第8話 討伐部隊のメンバーを紹介する
「ここが討伐部隊の部屋だよ」
金色のプレートがかかった赤い木製のドアを開けると、咲夜と天明は歓声を上げた。
中では、討伐部隊の面々が最低限の事務仕事を行っている。
綺麗に整ったデスクや棚に、最大限まで行き届いた部屋。確かにそれらは、他のオフィスを見たことがない俺でさえ、素晴らしいと思うほどのものだ。
「パソコン……最新式のだ……知らなかったなぁ。こんな仕事あるの」
隣でぽつりと呟いた天明を見れば、目を輝かせて眼前の光景を見つめている。もしかしたら、パソコン系は好きなのかもしれない。
それに訓練学校では、事務仕事の話はしないはずだから、知らなくて当然だろう。
「天明は、機械系が好きなの?」
尋ねると、彼はコクコクと何度も頷いた。
「昔から、ゲームとかが好きで……」
なるほど。
それで先ほどから、目を輝かせているわけだ。
彼の隣にいる咲夜は、常に補充してある──誰かが勝手に持ってきている──ティーセットなどに目を向けているあたり、やっぱりこういう些細な場面って、意外と人間性が出たりするんだな。
出会ったときからずいぶんと癖の強い二人に振り回されてきたが、なんとなく掴めてきたような気がする。
「なるほどね。じゃあ、ここの事務仕事はある意味、天明にぴったりだったかもしれない。あんまり機械に強い人がいなくてさ。ずっと探してたから」
「良かったです!」
天明は、にっこりと微笑んだ。
「一応説明すると、ここは討伐部隊の本拠地。任務に出るとき以外は、基本ここで過ごしてる。主な仕事は、討伐隊で必要な事務や、その日、もしくは、前日の任務の報告書の作成。まぁここらへんは、任務の具合とか、出張とかの加減によるから、決まってはいないんだけど。なんか質問ある?」
「大丈夫です」
「いいえ」
咲夜、天明ともにはっきりした声で言う。
たぶん、訓練学校でかなり鍛えられたんだろうな、ここら辺は。常識、という点では、怪しそうなところあるけど。
「じゃあ、討伐部隊の面々、紹介するね。まずは、さっきちょっと喋ったと思うけど、天つ日 アトリとクロジ。双子ならではのは、連携プレーがすごい。あぁ、あと、事務っていうより、任務に行ってることの方が多いかな」
「今更だけど、よろしくな」
「よろしくお願いします」
新人二人の後ろに立っている双子を指す。
今互いに挨拶している様子や、さっき話していた感じ(内容は聞こえなかったけど)を見れば、順調そうだ。アトリもクロジもフランクだし、きっとここはうまいこといくだろう。というか、ただでさえそれぞれの個性が強すぎる討伐隊である。今まで起こった喧嘩とかを思い出せば、そう願うしかない。
「それで、あっちのデスクに座っているのが、長雨 凛。弓を操るのが上手いから、たまに弓矢で戦ってる」
「よろしくね」
俺が指したデスクに座っていた長身の女性が、席を立って、軽くお辞儀した。たぶん彼女の戦いっぷりを見たら、咲夜も天明もびっくりするだろうな。
俺が初めて彼女と任務に行ったのは、まだここに入ったばかりの時だったから、かなり衝撃を受けた。
なんというか、彼女の戦い方は、言葉通り『肉を切らせて骨を断つ』で、めちゃくちゃなんだよな。力で押し切って勝て! みたいな感じで。
「それからその横に座っているのは、月影 朔。本人から言うように言われてるから、もうぶっちゃけて言うと、あれは女装。足がすごく速い」
「よろしく!」
朔が軽く立ち上がって、ひらひらと手を振る。
朔は、俺の同期だ。年は同じかどうか分からないけど。ちなみに、俺は彼が男であることに約一年気づかなかった。
体つきも細くて小柄だし、髪も長いし、ついでに寮とかでもほとんど会わなかったし。
任務で一緒になったかなにかのときに、初めてまともに喋って気づいた。いや、気づいたというか、教えられたんだけど。
けれど彼は、その小回りが利く体のおかげ、というべきか、足がとても速くて、素早い移動を得意としていた。その素早さを生かして、情報を回すのに重宝されている。
「他の人たちは、今は任務かなにかでいないっぽい。任務とか出張とかが多いから、全員がそろうことはほとんどないんだ。というか、基本任務に行ってるかな」
とりあえずここにいる全員と簡単な挨拶を終えた咲夜と天明を見ると、かなり慌てた様子だった。
今紹介したのは四人か……
それでも、初めての職場で、いろいろ説明されて、しかもそれがかなり強烈な任務のあとだったりしたら、大変だろうな。
今日は、とりあえず命に関わる医療部隊の場所だけ案内しておいて、あとは後日、という方がいい。
「俺はこのあと任務があるから、先に医療部隊だけ案内しておくよ。そのあとは、ここで報告書の書きかたとかを教えてもらって。ごめん、朔か凛、それかアトリかクロジ、時間いける?」
「全然大丈夫だよ。今日私は任務もないし、書類関係の仕事も終わったから」
「ごめん。お願いする」
そう言ってくれた朔にお礼を言い、二人を連れて廊下に出る。医療部隊は、討伐部隊の部屋から、わりと近いところにある。怪我したときに、すぐに治療が受けられるように。あと、玄関からもけっこう近い。
そういえば、最近ここには来てなかった。
久しぶりだなぁと思いながら、俺は医療部隊、と書かれたペパーミントグリーンのドアを開けた。
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