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戦艦放浪記  作者: ほうこうおんち
第6章:ホノルル幕府共闘編(1941年~1942年)
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アフリカの戦い ~「陸奥」対「伊号潜水艦」~

 戦艦「グナイゼナウ」喪失にドイツ総統ヒトラーは激怒した。

 1艦を名指しし

「『ムツ』を撃沈せよ!

 そうでなければ海軍の不名誉は拭い去れん!」

 と怒鳴りつけた。


 海軍のエーリッヒ・レーダー司令官は恐縮し、ヘルマン・ゲーリング国家元帥は

「空軍がきっと海軍の分も働き、『ムツ』を沈めるでしょう」

 としゃしゃり出た。

 しかし、この時「陸奥」は既にドイツ近海には居なかった。




 「陸奥」は「グナイゼナウ」に負わされた傷が相当にあったが、航行と戦闘に支障が無い事から予定通り、陸軍の輸送船団を護衛して出港した。

 自由フランス陸軍を主体に、ハワイ陸軍、連合国日本陸軍が加わる。

 戦艦「陸奥」とホノルル幕府海軍の護衛艦2隻の他、自由フランス海軍とイギリスの護衛駆逐艦とで構成される艦隊である。

 この自由フランス海軍には、奇妙な艦が1隻いた。

 潜水艦「スルクフ」である。

 カリブ海方面で活動していたが、「陸奥」による輸送船団護衛任務が決まった2月8日に呼び戻されていた。

 この潜水艦の特徴は、20.3センチ連装砲を搭載している事である。

 他の艦が13センチ砲より小さい為、この潜水艦の主砲が「陸奥」に次ぐ巨砲という事である。


「イギリスもたまに訳の分からん艦を造るが、フランスも大概だな」

 角矢砲術長が毒を吐く。

 と同時に、あの艦の砲術長というのも面白そうだな、等と考えていた。


 この船団は、西アフリカ沿岸を航行しながら、途中途中でイギリス植民地から補給、フランス植民地中央アフリカ(自由フランス陣営)から補充兵を得ながら南アフリカのケープタウンまで南下、そこを策源地にマダガスカル(ヴィシー政府陣営)を攻撃する。

 ロバート・スタージェス少将が指揮する空母「イラストリアス」「インドミタブル」、戦艦「ラミリーズ」を基幹とする艦隊と「陸奥」の艦隊はマダガスカルのディエゴスアレス攻略を目指して動く。

 イギリス艦隊はクーリエ湾およびアンバララタ湾へ、第5歩兵師団第17歩兵旅団、第13歩兵旅団、第29歩兵旅団、海兵隊を上陸させる。

 「陸奥」の艦隊は東海岸への陽動を行い、空母艦載機や少数の南アフリカ空軍の支援の元、砲撃を行う。


 「陸奥」は改装時、傑作と言われた14センチ砲を全て外した。

 主砲はイギリスも参考にして、ほぼ同じものをイギリスも採用した為、補給が利く。

 しかし、その他の日本の砲は、最早補給が出来ない。

 その為、日本製の砲は全て外し、イギリスの砲や銃に積み換えた。

 「グナイゼナウ」との戦闘でいくつかは損傷したが、それでも十分過ぎる火力を持っている。

 「スルクフの20センチ砲と合わせ、陽動にしてはオーバーキルな砲撃を浴びせ続ける。




 「ムツ」がマダガスカルに現れたという報をフランス・ヴィシー政府から受けたヒトラーは、同盟国である日本海軍に連絡を入れされた。

 貴国の脱走艦は貴国が始末しろ、と。

 日本海軍は「陸奥」の所在地を確認すると、切り札を投入しようとする。

 空母6、高速戦艦4、重巡洋艦2から成る南雲機動部隊をマダガスカルに送ろうとした。

 これが為されたなら、マダガスカル攻撃中のイギリス東洋艦隊、F部隊、「陸奥」艦隊は世界最強の破壊力の前にひとたまりも無かったかもしれない。


 だが先月セイロン島を空襲して引き上げた南雲艦隊は、補給を終え次第、米豪分断作戦とミッドウェー作戦に投入される事となる。

 日本にとって二の次であるインド洋・アフリカ方面は、ミッドウェーでアメリカ艦隊を撃滅してからで良い。

 だがそれではドイツへの義理を欠く為、先行して潜水艦部隊を派遣する事とした。

 日本の伊10号、伊16号、伊18号、伊20号、伊30号という5隻の潜水艦がマダガスカルに到着する。


 1942年5月30日、マダガスカルのディエゴスアレス上空に見慣れぬ水上機が現れた。

「あれはどこの機体だ?」

 双眼鏡で英兵が確認する。

 主翼と胴体には赤い丸。

「日本だ! 日本軍機が来た!」

「何だと?

 では近くに日本の艦隊が居る筈だ!

 急いで探し出せ!」


 その機体は零式小型水上偵察機、潜水艦から発進する偵察機であった。

 偵察機は湾内を撮影、そこに戦艦が居るのを確認する。

「『陸奥』だと思うか?」

「さて?

 改装前の『長門』級はイギリス戦艦と艦形が似ていますので、この写真からは何とも……」

「だが、こんなご馳走を前に、戦わないというのは有り得ないな」

「もっともです、艦長」

 伊10号の艦長栢原保親中佐は、攻撃計画を練った。


 だがそれに先んじ、5月31日に伊16号と伊20号が搭載していた特殊潜航艇「甲標的」を出撃させる。

 この甲標的は湾内の戦艦と油槽船に魚雷を命中させる。

 油槽船「ブリティッシュ・ロイヤルティ」は沈没した。

 主砲付近に命中し、浸水した戦艦だったが、機関には影響が無かったようで、ディエゴスアレスを出港して南方に向かった。

 無線傍受から栢原中佐は、それがイギリス戦艦「ラミリーズ」と知る。


「では『陸奥』は別に居る筈だ」

 伊10号はマダガスカル島を北から回ってモザンビーク海峡に進行する。

 そこでしばし通商破壊を行い、8隻の商船約4万トンを海の藻屑と化した。

 伊10号は結局「陸奥」と会敵出来ず、ペナン島に引き返す。

 甲標的を放った後、乗員の回収は出来なかったが、伊16号と伊20号も通商破壊に従事し、それぞれ4隻と7隻を撃沈した。

ディエゴスアレス攻撃時にうねりによる浸水で攻撃参加出来なかった伊18号も、モザンビーク海峡に進出して通商破壊を行い、商船4隻を沈めてペナンに帰投した。


 「陸奥」と戦う栄誉を得たのは、マダガスカル偵察後にドイツに向かう任務を負った「伊30号」であった。

 第一次遣独潜水艦に選ばれたこの潜水艦には、九一式航空魚雷の設計図や水上機や資源が搭載されている。

 補給を受けた後に喜望峰回りでドイツに向かおうとした伊30号は、南アフリカ沖で戦艦と少数の駆逐艦の艦隊を確認する。

 護衛駆逐艦の足が遅いようで、敵戦艦部隊追跡の為に水上では23.6ノットを出す高速の巡潜乙型である伊30は、図らずも追いついてしまったのだ。


「どうやら『陸奥』のようだな」

 潜望鏡で遠藤忍艦長が確認した。

「ドイツに行くのに、ドイツに被害を与えた『陸奥』を放置出来ん。

 雷撃戦用意!!」


 伊30号の搭載魚雷は九五式魚雷、所謂「酸素魚雷」である。

 高速、長射程な上、通常の空気を使った魚雷のように燃焼で使用されなかった窒素を泡と放出し、航跡を残さない「見えない暗殺者」である。

 南アフリカ沖は航海の難所である。

 戦艦も潜水艦も航行は難儀する。

 そんな中で伊30号は魚雷4発を放った。


 海中に潜む伊30号に、ズシンという爆発音が届く。

 少々の間をおいて3発、爆発音を確認した。

 声を出さずに歓喜の雰囲気に包まれる狭い艦内。

 遠藤艦長は再度潜望鏡深度に浮上し、一瞬だけ潜望鏡を出して状況確認する。

 確かに戦艦が炎上しているのが見えた。

 と同時にこちらに迫って来る駆逐艦の姿も。


 遠藤中佐の主目的はドイツに辿り着く事である。

 行き掛けの駄賃に「陸奥」を雷撃した。

 3発も当たった以上、沈没か、悪くても大破は免れまい。

 これ以上の戦闘は無意味である。

 伊30号はそのまま急速潜航し、イギリス及びハワイ駆逐艦の爆雷攻撃から身をかわした。


 その後、伊30号はイギリス軍の攻撃をかわし、ついにビスケー湾に辿り着き、ロリアンのドイツ軍潜水艦基地に辿り着く。

 そこで憎き「陸奥」に大打撃を与えたとし、遠大な航海成功とも相まって大歓迎を受ける事になる。


 さて「陸奥」の被害状況はどのようであろうか?

 「陸奥」は確かに被雷し、その衝撃で火災を起こしていた。

 だが航行に支障は無い。

 何故なら、命中したのは1発だけだったからである。


 日本軍の秘密兵器「酸素魚雷」の欠点、それは目標に命中する前に自爆する「早爆」である。

 南アフリカ沖の暴れる海において、2発の魚雷は命中前に爆発してしまったのだ。

 残る1発が左舷後部、第四砲塔付近に当たり、浸水を招いた。

 魚雷の炸薬共々、艦の可燃物に火を点けた。

 だが、実はその程度であった。

 黒煙が上がっていると大火災と錯覚するが、表面が燃えただけで戦艦は沈まない。

 伊30号に別な任務が無く、余裕があれば再確認し、とどめを刺そうとしたかもしれない。

 しかし、荒れた海にいつまでも留まりたくない事と、ドイツ到着の任務を最優先させた事で「陸奥」は救われたかもしれない。


 もう一つ「陸奥」を救ったのは、この年まで行われていた改装であった。

 そろそろ旧式艦に分類される「陸奥」だが、イギリスがしっかり装甲を溶接してくれた為、コーチャン沖海戦での「扶桑」のような目には遭わなかったのだ。

 それでも日本軍の九五式魚雷の破壊力は大きく、「陸奥」は「ラミリーズ」と並んで南アフリカのダーバンで応急修理を受ける事となった。


「やはり日本海軍、強いなあ」

 乗組員たちは、かつて属した軍隊の強さに思いを寄せた。

 そしてイギリス軍もまた、日本の強さをマダガスカルで感じる。


 甲標的で大戦果を挙げた後、この潜航艇の乗組員の秋枝三郎大尉、竹本正巳一等兵曹は艇を棄てて母潜との会合地点に向かっていた。

 そこでイギリス軍部隊と遭遇。

 降伏勧告を拒否し、2人の日本兵は刀と拳銃で戦いを挑み、2人とも戦死した。

 イギリス軍にも1人死亡、5人重軽傷という被害を出す。


「味方としてホノルル幕府軍だのを見ていた時は、あの死にたがりどもが、とかそんな感じだった。

 だが、敵に回すとこんなに面倒臭い連中だったとは……。

 今後日本と戦う上では十分注意せよ」

 イギリス軍は全部隊に「日本兵強し」という警報を出す。


 やがてそれは、物量に優れて圧勝している筈のアメリカ軍も、今は同盟軍のドイツ軍とイタリア軍も共有する認識となるのであった。

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