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第3話 謎の少女を家まで送り届ける

  俺が断る彼女を家まで送り届けると言ったのには、二つ理由がある。



  まず、一つ目。

 

 どう考えても、自分と同じくらいの歳の女子がこんなところにいるのはおかしいから。


  ちなみに俺は十六歳なのだが、この子もそれくらいだとして、なぜ廃ビルの地下まで行くことになったのか。

  ちゃんと理由を聞いて対処しないと、今回は助かったものの、また同じ過ちを繰り返して、今度こそ本当に死んでしまうかもしれない。


  それから、二つ目。


  さっき彼女を助け起こした際、少しだけ魔力を感じた。


  それに関しても、ちょっとだけ聞いてみたい。もしかしたら、揺れ火を持ってるタイプかもしれないし。

  無理に放り込むわけにはいかないけど、影者討伐隊にも入ってくれるかもしれない。

 

 影者討伐隊は最前線で戦うから、危険と言われれば危険だ。だけど、ちゃんと訓練を積んでから戦うので、ある意味一般人より安全なのである。

  一般人は影者のことを見ることが出来ないから、いつ死ぬかも分からないし、対処の仕方と言えば、夕方出歩かないことくらいしかない。

  だけど、影者討伐隊はちゃんと影者の姿が見えるし、それに自衛の仕方も教えてもらえるから、比較的安心して暮らすことができる。


  ああ、あと、服装も少し気になった。現代日本では珍しい袴に、耳元で揺れる満月を模したイヤリング。それに髪の毛もとても長くて、腰くらいまである。 



「助手席で大丈夫?」


「大丈夫です!」



  尋ねると、彼女は何度も頷いた。


  車は廃ビルの入口に停めておいた。 普段討伐隊が利用するのは、討伐隊のため特別に作られた地下道なんだけど、今回は公道を通ってきたのだ。特に意味は無いけど。


  二人して車に乗り込む。俺は運転席に座った。


  先ほども言った通り俺は未成年だが、影者討伐隊に入ってから一番最初に運転免許を取らされるのと、あと討伐隊で特別に作っている、完全オート性のこの車のおかげで運転することができる。


  彼女は少しだけ驚いた顔をしたものの、何も言わないようだった。

  家の住所を教えてもらうと、このビルからそんなに遠くないところだった。やっぱり、遠慮していたらしい。



「ごめん。一つ聞きたいことがあるんだけど」


「なんでしょう」



  強ばった声に、内心首を傾げた。やっぱりあの場にいたことには、理由があるのかもしれない。



「どうして、あんなところにいたの?」



  聞くと、彼女は深く俯いた。もしかしたら、言えないような理由なのかもしれないが、聞かないとどうしようもない。



「子猫が」


「へ?」


「飼っていた子猫が、脱走して、建物の中に入っていってしまって」



  やってしまった。そうか、彼女は飼い猫を探していたのか。さっさと連れだしたのは正しかったと思うけれど、もう少しやりようがあったかもしれない。



「ごめん。今から探さそうか」



  時間はないが、二人で探したらこんな何もない廃ビルの中なんてすぐだろう。

  要は、彼女を一人にしなければいいのだ。

  そう思って尋ねたが、彼女は袴の裾を握りしめたまま何も言わなかった。それで、察する。



「車、発進させるけどいい?」



  尋ねると、彼女がこくんと頷いたので、車をオートモードにし、エンジンをかけた。ほとんど音もなく、ゆっくりと動き出す。


  隣を見るとまだ、彼女はきゅっと裾を、握っていた。








 ○

(あっぶなかったぁ……)


  灯璃の隣、つまり助手席に座る袴姿の、満月のイヤリングを付けた少女は、どくどくと強く動く心臓のまま、袴の裾を握りしめた。

 

(やっぱりなんでこんなとこにいたのか聞かれるよなぁ……ミスった……)


  車が動き出してからしばらく経ったが、内心ブツブツとボヤいている彼女の名は、彼誰(かわたれ) 月華(げっか)という。



  察しの良い方々は気づいているだろう。

  例の魔王の部下であり、影者討伐隊に潜っているように告げられた少女である。

  彼女は魔王にああ言われてから、影者討伐隊に潜入しようとしたのだが、経歴的にそれは叶わなかった。


  生まれた時から魔王のもとで暮らしていたので、身分証明書、保険証、その他もろもろの必要な書類が何もなかったからだ。

  結局、そういう類の何も要らないボロアパートに住み、そこから討伐隊の灯璃の様子を観察することになったのだが、彼の活躍には目を見張るばかりだった。


  影者──と名付けられているモンスター──を百発百中で撃ち殺し、挙句の果てには、指名手配犯の大量殺人鬼まで仕留める始末。


  どれもこれも魔法をもらってからの出来事なのだが、それにしても、すごいものばかりだった。


  彼の元の正義感、というか、抱えている信念、のようなものとも、上手く合致したのかもしれない。


  もうそれは、そう。本当に、こちらが惚れてしまうほどに──


  そして、今日も今日とて、月華は彼の動向を探るべく、一緒に廃ビルに侵入して彼の様子を眺めていた。

 

  のだが、何匹かの影者に捕まり、我を忘れて悲鳴を上げていたら、灯璃に見つかったというわけである。


  魔王はすごく能天気、いや、そんなもんじゃないか。残虐性に満ち溢れた人物だったので、気に入った人物にしか、魔力を与えなかった。


  月華はそこまで好かれていたわけではないので、影者と比べても足りないほどしか魔力をもらえず、かなり弱かったため、殺されてしまう可能性もあったのだが、そんなことはなかった。

  もしかしたら、魔王の下で育ち、半分魔物と化した月華に、影者はどこか親和性のようなものを覚えたのかもしれない。


(まぁ、そのおかげで助かったんだけど……)


  魔力がほとんどないことは、ある意味灯璃にモンスターとかと勘違いされずに済んだから、一周回って良かったんだけど。


 とっさについた嘘も、上手いこと信じてもらえたし、本当に良かったかもしれない。

  隣を見ると、そこにはいつも遠くから眺めていた人物がいる。

  なんだか今の時間がもったいないな、と思ってじっと眺めていると、彼が不意にこちらを向いた。

  どうやら運転は自動でしてくれるらしく、注視しなくてもいいようである。

  目が合って、思わず先に目線を逸らす。



「あのさ、別に無理にってわけじゃないし、入りたくなかったら、全然入んないんでいいんだけど」



  不意に灯璃が言い、首を傾げる。何のお誘いだろうか。



「影者討伐隊、入らない?」



  ······これはミスじゃなくて、すごく良いチャンスだったかもしれない。




  「お願いします!」



  月華は、目を輝かせて、頷いた。

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