97日目 伝説の鉱石と飛行訓練
●97日目(グリウス歴863年8月9日)
「それにしても不思議よねえ。」
マリアが首を傾げながら言った。
レイスを倒した後、再度、交代で仮眠を取っていたが、
何事もなく朝を迎える事となった。
アンジェとマリアが用意した朝食を取っていたのだが。
「何が不思議なのよ。」
アンジェが訊き返す。
「レイスってアンデッドは物理攻撃が全く効かない強力な魔物だけど、意外な弱点があってね。陽の光を浴びると簡単に消滅しちゃうのよ。」
「それで、何が不思議なのよ。」
「それはね。さっきも言ったけど陽の光が弱点なのよ。だから、レイスが外をうろつくなんてあり得ないわ。陽の差さないダンジョンにいてこそ存在できるんだから。外に出て万が一朝になったら、お終いなのよ。レイスはアンデッドだけど人並みの知能を持っているから、わざわざ危険を冒して外に出るなんて事は考えにくいのよ。」
「何かしたい事でもあったんじゃないの?」
「そんな事はどうでもいいのよ。それよりも問題なのはダンジョンが近くにあるかもしれないという事なの。」
「そっかあ。レイスがここまで来たという事はここに来れる距離にダンジョンがあるって事ね。」
「そうよ。だけど、法国にダンジョンが存在しているなんて話は聞いた事もないわ。」
「そうなのか?」
「アーくんは知らないかもしれないけど、国内にダンジョンがあるのは、ジュノー王国と帝国位じゃないかしら。妖魔の森みたいに、前人未到のエリアにはもしかしたらあるかもしれないけど、法国や十三連合国にはないはずよ。」
「へー、そうなんだ。じゃあ、この間見つけた場所はやっぱりダンジョンだったって訳か。」
「え?見つけたの?」
「見つけたと言うか、場所は分かってるけど、入り口は見つけられなかったからなあ。」
「ここから近いの?」
「近いも何も、すぐだよ。この間、ワイバーン退治に行った時、その周辺というか地下かな、モンスターの反応が凄く多くてビックリしたけど結局入り口は見つけられなかったんだよね。ワイバーン退治の方が優先度高かったし、ちゃんと調べるのは諦めたんだよね。」
「モンスターの反応が凄かったって、どのくらい凄かったの?」
「索敵範囲しか分からなかったけど、妖魔の森のダンジョンに比べても何倍ものモンスターがいたと思うよ。」
「それってダンジョン内のモンスターが飽和状態で、そのせいでレイスが出てきちゃったって事じゃないわよね?」
「んー、どうだろ。可能性はあるかもね。」
「もし、何かの拍子でダンジョンの入り口が出来ていたら、危険じゃないの?」
「でもモンスターの目撃情報は特にないわよね。レイスがもしそこから来たとしても壁をすり抜けて出てきただけじゃないかしら。」
「とりあえず、悩んでも仕方ないよ。報告しに帰ろう。いつまでもここにいても仕方ないし、必要ならギルドから依頼が出るんじゃないか?」
「それもそうね。とりあえず帰りましょうか。」
この後、集落に戻った俺達は、レイスの事や
ダンジョンのある可能性について簡単に説明し、注意するように言った。
「ダンジョンか。わかった。念のため皆に注意するように言っておく。そしたら、報酬渡すからついてきなされ。」
ジッダさんが床下にある隠し扉を開けると階段があった。
そのままジッダさんは下に降りていく。
その後をついて降りると、頑丈そうな石の壁で作られた部屋にでた。
その奥の台座に赤く光を放つ大きな石が置かれていた。
その石は蜃気楼の先にあるかのように揺らめいている。
「これは・・・?」
見ただけでもかなり希少な石だと一目で分かる。
「ヒヒイロカネの原石じゃ。赤く光を放ち、触ると冷たい。魔力を良く通し、伝説級の魔法道具は全てこの金属で造られているといわれておるのじゃ。」
「そんな希少な物、貰っていいんですか?売ったら、莫大なお金になるんじゃないんですか?」
俺は当然の疑問をぶつける。
「価値があると言えばあるし、無いと言えば無いのじゃ。」
俺が首を傾げると、アンジェが代わりに説明した。
「ヒヒイロカネは伝説の金属だけど、人間の間ではその加工技術は失われているの。だから、好事家に売る位しか売り先が無いのが現状ね。」
「その通りじゃ。その昔、ハイヒューマンの一部の錬金術師と鍛冶師が加工できたと言い伝えられておる。」
「もしかして、ドワーフやエルフなら加工できるんじゃないのかな?」
ドワーフはこの世界で屈指の鍛冶師だし、
エルフも錬金術師を数多く輩出していたと何かの本で読んだ記憶がある。
ギルドにあった本だったかな。
「ドワーフでもエルフでも無理じゃろうて。製法だけならもしかしたら残されておるやもしれんがの。」
「つまり、確かにレアな鉱石だけど、持っていても宝の持ち腐れというやつですかね。」
「それを言っちゃあ、身も蓋もありゃせんがな。ガハハハッ。もし、加工できればこの大きさなら剣の1本や2本、余裕で作れるじゃろ。」
確かに報酬としてレアな鉱石とは言っていたけど、
まさか使い道のない鉱石とは、残念極まりない。
そうだ、俺のスキルで何とか加工できないかな。
クラフト系のスキルって一応上げているけど
5レベルで頭打ち状態なんだよなあ。
錬金術も加工スキルもヒヒイロカネという金属の加工については
なかったはずだし。
まあ、考えるのは後にしよう。
「これって、触っても大丈夫なやつですかね。」
周囲の空気が揺らめいているのか、
それとも魔力が大きくて揺らめいているのか分からないが
一見触るのを憚られる感じがする。
「触っても何も起こりゃせん。冷たいからずっと持ってると凍傷にかかるかもしれんがのう。」
ジッダさんは冗談交じりに言った。
それならばと、触れてみる。
触れた瞬間、一瞬まばゆく輝いたように思えた。
ビックリして視線を後ろにそらす。
しかし、アンジェやユミコは特に何もなかったようにこちらを見ている。
「どうしたの?」
マリアが訊ねる。
「いや、今、一瞬もの凄く光を放ったように見えたけど。」
「何も起こってないわよ。」
不思議そうにアンジェとマリアはこっちを見ている。
気のせい?いや、確かに輝いたはずだけど。
「ねえ、わたし達も触っていい?」
アンジェが言ってきたので、どうぞと勧める。
「わっ、ホントに冷たいんだね。」
「不思議な感じね。」
2人はそう言いながら石の感触を味わっていた。
ふと、リリーを見ると、リリーは少し離れた所で見ていた。
いつもは好奇心満々のリリーだが、
警戒している感じで近づこうともしなかった。
「リリー、どうしたの?」
リリーは首を横に振っただけで何も答えない。
2人が触るのを止めていたので、ジッダさんに一応、礼を言っておく。
「それじゃあ、これはありがたく受け取っておくよ。」
そう言って異空間収納にしまった。
収納した瞬間に自分の中でざわっとした感覚があったが、
周囲が一瞬で薄暗くなったのでそのせいだと考えた。
「じゃあ、戻るかの。」
そう言ってジッダさんは戻り始めた。
その後、軽く世間話などをしてお暇した。
集落を出る時にリリーに訊ねた。
「さっきは、どうしたの?」
「あれは、すきじゃない。ぞわぞわするの。」
「そうなんだ。じゃあ、リリーの前に出さないように気をつけるよ。」
「この後はどうするの?」
「一旦、フォーテルムーンに戻ろう。ユミコに言ってギルドにでも調査させるように言っておかないとね。」
今後の事を少し考えて、アンジェとマリアに提案する。
「この後、お昼を食べたら、飛行訓練しようか。この辺なら人目もつかないし。」
「ひこう?くんれん?」
あれっ、こっちでは空を飛ぶ事を飛行って言わないのかな?
「フライの魔法で空を飛ぶ訓練なんだけど、どうかな?」
「どうかなって、わたし達にできるの?」
「フライの魔法自体は他人に掛けられるから飛べるはずだよ。何かあった時の為に必要だと思ったからさ。」
「うん。やってみる。」
「面白そう。やりたい。」
「じゃあ、まず約束。練習中は絶対に高く飛ばない事。それから最初はゆっくり飛ぶ事。いいね。それじゃあ、魔法を掛けるよ。気持ちを楽にして、抵抗しないでね。」
そう言って、2人の緊張を和らげる。
「ダブルスペル・フライ!」
よし、上手くかかった。
「そしたら、ゆっくりと浮くイメージを作って。」
フワッと2人とも浮くことができた。
「う、浮いてる?」
アンジェが心なしか緊張しながら言った。
「わー、あんじぇとまりあがとんでるー。」
アンジェとマリアの周りを飛び回りながらリリーは、はしゃいでいる。
「大丈夫。そしたら、ゆっくりとそのまま、まっすぐ進むイメージで。そうだな、昨日見たレイスの動きをまねる感じで。」
「わっ、進んだ。」
アンジェもマリアも魔法が使えるので、
魔法の操作はそれほど難しくは無いようだ。
それから、暫く横に飛んだり、上下したり前進後退をして
イメージができやすいように繰り返した。
「一旦、着地して。」
2人とも上手く着地できたようだ。
「上手いじゃないか、2人とも。」
「えへへ、それほどでもないわ。」
マリアは得意げに答える。
「結構、疲れました。」
アンジェの方が魔力操作の錬度が低いせいか、多少ぎこちなかったが、
それでも、簡単な飛行ができそうな感じを受けた。
「そろそろ、フライの効果が切れるから時間を憶えておいてね。」
飛行で気をつけなければいけないのは、効果時間だ。
特に他人に掛けてもらった魔法だと自分でかけ直すわけにもいかず、
墜落する恐れがある。
休憩しながら、2人にその点を注意する。
「さて、もう一回やっておこうか。感覚を忘れる前にやっておいた方がいい。」
30分ほど休憩した後、再び飛行訓練を行った。
「流石だね。もう十分飛行できそうな感じじゃないか。」
「空を飛ぶって、こんなに楽しいのね。」
アンジェが宙がえりをしながら言った。
「ホントに凄いわ。私もフライの魔法を覚えたいわ。」
マリアは、ダンスを踊っているが如くジグザグ飛行をしながら
アンジェに同意する。
「そろそろ終わりにするよ。2人とも降りてきて。」
2人の着地のスピードも最初に比べると雲泥の差である。
「時々、練習するから、またやろう。」
「うん。」
「だいぶ、遅くなったから、フォーテルムーンに戻ろう。」
まだ、日が暮れてはいないが、もう何時間かすれば夕暮れになるだろう。
「ゲート!」
フォーテルムーンに帰ってきた俺達は、
ユミコにレイスの事やダンジョンの可能性について報告した。
「そうですか。この国にもダンジョンがあるのですね。」
ユミコは少し笑みを浮かべながら考え込んでいる。
というのも、ダンジョンがあるとそこで活動する冒険者が増える。
冒険者が魔石や宝を持ち帰る事で冒険者目当ての商売が活性化する。
ある意味、これも一つの産業となりえるくらい貴重な資源ともいえる存在だ。
帝国やジュノー王国が強国なのは、ダンジョンの存在も大きい。
「では、そのエリアを調査させる必要がありそうですね。もし、見つかったら、大変な事になりますね。」
そう、単に経済が発展するだけではない。
モンスターホードの危険性もある。
モンスターホードを警戒し、なるべく近い位置にといっても
近すぎると常日頃からモンスターの脅威にさらされてしまうので
適度な距離が必要であるが、砦や城塞都市の建築も考えなくてはならない。
「調査次第では、アルス様に依頼を出すかもしれないので、その時はご協力ください。」
シスターポーリンがユミコに代わってお願いをしてきた。
「ええ、もちろんです。出来る限り、協力しますよ。」
「ありがとうございます。話は変わりますが、前線から報告が入っております。どうやら、帝国軍は一時後退したとの事です。ただ、後退したのは正規軍のみで、モンスターはそのまま放置されているようです。その為、バッシュ司令官は冒険者に、はぐれモンスターの討伐を優先する指示を出されたようです。それと各都市に偵察部隊を出して状況の確認を急いでいるとの報告もありました。」
「そうですか。一旦引いたのですね。帝国内の状況は分かりますか。」
「帝国内では現政権に対する反乱分子の鎮圧が終息するのも時間の問題と報告が入っております。そうなると、帝国内にいた正規兵が増員されて出てくる可能性があります。治安維持に戦力を残すとしても、少なくとも2個師団は増強されるのではと考えています。」
「2個師団と言うと1万6千強の正規兵が出てくるのですね。そうすると残存兵力と併せて3万弱といった所ですか。」
「ええ、こちらは正規兵で先日援軍を併せても2万。攻めるには数が足りていない状況です。」
「そうなんだ。難しい状況だね。」
「それなので、チフーラ砦の強化を推し進める事に注力されているようです。」
「チフーラ?あの砦の名前ってチフーラ砦って言うんだ。初めて知った。」
「あの川の名前がチフーラ川というので、皆チフーラ砦と呼んでおりますわ。」
ユミコから一通り報告を受けた後、ユミコ達と一緒に食事を取ることにした。
その中で現状の法国の状況を聞いた。
問題も起こっているが、難民の受け入れが順調に進んでいて
復興も驚異的なスピードで進んでいる。
そして経済も徐々に回り始めているとの事だった。
今一番の問題は治安維持らしい。
山賊が出たり、街中でのひったくりや強盗も少なからず増加しており
警備隊や衛兵の増員と育成が急務となっているらしい。
それと少ないながらも今まで出なかったモンスターの被害も
散見されるようになったとの事だ。
こちらは新設された冒険者組合の方で討伐依頼が盛んに出されていて
冒険者の数も増えているとの事だった。
「アルス様、実は朗報が1つあるのです。」
ユミコがニヤリと不敵な笑みを見せた。
「なに?」
あまりの不敵さに思わず、後ずさりたくなる。
が、椅子に座っているのでそれは叶わなかった。
「見つけたのです。そして今、法国の西部でそれの生産体制を構築中です。」
「一体何を・・・。」
「米です。なんと、お米を見つけたのです。」
「なにー、米だとー。」
思わず、椅子から立ち上がる。
「それは本当なのか。」
「こんな事嘘つきません。実は南方の海洋国家で米があったのです。ただ、家畜の飼料として使用されていて、海洋国家でも食用にはなっていなかったのです。その種籾を仕入れて、今、生産と品種改良の指示を出しています。」
「マジかあ。流石ユミコ。やっぱり米食いたいよなあ。」
「ですが、味はあまりよくないです。しかも品種も良くないので、調理には少し工夫が必要でしょう。」
「そうなのか。」
「はい。米を1日水に浸しておく必要があるのです。でないといくら炊いても芯が残って食べられないのです。」
「この世界にもし圧力なべがあれば別かもしれませんけど。」
「それでも無いよりは全然マシだ。よければ、今度分けてくれ。」
「収穫したら、お裾分けいたしますわ。ふふっ。」
「フフフフフ・・・」
「ハハハハハ・・・」
周りの表情が曇っているが、俺とユミコは高笑いするのであった。
その後、部屋に戻り、
アンジェとマリアとリリーが風呂に行ってしまったので、
今日得たヒヒイロカネの鑑定をしようとステータスを開く。
するとスキルに派生スキルとして新たに発生しているのが確認できた。
クラフトのスキルは今までレベル5が最大だったのが
レベル10まで取得できるようになっていたのだ。
ただ、その加工はヒヒイロカネ限定のようだ。
これは予想だが、素材を入手する事でスキルが解放されるのかもしれない。
今度スキルポイントに余裕ができたら、取得したい。
3人が風呂から戻り、男湯に切り替わって俺も風呂に行った。
湯船に浸かるのは何日ぶりか。じっくり堪能して部屋に戻る。
部屋では3人がのんびりと寛いでいた。
「今日の飛行訓練だっけ。すごく楽しかった。」
アンジェもマリアも楽しそうな表情を浮かべている。
「それは良かった。感覚を忘れないようにまた近々やっておこう。」
2人は嬉しそうに頷いた。
「疲れただろうから、今日はもう寝ようか。」
「そうしましょうか。」
そうしてベッドに入るのだがいつも俺が真ん中になる。
「ねえ、アーくん。」
艶っぽい声でアンジェが囁くように呼ぶ。
アンジェの方を見るとアンジェが目を潤ませながら言ってきた。
「今日は、愛してくれるの?」
「えっ、あの・・・、んっ。」
言葉を返すより早くアンジェの顔が近づき、唇を重ねる。
反対側では、マリアが俺の体に手を回し、体を擦ってくる。
そしてその状態から2人にあっという間に服を脱がされていった。
ああ、気持ちいいけど、2人に主導権を取られているのってどうなの?
そんな考えがふと頭の中をよぎったが、
それも束の間、徐々に頭の中がボンヤリとしてきて
頭の中が真っ白になっていった。。
ここまでご愛読ありがとうございました。
皆様のおかげで10万PV達成いたしました。
これを励みに頑張って書いていきたいと思いますので
これからも読んでいただけると嬉しいです。




