とある世界で-1
「思ってたのと違う…けどまぁこんなのもありか」
部屋の片付けをしながらこんなことを呟いてみる。
俺が考えていた異世界とは違うけれど満足はしている。
「もっと何かしら戦闘面じゃなくとも自分には才能があって、それで周りからチヤホヤされて王様に呼ばれて有名人になってハーレムコースとかなんかじゃないのか?」
ちょっと自分でもなにいってんのかわからないけど俺もわからないから大丈夫だ。
理想の異世界ファンタジー像がちょっと冒険面に偏っていたわけだし。
まぁ要するに
異世界転生だぁー
チートだぁー
ハーレムだぁー
ではなかったわけだ。
王道の異世界ファンタジーといえばチート能力を転生する時の特典としてもらい、その能力を生かし幼少の時期から周りから注目される存在であり、成長し冒険に出たりして素敵な仲間と出会い、パーティーでたくさんの苦難を乗り越え、たとえそれがハーレムでなかろうとパーティーメンバーと恋仲になり、幸せな異世界生活を満喫する、というものだと思っていたのでそうなる予定だと考えていた。
いや、幸せな生活という面では間違ってはいないはずだ。
俺はとある貴族の家に前世の記憶をもって生まれ、良き両親を持ち、標準以上の教育も与えられていた。
そしてここが重要なとこだが許嫁が可愛いすぎた。
まぁこれだけで幸せだった。
前世では彼女がいたこともあったが、やはり2次元に近い感じの世界での美少女は話が違った。
だけど、この世界、安全なとこはとことん安全なわけで冒険者的な何かと戦う戦闘職の需要の差が場所によって激しかった。
当然、まぁまぁな貴族の家に生まれたわけだから安全な場所に住んでいるわけで、貴族の長男ということで将来家督を継ぐ予定ではあるから戦闘とは無縁の生活を送っていた。
とは言ったものの、異世界であることには変わりはないので現代にはない魔法や知識、環境等の興味深いものが沢山あって異世界に憧れていた自分からしたら楽しいことこの上ない日々だった。
兎にも角にも裕福な家庭に生まれて何不自由ない生活を送ってきたわけだ。
文句を言っちゃいけないのは分かるけど、でもやっぱりファンタジー世界に来たら魔法とか使って冒険したかったな。
とか思いつつ自分の恵まれた異世界生活を噛み締めていた。
そして俺は初等科学校を卒業し実家に戻るため片付けをしていたわけだ。
初等科学校は沢山の異世界知識を蓄えるのには最適な場所だった。
貴族のための学校だから平民以下は通うことは出来ない。
王国が運営する場所であるためこの国では最高水準の教育を受けることが出来た。
そこには魔法の授業もあったが成績は標準程度だった。
俺のチートはなんなのだろうと考えていた中で初めての魔法の授業だったから才能が開花するんじゃないかとか思ってたけどそんなことは無かった。
許嫁と初めてあったのもこの場所だが、あれはよかった。
何がよかったってもう異世界美少女補正がもうたまらなくよかった。
…語彙力のなさは前世からだから気にしないよ。
「っと…もうこんな時間か」
4年間使ってきたこの部屋ともお別れだ。
初等科というか貴族学校なだけあって全寮制。
爵位によって部屋の大きさが変わらないところはいいと思う。
だいたい貴族制の学校ってそんなもんだと思ってたからね。
まぁでもみんな平等。とはいかず威張り散らす奴もいるわけで先生も賄賂や圧力やでどうしようもなくて。
想像通りの貴族学校だった。
しかし俺の家の爵位は伯爵だったおかげで可もなく不可もなくな感じでどうにかなっていた。
「アーク様ー出発の時間ですよ!」
「あぁ、シャル今行くよ」
扉の前に金髪をたなびかせ元気よく現れたのは許嫁のシャルル。
子爵家でトゥルス家の長男の俺に許嫁に出された子だ。
普段は落ち着いているのに今日は久しぶりの帰郷とあってかテンションが高い。可愛い。
「時間かかってましたね?何していたんですか?」
「思い出に浸ってたんだよ」
「そうですねー私にとってもとても良い4年間だったと思いますよ」
「まぁ学校とはリア充であれば楽しいとこだしな」
「りあじゅう?それは魔物ですか?」
「いや、気にするな」
学校に行く前は顔さえ知らなかった俺たちだが色々あったため許嫁という関係より友達以上恋人未満的なそれはそれは心地良い関係を保っている。
というより学校でかつ全寮制なわけでそれ以上の関係になってもどうしようもなかった訳だからね。
基本的には許嫁とはその名の通り定められた親が決めた婚約者であり、子は従うしかないのでどんなに生理的に無理であろうと子作りまでは強要されるわけである。
しかし中世並のこの世界では恋愛をして結婚をするのは平民以下の文化であるため貴族間では常識的なことであるためなんの抵抗も無い。
許嫁システムは2通りあり、爵位が高い家に対してその家との血縁関係を求め社会的地位を向上させるために女方が嫁ぎに行くことが多い。
2つ目はその家に対して多大な恩や借金、圧力など要するに人質として捧げ物として出される場合である。
シャルは前述の方だ。
トゥルス家とシャルのフォートニア家は両親共に仲が良く、親バカのうちの親が決めてくるぐらいにはシャルは優秀かつ美少女だった。
それなりに俺も両親共に美男美女なだけあって上位に位置する顔ではあるらしい。
自分の価値観では西洋顔であるためだいたいの顔は整っていると思ってしまう。
「迎えの馬車が校外で待っていますよ。早く行きましょ?」
「シャルはいいのか?実家に帰らないで直接うちに来て?」
「お父様にもそう言われているので大丈夫です!落ち着いたら帰ってきてもいいそうなので」
ということでシャルとは同居しながら俺の領地運営を手伝ってもらうことになっている。
馬車でここから何個か街を経由して1週間辺りの遠い場所に家の領地がある。さらにそこから1日行った場所にトゥルス家の御屋敷が建っている。
結構遠い気がするがこの世界は馬車が主要の移動手段となっているため1週間くらいだったらまだ近い方な認識だ。
そんな馬車の旅が始まろうとしているこの段階でこの世界ではよくある、けれど俺にとっては初めてにして最悪の出来事が始まろうとしていた。
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三日目の山中での事だった。
三日目は野宿をしなければならないほど町と町が遠い道の途中のこと。
突然、魔力暴走を起こした時のように爆発が起きる。
魔力暴走とは魔法を使う本人もしくは道具に対して過剰にそのものが管理できない魔力を扱った時に起こる魔力の純粋な爆発である。
その時の威力は込められた魔力、属性にもよって爆発の後の被害も変わってくる。
そんな魔力暴走が何も無い場所で突然起こることを次元暴走と呼ばれている。
そして、次元暴走が起きた時には必ずと言っていいほど生物ないしとにかく動くものが爆心地の中心に存在している。
それは動くものというだけあって未確認の魔物だったり人間、果ては悪魔や天使が出てきたという報告さえ上がっている。
意思疎通が可能なものから聞く限りはこの世界とは違うところから来た、目が覚めたら突然クレーターの中心にいたと皆口を揃えたように言うらしい。
なおかつ、転移直前の記憶はない。
人に関しても様々な例がある。
ひとつは俺と同じように地球から来たということだ。
日本のような場所から来たという共通点はあれども歴史が違っていたり飛ばされる直前の記憶の年、日にち等様々な誤差があったため別の世界から来ていると考えられているそうだ。
もうひとつは日本という単語すら出てこない転移人もいて、魔物が存在しているこの世界と同じような中世文化が魔法によって少し成長したようなところから来ることもあるそうだ。
とにかく地球かファンタジー世界かのどちらかに分類される。
魔物の場合は討伐、人間もしくは意思疎通が可能なものは保護。
というのが原則である。
悪魔や天使は資料が少なすぎるが、大体は天災を引き起こし討伐されている。
次元暴走が起き、発見次第冒険者ギルドから調査隊が組まれ派遣され調査、討伐、保護といった事をやっていた。
しかし、それに対しギルドが対応しきれないような規模の爆発、魔物の出現において派遣される団体が存在する。
それが異世界文化管理委員会という団体だ。
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ここまでが俺の集めきれた知識だった。
異世界文化管理委員会という明らかな現代的な言語による組織。
転生した理由も調べるとともに帰るつもりは無いがその方法も探していないわけではなかった。
それでも自由に動けるようになってから調べても変わらないと思っていたので、本格的に調べるようなことはしてこなかった。
だけどやっぱりそういう命に関わる大事なことはきちんと調べなきゃいけなかった。
守ってくれる人がいるから自衛のための訓練をしなくていいと考えていた自分に吐き気がした。
だから俺は自分が嫌いになるのと同時にこの世界のことも嫌いになった。