第15話 翌日
ピピピピ……
電子音で目が覚める。久しぶりに、時計を使って起きた。普段は、音が鳴る前に目が覚める。
もしかしたら、昨日いろいろあったから疲れていたのかもしれない。命を狙われているらしいし、自分の意識の届かないところで蝕まれていっている部分は、少なからずあるだろう。
「四時か……時間ピッタリ」
その針は、常人が起きるには早すぎる時刻を指していた。まだ頭は覚醒しきっていない。目を擦りながら、欠伸を一つ。
「今日も見回りから、だね」
昨日は朝にも影者が発生した。最近影者は活発化している。今日も現れないとは限らない。
ベッドの上でググッと伸びをして、それから膝を抱えてため息をつく。膝とお腹の間にできた空間に、顔を埋めた。
これからまた、頑張らなければならない。
大げさなことを言うと、日本の未来は俺にかかっている。誇張しすぎているようにも思えるが、確かなことだ。
…… 頑張らなければ、ならない。
ベッドから勢いよく起き上がり、洗面所に向かった。手早く顔を洗い、髪を整える。
歯を磨こうとしてハッと気づき、キッチンへと向かった。最近忙しくて朝食を食べることが少なかったから、習慣として忘れていた。
「いただきます」
一人きりで手を合わせる。
ヨーグルトにハチミツをかけただけという、朝食とは言い難いそれを見て、昨日咲夜が食べていたスペシャルメニューを思い出した。
結局彼女は、人間の胃に入りきるとは思えないような量の食べ物を全て流し込んだ。しかも、たった三十分で。圧巻だった。ものすごいドヤ顔で翌日のご飯を奢るよう揺すってきたのを除けば。
彼女曰く賭け、らしかったが、そもそもそんな賭けをした覚えはない。
ちなみにあのメニューを完食したのは、やはり彼女が初めてだったらしい。
「やっぱり一人で食べるご飯はあまり美味くないな」
確か咲夜も天明も寮住まいだったはず。朔もそうだから、あと一時間くらいしたら起き出して、みんなでご飯を食べるのかな。そう思うと、少し寂しい。
俺は、寮には住んでいない。一軒家だ。
その方が魔法を使うのに便利だとか、プライベートスペースが取りやすいだとかその辺の理由で。
正体なんて大層なものじゃないけど、そういうのもきっと気づかれにくいはず。
「まぁ、書類も溜まってるし、今日は早く出勤しようか」
キッチンで立ったまま適当に飲み込んで、適当に洗った。そのまま歯だけはしっかり磨き、今日の任務の準備をする。
いつもお世話になっているライフルを丁寧に点検し、ナップサックに詰め込むと、ドアを開けた。
外は真っ暗。人々はまだ眠りについているんだろう。
この時間帯は、嫌いじゃない。稜線を掠める太陽が、秘境みたいになったこの世を照らす光のように思える。
丸でたった一人だけ、地球に残された気分だ。
「見回り、行こう」
ナップサックをキュッと握りしめ、朝の闇に紛れるようにして俺は歩き出した。