第7話 情報部隊に行ってみる
討伐隊の拠点に着くと、咲夜と天明に談話室で休憩するようにだけ言って、俺は真っ先に情報部隊へと向かった。
とりあえず今朝のあの影者の事件について、情報部隊から予測の報告がこなかったことについて確認しなければならない。
情報部隊、という金属製のプレートのかかったドアを、コンコン、とノックする。
この瞬間、俺はいつも後悔するのだ。開けるべきではなかったと。開けたくはなかったと。だが、今は開かなければならない。
中からはーい、と声がしたので、俺は意を決して、ドアを開けた。
「すみません。討伐部隊の、祈夜です」
ドアを、開いた瞬間、甲高い悲鳴が聞こえてきた。それからうるさい! 静かにしろ! と追いかける低い声。
俺は呆れたようにため息をつくと、先程低い声を発した男性の方のデスクへと近づいていった。
その隣から聞こえてくるやばすぎ! かわいい! 天使! 死ぬ! という声は、この際聞かなかったことにする。
「おう、灯璃。久しぶりだな」
もう隣の喧騒には慣れっこなのか、綺麗に無視して微笑む中年男性ににっこりと笑いかけた。
「お久しぶりです。有明さん」
挨拶をして頭を下げる。
彼は、この影者討伐隊の情報部隊、隊長の有明さんだ。下の名前は知らない。というか、誰も知らないと思う。
彼は、確か情報戦に長けていて、いつでも早急に、精度の高い情報を届けてくれるのだが、謎が多い。出身地、年齢なども、詳しくは誰も知らないだろう。知ってるのは、彼と、この討伐隊の人事部くらいだと思う。
「灯璃君、久しぶり! 元気だった?」
そんな有明さんの隣でキャーキャー騒ぐ少女は、暁霞 夜麦。どうやら俺は、彼女の"推し"らしい。
初めて会った去年の今頃、俺を見た瞬間に崇め倒しだし、疑問に思って理由を聞くと、決して恋愛感情とかそんなではないと説明され、そしてこのまま一生推させてほしいと土下座されたのは記憶に新しい。
そうとうなトラウマでもある。
「あぁ、久しぶり、夜麦ちゃん」
ただ、彼女からは名前+ちゃん付けで呼ぶように言われており、そしてそうやって呼ぶ度に彼女は発狂する。
今回も毎度の如く、叫び声を上げかけたあと、死ぬ……とだけ呟いて、机に伏せた。
そんな彼女も、情報に関しての腕は素晴らしく、鮮度の高い情報を、どこかから仕入れてくる。どうやら、彼女しか知りえない情報の入れどころがあるらしい。
「で、一体どうしたんだ」
死ぬ、尊い、と掠れた声で呟く暁霞をしり目に、有明さんは尋ねてきた。
確かに、俺がここに来ることは少ない。暁霞がいるから、というのもあるし、単にここに来る時間がないから、というのもある。
思い出す限りでは、最後にここに来たのは半年ほど前のことだろう。理由も忘れてしまった。
「朝の見回り中、外で影者の姿を発見いたしました」
簡素に、それだけを伝える。有明さんは頭の回転が早いし、そして非常に聡くもあるので、気づいてくれるだろう。
「確かに、そんな情報はここには入ってこなかった」
俺は詳しくは知らないのだが、情報部隊はいつもどこかから影者が発生するという情報を仕入れてきて、そしてそれを討伐部隊へと伝える。
その情報にほとんど間違いはないし、近頃は、影者発生の予測を、ほとんど当てている、というか、予測できぬことはないというほど。
影者は基本的に建物の中で発生する。
中に影が多いし、その方が日光を嫌う奴らにとって好都合だからだ。いや、まぁ本当に日光が嫌いかどうかは、分からないんだけど。誰も日の元に連れ出せたことはないし。
ちなみに、本当に日光が嫌いなのかも分かっていないのだが、陽の当たるところで出没しないので、そう考えられている。
そして、外の方が予測は難しい。
しかし、そんな外でも情報部隊は、正確に知らせてくる。
つまりは、今回のことは、れっきとした異常事態だと言えるのである。
「もしかしたら情報漏れがあったのかもしれませんが、何らかの現象が水面下で進んでいるのかもしれない。それを、伝えにきました」
「なるほどな。もしかしたら、影者の活動が活発化しているのかもしれない」
「そうなんです。最近、数も多くなっているように感じていて。なので、情報を仕入れるときに、何か有力そうな情報があれば、教えていただけないでしょうか」
「分かった。気をつけるよ。教えてくれてありがとう」
「じゃ、俺はこれで」
頷いた有明さんにお辞儀をし、俺は情報部隊の部屋から出た。咲夜も天明も外で待っている。
急がなければ、時間がない。
普段なら追いかけてくる、夜麦のえー、もう行っちゃうの〜、という声も聞こえてこない。
たぶん、影者の活発化について、調べているのだろう。彼女は、そういう仕事は早いし、根は真面目だから。