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戦艦放浪記  作者: ほうこうおんち
番外編2:大日本帝国編~フィリピン海の死闘~(1944年10月)
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フィリピン海戦(前編) ~シブヤン海の死闘~

 日本海軍第二艦隊は、シンガポール沖のリンガ泊地からブルネイ沖に進出した。

 そして本隊発進、時間をおいて分艦隊が発進した。

 アメリカ軍はこれを潜水艦で偵察している。


 日本海軍の作戦は、初期において破綻を始める。

 その偵察をしていた潜水艦部隊が、本隊の重巡洋艦を雷撃し始めた。

 旗艦「愛宕」と防空艦に改造された「摩耶」が被雷、沈没する。

 旗艦を失った栗田中将らは、近くにいた戦艦「上総」に司令部を移す。

 旧「プリンス・オブ・ウェールズ」の「上総」は旗艦機能を備えていた。

 第三戦隊の旗艦は「金剛」である為、2つの司令部が重なる事も無い。

 緒戦で(つまず)き、一時後退したものの、再反転して栗田艦隊は前進を続ける。


 その後方から旧式戦艦に分類される「山城」他、「伊勢」「日向」そして「長門」が単縦陣で進行している。

 「山城」は主砲全門斉射が出来ないという欠陥を持ち、かつ最も低速であった。

 「日向」は事故によって第五砲塔を失い、そこには巨大な蓋がしてある。

 「伊勢」のみがこの級では万全の状態と言えた。


 その後方から「長門」が41センチ砲を積んで前進している。

 姉妹艦の「陸奥」が各地で通りすがりの砲撃をしているのに対し、「長門」の主砲は数える程しか使用されていない。


 超巨大戦艦「大和」の姿が無い。

 これは通信設備が充実し、かつこれらの戦艦の中では最高速の為、志摩艦隊の位置を把握すべく後方から遅れて進んでいたのであった。

 僚艦の重巡洋艦「最上」はミッドウェー海戦で損傷を受け、航空巡洋艦に改造されている。

 この「最上」が偵察機を飛ばし、後方の志摩艦隊の動向を探っていたのだった。


 アメリカの偵察機は、「大和」のいない旧式戦艦4隻の進撃を撮影する。

 一方、北方において潜水艦部隊は「島のような化け物戦艦」の存在を報告する。

 ハルゼーの第3艦隊にもたらされた情報を元に、カーニー参謀長が分析する。


「分かった、これは囮だ!」

 ハルゼーも同意する。

 どこに上空を援護する戦闘機も付けずに、空母の居る海域に突入する馬鹿が居るだろうか?

 敵の本命は、サンディエゴ沖以来空母機動部隊である。

 マリアナ沖では多くを逃がしてしまった為、まだ日本には余力が有ると見て良い。


「機動部隊はいずれ来るとして、この2つの集団、北をA集団、南をB集団とすると、これは役割が違いますね」

 カーニーは分析する。

「B集団は明確な囮です。

 旧式戦艦ばかりで、沈められるのが前提でしょう。

 こちらに手を出すのは、敵の思う壺というものでしょうな。

 ではA集団は?

 日本軍(ジャップ)の優秀な巡洋艦が多いし、警戒すべき『コンゴー』(クラス)もいる。

 こちらは場合によっては本隊と成り得る部隊です」

「だろうな。

 で、我々がA集団を叩くとして、B集団はどうする?」

「第7艦隊にやって貰いましょう。

 あそこには戦艦が8隻います。

 同じく旧式戦艦ですが、相手としては十分でしょう」

「よし、キンケイドとマッカーサーに連絡してくれ給え」

「アイアイサー」


 そしてハルゼーは、麾下の第38任務部隊のマーク・ミッチャー中将に命じ、A集団こと栗田艦隊を空襲させた。




■フィリピン シブヤン海:

 栗田艦隊は、ミッチャー艦隊の空襲を受ける。

 空から見て目に付くのは、やはり超巨大戦艦(リヴァイアサン)「武蔵」であった。

 「武蔵」目掛けて多くの爆撃機、雷撃機が殺到する。


 「武蔵」はマリアナ沖海戦以降、全身に多数の機銃を増設し、対空防御を充実させていた。

 その中で米軍機を最も恐れさせたのは、スウェーデン製ボフォース40mm機関砲のコピーであった。

 二式四十粍防空砲としてコピーされたこの兵器は、日本艦隊の対空砲火の弱点であった中間高度のギャップを埋めた。

 また日本はイギリスのポンポン砲もコピーする。

 イギリスの初期のポンポン砲同様故障が多かったが、その大口径弾による破壊力は大きい。

 「武蔵」は艦体が大きいだけに、あちこちにコピーボフォース砲やコピーポンポン砲を装備していた。


 また、十二糎二八連装噴進砲というロケット砲も、命中率は低いながら、米軍パイロットを困惑させた。

 しかし防空戦闘というものは、隊列を崩し、編隊での攻撃を阻止すれば良いような部分もある。

 バラバラに投下される爆弾、魚雷は、何発か命中していたが、編隊でまとめて当ててくるより効果は小さかった。

 かくして第一次攻撃隊は、思いもかけぬ日本軍の猛烈な砲火の前に、大した損害を与えられずに終わる。


 ミッチャーは航空隊を叱咤し、「必ず撃沈して来い」と発破をかける。

 第二次攻撃隊は重点的に「武蔵」を狙い出した。

 狙われた「武蔵」も黙ってやられる事は無く、激しく対空弾を吐き出す。

 第二次攻撃も凌いだが、第三次攻撃の頃からコピー砲の故障、対空噴進砲の弾切れが出始める。

 頼りの対空砲が故障し出すと、通常の25mmホチキス機関砲による防空射撃となる。

 この機関砲は性能は悪くないが、12.7センチ高角砲のカバーする高度と、機関砲のカバーする高度の間にギャップがある為、その中間高度でアメリカ軍は自由に行動出来る。

 40ミリ砲がその(ギャップ)を埋めていたのだが、故障や爆撃による破壊で今や防空高度に穴が開いた。

 機関砲は接近して来る相手にしか使えない。

 中間高度で態勢を立て直した米艦載機は、次第に魚雷を命中させ始めた。


 だが「武蔵」は化け物じみた強靭さを発揮する。


 戦艦「扶桑」をタイ海軍に貸して行われたコーチャン沖海戦。

 日本はその結果で、自分たちの水中防御の脆さを知った。

 弱さでなく、脆さである。

 分厚い装甲を米軍の魚雷は貫けない。

 しかし、その衝撃が何度も与えられると、装甲を繋いでいる(リベット)が破損し、大きな亀裂が出来てしまう。

 日本海軍は、ドイツに頭を下げて伊号潜水艦を派遣し、溶接技術を入手する。

 全部が全部対策されてはいないものの、1941年以降に完成した「大和」と「武蔵」は鋲と溶接の組み合わせと、さらに軟鋼を使った衝撃吸収、対魚雷水中盾(バルジ)の改良等で、非常識なまでの水中防御力を得ていた。

 第四次攻撃までに8発被雷している。

 通常の戦艦なら沈んでいるだろう。

 だが、左右に均等に当たっている事もあるのか、「武蔵」は特に傾斜もせず悠々と進んでいる。


 ……実際は非装甲の前部の予備浮力部分等の被雷で、浸水し、前部に傾斜をしていたのだが。


 この第四次攻撃までで、アメリカも想像以上の損害を出していた。

 それは元祖ボフォース砲やポンポン砲を搭載した元イギリス戦艦2隻の対空砲による。

 高速戦艦「金剛」と「榛名」は自分の身を守るのだけで精一杯だが、両用砲と40ミリ砲を備えた「上総」と「吉野」は「武蔵」を支援し、多くの艦載機に被害を与えている。


 ここまでの攻撃で、航空隊の被害の大きさの割に化け物(ムサシ)はダメージを受けていないと報告されたミッチャーは、作戦を変更する。

急降下爆撃機(ヘルダイバー)を多く出し、優先的に対空砲を潰せ。

 戦闘機(ヘルキャット)にも500kg爆弾やロケット砲を載せて、兎に角対空砲を潰せ。

 敵が反撃出来なくなったら、魚雷の集中攻撃だ!」


 こうして第五次と第六次の攻撃で、「武蔵」「上総」「吉野」は徹底的に爆撃される。

 それでも「上総」は回避していたが、艦体の大きな「武蔵」と旋回半径の大きな「吉野」は被弾する。


 16時過ぎの第七次攻撃では、一転し雷撃機(アヴェンジャー)中心となって、魚雷を大量に投下する。

 対空射撃の衰えた「武蔵」と「吉野」は恰好の標的となった。

 「吉野」は5発の魚雷を受け、転覆してしまった。

 だが「武蔵」は11発の魚雷を受けたが、僅かな傾斜が認められただけである。


化け物(モンスター)過ぎるぞ!」

 米軍パイロットが吐き捨てる。

 見た目は全くダメージが無いように見えているが、実は「武蔵」内部は深刻な状態であった。

 第六次の空襲で、艦橋に直撃弾を食らい、猪口艦長以下指揮を執る将校が全滅している。

 如何に強固にしたとは言え、これだけの魚雷を食らって、あちこちから浸水している。

 大きな裂け目こそ出来ていないが、鋲の飛んだ小さな穴から浸水し、多数の戦死者の為にその排水が出来ずにいた。

 左右両舷均等に壊れている為、傾斜は少ないが、全体的に沈降している。

 「扶桑」の教訓から防水扉をしっかり作った為、何とか浸水を食い止めてはいるが、それとて時間の問題であろう。

 大量の水を呑み込み、特に艦首は大きく沈降した「武蔵」は、輪形陣の中に留まれなくなっていた。

 

 「武蔵」が脱落している事を知ったのは、この日最後となる18時過ぎの第八次攻撃隊が飛来してからの事になる。

 輪形陣で守っている部隊を襲うのは効率が悪い。

 まして、もう日暮れは近く、手っ取り早いのは「落ち武者」にトドメを刺す事だろう。

 雷撃機(アヴェンジャー)編隊は「武蔵」を包囲し、両舷から魚雷を投下、左舷に5発、右舷に4発の命中を見た。

 しかし、

「まだ沈まないのか!!」

 実際にはゆっくりゆっくり沈んではいるが、「武蔵」はついに空襲を耐え切った。

「屈辱だよ!」

 第38任務部隊は、28発の魚雷と爆弾の直撃44発、至近弾14発という攻撃を加えながら、ついに「武蔵」を仕留めきれなかった。

 朝10時から日没に至る迄の八次に及ぶ攻撃で、消耗した弾薬も相当である。

 戦果は、何故か回頭し引き返し始めたA集団の行動だけである。


 ミッチャーより報告を聞いたカーニーは、

「やはり奴らは囮でしたね。

 まだ元イギリスの巡洋戦艦1隻が沈められただけなのに、撤退していく。

 これを追撃してはなりませんよ」

 と進言、ハルゼーも頷く。

 この囮艦隊は、撤退する行動により、ハルゼー艦隊を釣り出そうとしているのだ。

 第3(ハルゼー)艦隊がサン・ベルナルディノ海峡を通って追撃を始めると同時に、恐らくは北方から日本の機動部隊が現れ、陸軍と輸送船団に空襲をかける気なのだ。


 だが、ハルゼーとカーニーは潜水艦部隊からの報告を一個無視していた。

 栗田艦隊は、「愛宕」「摩耶」らが雷撃された時も、一度回頭して撤退の姿勢を見せている。

 つまり、艦体の癖というか、一度後退して再度進撃して来るのは、特に何等かの意思があっての行動では無かったのだ。

 果たして後退しハルゼーの視界から外れた栗田艦隊は、その晩再回頭して再びサン・ベルナルディノ海峡を目指し始めた。




 「武蔵」にトドメを刺したのは、潜水艦であった。

 重巡洋艦「愛宕」を撃沈した潜水艦「ダーター」は、損傷した他の日本艦を深追いし過ぎて座礁、自沈となった。

 この「ダーター」乗員を救助したのは、重巡洋艦「摩耶」を撃沈した「デイス」である。

 「デイス」はオーストラリアに撤退しようとして、偶然「武蔵」を発見した。

 既に夜であったが、浸水が進み、艦首を大きく沈めてノロノロと動いている「武蔵」は、日没前の航空隊が見たそれと違い、どう見ても被害甚大である。

 潜水艦「デイス」は魚雷を使い切っていた為、通信を送り、巨鯨(モビーディック)狩りの栄光を僚艦に譲る。

 通信を受けた「ギターロ」「アングラー」「ブリーム」そして「レイ」という潜水艦が駆けつけ瀕死の戦艦に残存魚雷を全て発射する。

 何故なら、最初の1撃で沈むだろうと高を括っていたら、命中弾があったにも関わらず、相変わらず浮かび続けているのを見て、恐怖に囚われたからだ。

 不発もあったが、追加で16発以上の魚雷を受けた「武蔵」は、ついにシブヤン海に没していった。

次は連合艦隊司令部が突入を発令した19時にアップします。

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