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第18話 そして討伐

  電話がかかってきたのは、見回りが終わってすぐだった。

  どうせ家に帰ってもやることはないし、早めに出勤しようと、近くに停めていた車を取りに戻っていた。

  影者討伐隊は政府公認の組織だから、迷惑にならない範囲であれば、車両はどこに停めてもいいことになっているのだ。そういうところは徹底している。



「助けてください!」



  携帯から聞こえてきたのは、切羽詰まった天明の声。すぐに電話を切って、法定速度ぎりぎりで運転した。



「あの倉庫……だよな?」



 呟いて、反芻する。


 

  拠点の門の前に車を置いて全力疾走する。もちろん、ライフルも忘れずに。


 倉庫は、門から案外近くにあった。あの辺りはあまり行かないから、はっきりとした場所は覚えていなかったのだ。

  思っていたより早めに着いて、安堵する。



  倉庫のドアノブに手をかけた。中からは、やっぱり派手な音が聞こえる。

  銃の音は聞こえない。拠点の中だっていうことは、

 たぶん敵は人間のはずなんだけど……。

  もしや、俺を狙っているという誰かの、おびき寄せるための罠だったり?

  分からない。分からないけれど、突撃しないことには何も始まらない。

  応援を頼んだ方が良かった? いや、でも、たぶん俺一人でもなんとかなるはず……。



「天明、咲夜、聞こえるか? 今助ける!」



  中から返事はない。

  意を決して、俺は取っ手を引いた。だけど、全く動かない。

  もしや、閉じ込められているのだろうか。



「くそっ……!!」



  そのままドアを蹴破ろうとするも、開かない。


 他に方法、方法は……。


  必死に頭を巡らせる。


  もしかしてこのドア、内開きなのか……?


  ふと思いついて、力任せにドアノブを押した。さっきまでの努力が無駄に思えるほど、いとも簡単にそれは開く。



「ビンゴか」



  すぐに中の様子を伺った。

  床には、無数の穴が空いている。

 それから、それから……



「影者……?」



  部屋の真ん中にいたのは、体長五メートルは楽に超えていると思われる巨大な影者だった。

  あと、咲夜と天明。天明は壁にもたれかかったまま俯き、咲夜は床に倒れ込んでいた。おそらく二人とも、意識を失っているだけだろう。


  もう一度見た影者の手には、紫色の光。そしてその手は、天明と咲夜に向いていた。



「……まじかよ」

 


  全力で走り、いくつか銃を撃ち込む。とりあえず、俺に意識を向けさせなければならない。

  カラカラ、と音がして、釣られるように見てみれば、そのままの銃弾が落ちていた。



「銃弾は貫通しない? それにあの光は? 普通の影者なら、さっさと近づいて身体を破壊するはず」



  銃で撃つ作戦は失敗したが、おかげで影者はこちらを向いた。

 手には、まだ紫色の光。



「銃が効かないなら、魔法、しかないか……」



 頭の中にイメージを浮かべる。

  "こちらに向かってくるその光を、無力化する"

 ほうっと息を吐いて、意識を集中させた。



 ドンッ。



  思ったより大きな音とともに、それは発射された。

  足を踏ん張り、両手でそれを迎え撃つ。

  光が手に当たったかと思った瞬間、それは細かな煙を発して消えていった。成功したようだ。


  はずなのだが、パチパチ、と電気が弾けるような音が聞こえる。影者をじっくり観察すると、その体には紫色の何かが帯びていた。元々の形態も相まって、禍々しい。


「もしやあれか。この光は、ふだん影者が人体を破壊するときのエネルギーみたいなものを、結晶化したもの? 銃弾が通らないのは、そのエネルギーを体に纏っているから?」



  めちゃくちゃな理論だが、そう考えると、筋が通る。



「となれば、下手に銃を撃って攻撃するより、魔法使った方が良いな」



  再度意識を集中。頭の中には、影者が掻き消えるイメージ。



「あのエネルギーまるごと、消しきるんだ」



  ゆっくりと息を吐き、体制を整える。衝撃に負けないように全身に力を入れた。

  影者は相も変わらず俺を見ているだけだ。だけどその手に光は、もうでき始めている。


  目をつぶる。身体が疼く。手が光る。

  今までにないというほど消費されていく魔力量。まる体が浮かんでいるような気すらする。



「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



  渾身の一撃。両手から出た炎が、影者を燃やし、灰にした。影者が、いつものようにパラパラと灰になって消える。



 カラン。



  不意に響いた音の方を見れば、そこにはほとんど明かりもないのに鈍く光るクリスタルが落ちていた。



「なんだ、あれ……」



  魔力を使いすぎたせいか、急激に薄れていく意識の中、それに手を伸ばす。

  冷たい感触が掌にぶつかった瞬間、視界は真っ暗になった。











「魔王様、監視対象、祈夜 灯璃がダンジョン第一層を突破いたしました」

 

  少女の声が、薄暗い倉庫の中に響いた。


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