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閑話 灯璃について

  一方、灯璃に談話室へと連れてこられた咲夜と天明は、設置されていたソファに座っていた。

  ここの談話室はそこそこ充実しているらしく、大量にある一人がけのソファはふかふかだし、お菓子やお茶などの自動販売機、それに給湯器に、味噌汁の素などが置いてある。もちろん、お皿やコップも。



「あんたの名前、東雲 天明だっけ」



  数分続いた沈黙のあと、不意に口を開いた咲夜に、天明はビクッと体を震わせた。そのまま、コクコクと頷く。

  それを、まるで自分が女王様だとでも言うように偉そうな態度で見ていた咲夜は、大きくため息をついた。

  天明はおもわずぎょっとした。



「たぶん分かってると思うけど、あたしの名前は神崎 咲夜、ね」



  かみさき、の部分を強調して言う彼女は、よっぽど気にしているのだろう。

  変なところで繊細なんだな、と彼女の人間味を感じ取った天明は、ふふっと笑った。

  自分は人見知りだが、完璧人間、みたいなのじゃなければ、そこそこ仲良くできる自信がある。その技術は、変人ぞろいの訓練学校で培った。だから逆に、灯璃みたいなのの方が、苦手だ。

 


「よ、よろしくね」


「よろしく」



  彼女のちょうど目の前に座っていた天明がにこやかに手を差し出すと、彼女はギロリと睨みながら、手を握った。

  せっかく可愛い人形のような顔が、台無しである。

 


「あれ、新人さん?見かけない顔だね」



  手を握りながら、お互いどうしたらいいか分からなくてしばらく固まっていると、不意にドアの方から声が聞こえてきた。

  すぐに手を離してぱっと振り返ると、そこには討伐部隊の紋章を付けた、瓜二つの青年の姿が二人。

  二十代後半、というところだろうか。



「そうよ。ていうか、あんた達、誰?」



  咲夜がおよそ上司に接するとは思えない態度で尋ねると、彼らは二人してガハハ、と笑った。見事な笑いっぷりである。



「やっぱり、ここに入る人って、一般社会じゃやってけないだろうなぁ」


「だなぁ。ここにいると、自分がすごく普通に思えてくるよ」



  肩を叩きあって仲つむまじく笑い合う彼らを横目に、咲夜と天明は顔を見合わせた。

  それと、双子なんだろうか。二人ともテンションというか、ノリが全く一緒だ。



「なんなのよ」



  咲夜がつぶやく。天明的には、この上司に対しての咲夜の偉そうな態度はいただけないのだが、気持ちは同じであった。

  そもそもこの人たちは誰なのか、教えてもらってないし、なぜ自分たちに絡んできたのかが全く分からない。



「あぁ、ごめんごめん。見た目で分かると思うけど、俺たち双子なんだよ。俺が天つ日 クロジ(あまつひ くろじ)で、こっちが」


天つ日 アトリ(あまつひ あとり)



  見事な連携プレーである。さすが双子、といったところか。それにしても、変わった名前だ。確か、クロジ、とか、アトリって、鳥の名前じゃなかっただろうか。前にやってたゲームに、そういう名前の人物が出てきてた気がする。



「変わった名前ね」



  そんなことを考えていると、咲夜がしみじみと呟いた。やはり、同じことを思っていたらしい。



「で、そっちは?」



  おそらくクロジと名乗った方が尋ねる。クロジの方が、活発なのかもしれない。



「私は、神崎 咲夜よ」


「俺は、東雲 天明です」



  天明がおずおずと答えると、なーるほど、とでも言いたげに、双子は顔を見合わせた。



「君たち、今日、灯璃さんに任務の体験に、連れて行ってもらった子たちでしょう?討伐部隊の」



  アトリがパチン、と指を鳴らす。



「そうだけど」



  咲夜が頷くと、彼らはやっぱりね、とでも言いたげな顔をした。双子にしても、仕草も何もかも、似すぎてないか。天明は、あまりのシンクロ度に、少し目が回りそうな気持ちでさえいた。



「灯璃さんが、言ってたからなぁ。なんかよく分かんないけど、新人二人、結構強くなりそうだよ、て」



  どうやら灯璃は、自分たちのことをそう称していたらしい。なぜそんなことを言われたのかはよく分からないが、素直に嬉しい。



「あの人が、ねぇ」



  咲夜がぼそっと言う。



「あ、そうだ。ちなみに、二人から見て灯璃さんって、どんな人なの?」



  クロジが突然、天明を見てそう尋ねた。どうやら、先程から咲夜しか話していないため、気になっていたらしい。

  空気の読める人なんだ、と、のっけから討伐隊に絶望しかけていた天明の胸に、灯りがともった。

いや、だって、そもそも灯璃の挨拶はくっそ適当だし、その後のフォローも適当だったし、咲夜はまだ親しみやすいものの、すごく偉そうだし。

  初めて、普通と言える人に出会ったかもしれない。



「そうですね……俺からしたら……」


「偉そうだけど、まともな人って感じかしら」



  天明は、早くも絶望した。まさか、咲夜がここまで空気を読まず、自分から話し出すタイプだとは思わなかった。いや、その気はあったけど。



「確かにねぇ。偉そうではあるね。まぁ別に、あの人自体、偉そうなわけでもないんだけどね。まともな人だし。東雲くんは? どう思う?」



  咲夜の言ったことをサラッと流して、アトリが天明に聞く。優しい人だ、と、天明は思わず彼のことを拝みそうになった。

  なんだか、この組織に来てから自分の感覚がおかしくなったのを感じる。



「掴みどころのない人って、感じですかね」



  答えると、クロジとアトリは、感心した、と言わんばかりに頷いた。



「今までずっと考えてきたけど、それが一番しっくり来るわ。確かに、そうかもなぁ」


「あのなんとも言えない怖さは、それが一番近いかもね」



  なんとも言えない怖さ、というのに、思わず首を傾げる。確かに彼は、掴みどころのない存在だが、別に怖さは感じなかった。

  咲夜と天明が首を傾げたのを見て、アトリが口を開く。



「いや、だってさ、なんか闇みたいなの感じるじゃん」


「あ、それは分かる。あと、完璧超人だしね。人間辞めてるでしょ、灯璃さん」


「あの人、そんなに強い?」



  確かに、銃の腕前は一流だと思ったが、そんなに強かっただろうか。それに闇、みたいなものは、さすがに感じなかった。そう思っていると、咲夜が聞いてくれた。



「強いっていうか、なんていうか……一回飲み会に連れてったことあるんだけどさ、ビール瓶六瓶飲ませても、酔ってなかったし」


「未成年になにしてんですか」



  素早く、天明のツッコミが飛ぶ。

 俺、実はツッコミ属性だったのかもしれない。ようやくこの空気感に慣れてきた天明の心には、そんな思いが芽生えはじめた。



「いや、俺もあんまり覚えてないんだけどさ、酔っ払ってたし……」



  ゴニョゴニョと誤魔化すクロジを、咲夜がゴミを見つめるような目で見る。確かに、十六歳の少年にビール六瓶飲ませるのは、普通に引く。



「まぁ、あとさ、灯璃さん、任務が続いたら、ざらに十五徹とかしてるんだよね」


「何それ人間ですか?」



  確か人間が起きてられる時間、というのは、十日くらいだったはずだ。それ、人類超えてんじゃん。ギネスじゃん。



「顔も良いしなぁ。なんていうか、アイドル? っていうかさ。なんかあの人ずっと無表情だけど、カッコいいよなぁ。まぁ、けっこう笑ったりもしてるけど……。あと、暁霞さんだっけ? めっちゃ熱烈なファンいるし」


「そうなんだよな。それにあの人、なんか闇深そうだし近寄りがたいけど、最強で良い人ではあるんだよな。あとは、お兄さんのこととか色々……」



  クロジがそう手早く話を締め、腕組みをしてうんうん頷いた。さては、この早さからいくと、さっきのビール瓶六瓶事件を根に持ってるな。

  ていうか、お兄さんのこととは一体なんなんだろうか。

 


  「お兄さんって?」



 咲夜が尋ねた瞬間、がちゃりと扉が開いた。驚いてドアの方を見ると、今しがた噂していた人物が、食えない笑みで立っている。



「咲夜、天明、ごめんお待たせ。さ、次のところにいこうか。あと、クロジとアトリも、来てもらえると嬉しい」




 

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追記


すみません。しばらく期末テストがあるので、更新止まります。ただ、すぐに再開いたしますし、絶対に完結させます。

ですので、今後ともよろしくお願いします。

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