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中世ドイツの暗い森  ブラックフォレスト  黒い森、グリム童話の暗い深い森、あるいはイグナーツ・デンナーの森

作者: 舜風人

ところで今現在ドイツにいわゆる「原生林」とか「処女林」「うっそうと茂った原始の森」なんてあるだろうか?


早速答えであるが、、、実は、、ほぼ、、99パーセント。ないのである。

今のドイツにはせいぜい最近植林されたばかりのこじんまりした

育成林がほとんどなのです。あるいは、、相当痛めつけられた?刈り込まれた?

荒れ果てた?昔の森の残骸??ばかりです。


あのグリム童話に出てくるような

一旦迷い込んだら二度と出てこれないような

そんな深い

うっそうと茂った

原始のままの

魔法にかけられたブラックフォレスト

あくまでも暗い

暗い  魔女や狼がひそんでるような

そんな

黒い森なんてないのです。



さて、、


森、この言葉から人は何を連想するだろうか?


その昔中世にはドイツ一体には、全土に、「黒い森」が鬱蒼と繁り何処までも続いていた。


その森には、狼がいたり、イノシシがいたり、更には、盗賊団も隠れ潜んでいたりした。

こうした森については例えばホフマンの「イグナーツデンナー」などにも事細かに描かれている通りである。「イグナーツ・デンナー」 とは ETAホフマン原作  中世の森を舞台のゴシック小説の金字塔である。「悪魔の霊液」と双璧をなすゴシック小説作品と言えよう。、






「イグナーツ・デンナー」のあらすじを最初のところだけ述べてみよう。


「時代はずっと昔のこと、場所は北ドイツのフルダ地方の、そこのフォンファッハ伯爵家の狩人である主人公アンドレスは領主様に付き添ってはるばるイタリアまでお供をすることになる。


そしてナポリの町で盗賊に襲われたとき一命をとして伯爵を助けたのである。そしてナポリの宿に止まったときそこにいた孤児の小間使いジオルジナに哀れみをかけたアンドレスはやがて思いを募らせたジオルジナを妻として寒い独逸に連れ帰ることを許されたのである。


さて、フルダに戻った時、、伯爵はアンドレスが自分の命を救ってくれたことを感謝し、自分の領地の森番に任命してくれたのである。アンドレスは妻を伴い鬱蒼と生い茂る森の、荒れ果てた番小屋に入ったが、そこは、密猟者や木泥棒、盗賊団の跋扈するところでもあったのだ。狼やイノシシがいてアンドレスのわずかな畑も荒らし放題だった。森番のわずかな給金ではアンドレスが貧窮に陥るに時間はかからなかった。南国イタリア育ちのジオルジナも北ドイツの荒涼とした中では見る見るやせて床に伏せるばかりだった。」


こんなふうにドイツの暗い森を舞台に展開するドラマが「イグナーツ・デンナー」である。


このホフマンの短編ゴシック小説はドイツの暗い森についてよく表していると思うのである、




「イグナーツ・デンナー」については私のダイジェスト版がありますのでこちらでご確認くださいませ。

https://ncode.syosetu.com/n4908bx/



このように、、、


中世の頃、ドイツは全土が深い暗い森に満ちあふれていた。


暗い森の小路獣道ををたどっていくと、やがて、大きな領主様のお城にたどり着いたり、ひっそりと佇む修道院に出会ったりすることもあった。


森は浮浪者や、ジプシー、盗賊団などの隠れ場でもあり、飢饉で食えなくなった農民が捨て子をしたりする「魔界」「異界」でもあった。


例えばグリムの「ヘンゼルとグレーテル」がそうだ。森に捨てられた兄妹は暗い森で迷子になり、魔女のお菓子の家にたどり着く。


ティークの「金髪のエックベルト」でも、森が登場する。家を出て森にさ迷い込んだベルタは、

不思議な歌を歌う小鳥と番犬シュトロミーアンを飼っている魔女?の家で数年暮らすことになる。


「金髪のエックベルト」→ https://ncode.syosetu.com/n5934by/


暗く深い森はドイツ中世社会の中では畑にするべく切り開くべき場所でもあり、またそこから薪や野いちご、きのこ、いのしし、鹿などの食材を得たりする燃料・食料宝庫でもあった。


暗くて怖い森には、魔女や盗賊団がいたり、恐ろしい狼もいるが、また木材や薪炭の供給地、、食材宝庫でもあるという2面性

を持っていたのである。


中世では、ドイツ全土の80パーセントが深い暗い森だったとは今から見れば信じられないことであるが、実際そうだったのである。


森は、いわばカーオスの世界、異界だった。

そこからは、実りも恐怖も、含んだ全一なる異世界が村の外辺に深く何処までも続いていたのである。


グリムのメルヒェンにも森が幾たびとなく登場するのは、まさに昔のドイツでは森がすぐそこまで迫っていて、当時の村人の生活に喫緊していたからという現実に基づいているからなのだった。


森は親しくもあり、実りをもたらしてもくれるし、反面、その中には狼が潜んでいたり、魔界の者がすんでいたり、大いなる2面性で村人を圧倒していたのである。


グリム童話はその辺の事情が良く描かれていて、、

たとえば、、「白雪姫」は森に捨てられて、さまよった挙句、小さな家を発見して小人達の家で暮らすし、


「兄と妹」では継母に追い立てられた兄妹は

森に逃れて、兄は泉の水を飲んだために鹿に変身するが妹はその鹿と一緒に森で暮らすのである。


「いばら姫」はのろいで茨に埋もれた森の古城に100年寝て過ごしことになるし、


「赤ずきんちゃん」は赤い頭巾をかぶって狼の棲む、怖い森を抜けておばあさんの家まで行かなければならないし、


グリムの童話の世界の中に登場する「ドイツの暗い森」のイメージはまさに中世の「黒い森」のイメージの現前であるといえようか?


かっての広大なそして深くて暗いドイツの森もそのご、、、、開墾されてしまって畑作地に、、

あるいは、森は収奪されつくしてあれはててしまったのだ。



この中世ドイツの森を視覚的にイメージするには格好の絵画がある。

それは、「ベリー公のいとも豪華なる時祷書」である。

ここには森が良く描かれている。

特にその、11月、12月の絵が良く当時の森の雰囲気を表していますね。

こんな深い 暗い 黒い 森の中に白雪姫は捨てられたのでしょうね?


残念ながら今、ドイツにはこんな、グリム童話に出てくるような鬱蒼とした深い暗い森林地帯はありません。勿論オオカミも熊もオオヤマネコも絶滅してしまって今はドイツの森には居ません。

農耕のために開墾して、ジャガイモ畑になり、あるいは木材や薪炭の収奪で荒れ果てて、19世紀にはほぼドイツの黒い森は消滅です。植林など全くしなかったからです。


ヘンゼルとグレーテルの森も消滅

赤ずきんがさまよった森も消滅です。

白雪姫が七人のこびとと暮らした森も消滅。


産業革命の石炭消費による酸性雨の影響もあったようですね

荒れ果て、、開墾され、、収奪され、、、

20世紀にはもうドイツの黒い森はなくなったのです。


で、、さすがにドイツ人も魂の故郷である「ブラックフォレスト」が完全に失われたことを後悔して


その後環境保護がさけばれるようになり、

植林が行われるようになりました。

今少しだけドイツでは森が復活しつつあります。


でも森というよりも

それは「林」、程度の貧相なものです。

うっそうと茂る「ブラックフォレスト」、、というイメージからは程遠いものです。

人跡未踏の大森林、、原生林なんかではないのです。


こんなちゃちな、貧相な「ハヤシ」に白雪姫もヘンゼルの魔女のお菓子の家もあるはずがありませんよね?



というわけでせいぜいグリム系のファンタジー映画でその黒い

深い

暗い

うっそうと茂ったドイツの森を偲ぶしかないのでしょうね


たとえば、、、



映画「ブラザーズグリム」2005年にも鬱蒼としたドイツの森をさまよう赤ずきんちゃんのシーンがありますよね、うーん素晴らしい、


「狼の血族」ニールジョーダン監督にも深いうっそうとした森が出てきます・。



さてドイツの森の復活に関するニュースの


以下引用です。


少し古いニュースソースですが、、、



以下引用



2009年2月2日 戻ってきた狼の群


最近、10匹程の狼のパックをポーランドに国境を接するザクセン・アンハルト州でドイツ人が撮影する事に成功した。100年以上を経て再びドイツの森に姿を現した狼の群の映像を見た。人にやはり自然への畏怖と緊張感を与えるが、これでドイツの森が本当に森らしくなってきたと感じる。満月の夜など、狼の遠吠えもきっと聞こえるのだろう。


ドイツの森から、狼、大熊、リンクス大山猫などが絶滅したと言われて久しい。


狼は、家畜を襲う人間の敵、狂犬病源の悪い害獣として、賞金まで賭けられたりして、狼狩りが為された結果である。


実際には、人間が狼の餌を森で狩りつくして食べてしまい、狼は空腹に耐えかねて、やむを得ず家畜の羊や山羊を襲うしか生存の方法がなかったわけで、その挙句銃殺されて絶滅してしまった。


中世キリスト教が、土着の信仰を排除す為に人狼伝説も利用したといわれる。

狼にしてみれば、狼=悪 のレッテルを貼られてしまい、人に酷く嫌われたが、考えてみれば人間の方がよほど怖い存在と言う事になる。


狼は、ギリシア神話にも出てくるが、アポロンとアルテミスの双子は、レトという狼から生まれている。古代ローマ神話では、建国者双子のロームルスとレムスが牝狼に育てられたとされ、ローマ時代の古いブロンズ像がローマのカピトリーノ博物館にあり、昔、見学した事がある。


インドの狼に育てられたアマラとカマラと言う少女の話はよく知られるが、インドや東ヨーロッパでは他にも同じような不思議な話は多数あるという。


「赤頭巾ちゃんと狼」、「狼と七匹の子山羊」「狼少年」等良く知られる童話も残り、シートンの動物記「狼王ロボ」も有名である。


ドイツ語圏では、ボルフガングと言う名前も多く、ボルフと言う姓もある。


現在のドイツでは、最後の1頭と言われるヨーロッパ狼が銃で撃たれたのが、1904年2月27日とされている。その狼は、雄で体長160cm、体高 80cm、体重41kg、場所はポーランドの森と原野に国境を接するザクセンとブランデンブルグのラウジッツであった。


ベルクマンの法則(カール・ベルクマンが1847年に発表、類似の物にアレンの法則1877年もある)高緯度ほど気候に適応して体が大きくなる傾向もあり、肩高97cm、体重80kgの、雄のハイイロオオカミが今まで知られる中で一番大きい。引用終わり




さて今現在のドイツ


環境保護で植林でわずかですが森が復活しつつあります


だがそれがあのグリムの童話のようなうっそうとした大森林に育つのはあと100年はかかるのでしょうね、。






付記


本文でドイツには今現在、99パーセント原生林など、は残ってないと書きましたが


「ドイツで最も古い森林の一つ、テューリンゲン州の“ホーエ・シュレッケ”」

、、という森林があるのです。

全くの原生林ではありませんがかなりウブな原型をとどめています。

。あまり伐採もされていません。



この森がなぜ原型をある程度保って残ったのか?

それは限定的な森林収奪だったこと

無闇に伐採しなかったこと、

そして、、戦後は、、

旧東ドイツの国境線の軍事地域だったため立ち入り禁止で温存されたこと

それがこの森が比較的温存されてのこった理由です。

こういう例はおそらくドイツでもここだけでしょうね。


http://tenbou.nies.go.jp/news/fnews/detail.php?i=11957

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