープの入った小鍋と
お茶の入ったポットのような容器。
マリアが持っているのは、肉を薄くスライスした
ハムだかチャーシューのようなものと
チーズをスライスしたものが乗ったオードブル皿と野菜の入ったボール。
最後に入ってきたリリーはパンが入ったバスケットを持っていた。
俺は立ち上がり、「ありがとう」と言いながら、テーブルに向かう。
異空間収納から取り皿やスープを入れるカップといっても
見た目お椀にしか見えないのだがを取り出して
テーブルに置いていく。
その食器に、それぞれの分をアンジェが取り分けていった。
全員が席に着くとマリアがいただきましょうと言ってみんなで食べ始める。
食事が済んで、締めのお茶を飲んでるときに、
勇気を出して聞いてみることにした。
「あのさ。こんな事聞くのどうかとも思うんだけどさ。」
そう切り出して、2人の顔を見る。
2人とも特に表情も変えずに、次の言葉を待っている。
「その。昨日の行為の事なんだけど、子供ができたりなんかしないのかな?」
アンジェとマリアはお互いの顔を見合わせて、マリアが訊ねてくる。
「アーくんは、子供が欲しいの?」
「ち、違うよ。逆、逆。今、子供が出来たら色々と大変になっちゃうと思ったから、避妊もしてなかったように思うし、その、そうなっちゃったら、どうしようかなって、さっき考えてたんだ。」
少し恥ずかしかったので、俯き加減で2人に告白した。
「大丈夫よ。ちゃんと、避妊してるから。子供が欲しかったらいつでも言ってね。その時はちゃんと避妊しないでしましょ。」
マリアが笑みを零しながら言った。
「えっ?避妊したの?どうやって?」
いくら記憶が途中から朧気だったとはいえ、
そんな避妊具は着けていないのは分かってる。
もしかしたら、この世界でもピルのような避妊薬でもあるのだろうか。
「アーくんは、そういった知識は無いのね。光魔法の中にピュリファイって魔法があってね。普通の状態でこの魔法を使うと水とかを浄化したりするんだけど。効果を最大にする、つまりハイデンスペルで魔法を使うと、避妊が出来たり、アンデッドにダメージを与えられたりする効果に変わるのよ。変わると言うか、強化されたって言った方が正しいかな。早い段階で使えば、ほぼ確実に避妊できるわよ。」
マジか。同じ魔法でも効果を強化すると
本来の使用目的とは違った効果も得られるのか。
魔法の説明にそんな事は書かれてなかったよな。
基本的な効果しか書かれていないという事か。
「知らなかった。・・・でも待って、効果最大って結構魔力使ってるよね。ピュリファイの効果対象範囲はかなり限定されているはず。ダブルスペルで対象を2人にするくらいなら2回に分けて使った方が消費魔力は少なく済むけど、それでも結構な回数、してたよね?・・・たぶん。」
「あら?アーくんは何回したか回数が気になるの?」
マリアが揶揄う様に言ってきた。
「違うって、もー。回数じゃなくって、ピュリファイの魔法を結構な回数使ったんじゃないの?魔力切れ起こすよね。」
「そこは、大丈夫よ。魔石を使ったから。」
そう言えば、行為の途中で、ベッドの近くに椅子をおいてあって、
その上に魔石が置かれてたのを思い出した。
何で魔石がとも思ったが、小ぶりの魔石だったこともあり、
あまり気にも留めてなかった。
「凄いのよ。アーくんったら、毎回、魔石3個使い切っちゃうんだもの。」
それを聞いたアンジェと自分で言ったマリアは顔を赤らめている。
ん?
「ちょっと待って、魔石から魔力を取り出す?どうやって?」
魔石から魔力を取り出せるならMPポーションなんか必要ないじゃないか。
実際MPポーションには副作用があって・・・ああ、そうか、
普通の人にはMPポーションの副作用はあまり意味がないんだ。
俺が異常なほどMP回復の速度があるから、気づいただけで、
普通の人は1日寝ないとMPの回復はしないに等しいから
分からないんだった。
副作用というのは、MP回復速度の鈍化の事だ。
「それはね。このペンダントのお陰。」
そう言って、マリアがペンダントを見せる。
マリアはいつも肌身離さずこのペンダントをしている。
もちろん、寝ている時も、している時もだ。
「このペンダントは、私が8歳の時に光魔法の素養、つまり光魔法が使えた時に、王家から誕生日祝いに送られた物なの。光魔法の使い手って、他の属性の魔法使いよりも重宝されれるのよ。それで、光魔法の使い手として成長させるために、この秘宝級のアイテムをくれたんだと思う。おかげで光魔法はかなり使えるようになったけどね。」
ペンダントを手で玩びながらマリアが説明した。
「そうだ。ちょうど、魔力も使い切っているし、見せてあげる。」
そう言って、マリアが自分のマジックバッグから、
小さい魔石3個と布を取り出した。
その布をテーブルに敷く。
布には何やら魔法陣のようなものが刺繍されていた。
「こうして、並べて。」
布の上にペンダントと魔石を3個並べる。
マリアは、何かの呪文を唱え始めた。
それは俺には全く分からない呪文だった。
すると、魔石が徐々に輝いていき、暫くすると段々とその光が消えていった。
残った魔石は元々黒かったのだが、白くなって、
見た目何の変哲もない石に変わってしまった。
「さっき唱えていたのは呪文?」
「呪文じゃないわ。このペンダントに魔力を補充するためのキーワードみたいなものかな。」
「へー、すごいね。どのくらい魔力を貯められるの?」
「そうねぇ。このペンダントだけでピュリファイを10回くらいはいけるかしら。」
「へー、10回もかけられるのか。凄いなー。・・・って、もしかして10回分使ったの?」
「10回じゃ、済むわけないじゃない。私の魔力も使ってるわよ。枯渇寸前までね。」
もう、この話はここで切り上げた方が俺自身の為だろう。
「・・・使った魔石分は返すから、取っておいて。」
そう言って、異空間収納から、同じくらいの大きさの魔石を10個ほど出す。
「分かったわ。この魔石を使ってほしいのね。フフフ。」
「違うから。もうこの話は終わり。それよりも今後の事だけど、2人の意見が聞きたいんだ。」
少し真面目な顔をして2人を見る。
2人とも俺の表情が変わった事で重要な話だと気づいてくれた。
「この後の行き先なんだけど、1つは昨日のダンジョンを捜索して入り口を見つけて中を探索するというのが1つ目、2つ目は砦に戻って戦争に協力する方向、3つ目は、新婚生活を満喫するためにどこかの街に行ったり旅をする。4つ目は、アンジェ達の故郷に行って、アンジェ達の知り合いの無事を確認しに行く。」
最後の言葉を聞いて、アンジェとマリアは、一瞬、顔をこわばらせた。
少しの沈黙のあと、マリアが冗談めかして言った。
「わたしは、そうね。アーくんとラブラブな旅が楽しそうでいいかもね。」
「ホントに?」
マリアの方を見る。マリアはスッと目を逸らし、俯いた。
「この結婚を急いだのって、そう言う事だと思ってたんだけど、違ったかな。」
「それは・・・」
今度はアンジェが何かを言いかけたが、それ以上話さなかった。
「俺は本音を言えばどれでも構わない。ただ、そうだね。アンジェとマリアが育った場所って所を見てみたい気持ちもある。ぶっちゃけ、ダンジョンについては急ぐ必要はないと思ってる。入り口さえも見つかっていないし、ギルドが動いて入り口を見つけてから考えても遅くはないと思ってる。旅をするっていってもどこの街に行きたいとかも特にないしね。それが偶々アンジェとマリアの故郷だったとかでも別に構わない。それと戦争に協力するために砦に戻るって言うのも正直、俺の性にあってない。そもそも自衛の為なら別だけど、人殺しを率先してやりたいとは全く思えないんだよね。」
「でも、いいの?誰が王位継承者になったか、分からない中でわたし達が戻ったらトラブルに巻き込まれるのは、ほぼ間違いないわよ。」
マリアが俺を心配しているのか、申し訳なく思っているのか分からないが、
気にかけてくれているのは確かだ。
「わたしは、できれば、お世話になった人の無事を確かめたい。」
アンジェは本音を吐露した。
こういう時のアンジェは素直に自分の言葉を出す。
そこがアンジェの魅力でもあると思ってる。
「そう、アンジェの気持ちは分かった。それでマリアの本音は聞かせてくれるのかな。」
「はー。もう。降参。そうよ。初めに結婚を急いだのは、早く王位継承権を捨ててお世話になった人を助けたかったの。それは事実。その為にずっと結婚してもいい人を探して冒険者になったんだから。」
ここでお茶に口を付けて再び話した。
「そして出会ったのがアーくん。ランゴバルドの会議室で初めて会った時は、大地の牙はそれなりに名が知れていたから問題ないと思っていたけど、なんで子供と一緒になんて思ったわ。」
「あの時のアンジェとマリアは、ツンツンしてたもんね。」
少し場を和ませようと茶々を入れる。
「それは言わないで。あの頃はホントに周りに男運が無いと2人して幻滅してたから。・・・話が逸れたわね。でも、森に入ってすぐに考えを改めたわ。大地の牙よりも、そしてわたし達よりもずっとアーくんが強いと感じたの。それも、本気を出されたら2人がかりでも敵わないと思ったほどよ。でもまだ、年齢的にね。どうしても一歩が踏み出せなかった。でも、一緒に冒険していく中で、色々と話していくうちに、中身は大人だったって気づいたの。」
「まあ、実際、中身はおっさんだしね。」
2人は聞こえないような小さな声で呟いた。
しかし今は、最初の頃よりも精神的に若返っている気がする。
感情も最初の頃より起伏が激しくなているのは自分でも分かる。
「そして、強力な力を持っているにも係わらず、ある部分では子供以上に無知だったりと段々目が離せなくなった。そして、ようやく気付いたの。結婚するならアーくんがいいと。しかも、アンジェも同じことを考えていたわ。そして、事件が起こったの。私たちの目的は結婚して王位継承権を捨てる事。その為の時間はもっとあったはずだった。だけど、帝国の侵攻で、十三連合国の大半が敗れた事を聞いて、すぐに故国のパルーア市国に戻ろうとしたの。だけど、その準備をしている最中に王位継承権の印が全てアンジェに集まってしまった。ここでアンジェが王位継承権第一位になってしまった事が分かったの。
これは、アンジェよりも上位の継承者が全て死んでしまった事を意味するし、わたし達がパルーア市国に入った場合、アンジェが自動的に王位につかざるを得ない事を示していたの。そして前に話したと思うけど、パルーア市国から離れていられる時間も残り限られていた。それを承知でアーくんは結婚を承諾してくれた。ハッキリ言って嬉しかった。そして結婚の儀式を終えて王位継承権が無くなった時にわたし達は思ったの。アーくんがあの偏屈な国と関わりを持つ必要はないんじゃないかって。確かに出来るなら私たちが苦しんでいたあの頃、それでも味方してくれた人たちを助けたい。それは事実。でも今はアーくんを巻き込みたくないのも事実。そしてどうしても選ばなければならなくなったら、わたし達は未来を選ぶ。そう決めたの。」
「でも、可能なら助けたいんだろう。」
アンジェとマリアはコクンと頷いた。
「だったら、決まりだ。2人は俺の大切な奥さんになったんだ。だったら、世話になったその人達を助けるのに理由は必要ないだろ。2人の悩みは俺の悩みだ。そんな悩みは俺が吹き飛ばしてみせるよ。」
「アーくん。ありがとう。」
2人は席を立つとヒシっと俺に抱きついてきた。
その目には薄らと涙を浮かべながら。
そこからは旅の準備に追われた。
アンジェとマリアは街で食料やポーション類の買い出しに行ってもらった。
俺はユミコと面会をしていた。
「急にすまない。大丈夫だったか。」
「アルス様はいつでも急です。慣れました。それで、今日はどうしましたか。」
「これから、十三連合国に向かう事になった。それで、ユミコにお願いしておきたい事があるんだ。これを見てくれ。」
そう言って、羊皮紙に書いた物を見せる。
「んー。これを集めろと。」
「ああ、頼まれて欲しい。とりあえず、前金代わりに魔石を300個置いていく。足りない分は品を引き取る時に渡すよ。」
そう言って、魔石を300個取り出す。
「少し、時間がかかるかもしれませんね。可能な限り、集めておきましょう。期待はしないでくださいね。」
「分かってる。無いものは無いで仕方ない。それじゃあ、よろしくな。」
俺はそのまま、部屋を出て行った。
俺が出て行ったのを見送ったユミコが呟いた。
「そもそもこの中で1つでも揃えられるかしら。」
そこに書かれているのは、人間が倒せないような
モンスターの素材ばかりだったからだ。
部屋に戻ってくるとアンジェとマリアも戻っていた。
「早かったね。」
アンジェが買いに行ったのは食材だった。
特に塩やハーブなどが切れかかっていてどうしても手に入れておきたかった。
それ以外にも肉も補充が必要だった。
マリアはポーション類を買いに行ってもらった。
HPポーション10本、MPポーション10本、
それと今回俺は初めて見たが聖水を10本だ。
しめて金貨150枚の出費だ。聖水がポーションより安くて助かった。
街を出るまで、暫く歩く。人目につかない場所まで来て2人に説明する。
「ゲートを使えれば楽なんだけど、砦内はゲートを開けなかったんだ。専用の場所もなかったしね。それで、今回はフライで移動することにした。フライの速度なら馬よりもずっと早く到着できるし飛行訓練にはもってこいだ。今回は高速移動にチャレンジしてもらうけど、いいかな。」
「やったー。飛行訓練だ。」
アンジェとマリアは、はしゃいでいる。
「リリーもまけないよー」
そう言えばリリーはどのくらい早く飛べるんだろうかと疑問を持ちつつ、
説明を続ける。
「チフーラ砦まで、フライなら1回の魔法で飛びきれるはずだ。最初は慣れるまでそこそこのスピードで。慣れたら、速度を上げていくからね。」
2人は大きく頷いた。
「フライ!」
まず、自分に魔法を掛ける。続けて2人にもかけた。
「出発。付いて来て。」
そう言うとゆっくりと上空に上がって進みだした。
2人が感覚を取り戻すのにそれほど時間は掛からなかった。
「スピードを上げるよ。」
なんとか2人は付いてこられるようだ。
しかし、これ以上はまだ厳しいかもしれない。
「あるす―。」
リリーが近寄ってきた。
「つかれたー。」
おいおい。
「リリーは服の中に入ってな。」
すると待ってましたとばかりに、スルッと服の中に入っていった。
本当に疲れたのか?俺にはただ飽きたとしか見えないんだが。
ようやく、砦が見える所まで飛んでくることができた。
フライの魔法もそろそろ限界に近いはずだ。
道になっている所を指さし、2人を誘導しながら着地する。
2人は着地してすぐに座り込んだ。
「疲れたあ。」
この疲れたは肉体的ではなく精神的なものだ。
魔力制御に集中しすぎたせいだろう。
「あと、少しだから、ここからは歩いて行くよ。」
門に辿り着くとそこには門番が2人立っていた。
「止まれ。名前と要件を言え。」
門番の1人が大きな声で叫んだ。
「俺は冒険者のアルス。後ろにいるのはアンジェとマリアだ。バッシュ司令官に会いに来た。」
「では、こちらに来て、そのまま立っていてくれ。」
門番に言われるまま、立っていると、
門番の後ろから魔法使いっぽい人間が出てきた。
「アナライズ!」
魔法使いがアナライズの魔法を使った。
アナライズの魔法は、鑑定魔法の中でも一番簡単な魔法で、
相手の名前と年齢、種族が分かる魔法だ。
一応、俺も知っているが、そんな基本情報を知った所で
何も得るものもないので使った事はない。
「問題なし。」
魔法使いが宣言した。
「よし、入れ。ようこそ、チフーラ砦へ。」
門が半開きになり、門を通った。門を過ぎるとすぐに門が閉められた。
かつて知ったるなんたらで、バッシュ司令官の所へと向かう。
「おお、アルス。戻ったか。」
「こっちは相変わらず忙しそうだね。」
バッシュ司令官が手を差し伸べたので握手する。
「また、しばらく居られそうか。」
「いや、また明日にでも出かけるよ。今度はそっちの要望通り、パルーア市国へ向かうつもりだよ。」
「そうか。いやあ、それは助かる。ここじゃあ、何だから俺の執務室まで来いよ。」
少ししない内に随分とフランクになってないか、この人は。
そのままバッシュ司令官の執務室に連れていかれた。
「それで、パルーア市国に向かうって事はこっちの頼みも聞いてくれるんだろ。」
「そのつもりだけど。結局、そっちでどうにかしなかったの?」
「やったさ。しかし、全部挫折したよ。途中の魔物が多すぎるんだよ。少数のゴブリン程度ならどうにかなったと思うが、そうじゃないからな。全員、撤退を余儀なくされている始末だ。」
「別に突破するだけなら冒険者でもいけるんじゃないか。そんなに強力な魔物がいるのか?」
「冒険者だけならな。」
「というと?」
「今回上層部が言ってきたのは政務官の派遣だ。政務官だけならまだしも、政務官の他にも秘書官、法務官、、軍務官、魔法士官、執事、メイドの7人を連れて行くなんて言ってな。それを守りながら突破するのは、無理な話なんだよ。」
「何故?必要ないだろ?」
「そうもいかんのだ。政務官と言っても貴族だ。それなりのな。だから、一人で行かせることができないんだ。」
「他の人選は出来なかったのか?」
「向こうに行ったら、そうそうこちらと連絡が取れなくなる。一応魔法士官を連れて行くから、1日に1回程度、簡単な連絡はこなせるが、それでも情報量的に一々こちらに伺いを立てている時間的ゆとりもないからな。」
「なるほど、それなりの人間を派遣しないといけないのか。だからってメイドとか執事はいらないだろ。」
「それを言うなって。それでこちらも苦慮しているんだから。」
「つまり、そいつらを同行させて連れて行って欲しいという事なのか。」
「そうだ。」
「散々失敗した案件なんだろ。諦めたら駄目なのか?」
「報酬は弾む。アルスが受けてくれるなら、前金で金貨300枚、成功報酬で金貨1000枚だ。これでどうにか受けて欲しい。」
「成功報酬は金貨1200枚だ。それなら考える。」
「うーん、それじゃあ、成功報酬で金貨1000枚、魔石300でどうだ。」
「それなら、魔石は600は欲しい。ここの所、あちこちで魔石の価格が値崩れしているだろ。」
最近は通常よりも魔石が大量に出回っている為、
買取価格が値崩れしているのだ。
前は小ぶりの魔石でも金貨1枚で売れたが
今はその半値くらいになっている。
「わかった。それでいい。その代わり、絶対に送り届けてくれ。」
「他に条件は?」
「ここからパルーア市国に行くのに平時であれば、馬車で2日の旅程だ。馬車は3台。1台は政務官、秘書官、法務官が乗る。2台目には軍務官、魔法士官、執事、メイドが乗る。3台目は物資を乗せる。それといくらアルス達3人でも流石に3台の馬車の護衛は重たすぎるだろう。別枠で護衛も用意している。この護衛は向こうでも身辺警護に当たる事になっている。」
「確認なんだけど護送する中に戦闘に参加できるのはいるのかしら?」
マリアがバッシュ司令官に訊ねた。
「全員、非戦闘員だ。魔法士官は魔法が使えるが、メインは連絡役だ。あまり期待するな。それと馬車の御者も戦闘なんて期待するなよ。」
「そう。」
予想の範囲内での回答にマリアはそっけなく答えた。
「この後、紹介がてら顔合わせをしよう。2時間後、食事を兼ねてやるから、それまで休んでいてくれ。」
「馬は用意してくれるのか?」
まさか、馬車の護衛を徒歩でやらせようとは考えてないとは思うが、
念の為に確認した。
「ああ、別枠の護衛の2人は馬に乗れるが、もう一人は馬車に同乗する予定だ。そっちは何頭必要だ?」
「アンジェとマリアが乗るのに2頭いればいい。俺は御者台にでも乗せてもらう方がいいだろう。」
「ならば、話は決まりだ。そうそう、この砦内に冒険者ギルドの臨時出張所がある。素材の買取や販売を行っているから行ってみたらどうだ。」
そのあと、前金の金貨300枚を受け取って、部屋を出る。
「どうする?臨時の冒険者ギルドにでも行ってみるかい?」
アンジェとマリアに訊いてみた。
「そうね。別に買取してもらいたいものは無いけど、掘り出し物があったら嬉しいわ。」
アンジェは言ったが、マリアはどちらでもいいような感じだった。
「こんにちは。」
ギルドの出張所と言っても、食堂の大広間の片隅にカウンターが
設置されていて奥に倉庫か何かの部屋があるだけの
こじんまりとした一角だった。
「いらっしゃい。見ない顔だね。買取かい?」
まだ、若い青年の男がカウンターにいた。
「買取じゃないけど、何かいい物が売られていないか見に来たんだ。」
「そうかい。一番の売れ筋は武器関係だな。ここじゃあ、メンテナンスができないから、武器は買い替えるのが普通だからね。特に矢の補充はここでは必須だな。」
「鍛冶師はいないのか?」
「いるにはいるが、メンテナンスに掛ける時間が無いだけだ。矢の生産と武器の生産で手一杯なのさ。矢じりと破損した武具の買取もしてるよ。資材はいくらあっても足りないからね。」
俺達のパーティでは矢は使わないから関係ないが、
確かに消耗品の矢は補充も再生産で賄わないと間に合わないだろう。
「魔石の買取は?」
「今の相場は小魔石で銀貨3枚って所だな。」
「随分安いな。」
「出回りすぎなんだよ。ここらのモンスターの大半が素材じゃなくって魔石になっちまう。だから、逆に素材が手に入ったら、いつもの2割増しで買い取っているくらいさ。」
「そうなんだ。素材は売ってるのかい。」
「なんだ、素材が欲しいのかい。もしかして、錬金術士か召喚士か何かかい。だったら、今あるのは、こんな感じだな。」
そう言って、リストを見せてくれた。
ほぼ、低ランクの魔物の素材ばかりだ。
ウルフの皮、蝙蝠の羽、蛇の牙・・・、
あまり使えそうな物は見当たらなかった。
「もしかして、あまり気に入らなかったかい。だったら、これならどうだい?」
そう言って、今度は別のリストを見せた。
ワイバーンの皮膜×2、グリフォンの大羽×5、グリズリーベアの毛皮×2。
「これは、珍しいわ。」
リストを見たアンジェが驚いている。
「珍しいのかい。」
「珍しいと言うか、普通じゃ狩る事も出来ない魔物の素材よ。どうやって手に入れたの?」
「分かってるじゃないか。実はな。グリズリーは冒険者2グループで狩ったらしいが、ワイバーンとグリフォンは拾い物らしい。」
「拾い物?」
「ああ、なんでも法国が帝国に占領されかけてた時に何かと戦闘して死んだ魔物から取ったらしい。今まで後生大事に持っていたらしいが、金策で売ることになって、今ここにある。」
んん?
もしかして、それって法国での防衛戦で俺が戦った魔物かな?
てっきり全部魔石に変わったと思ってたけど、
もしかしたら野生の魔物も混ざっていたのかもしれない。
回収できなかった魔物も多かったし、その中のどれかかもしれないな。
「そうなのね。ワイバーンやグリフォンを倒せる程の冒険者がいるのかと思ったわ。漁夫の利を得たわけね。」
何にしても、あの頃は素材の重要性も知らなかったわけだし、
ここで手に入るなら手に入れておいた方が後々役に立つか。
「それで、この素材は全部でいくら?」
「へっ?全部?」
「そう、全部。」
「マジ?」
「マジです。」
「ちょっと、待ってて。・・・えーっと、これが・・・」
全部売れると判って、慌てて計算を始める。
「しめて、金貨100枚と言いたい所だが、全部買い取ってくれるなら金貨80枚にまけとくよ。もちろん即金でならだけどね。」
「これでいいか。」
そう言って、異空間収納から金貨80枚をカウンターに出す。
周囲がそのやり取りを見てざわついている。
ギルド員の男は慌てて枚数を数え始める。
「それじゃあ、素材を持ってくるから、ちょっと待っててくれるかい。」
そう言いながら、奥の部屋に入っていった。
そして、木箱を持ってきて、カウンターの横にある
買取窓口のような所に置いた。
「確認してくれ。」
木箱にはそれぞれワイバーンの皮膜、グリフォンの大羽、
グリズリーベアの毛皮が入っていた。
鑑定で見てみると、確かに本物だった。
「確かに。貰っていくよ。」
そう言って、異空間収納に入れた。
他に召喚モンスターようにショートスピアを10本、
ショートソード10本、木の盾10個を購入した。
ショートソードは金貨5枚、ショートスピアは金貨2枚、
木の盾は銀貨8枚で合計金貨78枚も払った。
ちなみに、前金の300枚の金貨だが、
アンジェとマリアから金庫番を頼まれたので、何かあった時の為に
それぞれに金貨10枚ずつ持って貰って、
それ以外は異空間収納にしまってある。
そんな感じで買い物を済ませていると、バッシュ司令官の部下が呼びに来た。
てっきり食堂でやるのかと思っていたけど、
どうやら会議室で食事会を兼ねて顔合わせするようだ。
部屋に入ると上座にバッシュ司令官とブレン法国司令官が座っていた。
奥には見慣れない7人と更にその奥に見た事のある顔が2人と
若い女性というか女の子と言った方が正しいか、
多分俺の見た目と大して変わらないくらいの年齢の女の子もいた。
「皆、掛けてくれたまえ。」
バッシュ司令官の言葉に全員が着席する。
「今回、護衛を務めるアルス殿とアンジェ殿とマリア殿だ。」
「よろしく。」
簡単に挨拶する。
「そして、こちらは、ホフマン伯爵だ、政務官を務めている。その隣はドラン法務官、ロバート軍務官、エマ魔法士官、更ににその隣はホフマン伯爵付きのオーバン秘書官、トルネ執事、メイドのシンシア嬢、その隣は警護任務にあたる冒険者のトール殿とジェス殿、ロザリー殿だ。最後に馬車の御者を務める・・・。」
と、紹介されたものの、憶えきれません。
とりあえず、ホフマン伯爵だけ覚えておこう。
「今回の護衛にAランク冒険者のアルス殿、我が国きってのBランク冒険者として誉れ高いアンジェ殿とマリア殿に護衛して頂けるとは頼もしい限りです。どうぞ、よろしく。」
ホフマン伯爵は30代くらいに見える。
この年齢で政務官として派遣されるという事はそれなりに優秀なのだろう。
ただ、見た目は少々ぽっちゃりしすぎている。
頭はいいが運動は苦手なタイプかもしれない。
そして伯爵の割には低姿勢だ。
最初はもっと傲慢な貴族かと思っていたが、そうではなかった。
ドラン法務官はいかにも堅物と言った感じの40代中頃に見える男だ。
額や眉間に皺が出来ている事を見るとあまり笑わないタイプか。
ロバート軍務官は姿勢正しく座っている。
剣を持たせれば普通に戦士や騎士に見えなくもない体躯である。
気になると言えば、やたらとアンジェの方をじっと見ている所か。
エマ魔法士官は20代の女性で駆け出しの魔法使いと言った言葉が
似合う感じだ。特徴と言えば赤い髪と赤みがかった目だ。
今まで見た事もない珍しい特徴を持った女性である。
オーバン秘書官はホフマン伯爵の甥っ子で、20代のように見える。
伯爵の下で政治的な事を色々と学んでいるとの事だ。
トルネ執事は伯爵家の執事頭で、ホフマン伯爵の信頼厚い、
この中では最年長の男性だ。
メイドのシンシア嬢は20代中頃の女性でメイドとしてはベテランとの事だ。
そして、
「久しぶりだな。アルス。元気そうで何よりだ。」
ジェスが開口一番、相変わらずの馴れ馴れしさで話しかけてきた。
「おい、ジェス。もう立場が違う。言葉に気をつけろって、いつも言ってるだろうが。すまない、アルス殿。久しぶりの再会ですね。」
「お久しぶりです。トールさん、ジェスさん。昔のまま接してくれると嬉しいのですが。」
「ほら見ろ、アルスはそんな玉の小さい男じゃねえよ。」
「兄さま、建前というものを学んで下さい。それと下品。」
そう言ったのはジェスの隣に座っている女の子だ。
「会うのは初めてだよな。ジェスの義妹のロザリーだ。年齢は確かアルスと一緒の12歳だったよな。仲良くしてやってくれ。」
ジェスの代わりにトールが紹介する。
ジェスはどうやらロザリーに頭が上がらないみたいだ。
「アルスです。よろしく。俺の事はアルスでいいよ。」
「では、アルス様よろしくお願いします。私もロザリーとお呼びください。」
その後、御者の人達も紹介があって、食事会に移行していった。
「前回まではどういったルートで進んで、どの辺りまで行ったのですか。」
アンジェの質問に、秘書官のオーバンが答える。
「初めは、南ルートで街道沿いに進みタイス市国を通過して行く予定でした。しかし、タイス市に入る前にゴブリンの襲撃に会い、やむなく撤退。2回目は、タイス市を迂回して中部にあるダイア市国を経由して中南部にあるアクアン市国へ行き、南東部にあるパルーア市国に向かうルートを模索しました。しかし、ダイア市国も壊滅させられていて、タイス市国とダイア市国のほぼ中間点にてリザードマンの一群に見つかり、辛うじて逃げる事に成功したのですが、護衛の騎士5人を失う結果となってしまいました。そこで3回目は魔物との戦闘に一日の長がある冒険者に護衛を依頼しました。確かに魔物との戦闘は騎士よりも安定して退治してくれたのですが、戦闘後に毎回素材がどうのと、その行程は遅々として進みませんでした。そして、何度か戦闘をした後に、冒険者が魔物の素材を回収している時にゴブリンの大群が集まって襲って来たのです。結局、逃げ帰ってくる事になってしまいました。」
「よくゴブリンの大群から逃げられましたね。」
「それはトールさんのチームだけは素材の回収をせずに警戒してくれたおかげでした。ジェスさんがいち早くゴブリンの襲撃を察知してくれたおかげで馬車を反転させることが出来たのです。そうでなければ今頃私達は死んでいたかもしれません。」
「あいつらは、当初の目的も忘れて、目の前のお宝に食らいつきすぎた。大群が押し寄せる前だが、大量のモンスターの解体を始めやがったせいで、たぶん血の匂いにつられて集まったんだ。」
「それで、その冒険者チームは?」
「あっという間に囲まれたさ。こっちが声を掛けて警告もしたんだが知らんぷりだ。その結果だ。助ける義理もないな。それにこちらも寸での所で囲まれる前に抜けられた状態だったしな。自業自得だ。」
ジェスは吐き捨てるように言った。
どうやら、その冒険者たちはゴブリンにやられてしまったのだろう。
「それで、今回はどのように進むか、検討しているのですか。」
マリアが訊ねる。
「時間があるなら、一旦南方の難民が集まっている漁村の方へと向かってから海岸沿いに東進してパルーア市国のある辺りで北上して入るのが最も安全ではないかと今は思います。ただ街道が通っていればという条件付きなのですが。
これまでの調査でパルーア市国以外の周辺市国は全て壊滅状態という情報が入ってきております。現在、生き残った市国は帝国と法国を繋ぐ北部ルートにある市国だけのようです。帝国の侵攻拠点として使う事を考慮しての事だと思われます。ただ、南方から向かうルートも危険があります。難民を全て受け入れられない事で、盗賊に身を落とした者が多くいると考えられます。」
「つまり、モンスターを相手にするか難民を相手にするかの2択と言った所ですか。」
アンジェが呟くように言った。
「それじゃあ、決まりだな。各市国に入らず、それらを迂回しつつ、かといって南方に集まっている難民にも接触せずにすり抜けるような形でパルーア市国を目指そう。それが1番だと思う。」
「アルス殿がそれが一番良いと判断したなら、我々はその判断に従います。」
ホフマン伯爵は俺の提案に賛成してくれた。
こんな所でAランク冒険者の肩書が有効とは思ってもいなかった。
もっと、こう、子供だからとか、冒険者だからとか言われると思っていたが、
そんな事は無かった。
「それでは、今後の行動計画はアルス殿に一任という事で、今夜は食事をしながら、親睦を図りましょう。」
バッシュ司令官はそう言って、手をパンパンと叩く。
外に控えていたメイド達が食事を運び入れ始めた。
流石に明日の出発を前にお酒はグラス1杯ずつしか出なかったが、
それで文句を言う人間はこの中には一人もいなかった。
明日は夜明けとともに出発という事で、食事会もそこそこに終了した。
「バッシュ司令官。」
食事後にバッシュ司令官を呼び止めた。
「どうした、アルス。」
「一つお願いがあるんだけど。」
「わかった。執務室に行くぞ。」
執務室に入り、お茶を勧められる。
「それで、頼みとは?」
「この砦の中に誰も入らない部屋を1つ用意できないかな。」
「どういうことだ?」
「どうせ、知ってると思ってるけど、俺はゲートの魔法を使える。いざという時にこの砦に避難できる場所を確保しておきたい。ここにないと、遠くの場所に逃げるしかなくなるから、そうなった場合、不便極まりないと思うんだ。」
「部屋の条件は、誰も入らない事が条件か?」
「別に入ってもいいけど、入ってる時にゲートの魔法と接触して無事で済めば問題ないよ。」
「接触するとどうなるんだ?」
「知らない。」
「は?」
「知らないよ。試した事ないし。試そうとも思わない。」
「まあ、そうだな。」
バッシュ司令官は自分の質問に馬鹿な質問をしたと思っていた。
「鍵がかかる部屋であればいい。この魔法はイメージが大切なんだ。荒らされるとゲートが発動しない恐れもある。試してないけど。」
「ずっとでなければ、客室の中の1室を使っていいぞ。但し、この砦も改装中だからな。外壁優先で改装の予定だが、この建物もいずれ石造りに改装予定だ。それまでなら別に問題ないぞ。」
「ありがとう。助かるよ。」
「部屋は一番奥の部屋にしておこう。今から案内させる。」
執務室の横の部屋から部下の一人を呼び出し、指示をだす。
その部下と一緒に、客室へ行き、鍵を渡される。
部屋に入ると、そこは2人用の部屋で、ベッドなどが置かれてあったが、
ゲートを開けるだけのスペースはあった。
この部屋の中をじっくりと観察し、例によって魔石を各隅に置いておく。
扉には念の為ハードロックの魔法もかけておく。
これで入ってくる者はいないだろう。
じっくりと記憶に焼き付けた後、アンジェとマリアの待つ部屋に戻った。
「おかえり、アーくん。」
「ただいま。」
「部屋は用意してくれたの?」
「ああ、これで、ここまでゲートで戻ることが出来る。」
食事会からだいぶ時間も過ぎていた。
そろそろ寝ないと明日に差し障るだろう。
「明日は早いから、今日はもう眠ろう。」
敢えて寝ようではなく、眠ろうと言ってみる。
したいかしたくないかと言えばしたいに決まってる。
だけど、流石に寝不足で判断を誤る訳にはいかないし、寝坊など以ての外だ。
その言葉に2人は察したのかは分からないが、
「じゃあ、もう休もう。」
とマリアが言った。
クリーンの魔法で体の汚れを落として着替える。
ベッドの真ん中に横たわると、「明かりを落とすわね。」と
マリアが言ってランプの明かりを消した。
部屋の中は真っ暗になり、マリアがベッドに入り込んでくるのが
感覚的に判った。
アンジェは既に横になっている。
不意にそれぞれの手にアンジェとマリアの手が触れた。
そしてアンジェとマリアの手を軽く握ると、
2人とも同様に軽く握り返してきた。
こういうのもたまにはいいよね。
そう思いながら、重たくなりつつある瞼を閉じていった。




