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戦艦放浪記  作者: ほうこうおんち
第7章:アメリカ合衆国共闘編(1942年~1943年)
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第442連隊戦闘団とヨハンセングループと隠密衆とパルマッハ

 1942年3月4日、ハワイ王国の首都ホノルルに空襲警報が鳴り響く。

 2機の大型爆撃機が真珠湾上空に達し、爆弾を落とす。

 真珠湾は、急ピッチで租借国アメリカが軍港化を進めていたが、まだ完成には程遠く、潜水艦基地とフォード島の飛行場しか無い。

 ハワイ王国空軍のフランス製デヴォアティーヌD.520戦闘機8機が、直ちに邀撃の為に離陸する。

 接近して驚いた。

 それは爆撃機ではなく、大型飛行艇だったのだ。

 胴体には日の丸。

 大日本帝国による真珠湾攻撃であった。


 D.520はこの襲撃者、二式大型飛行艇に襲いかかるが

「なんて速い飛行艇なんだ!」

 と時速465kmを出す日本の四発機に驚愕する。

 D.520も最高速度529km/hで、飛行艇に追い縋るが、7.5mm機銃では撃墜に至らなかった。


 この空襲で、高高度から投下された爆弾の1発が市内に着弾。

 先年、日本はアメリカ、イギリスに宣戦布告し、イギリスの同盟国でありアメリカのほぼ保護国、軍港を貸し出しているハワイ王国へも宣戦布告していた。

 しかしこの日まで日本とハワイ王国の間に直接の戦闘は無く、ハワイ海軍の部隊も日本海軍とは接近しないようにしていた。

 この空襲によって、ハワイ王国の空気は変わる。


 王国は第一次世界大戦の時も「募集」で留まった動員を、史上初の「招集」で行う。

 20歳から35歳までの男子が集められ、前線と後方合わせて10万人の兵士が集まった。

 この中で、日系人たちは怒りが大きかった。

 「祖国に裏切られた」という思いの彼等は、出撃を志願する。


 一方、アメリカ本土では日系人のみ強制収容所に送られていた。

 ドイツ系、イタリア系はそのままなので、人種差別の影響が明白にある。

 この強制収容所に、志願するのであれば兵士として参加させるという通達が来る。

 日系人たちは現状改善を望み、志願兵となる。


 こうしてハワイ王国の日系人部隊第百大隊が、アメリカ海外領パール市経由でアメリカ本土に渡り、本土の日系人と合流して一個の部隊を編制した。

 第442連隊戦闘団である。

 彼等は訓練を終え、ヨーロッパに渡ろうとしていた。




 戦いを望む日本人がいる一方、戦いを終わらせようとする日本人もいる。

 彼等は「売国奴」という容疑で憲兵隊にマークされていた。

 その首班と見られる吉田茂という元外交官の反戦集団という事で、憲兵隊は「ヨハンセングループ」(『よ』しだの『はんせん』)と呼んでいる。

 そのネットワークは牧野伸顕元宮内大臣(吉田茂の岳父)、近衛文麿前総理大臣(暗号名コーゲン)、幣原喜重郎元外務大臣(暗号名シーザー)、鳩山一郎元文部大臣(暗号名ハリス)らに伸びていた。

 だが、如何に国内の大物政治家に和平の為の協力を依頼しても、アメリカやイギリスに伝わらねば全く意味が無い。

 元駐英大使だった事からイギリスに接触したり、スイス経由で伝手を作ろうとしたが、上手くは行っていない。

 そんな折、幣原喜重郎が思いがけない情報を吉田茂に持ち出した。


「松平恆雄さんと面識は有りますか?」

 その名は、かつての会津藩主松平容保の六男で、御今上の弟宮夫人の父である、宮内大臣の名前であった。

「外務省の先輩であり、面識は有りますが、親しい訳ではありません」

「では、親しくましょう。

 あの方はイギリス王室との縁と、もう一つ面白い者たちとの繋がりがあります」

「面白い者とは?」

「元徳川の隠密」


 現実の外交に生きて来た吉田茂にとって、非常に胡散臭い話であった。

 最後の将軍徳川慶喜が、いつか来る復権の為、或いは己の復権等度外視で世界を識る為に世界に隠密を放っていたと言う。

 普段であれば「ふざけんな!」と言って席を蹴ったであろう。

 しかし、幣原がこんな冗談を言う必要は無い。

 それに松平恆雄の父・松平容保は、かつて日本を出てハワイ王国に仕えていた。

 正室は日本に置いていたが、側室はハワイ島ヒロに連れていった。

 その時の子で、西南戦争前に幾人かの会津人が帰国した際に、懐妊した側室も帰国し、会津で生まれている。

 ハワイ王国ホノルル幕府ヒロ松平家は、松平恆雄の甥が当主を勤めている。

 そのハワイ王国からアメリカに兵が派遣される。

 何とか線が繋がるかもしれない。


 天空から差し伸べられた蜘蛛の糸か、はたまた頭上に金たらいを落とす罠の糸かは知らぬが、吉田はその糸を辿ってみる事にした。

 そして吉田は、彼が来る事を予め知っていた松平恆雄によって、かつての大君徳川慶喜の壮大な構想と隠密のネットワークを教えられる。

 薩摩藩の大物大久保利通の三男・牧野伸顕を岳父に持つ吉田茂は、薩摩藩系と見られ、旧幕府系に接触していた隠密の存在は知らなかった。

 だが、今は薩摩だの幕府だのと言っている余裕は無い。

 吉田は松平恆雄を通じ、ハワイ王国経由でアメリカ国内にコネクションを繋げる事が出来た。




 アメリカに渡った旧幕府の隠密は幾つかに分裂していた。

 共和党支持派と民主党支持派、白人寄りと黒人寄り、西部衆と東部衆。

 だがほとんどが強制収容所に送られ、身動きが取れない。

 そこで兵士として志願し、収容所を出る道を選ぶ。

 こうして第442連隊の中に、旧幕府隠密が紛れ込む。

 彼等は現在地中海にいる戦艦「陸奥」が、連合国日本として参戦している事に一縷の望みを持っていた。


 一方、アメリカに渡った隠密ながら、自由に行動をしている者もいる。

 松尾特務中尉ら、ユダヤ資本と手を結んだ者である。

 大っぴらには歩けないものの、収容所送りとなった者たちと違い、中国人名を使って行動をしている。

 そのユダヤ資本、シャム王国時代の「陸奥」を支援したアメリカのフリードマン商会も、現在「陸奥」を支援しているスタインズ商会も、一個の組織に繋がっている。

 その組織は一個の軍隊を持っている。

 パルマッハという軍隊である。

 北アフリカ戦線でドイツが勝利した場合、パレスチナを占領される可能性が高く、そうなると彼等は「約束の地」を反ユダヤ勢力の手に渡す事になる。

 それを防ぐ為に作られた組織である。

 パルマッハは、いずれユダヤ人国家の軍隊となる事を夢見て活動している。

 その夢の一つが「陸奥」の保有であった。

 長年支援し続けている裏の事情である。

 彼等は「陸奥」に固執はしていないが、今に至るまで生き残っているのだから、骨の髄までしゃぶりつくそうと考えている。

 今や「陸奥」の乗員のほとんどはイギリス海軍からの出向であるが、その中に相当数のユダヤ系が入り、「陸奥」を中から学んでいる。




 「陸奥」は自分たちに、日本から伸びる縁の糸が絡みつこうとしているのを知らない。

 だが、彼等もそういう糸が繋がるべく模索していた。

 彼等が根本で抱えてしまった問題、

(このまま暴れ続けて、一体何が変わるのだろう?)

 という疑問。


 それに対し、先日ホノルル幕府の征夷大将軍は一つの答えを教えた。

 「政治」と繋がらぬ軍事力は、一時の影響力しか持ち得ないという事だ。


 朝田は一つの歴史を思い出した。

 鎌倉幕府を作った源頼朝と義経の兄弟の事を。

 純粋な軍事力の権化である源義経は、平家を打倒する事に成功した。

 しかし、その後ろにいた政治の権化、源頼朝と離れた後、彼は何も成し得なかった。

 義経を切り離しても、既に軍事力を手に入れていた頼朝は、その後600年続く「武家政権」を確立させる偉業を成し遂げる。

 政治と軍事が協力し合えばこそ出来る事である。

 政治だけの後鳥羽上皇の挙兵は、軍事と政治の鎌倉幕府の前に敗れ去った。

 軍事である「陸奥」は政治と繋がらねばならない。


 「陸奥」はカサブランカで投降したフランス戦艦「ジャン・バール」を護衛して、再びポーツマスに戻って来て、自身も整備を受けている。

 そこに、何年かぶりで松尾特務中尉が現れた。


「お久しぶりですな、朝田艦長」

「全く、何年ぶりだ?

 顔も忘れるところだったぞ」

 ここで朝田は、望んで得られなかった情報を一気に入手する。


 日本国内における和平を望む勢力、それは今上帝の弟宮にも繋がっている。

 ハワイから日系人部隊が来るが、その中に隠密が混ざっている。

 彼等を使い、日本本国とも連絡が取れるようになる。

 そしてお互い、日本を守りたいという点で協力し合える事。


 日本を守るというのは、戦勝国にすると同意味ではない。

 駐英大使やアメリカ移民、ユダヤ資本の手先に「通りすがり」であちこち戦争して歩いた者、彼等に共通して出来た認識は「勝てっこない」というものである。

 今、連合艦隊を指揮して戦っている山本五十六司令長官ですら、そう思っているという。

 悲惨な負けだけは食い止めたい、その思いの程度に差こそあれ、それが共通認識だった。


 朝田は最早、一艦の艦長という立場に留まれなくなる。

 政治的な判断をし、政治家や財界人等と連絡を取り合わねばならない立場になった。

 この役は、伊達順之助にはまず無理な役であろう。

 彼は基本、乱世を好むし、日本の勝敗等眼中に無い。


(難しい役に俺もなってしまったな)

 白い毛が大量に混ざるようになった髭を撫でながら、朝田はそう考えた。




 そして、実の面でも彼は一艦の艦長という立場ではいられなくなる。

 降伏時に「再度戦おう」と約束したフランス戦艦「ジャン・バール」は、自由フランス海軍の戦力として行動可能になった。

 とは言え、二番主砲、38センチ四連装砲は間に合わず、イギリス戦艦の38センチ連装砲を仮に載せるという

「四連装と連装だと?

 全く見苦しい砲配置にしおって!」

 と、「キングジョージ5世」級が聞いたら腹を立てそうな文句を言われる状態になった。

 その他は間に合わせながら、機関も装甲も対空砲も電装系も、十分戦える状態に持っていけた。

 連合国軍司令部は、戦艦「陸奥」と「ジャン・バール」、ホノルル幕府の巡洋艦6隻、潜水艦「スルクフ」を持って「特別独立戦隊」を編成した。

 朝田はこの戦隊の最先任として代将の地位と、戦隊指揮官を命じられた。

 副長の才原中佐が以降は、「陸奥」の指揮を執る。


 連合国軍最高司令官となったアイゼンハワー大将と、海軍の総責任者に任じられたイギリスのラムゼー中将から特別独立戦隊に与えた最初の任務は

「シチリア上陸作戦からドイツ軍の目を逸らす為の囮となる事」

 であった。

ハワイ空襲について。

第一弾作戦で東太平洋を抑えた日本だったが、その後の戦略について迷っていた。

そこで、

・南太平洋方面(米豪分断作戦)

・西太平洋方面(ハワイ占領作戦)

の2つが候補に挙がる。

西太平洋方面作戦は、ハワイを占領すればアメリカは太平洋中部の拠点を失う為、完全に封じ込める。

真珠湾を軍港化される前に、先んじて日本が占領しようという作戦であった。

さらにハワイを日本の軍港にすれば、サンディエゴ、ロサンゼルス、パナマを攻撃可能になる。

ハワイ王国は常備軍としてホノルル幕府という旧時代の遺物の兵力が1万人程しかいない。

陸軍を説得し、第二師団を主力とするハワイ攻撃軍が編成される。

その報を知ったハワイ王国は、第一次世界大戦の募兵ではなく、「国家の危機」として歴史上初の徴兵を行う。

ハワイ王カラカウア2世は、ホノルル幕府に全軍の指揮権を委ね、日本と全面戦争に入る。


それに先立ち、二式飛行艇を使った真珠湾強行偵察を行い、飛行艇の停泊地としてフレンチ・フリゲート環礁を利用した。

フレンチ・フリゲート環礁はハワイが領土として主張していた島であり、ハワイはヨーロッパに派遣している以外の全軍を投じ、フレンチ・フリゲート環礁に居た日本海軍設営隊と戦闘を行う。

数は少ないが物量に秀でた日本と、数は多いが武器は旧式で弾薬が少ないハワイ軍だったが、死を顧みない抜刀突撃が海軍設営隊を打ち破る。

降伏した設営隊は、流石に「ヨーロッパから帰って来て凄く恥ずかしかった」という世代になった為、生け贄にはされずに帰国を許される。


このハワイ武士の抜刀突撃は、敗れた日本軍で称賛され、

「物量に勝ろうと、やはり気合いが勝敗を決する」

と誤った戦訓を与えた。


フレンチ・フリゲート環礁を奪還された日本海軍は、正式なハワイ攻略のHW作戦を立案する。

北西ハワイ諸島を一つずつ攻略し、島伝いにオアフ島やハワイ島を落とすものである。

そうなると、ハワイ王国はアメリカに救援を頼むから、ついでにアメリカ艦隊も撃破しようと、山本五十六が作戦目的を2つにしてしまった。

その第一弾として、北西ハワイ諸島の最北の島、唯一のアメリカ領ミッドウェー島を攻撃する。

しかしこの作戦は、暗号解読によりアメリカ海軍が既に察知していた。


ハワイ海軍は低速の護衛艦しか無い為、機動部隊の戦闘には参加出来ないが、潜水艦部隊がアメリカに加担し、索敵を行う。

そしてミッドウェー海戦が行われる。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハワイのホノルル幕府に対して大日本帝国の軍部はどんな思いを抱いていのか考えてました。 夜郎自大の塊となった昭和の軍部が自重なんてするはずがないですよね。 それどころかホノルル幕府を軽蔑と嘲…
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