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第6話 この仕事は嫌になる

 俺達は影者討伐部隊専門の清掃業者に後を任せ、その場を去った。


  見回りしてもあれ以上影者はおらず、とりあえずのところは急ぎの用事もなかったため、二人を引き連れて影者討伐部隊の拠点へと戻る。


  拠点はダンジョン内の都道府県一つにおき一個置かれており、東京の場合は上野公園の近くにある。

  基本的に、そこで報告書を書いたり訓練をしたり、あとは、寮があったりする。



「あの、いつもこんな感じなんですか……?」



  途中、不意に天明が聞いてきた。こんな感じ、というのは、これだけ凄惨な現場なのか、ということだろうか。



「まぁ、ここまで酷いのはあんまりないけどね。普段は、もう少し早く、情報班から連絡が回ってくるから」



  答え、振り向くと、彼は俯いて立ち止まった。咲夜が隣で片眉を上げる。せっかちっぽい彼女だが、イラついている、というわけではなさそうだ。

  むしろ彼女自身も、初任務でここまで酷いことに、不安になったのかもしれない。



「嫌にならないんですか?」



  か細い声で、天明が呟く。

  彼は、嫌になってしまったのだろうか。

  影者討伐の現場は、悲惨なことが多い。事実、毎年一人は、心が折れるものが出てくる。


 

「正直嫌だよ、こんな仕事」



  だから、正直に答えた。心が折れる前に逃げなくてはいけない。これは、そういう仕事だ。人類の悪夢を率先して受け持つのだから、そうとうな胆力とか精神力とかが必要になる。

 


「じゃあなんで、あんたはこんな仕事やってんのよ」



  そろそろ遠慮の欠片もなくなってきた咲夜が尋ねる。これが彼女の素なのだろうか。もうちょっと、上司として認識して欲しいと思ったり思わなかったり。

  ただ、この質問に対する答えは、今から言おうと思っていたことだから、ある意味的を得ていると言える。



「義務感からだね」



  俺は、全く躊躇せず答えた。



「昔は何も考えずに、誰かの役に立ちたいとか綺麗事言って戦ってたけど、この仕事は、そんな覚悟じゃ全うできない。ただ、死んでいった仲間、人のことを考えると、俺は影者を討伐し続けなければいけない。そう思うから、俺はこの仕事を続けている」



  目の前で盾になるようにして死んでいったアイツらが、脳裏に映し出される。スピリチュアルなことは信じない(たち)だけど、本気で、浮かばれたらいいなと思う。


  影者を殲滅して安心して暮らせる社会を作ることは、アイツらの願いだ。死ぬ間際、彼らが何を思ったかは分からないが、この願いたちが強い思いであることに変わりはない。


  俺はその願いを、何人分、いや、何十人分も背負っているから、正気を保って、この仕事を続けられている。義務感を自分の中で正当化して、生きていられる。


  何度も蘇る『希望を殺すな』という言葉が、また頭の中でエコーする。


  アイツの、最期の言葉。そうだ、希望を殺してはいけない。絶望を見ることは容易いが、そんなものには負けていられない。


  俺は、俺たちは、負けるわけにはいかないんだ、影者に。この小さな世界の、不条理に。


  不意に差してきた朝日が眩しい。完全に日は昇りきっている。ビルに反射した光が、まるで俺達を包むように、辺りに立ち込めた。


  しばらく逡巡したのち、天明は口を開いた。



「俺は、この仕事を続けようと思います」



  彼の中でどんな決意があったのかは分からない。だけど、彼が死ぬか年齢に負けるかまでこの仕事を辞めないだろうということは確かだ。

  目が、これまでと違うから。重たい前髪に隠れるようにして生気を失っていたその瞳に、強い光が宿っているから。



「わ、私も」



  隣で慌てたように言った咲夜に笑みを零す。彼女も、きっとこの仕事を続けるんだろう。根性ありそうだし。何より彼女も、今までと少し違う雰囲気を纏っていた。



「よろしく。影者討伐隊(かげものとうばつたい)討伐部隊(とうばつぶたい) 新隊員達(しんたいいんたち)



  雲一つない青空が、俺達を見守っていた。

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