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第17話 命の危険

「あれは、影者で合ってるのよね……?」



  ぼんやりとしたまま、咲夜が呟く。口をあんぐりと開いたまま隣を見る。天明も目を見開いて座り込んでいた。



「影者……だよね……」



  天明はボソッと呟いて、後ろを振り返った。さっき開いたばかりのドアは、もう閉ざされていた。

  慌てて外に開けようとするが、開かない。

  ドアノブが、ガチャガチャと音を立てる。



「駄目だ。閉じ込められてる」



  振り返った顔には、はっきりとした絶望。

  咲夜はきゅっと口を結んだ。覚悟を決めなければならない。目の前にいるのは、自分達が適うわけもないような敵だ。

  だけど、戦わなければ……。

  こいつに勝たなければ……



「天明、戦おう。生き残るために」



  咲夜は天明の手首をしっかりと掴んだ。

  天明の瞳が揺らぐ。



「二人で、生き残るわよ」






  幸い、向こうはまだこちらに攻撃を仕掛けてきていない。



「あいつとの距離はちょうど三、四メートルくらいね。あいつの体長は五メートルってところかしら」



  咲夜が銃を手に持ちながら言った。あぁ、と天明が頷く。そして彼の手にもまた、銃。



「普通の影者と同じように、銃を撃っていけばいいかな……それしか方法はないし」


「私、体術は使えるわよ」


「やめておいた方がいいよ。相手は影者だ。しかも大きい。良くて怪我、悪くてミンチだ」


「確かにね。じゃあ私は、後方から撃つわ」



  二人で目を見合わせる。咲夜は頷くと、巨大影者の後ろに回りこんだ。



「い、今から撃つよ!」


「分かったわ!」



  まだ出会って二日。声に出さないと、連携は取れない。ただ、言葉の掛け合いでの戦いは訓練学校で習ったからどうにかなりそうだ。今は、それだけが救いだ。


  ダダダダッと音が鳴って、頭に銃が撃ち込まれる。


 しかし。しかしだ。


  二人が撃ち込んだ弾丸は、その頭を貫通することなく、バラバラと地面に落ちた。



「…………は?」



  ビリビリビリビリ。辺りの空気を、影者が圧倒する。信じられないくらいの殺気。まるで押しつぶされそうだと、咲夜は思った。本当にこのまま自分は、死んでしまうかもしれない。

  初めて、明確に死というものを意識した。

 

  天明も同じように目を見開いていたが、はっと我に返ったようにして、もう一度銃を構えた。



「もう一回。あいつが倒れるまで、何度でも!!」


「分かったわ!」

 


  その言葉で深呼吸する。もう一度照準を合わせる。

  それから撃とうとして、眉を顰める。


(なに、あれ……)


  その視線の先には、影者の手。サラサラと黒い砂を零すようにして、何かを持っていた。何か、というより、紫色の禍々しい光。


(まさか……)


  咲夜は駆け出した。今までにないというほど、全力で走る。そのまま、天明を突き飛ばすようにして、庇う。

  襲い来る衝撃。それに耐えながら、咲夜は天明の様子を見た。突き飛ばしたせいか頭を打っているらしく、後頭部から血が出ているものの、それほど大きそうな傷ではない。

  安堵からほっと息をつく。そんな場合ではないけれど。

  咲夜は天明の上から素早く離れた。彼はゆっくりと立ち上がった。

 

  さっきまで天明がいたところには、大きな穴が空いている。おそらく、影者が放ったものだろう。



「やばいわね」


「う、うん」



  まだ現状を掴みきれていないような顔をした天明は、とりあえずといった感じで頷いた。



「あの影者が、衝撃波のようなものを発するんだとして、あとはどうする? やっぱり逃げるしかない?」


「でも、どうやって……」


「とにかく走る。あのドアが開くまで。それしかないんじゃないかしら……」



  影者が、こちらを向いた。咲夜がまた、天明を抱えるようにして走る。

  二人がいた場所には、同じように穴が空いていた。



「外部からの助けを要請しよう。これは、二人でどうにかできる類じゃないよ」


「そうね。私が引っ張るから一緒に逃げて。電話はお願いするわよ」



 天明がポケットからスマホを出したのを見て、咲夜が頷く。

  そうこうするうちにまたドンっと衝撃波が襲う。

  天明が素早く携帯を操作するのを見て、ゲームが好きだと言っていたのを思い出した。

  咲夜の耳には、三コール目でぷつっと音がした。



「もしもし祈夜です。えっと、天明?」


「助けてください! 場所は、拠点の使われてない倉庫です! 外にある……」



  また、衝撃波。ほぼ二人分の体重を支える咲夜の足にも、限界が近づいてきている。

  咲夜は歯を噛み締めた。

  電話の相手である上司が来るまで、絶対生き残ってやる。



「えっ、わ、分かった。急いで行くよ」



  どうやら、こちらのただならぬ様子を察したらしい。


  そして、慌てた様子で電話が切れた瞬間。

  今までで一番大きな衝撃波が二人を襲った。


 



 


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