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戦艦放浪記  作者: ほうこうおんち
番外編2:大日本帝国編~フィリピン海の死闘~(1944年10月)
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作戦は終了、然れど戦争は終了せず

 一連のフィリピン海戦は、双方がどれだけミスをしたかが問題となった。

 日本では、相互の連携が重要だったのに、通信で失敗した栗田中将が問題視されたが、西村・志摩艦隊の突入成功で不問にされる。

 栗田中将自身、ハルゼー艦隊の空襲後、スプレイグ少将の空母艦隊、リー中将の戦艦部隊と戦い、駆逐艦「雪風」に旗艦を移して戦い続けた敢闘精神を賞賛された。

 日本海軍は、問題点を功をもって帳消しにしてしまった。


 アメリカでは、何がミスの原因か、徹底究明される。

 緒戦のシブヤン海海戦で、戦艦「武蔵」に拘り過ぎた事が原因の一つに挙げられた。

 流石のハルゼー機動部隊と言えど、魚雷・爆弾を使い過ぎ、乗員を疲労させ過ぎた。

 翌日の小沢艦隊空襲時、本来の攻撃力が出せず、長引いてしまった為、長期に渡って追撃ブルズランをしてしまった。

 「武蔵」と小沢艦隊に拘り過ぎて、索敵が甘くなり、西村艦隊と志摩艦隊の中間に居た「大和」を見逃してしまった。

 更に「武蔵」にトドメを刺した潜水艦部隊も、沈まない「武蔵」を恐れて魚雷を撃ち尽くし、補給の為に担当区域を離れた。

 そして索敵の隙間が出来てしまった。

 この辺、「武蔵」の化け物じみた強靭さへの対策不足として、海軍全体の反省とされる。

 未知の存在であった事から、ハルゼー、キンケイド、オルデンドルフは処罰を免れた。

 ただし、ハルゼーに対しては命令遵守の徹底、報告・連絡・相談をちゃんと行うようにという大統領からの訓戒が為された。


 一方、第3艦隊参謀長カーニー少将は解任される。

 彼の「卑劣作戦」に基づく判断が、空母機動部隊を囮に使うという奇策を見抜けず、逆に「囮」と切って捨てた南方のB集団(西村・志摩艦隊)を軽視し、「大和」を見逃した。

 B集団が囮という先入観が無ければ、偵察を早期に打ち切る事は無く、後方にいた「大和」と「最上」に気付けた可能性が高い。

 先入観を無くし、全ての可能性に対応出来るように、万全の索敵を、と意識改革が成される。

 また、慣習として電文末尾につけられていたダブルワード(World WonderやYellow Yotのようなもの)は廃止となった。

 ハルゼーに限らず、無駄に深く考えてしまう可能性があったからだ。


 海棲怪獣リヴァイアサン「大和」級戦艦への対策も立てられた。

 砲戦、水雷、どちらに対しても異常な防御力を持っている。

 しかし、唯一対空戦闘に付け入る隙がある。

 一見激しい対空砲火を浴びせて来るが、

・近接戦闘用の機関銃は銃撃に切れ目が有る

・中間距離用の大口径機関銃は故障がち

・主砲から撃たれる対空散弾はコケ脅し

・ロケット砲も命中精度が低過ぎる

・高角砲は優秀だが近接信管を持っていない

・CICを使わない古典的な対空戦闘方式である

 と分析、空襲が被害少なくこの化け物を倒す方法であると判断した。

 「武蔵」を仕留めた時のように、先に急降下爆撃で対空砲を潰し、撃てなくなったところを雷撃機が「左右どちらか片舷に攻撃を集中」するという「対大和作戦」が立てられた。

 戦艦の砲撃で「大和」の対空砲を潰す事も検討されたが、それは「大和」の射程距離に入ってしまい、味方の被害も増大すると却下された。

 「大和」と「長門」が使った水中弾に対しては「対抗策無し」と諦めた。

 少なくとも、短期間でどうにかなるものでは無いし、一番は「奴等と砲戦をしなければ良い」のだ。


 日本に最早空母は居ない、そう見られていたが、横須賀を高高度から偵察したB-29重爆撃機がもたらした写真がアメリカを再びパニックにする。

 そこには馬鹿でかい空母が居た。

 そう、「大和」級に匹敵するサイズの重空母(ヘビーキャリア)が。

 もしこの空母が、「大和」同等の防御力と、エンガノ岬沖海戦で「瑞鶴」が発進させた新型戦闘機を持ち合わせていたなら?

 アメリカ海軍は、グラマン社に更なる新型戦闘機、F8Fベアキャットの納入を求める事になる。




 一連の海軍からの報告書を読んだルーズベルトは、議会に向かおうとしていた。

 降格等の処分は無しだが、太平洋艦隊司令官のニミッツ、第3艦隊のハルゼー、第7艦隊のキンケイドは半年間の減給とされた。

 最高責任者たる大統領の彼と、海軍のアーネスト・キング合衆国艦隊司令長官も3ヶ月の減給とし、これらは遺族への給付金に計上する。

 巡洋艦「ナッシュビル」で逃げ回ったマッカーサーについては不問になった。

 ヨーロッパでもアイゼンハワーはドイツのスコルツェニーによる暗殺を恐れ、味方によって行方不明にされていたし、最高司令官は死んではならないのだ。


 議会でフィリピンにおける敗戦を糾弾されたルーズベルトだったが、一連の処分と対策を報告し、

「貴方は敗戦と言ったが、フィリピンにおける戦闘はまだ続いている。

 マッカーサー元帥(ダグ)が戦っているのだ。

 我々は彼を信じて、一局面での過程に一喜一憂せず、最終的な勝利を信じて戦い続けようではないか」

 と演説した。


 議会では、見過ごせない量の輸送船コンボイ物資サプライ兵員ソルジャーの喪失から、ここらで日本と和睦しても良いのでは無いかという意見も出された。

 ルーズベルトは

「イギリスやソ連との約束がある。

 枢軸国アクシズには無条件降伏以外認めない。

 アメリカだけが苦しいからと言って、約束を違える訳にはいかない」

 と改めて宣言、議会でもこの議題は扱われなくなった。

 日本海軍がその身を削って成し遂げた作戦目的達成、それはアメリカの議員より講和の文字を引き出しはしたが、ルーズベルトの強固な意志の前に、戦略より上の政治的目的までは果たせなかった。

 軍事が作り出した作戦の成果を、政治の成果として活かせる政治家が日本にはいなかったのだから。

「勝ったのだから、アメリカも講和を考えるだろう」

 という他人任せな政治家では、どうしようも無かった。


 危機を乗り越えたルーズベルトの元に、まだ頭の痛い報告が上がる。

 フィリピンの戦いは一気に苦戦に変わった。

 栗田艦隊、小沢艦隊を追撃していた時期から、フィリピン地上基地を発進した日本軍機は常軌を逸した攻撃に打って出た。

 特攻(カミカゼ)である。

 爆弾を抱いた戦闘機ゼロが体当たりして来るのだ。


 陸においても日本兵は、死を恐れない抵抗に出ている。

 艦隊の勝利に酔い、飢えや病気を忘れ、軍刀や僅かな手榴弾で機関銃陣地に突撃して来る。

 今迄撃ち殺せていたのに、抑揚感が麻薬となったのか、頭が半分吹き飛ぶ、胴体に風穴が開く、下腹から腸がはみ出している状態でも死なず、陣地内で自爆する。

 前線からは、早く戦車や火炎放射器をと言う矢の催促だ。

 死兵ゾンビ攻撃アタックに精神を病む米兵も続出している。

 米兵は、既に死んでいる日本兵に狂ったように銃弾を浴びせ、日本人フィリピン人華僑問わず東洋人を異常に嫌い恐れたりしていた。

 ある記録映像では、米軍が通っている横の縁の欠けた井戸から、日本兵が這い出て来て、何発も撃たれながら、兵士に近づき襲い掛かろうとする一瞬までが写し出されていた。

(その映像を見た者は一週間以内に死ぬという都市伝説フォークロア付きで)

 ごく一部の米兵だけが

断罪者ウリエルヒジカタよ、我を守護し給え」

 と唱えながら、ナイフやスコップ一つで日本兵と互角に白兵戦をし、勝っている。


「『断罪者ウリエルヒジカタ』って何だ?」

「ハワイの軍神だ。

 俺の祖父さんはそいつに戦いを挑んで死に目に遭ったそうだ。

 だけど帰依して祀っていれば、護ってくれるそうだよ。

 実際俺は、日本兵ジャップ狂気クレイジーの前でも落ち着いていられる」

「そう言えばハワイの連中に聞いた事があるな。

 第一次世界大戦にもハワイ兵の前に現れ、

 『退くなら斬る』と言って兵を奮い立たせたとか」

「どっちかと言うと悪魔デーモンの類だけど、天国に導く天使エンジェルよりも、死なせてくれない悪魔ヒジカタの方がこの場合ありがたいや」

「そうだな」

 彼等は、ヒジカタとは元々日本の侍未満だった事を知らない。

 何であろうが、信じる者は救われる。


 そんな前線のごく一部の話は置いて、アメリカでは死兵ゾンビ化した日本兵対策が急務となった。

 死兵ゾンビ化は、艦隊が勝った時から起きている。

 倒すには脳を完全に吹き飛ばす、火炎放射器で全身を焼き尽くす、戦車等で轢き潰して全身を粉々にする、等が報告されている。

 だが元々は普通の人間、彼等の心を徹底的に折れば、撃たれたら死ぬ単なる兵士に戻るだろう。


「アメリカの力を見せつける為に、日本人ジャップの心の拠り所、フジヤマをペンキで真っ赤に染めてみるか」

 なんていう「赤富士計画」も真面目に考えられた。


不死アンデッドな日本軍と戦うと、被害の大きさが予想されます。

 オキナワで10万人、キュウシュウで35万人、本土だと100万人の犠牲者が最悪予想されます」

「そんなに出るかね?」

「第一次世界大戦を見れば、これくらいは出るでしょう。

 まだ日本は国外で戦っていますが、本土決戦となるとどんな怪物フェノメナになるか、想像も出来ません」

「イタリア戦線の日系人部隊の話は聞いてるな?

 彼等の損耗率は314%、つまり何度も全滅する被害を受けながらも、治して戦い続けたり、踏み止まって戦っている。

 千人単位の大隊が僅か8人になってもまだ戦うのだ。

 味方であっても恐ろしいくらいだ」

「まして、敵ならば……」

「ホノルル幕府ショーグネイトの連中も、第一次世界大戦ではアントワープ、この前はダンケルクで『テルモピュライのスパルタ軍』をやってのけた。

 日本人や日系人には、”死”は恐れるものでなく、名誉として誇るものらしい」

 鬱会話をルーズベルトが打ち破る。

「何を諸君たちは恐れているのか!

 我々にも勇気と神の加護は有る。

 そして兵士たちを無事祖国に帰すだけの物資も有る。

 そして今、最終兵器が開発されている。

 『マンハッタン計画』で新型爆弾アトミックボムが完成する見通しだ。

 その破壊力をもって、不死の兵だろうが灰にしてしまえば良い。

 そして心を折れば、本土決戦で無用な損害を出さずに済む。

 それまでの辛抱だ!」


 日本軍の死を恐れぬ奮闘は、禁断の兵器をこの世に作り出す大義名分になろうとしていた。


 そしてもう一つ。

(日本はソ連に和議仲介を期待している。

 だがソ連はドイツとの戦争が終われば、対日参戦する。

 その時、奴等の心は折れるだろう)

 ルーズベルトには勝利への道筋が見えていた。




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■大日本帝国 東京 宮城(きゅうじょう)

「して、米国との和議はまだ成らぬのか?」

 帝が問う。

「は……、中立国スイス、スウェーデンを通じて交渉を呼びかけておりますが、まだ何とも……。

 ソ連にも和議の仲介を依頼しております」

「最早我が国の力は尽きようとしておる。

 朕の立場等に忖度する必要は無い。

 速やかに和議を成立させよ」


 帝の前を退出し、各省庁に戻る。

 幾人かはぼやく。

「アメリカは無条件降伏以外で交渉をしないと言っている……。

 無条件降伏等……陛下や国体にどのような影響が有るか分かったものじゃない。

 そんな中で和議等、交渉した自分が責任を問われ、殺されかねん。

 アメリカもフィリピンで敗れたというのに、何故あそこまで頑ななのか?

 まだ、あと一つ勝利が必要かもしれない」


 日本の官僚団に、戦争を終わらせる覚悟と気概は無かった……。

こちらの戦史ですが、フィリピン海戦の行動に合わせたアップをやってみました。

予約投稿を利用し、作戦時系列で投稿するのも面白いかな、と思ってやってみました。


以前から考えていた事、栗田艦隊謎の反転が無かったなら?

それに対する一個の解答だと思ってます。

……ルーズベルトが戦争指導している内は変わらんだろう、と。

ただ、作成の遅延は出るでしょうから、その辺を描く為に番外編で書きました。


てなわけで出し惜しみせず、一気に公開しました。

番外編ですし。



断罪者ウリエル」ヒジカタこと、土方歳三が何をやらかしたかは、一言じゃ語れないので、前作「ホノルル幕府」を一読下さい。

まさか神になるとは思わなかったし……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか呪いの映像!その兵士の名前は貞夫とかにされていそうですね。 ここで軍神ヒジカタも出ましたか。戦後アメリカ本土でもヒジカタが流行ったりはしないかな? 失敗から学ぶ米国は強いですね。…
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