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戦艦放浪記  作者: ほうこうおんち
番外編2:大日本帝国編~フィリピン海の死闘~(1944年10月)
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フィリピン海戦(中編) ~スリガオ海峡の悪夢~

 スールー海にいた西村艦隊前衛部隊は、20機程の艦載機による空襲を受ける。

 多少直撃弾があったものの、大した損害では無い。

 この空襲を行った第38任務部隊は、この空襲の後で本命のA集団こと、シブヤン海の栗田艦隊へ攻撃に向かう。

 朝9時のこの空襲は単なる威力偵察で、第7艦隊にその位置を知らせる為だけのものだった。


 第7艦隊のトーマス・キンケイド中将は、第3艦隊のハルゼー大将から

「戦艦が接近しているから、君のとこで片づけてくれ」

 と言われ、内心喜んでいた。

 敵艦隊が想定海戦場のスリガオ海峡に達するのは、おそらくは夜間。

 キンケイド中将は、オルデンドルフ少将を呼んで夜戦装備で待ち構えるように命令する。

 オルデンドルフ艦隊の戦力は、戦艦8隻、重巡洋艦4隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦26隻、魚雷艇39隻というものである。

 かつて「長門」と共に「世界の双璧」と呼ばれた16インチ砲戦艦「メリーランド」を旗艦とし、

 14インチ三連装砲4基搭載:「アリゾナ」「ペンシルバニア」「ミシシッピ」「カリフォルニア」「テネシー」

 14インチ三連装砲2基、連装砲2基搭載:「ネヴァダ」「オクラホマ」

 という戦艦たちを率いていた。

 砲力は16インチ砲8門、14インチ砲80門。

 対する敵艦隊は、16インチ砲8門、14インチ砲36門。

 油断は出来ないが、それでも

「こっちより弱い相手が突っかかって来たら、絶対に五分のチャンス等と与えちゃいかん。

 そいつはこっちより劣った戦力で挑んで来るような間抜けなんだから、一撃で捻り潰してやるだけだ」

 と言うだけの余裕はあった。


 そして彼等は、遥か後方の「大和」の存在をまだ知らない。




 西村艦隊は何も知らずに進撃していく。

 彼等に有った不安は

「志摩艦隊は果たして追いつくのだろうか?」

 というものであった。


 「大和」と「最上」がいくら捜索しても志摩艦隊が発見出来ない。

 こちらから無線で呼び掛ける等は愚の骨頂である。

 「大和」7機、「最上」11機の水上機が偵察を行っていた。


 やがて夜になり、第38任務部隊と栗田艦隊の戦闘はひと段落する。

 栗田中将は「一時撤退」という報告を司令部に送っていた。

 「大和」の優秀な無線設備は、それをキャッチする。


「栗田艦隊がサン・ベルナルディノ海峡に行かないというのであれば、我々だけでは危険でしょう」

 そういう参謀の意見に対し、西村少将は黙っている。

 同時突入の予定が狂っている。

 志摩艦隊との合流も遅れている。

 一体どうするべきであろうか……。


 考えた末に西村少将は、一時進撃見合わせ、志摩艦隊の合流を待つ事にした。

 半信半疑での決断であったが、これが報われる事になる。

 ついに「大和」の電探(レーダー)が、志摩艦隊を捉えた。

 彼等はこちらに向かって来ていた。

 途中空襲を受け、何隻かの駆逐艦を失ったり、後送したりしたが、それでも重巡2、軽巡2、駆逐艦8の艦隊が到着した。

 そして栗田艦隊から再反転の連絡も入る。

 これで、偶然にも夜明け頃の海峡同時突入となる。


 「大和」「最上」「那智」「足柄」「阿賀野」「酒匂」は速力を27ノットに上げ、前衛部隊との合流を図る。


 艦隊は海峡入口付近で合流に成功。

 艦隊運動には定評のある日本海軍だけに、その場で陣形を組む事に成功した。

 戦力はついに戦艦5、重巡3、軽巡2、駆逐艦12となった。





 西村・志摩艦隊合流について、流石にアメリカは索敵の結果知っていた。

 志摩艦隊については数日前から追跡トレースしていたし、空襲も掛けている。

 潜水艦の偵察で、後方に1隻戦艦が居て、盛んに偵察機を飛ばしている事や、レーダーが捕らえた輝点が8隻の小艦隊では無い事で

「遅れて日本本土を発進した後続部隊と合流した」

「海峡突入は5時間程遅れ、日の出頃」

 と敵情を察知していた。

 それでも

日本ジャップめ、遅刻とはいい度胸だ」

「戦艦1隻、巡洋艦5隻の加勢が着いたからって、何だと言うのだ?」

 と相変わらず日本艦隊を呑んでかかっている。


 アメリカは「大和」クラスを16インチ砲戦艦と見ていた。

 故に、「長門」が2隻になったくらいの警戒はしたが、オルデンドルフ艦隊の陣容から勝てると見ている。

 まあ念の為、

日本艦隊ジャップの壊滅する様を見物したい」

 と巡洋艦「ナッシュビル」で戦場に現れたマッカーサー元帥を

「邪魔だから後方に居るように!

 これは戦争だから!」

 と追い払っていた。


 スリガオ海峡に突入した西村・志摩艦隊をまず迎え打ったのは魚雷艇部隊である。

 しかし、戦艦部隊の副砲乱射により、魚雷発射の有効な位置取りが出来ない。

 日本艦隊の操艦も良く、魚雷艇部隊の襲撃はかわす事が出来た。

 陣形は大幅に乱れているが。

 この先陣を務めた魚雷艇部隊から緊急通信が入る。


「馬鹿みたいに巨大な戦艦がいるぞ!」


 アメリカの旧式戦艦は全長200メートル程度。

 それに対し「ノースカロライナ」級や「サウスダコタ」級は全長240メートル以上有り、大きく見える。

 さらに新型の「アイオワ」級は270メートルと、巨大に見える。

 オルデンドルフ少将の幕僚も、キンケイド中将の幕僚も

「新型戦艦はもしかしたら『アイオワ』級並かもしれませんな。

 注意が必要です」

 と進言する。


 艦隊司令部でそう分析されている頃、アメリカ次陣の駆逐艦部隊が襲撃する。

 兎角日本の駆逐艦の魚雷偏重は指摘の多いものだが、アメリカ駆逐艦も魚雷は過搭載なくらい積んでいる。

 戦艦を葬ろうと、小艦艇にこそ勇猛な男が乗り込むアメリカ海軍は、左右から日本艦隊を襲う。


「戦艦を護る事こそ使命である」

 志摩清英中将は、麾下の軽巡「阿賀野」「酒匂」と駆逐艦8隻に迎撃を命じる。

 西村艦隊の4隻の駆逐艦も志摩艦隊に続く。

 こうして軽巡2、駆逐艦12の日本艦隊と、駆逐艦26のアメリカ艦隊が朝焼けの空の下、水雷戦を開始する。

 数で勝るアメリカ駆逐艦隊だが、この時期のアメリカ魚雷は不発がまだ多かった。

 一方の日本の酸素魚雷は早爆が多かったが、既に問題を把握し、雷速を遅くする事で対応していた。

 魚雷に関しては日本有利。

 戦艦や重巡洋艦からの砲撃も有り、必殺の酸素魚雷を食らったりでアメリカ駆逐艦は4隻轟沈、7隻大破炎上、5隻が損傷による戦闘不能で撤退となる。

 一方の日本水雷部隊も、「阿賀野」が大破漂流、駆逐艦3隻大破から沈没へ、3隻が炎上していた。

 アメリカ駆逐艦の攻撃は勇猛で、陣形から外れていた戦艦「山城」が被雷、5番、6番砲塔が動かなくなり、速度が出なくなった。


 「山城」は

「ワレ、ヒガイタントウトナラン」

 と打電し、「大和」らに前進を促した。

 実際艦列から遅れた「山城」は、更に魚雷1本を被雷し、さらに損害を受ける。

 副砲で駆逐艦1隻を撃破したが。


 「山城」を葬るのは魚雷では無かった。

 日が高くなり、オルデンドルフ艦隊も敵が見えて来た。

 そう、やたら威圧感のある戦艦の姿も見えて来た。

 彼等は「大和」の威圧プレッシャーに負ける。

 まだアメリカ駆逐艦隊が日本水雷戦隊及び戦艦「山城」と戦っていて、退避していないのに、主砲攻撃を始めてしまった。

 日本艦隊も同時に主砲攻撃をする。

 命中はアメリカ艦隊の方が先だった。

 味方駆逐艦に14インチ砲1発、巡洋艦の8インチ砲2発が命中し、沈没。

 「山城」にも14インチ砲弾が3発、「大和」にも16インチ砲弾が1発、14インチ砲弾が2発命中する。

 炎上する「山城」と違い、「大和」は何事も無かったようだ。


化け物(モンスター)だ!

 あの化け物(モンスター)を狙え!!」


 砲戦に特化した「大和」は、確かに上部構造を破壊されてはいるが、肝心な部分(バイタルパート)は完璧に守られている。

 先に「長門」の41センチ砲が、戦艦「ミシシッピ」に命中する。

 アメリカの戦艦は重装甲が売りで、14インチ砲戦艦といえど、一回り上の16インチ砲に耐えられる。

 だが、次に降って来た46センチ砲弾は全くの別物だった。

 一撃で機関部にまで被害が及び、「大和」の火災(ボヤ)とは様子の異なる、深刻な炎があちこちから吹き出している。

 さらに先頭を行く「メリーランド」にも46センチ砲が命中し、艦がよろける。

 「メリーランド」はワンランク上の装甲を施すアメリカ戦艦には珍しく、自分の砲と同じ砲にしか耐えられない装甲であった。

 日本で「長門」級が16インチ砲を搭載すると知り、14インチ砲戦艦を急遽16インチ砲搭載に設計変更した為、やや無理があった艦なのだ。

 先頭の「メリーランド」がふらついた事と、「ミシシッピ」が艦列から外れてアメリカ艦隊の陣形が乱れた間に、当初「丁」字に頭を抑えられていた日本艦隊は、「て」の字になり、全戦艦の主砲が撃てる陣形に変わった。

 日が昇った空に日本の着弾観測機が舞う。

 アメリカ艦隊は対空砲を撃つが、空に専念していられない。

 「大和」「長門」が戦艦を、「伊勢」「日向」が巡洋艦を狙う。

 両艦隊接近に伴い、被弾が増え続ける。

 「大和」はともかく、「長門」も装甲強化して各国の新鋭戦艦並になっていた為、アメリカ戦艦の14インチ砲はおろか16インチ砲にも耐え切っていた。

 「伊勢」「日向」は同格のアメリカの14インチ砲に、やはりダメージを受けている。

 だが、アメリカ艦隊の方が更に深刻だった。

 日本は、主砲弾が目標の手前に落下した時、水中である程度の距離を水平に直進して艦船の水中防御部に命中する「水中弾効果」を研究していた。

 その研究成果が花を咲かせた。

 重装甲の戦艦も、九一式徹甲弾による水中弾で水線下を破壊され、既に「メリーランド」「ミシシッピ」が沈没、「カリフォルニア」「ネヴァダ」「ペンシルバニア」が撃沈確実、総員退艦命令が出ていた。

 オルデンドルフ少将は「アリゾナ」に旗艦を移し、残存戦艦「オクラホマ」「テネシー」を指揮している。

 巡洋艦も半減し、残りも戦闘に耐えられない。

 オルデンドルフは全艦隊に退避命令を出す。

 これ以上は自殺行為である。


 西村少将はオルデンドルフ艦隊を追撃せず、そのままレイテ島目指して転舵した。

 戦艦4隻、重巡洋艦3隻がレイテ方面に消えて行った。

 遅れて日本の軽巡洋艦1隻と駆逐艦の生き残り5隻が海峡を突破、戦艦部隊に続く。


 オルデンドルフ艦隊は、ハルゼー、キンケイド、マッカーサーに報告を送る。

 負けた、海峡を突破された、だがそれを知らせないと味方が危うい。

「日本艦隊、戦艦4、巡洋艦4、駆逐艦5がレイテに向かった。

 うち1隻は化け物のような戦艦だ」


 通信を終えたオルデンドルフは、最後の戦闘に向かう。

 この海戦後、きっと閑職に回されるだろう。

 だが、始末はきっちりつけて置かないと。


 オルデンドルフ艦隊の戦艦3、重巡洋艦1、軽巡洋艦3、駆逐艦8は、スリガオ海峡に残っている日本の戦艦「山城」と軽巡洋艦「阿賀野」を沈めるべく陣形を再編した。

 「山城」艦長篠田勝清大佐は

「有難い、こっちは動けないのに、向こうから来てくれるとはな!」

 と言い、動く1番、2番、3番、4番の36センチ砲をもって戦い続けた。

 「テネシー」「オクラホマ」に命中弾を与えるも、30発以上の14インチ砲弾を食らい、「山城」はスリガオ海峡に沈んでいった。

 「阿賀野」はそれに先立って海底に向かっていた。


 だが、アメリカの苦難の日はまだ始まったばかりである。

 続いてサマール島沖から緊急通信(アラート)が入る。

 アメリカ海軍は、第3(ハルゼー)艦隊がその近くの海域に留まっていると思っていた。

次は明日になりますが、サマール島沖海戦が起こる午前6時にアップします。

(読者少ない時間帯だなぁ)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 重厚な艦隊戦楽しみました。 今回の作戦、史実と同じく反転して作戦が中断されるかと思いきや違う流れになってきました。どうなるか愉しみです。
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