騎士マウリッツ 1μ
どこで間違えてしまったのだろうか。
俺はいつものようにチャペルで一人、懺悔していた。もちろん聞く者は誰もいない。俺の、俺による、俺のための無言の懺悔。
小さい頃から俺は数字が好きだった。頭がいいとは思わないが、おかげで学業は苦でなかったし、トレーニングも効率的にできるようになった。親父譲りの体つきに、軍人志望ではめずらしく計算や測量ができるとあって、成長したら砲兵隊や築城部隊から引く手あまたになった。造幣局にスカウトされたこともある。
だが、最初はその延長線上だった趣味が、やがて間違った方向にいってしまったのだ。一旦レールから外れると、間違っているとわかっていても止まらなくなってしまった。俺自身が知らずにいた自分のもう一つの性癖とマッチして、禁断の果実となってしまったのだ。
そもそもは妹が可愛すぎたせいなのだが、それを言っては仕方がない。妹を悪く言う人間は極刑に値する。そしてそんな妹は、真実を半分しかしらない。清らかな優しい心が、兄の虚言を真に受けているのだ。
神よ、大好きな妹に誠実でいられない、この情けない兄をお許しください。
神よ、この人々を欺き、密かに社会に背をむける私に救いを。
俺が祈りを捧げていると、6頭立ての馬車が到着する音がした。親父のではない。今日の来客、サロモン王子の馬車に違いない。
「やけに早いな。」
おもわず呟いてしまった。夕食に合流する予定ではなかったか。
アディーは庭園か屋敷を案内すると言い始めるかもしれない。前者ならいいが、後者の場合は急いであの部屋の鍵を閉めなければ。
チャペルの戸締まりをすると、私は秘密の部屋に急いだ。