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第16話 事態は急展開

「全っ然寝れなかった〜! ウォッチ、今何時? 一大事~! ……いや五時」



 四月十六日の朝、神崎(かみさき) 咲夜(さくや)は勢いよくベッドから起き上がった。

 そのまま、息もつかず軽く叫ぶ。隣室の住人に、ガン、と壁を蹴られた。





 咲夜は洗面所の鏡と向き合いため息をついた。

 鏡には、目の下を真っ黒にして青い顔をした自分が写っている。



「最悪じゃん」



  髪にオイルをつけ、くしで梳かす。口に咥えていたゴムを手に取り、そのまま一つに結う。

  いつもは高い位置でくくられているポニーテールも、今日は心なしか項垂れているようだ。


  咲夜は、昨日から影者討伐隊に勤めている。

  拠点から家が遠かったから、自然と寮生活をすることになった。

   影者討伐隊の拠点にはそれなりに大きな寮があり、ほとんどの隊員はここで生活している。

   さっき壁を蹴ってきたのも、情報部隊か討伐部隊の先輩だったはずだ。昨日はバタバタしていたから、大した挨拶はできなかった。

 

  しかし、ここに落とし穴が隠されていたのである。

  たとえ修学旅行だろうがなんだろうがところかまわず寝られる咲夜なのだが、案外新しい場所に弱かったのである。

  いや、新しい場所というよりも、新しい環境。

  周囲に知り合いの人間はいなかったし、昨日は衝撃的な初任務だったし。

  思ったよりシリアスな職場で、なおかつ先輩もみな風変わり(咲夜も人のことは言えないのだが)とくれば、精神的にも疲れるのは目に見えている。


  その結果、寝ようにも寝られず、いつもより不機嫌な咲夜が出来てしまったのであった。



「顔色わっる」



 呟いてため息をつき、メイクで誤魔化す。

 いっそ二度寝しようかとも思ったのだが、そもそも寝られないのだ。できるわけがなかった。



「ていうか、見回りまで暇よね」



  鏡の中の自分に問いかける。



「一応拠点の構造は把握しておいた方が良いかしら。暇だし」



  仕上げにバレッタを髪につけ、スマホと任務があった時のための銃だけ持って部屋を出る。鍵はオートロック式だ。





 寮の外に出て、拠点の中を歩き回る。食堂の前を通り、訓練所の前を通る。朔に引っ張り回されたのを思い出して、少し顔を歪めた。



「あとは、外くらい?」


 

  周りには誰もいない。調子に乗って、ビシッ、と中庭に向かって指を指す。まるで探偵が真犯人を指すかのようなポーズだ。



「中庭が怪しいわね。いや、先に外回りから行った方がいいかな」



  朝露に濡れた芝生を踏みしめる。

  昨日の抜けるような青空とは違い、若干曇っている。午後くらいには、小雨が降るかもしれない。


  咲夜は、そのまま大手を降って歩いた。咲夜の母親曰く、堂々としているところだけは、誇りを持っていいということらしい。咲夜自身も思い当たるところがあったから、ただ頷いた。



「あれ?」



  まるで行進でもするかのように歩いていた彼女だが、小さく声を零して立ち止まった。

  目の前には、拠点の建物や寮から少し離れた倉庫。それから、倉庫のドアの前に座り込む天明。



「なに、あんた具合悪いの?」



  咲夜は駆け寄ると、天明の顔を覗き込んだ。

  てっきり自分と同じように青白いと思っていたのに、存外顔色は良い。



「いや……、別に……」



  彼はそう言って顔を背けると、もう一度ドアに向き直った。



「そこ、なんかあったっけ? 昨日先輩に教えてもらった限りでは、なんも入ってないって言われたけど」


「うん……。ちょっとここ……、おかしいと思わない?」


「別に?」



  天明が指したのは、ドアのちょうど下の辺に当たるところだ。顔を近づけて見てみるが、変わったところはない。



「いや……、ここさ、紫に変色してるから……」



  彼はなぞるようにして、ドアの下枠を指した。確かに、若干紫色になっている。



「なんか毒物とか保管してるんじゃない? で、公には言えないから、なにも入ってないって言ったとか。辞めた方がいいと思うわよ、ドア開けるのは」



  ドアノブに置かれている天明の手を見て、咲夜が言う。



「確かにそうかもね……。やめとこうかな」


 

  天明は頷くと、立ち上がった。ドアノブに、手をかけたまま。



 ガチャッ。



  その音に最初に反応したのはどちらだったか。

  ドアは、内開きだった。

  つまり、天明が立ち上がった拍子にドアは開き、そのまま押し流されるようにして二人とも(咲夜は天明に巻き込まれて)倉庫の中に入ってしまったわけだ。



「……は」



 ダダンッ!!



  咲夜が呟いた瞬間、大きな轟音が鳴り響いた。辺りが揺れる。地震で言うと、震度六くらい。



「やばいよね、これ……」


「……やばい、わね」


 

  あっけに取られて座り込んだ二人の前にはだかるのは、見たことがないほどの、大きな影者だった。

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