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第2話 影者とこの世界について説明する

  シュッ


  まるで炭酸が弾けたみたいな音が鳴って、目の前のそれは消えていった。



  最後のが完全に消滅したのを確認して、俺──祈夜 灯璃──は銃を下ろす。今日は調子が良い。一発も外さずに命中させることができた。今回の標的──いや、いつもなんだけど──である影者は、群れで行動する。





  影者は、二〇〇四年に突然日本に発生した謎のドーム状の物体の中で発見された、これまた謎の未確認生物である。


  謎のドーム状の物体、というのは、東京都を中心に半径四〇〇キロを中心として突如現れたもので、高さは大気圏まで達するかどうか、くらい。このドームから出入りすることはできない。



  あぁそうそう、影者の大きさは成人男性の腰ほど。全身は染め上げられたように真っ黒で、目がどこにあるかすら分からないほど。

  基本影の中で生きているから、夕方か、建物内で発生する。

  人類の体内に干渉して、そこから木っ端微塵に破壊する。

  普通は五匹くらいで行動するのだが、今日は十匹だった。多い。



  それから、この二つの物体の特徴は、一般人には見えないことだ。"揺れ火"と呼ばれる特別な目を持つものだけが、見ることができる。この目の構造もまだ全然分かっていなくて、ただ、この二つが見えるかどうか、というので区別される。



 ああ、あと、 "揺れ火"を持つ者たちの中で結成されたのが『影者討伐隊』だ。

  影者討伐隊は、影者を見ることのできない一般人を守るため作られたもので、これも二〇〇四年にできた。

  一応政府の許可を得て機能しているが、発足してまだ十数年ということもあって、まだあまりちゃんとしたところではない。



  まぁつまり、この日本にできた未確認物体については、あまりに謎が多すぎて全然解明されていないし、大事なところがぼやけすぎているのだ。




  が、実際のところ、ここはそんな曖昧な場所ではない。




 "ダンジョン"である。




 

 俺が十四の時、影者討伐隊として仲間とともに影者と戦っていたところ、出会った魔王にそう教えられた。


  ここは"暇つぶし"のために、魔王が作ったものなのだと。

  揺れ火は、単に魔力があるかないかの違いだった。影者は、本当にゴブリンのような、第一層の魔物だった。


 

  衝撃だった。自分達が今まで、戦っていたものはなんだったのか。どうして、そんな遊び感覚で仲間を魔王に殺されなきゃいけないのか。


  疑問にすらならないその憎しみに、答えなどあるはずはない。


  影者を倒したあと感じる虚無感を、今日も感じた。下ろしたライフルを肩にかけ、その場を去ろうとする。薄暗い建物内にカツカツと、俺の靴音が響いた。


  が、歩き始めてすぐ足を止める。さっきから何か、どこかからか、声が聞こえるような気がするのだ。


  一度耳をすませて気配を探るが、何も聞こえなかった。気のせいかもしれない。

  少しほっとして、もう一度足を踏み出した、その瞬間。




 キャーーー!!





  急に、女性の悲鳴が聞こえた。おかしい。ここには人などいるはずもない······ないはずだった。

  さっきまで俺が戦っていた──といっても、ただ一方的に銃で撃ち殺していただけだけど──場所は、廃ビルの地下だ。

  そんなところに、なんで女性がいるのか。

  分からないが、影者討伐隊として行かなければならない。




  すぐに魔力探知の能力を使う。影者は最下層の雑魚モンスターだが、微小な魔力を発している。

  俺は魔王に出会ったとき、尽きることのないという魔力をもらった。


  その魔力を使えば、どんな魔法だって使うことができる。魔力探知はそんな魔法の一つだ。

  使用すれば、全身がぽうっと薄青色に光るため、他人の前では使えないものの、一人で使うにはとても効率がいい。


  イメージとしては、脳内に地図が写し出される感じだ。周辺の地理と一緒に、魔力がピコン、と青色に光って教えてくれる。



  目をつぶって、青色の光に導かれるまま歩き出す。目をつぶった方が集中できるのだ。


  目を閉じたことによって、より五感が研ぎ澄まされたのが分かる。先ほどよりも、音だって大きく聞こえる気がする。


  青色のすぐ近くまで来て、俺は魔力探知を止めた。これ以上近づくと、守るべき対象に俺が魔法が使えると気付かれる可能性がある。


  それだけは絶対に避けなければならない。だって、他人に俺が魔法が使えることがバレると、魔王に殺されてしまうから。


  俺は素早く目を開け、影者からちょうど良い距離感で、なおかつ銃の打ちやすい場所を取った。

 

  俺と同じくらいの少女が尻もちをついて、それに覆い被さるように影者が乗りかかっている。おかしい。普通ならもうとっくに、殺されているはずだ。


  俺は狙いを定め、影者だけを撃ち殺していった。少女が短く悲鳴を上げる。シュッとまた、炭酸が弾けたような音がして、計十五匹くらい、一気に消えていく。


  今度も、一発も外すことはなかった。

  今日は本当に調子が良い。


  俺は少女の傍によると、手を差し出した。相変わらず少女は、まるで腰が砕けたかのように、尻もちをついたままだ。



「驚かせてごめんね。大丈夫?怪我はない?」


「だ、大丈夫です。ありがとうございます」



  なぜか少し顔を赤らめ、彼女が言う。首を捻ると、少女はぶんぶんと首を振り、きりっとした顔で立ち上がった。

  一体なんだったんだろうか。



「家まで送るよ」



  影者討伐隊の任務として、一般人の保護というものがある。これは現場にいた一般人を助けるだけでなく、ちゃんと家とかまで送り届けるというものだ。

  だからそう言うと、彼女は慌てたように手を振った。



「いえ、申し訳ないので、大丈夫です!ここからとても遠いので! 時間かかっちゃうので!」


「いや、車あるから大丈夫だよ」



  俺も東京から大阪まで移動なんてよくあるから、慣れたものだし。そう言うと、少しだけ彼女は迷ったような顔をして、頷いた。



「すみません。よろしくお願いします」


 

  俺は微笑んで頷くと、少女を車を止めてあるところまで連れていった。


 

 

 

実は灯璃は、無自覚に魔力探知を行っているところがあります。ただ、あくまで"無自覚"なので、魔法と同じような反応は出ません。

影者討伐隊では、突出した銃の的中率を誇る灯璃ですが、これはこの魔力探知の能力が優れているためです。

ほんと無自覚に、この能力を使用して、魔力の感知された部分を、撃っているのです。




○ブクマ、評価ありがとうございます!

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